
コラム
更新日: 2026年5月22日
タイの試用期間について|労務担当者が知っておくべきポイント
監修弁護士 川村 励 弁護士法人ALG&Associates バンコクオフィス 所長日本と同様、タイにおいても労働者の能力を推し量る「試用期間」は広く活用されています。
しかし、タイの労働法における試用期間の扱いは日本とは異なる点が多く、その内容を正しく理解していないと、後に深刻な労使トラブルを招くおそれがあります。
トラブルを防止するためにも、タイにおける試用期間の性質や解雇時のルールを正確に把握しておくことが大切です。本稿では、タイでの試用期間の運用ポイントや、解雇に伴う法的ルールについて分かりやすく解説します。
タイの試用期間について
タイの労働法には試用期間の長さを直接制限する規定はなく、不当に長い期間でなければ、労使の合意によって自由に設定することが可能です。
実務上は、試用期間を「119日以内」に設定している企業が多いでしょう。
タイでは勤続120日以上の労働者の解雇には、解雇補償金の支払いが必要となるため、その支払い義務を回避する目的で試用期間を119日以内にすることが通例となっています。
つまり、120日に達する前に適性を判断し、本採用の可否を決定するのがタイの労務では一般的です。日系企業でも、この120日の上限を意識した運用が必要です。
タイの試用期間中の労働条件
タイで試用期間を設ける際は、期間中の労働条件の扱いに注意が必要です。本採用後と待遇に差をつけることは可能ですが、その場合でも、現地の労働法を遵守しなければなりません。
試用期間中における給与や休暇などの労働条件について正しく理解しておきましょう。
試用期間中の給与
タイでは、試用期間中の給与を本採用後の支給額より低く設定すること自体に法的な問題はありません。
ただし、トラブルを防ぐためにも、事前に雇用契約書などで労働条件を明確に示し、本人の同意を得ておくことが大切です。給与額や試用の期間などの条件を雇用契約書に明記し、合意した証拠を残すようにしましょう。
本採用時にも同様に労働条件についての合意書面を作成します。なお、タイには日本と同様、最低賃金制度があるため、給与額が最低賃金に抵触していないかについても適宜確認するようにしましょう。
試用期間中の休暇付与
タイにおける試用期間中の休暇の取り扱いは、法律上の付与義務と会社の裁量に分けて管理する必要があります。試用期間中の従業員によって取扱いが異なることのないよう注意しましょう。
年次有給休暇は、法律上「1年間の継続勤務」を経た労働者に対して付与義務が生じるため、1年未満の試用期間中は付与の対象外と定めても問題ありません。
一方で、病気休暇や用事休暇などの法定休暇については、試用期間中であっても対象外にはできません。
これらの休暇には勤続年数の要件がないため、試用期間中であっても付与する義務があります。会社独自の特別休暇があれば、就業規則を確認して対応しましょう。
試用期間中の解雇に関するタイのルール
タイにおける試用期間も、原則として本採用後の雇用契約と法的には同じです。しかしながら、試用期間中の解雇理由は本採用後の解雇と比べて広く認められる傾向があります。
たとえば、能力不足を理由とした解雇では、試用期間中に期待される能力に達していないことを客観的に証明できれば、合理的な解雇理由として判例上も有効と認められています。
ただし、試用期間中と言えども、タイの労働法に則り、解雇通知書や事前通知もしくは予告手当の支払いといった適正な手続を踏む必要があります。不当解雇のリスクを避けるためにも、解雇理由の説明などを徹底しましょう。
解雇予告
試用期間中に従業員を解雇する場合、タイの労働法では「解雇予告」を行うことを義務づけています。
具体的には「少なくとも一給与期間前」までに通知しなければなりません。例えば、給与支払日が毎月25日の会社において、5月25日付で解雇とする場合は、前月の4月25日以前に本人へ通知する必要があります。
事前の解雇予告を行わずに即時解雇することも可能ですが、その場合には、予告期間に相当する給与を「予告手当」として支払わなければなりません。
また、適切な時期に解雇予告しなかった場合には、勤続日数に応じて発生する「解雇補償金」のリスクも生じるため、解雇は早めに検討するようにしましょう。
解雇補償金
解雇補償金とは、会社都合で労働者を解雇する際に支払う法定の補償金です。
タイでは勤続日数が120日以上の労働者を解雇する場合に支払いが必要とされています。つまり、119日以内の解雇であれば解雇補償金の支払いは不要となります。
解雇補償金の金額は、継続勤務期間に応じて最終給与の30日分から最大400日分まで段階的に定められています。120日の壁があるため、試用期間の設定やその期間内の見極めが非常に重要です。
| 継続勤務期間 | 解雇補償金 |
|---|---|
| 120日以上1年未満 | 最終給与の30日分 |
| 1年以上3年未満 | 最終給与の90日分 |
| 3年以上6年未満 | 最終給与の180日分 |
| 6年以上10年未満 | 最終給与の240日分 |
| 10年以上20年未満 | 最終給与の300日分 |
タイにおける試用期間の延長は認められるか?
タイの法律では試用期間の延長や上限についての規定はないため、労使の合意があれば延長自体は可能です。ただし、無制限に延長が可能というわけではありませんので、適性を見極めるための合理的な期間を設定しましょう。
なお、延長によって勤続日数が120日を超えてしまった場合は、たとえ試用期間中であっても、解雇するのであれば法定の解雇補償金を支払う義務が生じます。
試用期間の延長を判断する際は、解雇補償金の発生リスクを踏まえて決定することが重要です。
タイにおける有期雇用で試用期間を設ける際の注意点
タイの法律には、有期雇用で試用期間を設けた場合、その契約は「無期雇用」とみなすという規定があります。
つまり、有期雇用として採用しても、試用期間があれば法律上は無期雇用と判断され、雇用期間が経過しても一方的に雇用終了にはできません。
終了するには、解雇の検討が必要ですが、解雇には正当な理由や解雇補償金の支払いが求められるなどのリスクがあります。有期雇用契約で試用期間を検討している場合は注意が必要です。
試用期間でトラブルにならないためにも、タイ労務に詳しい弁護士にご相談ください。
タイと日本では労働に関する法令や実務慣行が大きく異なります。試用期間中の取扱いについても、日本と同様に扱うことはリスクに繋がります。
タイでは試用期間中でも、その日数によって解雇補償金が生じたり、法定休暇の付与義務などタイ特有のルールがあります。正しく運用できなければ、深刻な労使トラブルに発展するおそれがあるでしょう。
労使トラブルを未然に防ぎ、適切な労務管理を行うには、タイの法律と実務に詳しい弁護士への相談が不可欠です。
ALGでは、タイの労務に精通した弁護士が在籍しており、貴社の状況に応じて、雇用契約書の作成や解雇手続き、就業規則の改定など幅広くサポートいたします。
試用期間におけるトラブルを防ぐためにも、タイ労務に関する不安や疑問があれば、ぜひお気軽にご相談ください。
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