監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士
赤ちゃんの生命維持に欠かせない胎盤が、なんらかの原因で赤ちゃんが生まれる前に子宮から突然はがれてしまうことがあります。これを【常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)】といいます。
大量出血を引き起こしたり、赤ちゃんが酸欠状態になったりして、最悪の場合、お母さんと赤ちゃんの両方が命を落とすこともある危険な疾患です。
この記事では、妊娠中に注意が必要な常位胎盤早期剥離について、原因や症状、赤ちゃんへの影響を解説していきます。
目次
常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)とは、赤ちゃんが生まれる前に正常な位置にある胎盤が突然はがれてしまう状態のことで、“早剥(そうはく)”ともいわれます。
胎盤は、お母さんから赤ちゃんへ酸素や栄養を届け、老廃物や二酸化炭素を送り返すという大切な役割を担っています。
通常は赤ちゃんが生まれた後に、子宮の壁から胎盤が自然にはがれて外に排出されますが、まだお腹の中に赤ちゃんがいる状態で胎盤の一部または全部がはがれてしまうことがあります。
このような常位胎盤早期剥離のケースでは、赤ちゃんに酸素や栄養が届けられなくなったり、大量の出血が起こったりするため、母子ともに死亡率の高い危険な疾患です。
常位胎盤早期剥離は、妊娠32週以降に起こることが多いといわれていますが、妊娠後期や臨月でも起こることがあります。
常位胎盤早期剥離の発症率は、妊娠全体の0.5~1%(100~200分娩に1例)程度、死産となるような重症例は0.13~0.2%(500~750分娩に1例)程度といわれています。
決して高い確率ではありませんが、常位胎盤早期剥離を発症した場合の胎児死亡率は25~30%、母体死亡率は1~2%と、母子ともに命を落とす危険性の高い疾患のひとつです。
いつ・だれにでも起こり得る可能性があるため、無事に出産を終えるまでは出血・腹痛・胎動減少などに注意しなければなりません。
常位胎盤早期剥離では、主に次のような症状が現れることがあります。
これらすべての症状が現れるとは限らず、まったく症状が現れないこともあるため、常位胎盤早期剥離では初期症状に気付かないケースも少なくありません。
また、切迫早産やおしるしの症状とよく似ているため、いつもと違う症状がある場合や判断に迷う場合は、すぐに病院へ連絡しましょう。
切迫早産と常位胎盤早期剥離
切迫早産では、お腹の張りや痛みが規則的かつ頻回に起こります。
これに対して常位胎盤早期剥離では、お腹の張りや痛みがおさまることなく持続的に続くことが多いです。
おしるしと常位胎盤早期剥離
おしるしは、ピンク~茶褐色の少量の出血です。
月経のような赤黒い出血やサラサラした出血が続く場合は、常位胎盤早期剥離の可能性があります。
常位胎盤早期剥離を発症する原因は、はっきりと分かっていませんが、発症リスクを高める危険因子として、次のようなものが知られています。
とくに、これまでの妊娠で常位胎盤早期剥離を発症した場合はリスクが高く、高齢出産や高血圧の方も注意が必要だといわれています。
ただし、上記の危険因子に該当しない方でも、ある日突然発症することがあります。
常位胎盤早期剥離の効果的な予防法も確立されていないため、いつ・誰にでも起こり得ることを念頭に置いて、定期的に妊婦健診を受けるとともに自己管理を行いましょう。
常位胎盤早期剥離では、胎盤がはがれる際の大量出血により、次のような状態を引き起こすリスクが考えられます。
このような重篤な合併症により、子宮摘出や母体死亡に繋がることもあり、死亡率は大量出血による妊産婦死亡原因の約11%を占めているとされています。
また、常位胎盤早期剥離は、赤ちゃんの生命維持に欠かせない胎盤がはがれてしまうことから、お母さんだけでなく、お腹の中の赤ちゃんにも重篤な障害をもたらす危険性があります。
常位胎盤早期剥離が起こると、酸素や栄養が赤ちゃんに届かなくなるため、赤ちゃんに脳性麻痺などの後遺症が残ってしまうことがあります。
重い脳性麻痺を負った赤ちゃんの約3割は、常位胎盤早期剥離が背景にあると考えられています。
脳性麻痺のほか、生後間もないうちに脳室内出血を起こし、精神発達遅滞やてんかんを含む発達障害を引き起こすケースも少なくありません。
また、常位胎盤早期剥離となった場合の赤ちゃんの死亡率は25~30%にも上り、死産と早期新生児死亡(生後1週間以内の死亡)を含めた全周産期死亡のおよそ20%が常位胎盤早期剥離によるものだといわれています。
