2024.8.1
最新判例・ルーリング(労務・税務) 労務:賃金の減額に関する合意及び解雇補償金の計算、適切又は必要な人事管理権限、従業員をカンボジア勤務に異動させることは適切であるか、従業員に対して支給する保険の福利厚生の税務上の取り扱い、有期雇用契約を更新しなかったことが、解雇補償金を要する解雇に該当する場合、警告書に署名しない従業員、退職後の競業避止義務の合意の有効性、雇用者に対して意図的に損害を与える行為を解雇理由とする場合、など。
Topics1 賃金の減額に関する合意及び解雇補償金の計算
(特別控訴裁判所判例第487/66号)
原告と被告は、雇用契約書の末尾において、賃金の50%減額に合意する旨の文書を作成した。当該合意は、期限が設けられておらず、従来の雇用契約が再開されるまで適用されるものであった。これは被告が従来の雇用契約の適用まで一時的に賃金の金額変更を希望しているものであって、例え原告が新しい賃金率を受け入れていたとしても、原告と被告の賃金変更の合意は、一時的なものとされる。従って解雇補償金及び解雇予告金の計算根拠となる最後の賃金は、従前の雇用契約に基づく賃金を適用しなければならない。
Topics2 適切又は必要な人事管理権限、従業員をカンボジア勤務に異動させることは適切であるか?
(特別控訴裁判所判例第46/63号)
雇用者による人事管理権限の行使は、適切又は必要に応じてに行わなければならない。雇用契約書では、原告をバンプープラント所属のエンジニアとして雇用する旨が明記されており、当該契約及び就業規則では、被告が従業員を外国に異動させることができる旨の規定がないことから、被告が原告をカンボジアに異動させることは適切ではないと解される。遠距離にあるカンボジアのポイペト地区勤務とさせることは、原告と原告の家族の負担の増加及び困難が伴うので、たとえ昇進し、賃金及び福利厚生が増加したとしても違法且つ不当な命令である、原告が本件移動を拒否することは、就業規則違反及び労働者保護法第119条(4)に定める雇用者の命令違反であるとはみなされない。
Topics3 有期雇用契約を更新しなかったことが、解雇補償金を要する解雇に該当する場合
(最高裁判所判決要旨第6767-6769/42号)
雇用者が雇用期間が設けられた雇用契約を締結し、当該期間に基づいて契約を終了した場合、雇用者は解雇補償金の支払いを要しないが、雇用契約のうちの条件において、雇用者と従業員は契約期間満了前に再度更新することができる旨の規定がある場合、当該条件は雇用者が従業員の雇用を継続する性格を有しているので、被告は解雇の際には解雇補償金を支給しなければならない。
Topics4 警告書に署名しない従業員
(最高裁判所判例第6251/34号)
労働者の保護を主題とする内務省通達では、雇用者が従業員に対して警告書を発行した際には、これを従業員に対して通告し、従業員は当該警告書にこれを了解した旨の署名をする旨の規定はされていない。従って、被告が原告に対して警告書を発行した際、当該警告書に署名しなくても、警告書の内容を了解したものと見做すことができる。
但し、雇用者が警告内容を従業員に通知したが、従業員はこれに署名しない旨の記録をし、証人によって立証することを奨励する。
Topics5 雇用の終了後の競業避止義務の合意の有効性
(特別控訴裁判所第2548/2565号)
従業員の退職後から3年間、原告との競業に該当する事業又は競業する他の事業場に就労することを禁ずる旨の契約は、通常予測できる範囲を超えた負担を従業員にかけるほか、雇用者が有利になるような契約となっている。中央労働裁判所は、仏歴2540(1997)年不公正契約法第5条及び仏歴2541(1998)年労働者保護法第14/1条の規定により、公平性及び妥当性を考慮して適用期間を定める権利を有する。原告及び被告の適法なすべての利害を考慮した際、労働裁判所は従業員の離職日から1年が妥当である旨を判断した。
事実関係によれば、被告は原告の職場を退職して8日後、つまりその禁止期間中に原告じ行と競業する事業又は就労することによる契約違反を行っていたことから、被告は原告に対して損害賠償責任を負わなければならない。
Topics7 雇用者に対して意図的に損害を与える行為を解雇理由とする場合
(特別控訴裁判所判決第4047/2546号)
従業員が雇用者に対して意図的に損害を与える行為は、その従業員の目的に基づく損害が発生したか否かにかかわらず、仏歴2541(1998)年労働者保護法第119条(2)に定める雇用者に対する意図的な損害であるものと見做される。
原告7名は、法定の要求事項を提示せず、且つ2000年6月14日から2000年6月17日まで勤務せずに会社の前で集会を行った。原告7名による職務放棄行為は、被告の事業に影響をもたらし、通常の運営をすることができなくなり、被告の収入が途絶える行為である。原告7名によるこの行為は、意図的に雇用者に損害を与えたものと見做される。
Topics8 社用車の貸与に代わる福利厚生金
(最高裁判所判決要旨第8211/2550号)
被告は南部地方のマネージャーに従事する被告に対して社用車を提供していた。その後被告の方針に基づき、5年以上車両を使用した後、被告は社用車の提供を廃止した。被告は社用車の廃止日である2002年5月30日から、社用車に代替する車両の購入又はレンタルのために、月当たり2万バーツの金銭を支給した。被告は社用車の支給対象を、部門長クラス以上のみとした。
質問:
- 雇用者の会社が提供する「社用車のための福利厚生金」は、労働者保護法に定める賃金に該当するか。また、税務上の負担はどうなるのか。当該福利厚生金は幹部社員のための便益となるのか?
- 従業員が取得した社用車のための福利厚生金は、個人所得税の免除対象となるか?
上記について裁判所は以下の通り判示した。
- 被告が当該役職に従事する従業員に対して支給する社用車は、被告がこれを返還させてその代わりに原告に対して社用車に代わる車両の購入又はレンタルのために月2万バーツの金銭を支給することは、福利厚生を目的とした支給となる。たとえ同一の金額を毎日支払ったとしても、解雇補償金の計算に算入すべき賃金とはならない。
- 従業員に対して支給した金銭は、歳入法典第40条(1)に定める課税所得に該当し、従業員はこれを所得税の計算に算入しなければならないので、雇用者は源泉徴収しなければならない。