自覚症状や触診などから常位胎盤早期剥離が疑われる場合は、次のような検査が行われます。
超音波検査は胎盤の状況を確認するにあたって迅速に行うことができますが、感度は高くなく、初期には異常所見が認められないことも多いです。
そのため、胎児心拍数モニタリングの異常パターンや血液検査の結果などから、総合的に判断されます。
はがれてしまった胎盤を元に戻すことはできないので、母子の状態によって治療・分娩の方法が判断されます。
多くの場合、帝王切開で赤ちゃんを取り出して、できる限り早く妊娠を終わらせることが必要になります。
胎盤のはがれ方が軽度で、母体も胎児心拍も安定している場合
短時間の分娩終了が予測できる場合は、経腟分娩を試みることができます。
妊娠継続が可能と判断されれば、管理入院による経過観察となることもあります。
母体や胎児心拍の状態が不安定な場合
基本的には緊急帝王切開の適応となります。
このとき、お母さんがショック症状やDICを起こしている場合は、その治療も同時に行われます。
胎児が死亡している場合
残念ながら常位胎盤早期剥離により赤ちゃんがすでに亡くなっている場合にも、帝王切開または経腟分娩による早期分娩が必要になります。
分娩後の治療
分娩後は子宮収縮不良や出血に備えて、さまざまな処置が行われます。
子宮収縮不全で出血がコントロールできない場合は、子宮摘出となることもあります。
赤ちゃんに異常がみられる場合には、新生児科やNICUなどと連携した治療も行われます。
常位胎盤早期剥離は、母子の命のためにも早期発見・早期治療が大切です。
ところが、常位胎盤早期剥離の診断が遅れたり、適切な検査や処置がなされなかったりして、母子が死亡、あるいは赤ちゃんに重篤な後遺症が残ってしまうことがあります。
このように、常位胎盤早期剥離の処置に関して医療過誤が疑われる場合、医療機関側の責任を問うことができます。
お母さんや赤ちゃん側にリスク要因があった場合でも、医療機関側に過失(しかるべき対応を怠った)があれば、不法行為または債務不履行に基づき、医療機関側へ損害賠償を請求できる可能性がありますので、医療問題に精通した弁護士への相談をおすすめします。
常位胎盤早期剥離の診断が遅れたことで、生まれた子供が重い後遺障害を負ったことについて、医師の過失が認められ、損害賠償が命じられた判例を紹介します。
【東京地方裁判所 平成14年5月20日判決 平11(ワ)18965号】
事案の概要
母親(妊娠35週)は、切迫早産の既往があり、下腹部の強い痛みと嘔吐などの症状から病院を受診しました。
母親の腹部は非常に硬い状態でしたが、医師は切迫早産の影響だと考え、分娩監視装置の装着を試みましたが、母親が仰向けになれず、また、腹部が硬かったことから赤ちゃんの心臓の位置を確認できなかったので、超音波検査を実施しました。
その結果、赤ちゃんの心拍数が正常値を大幅に下回る高度徐脈であることが判明し、その後も心拍数が回復しないことから医師は胎児仮死(胎児機能不全)を疑いました。
相談を受けていた別の医師が現場に到着し触診した結果、常位胎盤早期剥離を疑うことができる腹部の硬さだと判断し、帝王切開が行われましたが、生まれてきた赤ちゃんは重症新生児仮死の心停止状態で、脳性麻痺等によって重い後遺障害を負いました。
胎盤を検査したところ、常位胎盤早期剥離を発症していたことが確認されました。
患者側は、常位胎盤早期剥離の診断の遅れにより、帝王切開の実施も遅れたことを主張し、病院に損害賠償を請求しました。
裁判所の判断
裁判所は、常位胎盤早期剥離の初期症状に合致する症状がみられたことから、すぐに赤ちゃんの心拍数をモニタリングする義務があったことや、母親が仰向けになれなくてもカウントドップラーという計測器を使用すれば赤ちゃんの心拍数を計測できたと指摘し、赤ちゃんの心拍数を計測しなかった過失や早期の帝王切開を行わなかった過失を認めました。
これらの過失がなかったとしても赤ちゃんの脳性麻痺等を防げたかどうかは不明であるとして、赤ちゃんの後遺障害との因果関係は認められませんでしたが、医師の過失によって後遺障害の程度が少しでも軽い状態で成長する可能性が侵害されたことは認められ、慰謝料および弁護士費用として660万円の賠償を命じました。

医療過誤のご相談受付
まずは専任の受付職員が丁寧にお話を伺います。
※精神科、歯科、美容外科のご相談は受け付けておりません。 ※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。