
コラム
更新日: 2026年5月29日
タイの有期雇用契約|契約終了時の対応や労務上の注意点
監修弁護士 川村 励 弁護士法人ALG&Associates バンコクオフィス 所長タイでも日本と同様、期間を定めた「有期雇用契約」の締結が可能です。ただし、その運用にはタイ独自のルールが存在するため注意が必要です。
制度を正しく理解しないまま導入すれば、意図せず無期雇用とみなされたり、契約満了時に多額の解雇補償金が発生したりするなど、様々な労使トラブルを招く可能性があります。
本稿では、タイの有期雇用契約におけるルールや契約終了時の実務対応、解雇補償金を含む注意点まで分かりやすく解説します。
タイの有期雇用契約
タイの労働者保護法(LPA)には、有期雇用契約に関する明確な定義はありません。しかし実務上は、日本と同様に「雇用期間の定めのある雇用契約」として、様々な場面で活用されています。
タイでは、管理のしやすさなどから有期雇用契約の期間は1年として運用する企業も散見されます。
有期雇用契約はタイにおいても一般的な雇用形態となっていますが、日本とは異なる点もあるため制度運用には正しい理解が求められます。
タイで有期雇用契約を締結する際の注意点
タイでは、雇用契約書上は有期雇用としていても、「契約更新が予定されている」と評価されるケースがあります。
具体的には、自動更新の条項が契約書に盛り込まれていたり、特段の審査なく契約更新を繰り返している場合などが挙げられます。この場合、実態は無期雇用契約であると判断され、期間満了による契約終了が難しくなってしまいます。
無期雇用とみなされないためには、契約更新の予定がないことを明確にしなければなりません。有期雇用契約の際には、以下のような対策をとるようにしましょう。
- 雇用契約書に自動更新の文言を含めない。
- 契約満了の都度、改めて評価・面談を行い、新しい契約書を締結した記録を残すなど、更新手続を厳格化する。
- 契約更新回数を管理し、必要以上に短い期間での更新は避ける。
有期雇用契約で試用期間を定める場合
タイにおいても、雇用契約に試用期間を設けることは可能です。ただし、タイの労働者保護法には「試用期間を定めた有期雇用は無期雇用とみなす」という定めがあります。
そのため、有期雇用契約に試用期間を設けると、無期雇用とみなされ、契約期間が満了しても雇用を終了できません。無理に辞めさせようとすれば、不当解雇や解雇補償金トラブルに繋がる可能性もあります。
試用期間を定める場合は、有期雇用契約の必要性も踏まえて判断しましょう。
タイ労務における試用期間の詳細については、以下の記事をご参考ください。
有期雇用契約の終了と事前通知義務
タイでは、無期雇用契約を終了させる場合、少なくとも「1給与期間前」に書面で通知しなければならないとされています。この予告期間を待たずに即時解雇する場合は、予告期間分に相当する賃金を支払う必要があります。
一方、有期雇用契約の場合は、「契約期間の満了により終了する場合」と「契約期間の途中で解雇する場合」で、事前通知の必要性や取扱いが異なりますので、正しく理解しておくことが重要です。
それぞれのケースについて確認しましょう。
契約期間の満了により終了する場合
有期雇用を契約期間の満了によって終了する場合は、原則として事前通知は不要とされています。これは、あらかじめ労使が合意した契約内容に基づく期間満了日に、雇用関係は自動的に終了するとみなされるためです。
ただし、期間満了に伴うトラブルを回避するため、実務上は、事前に期間満了通知を行っておく方がよいといえるでしょう。
契約期間の途中で解雇する場合
有期雇用の期間途中で会社側から一方的に契約を終了させる場合には、無期雇用の場合と同様、解雇の事前通知が必要です。
タイにおいても、有期雇用の期間途中に解雇することは容易ではなく、無期雇用の場合よりも解雇の有効性は厳格に判断される傾向にあります。
期間中にやむを得ず解雇する場合は、解雇の正当な理由や事前通知、解雇補償金の支払いなど、適正な手続が必要です。
有期雇用契約と解雇補償金の支払い
タイの解雇補償金とは、会社都合による解雇において、会社が労働者へ支払う義務のある手当です。解雇補償金は、原則として有期雇用契約であっても一定以上の勤務実績があれば支払う必要があります。
つまり、契約期間中の解雇はもちろん、契約期間の満了であっても実態が無期雇用と判断されれば、支払い義務が生じることになります。
具体的には、勤務期間が120日を超えた場合に以下の勤務期間に応じた日数の賃金を解雇補償金として支払わなければなりません。
| 継続勤務期間 | 解雇補償金 |
|---|---|
| 120日以上1年未満 | 最終給与の30日分 |
| 1年以上3年未満 | 最終給与の90日分 |
| 3年以上6年未満 | 最終給与の180日分 |
| 6年以上10年未満 | 最終給与の240日分 |
| 10年以上20年未満 | 最終給与の300日分 |
| 20年以上 | 最終給与の400日分以上 |
解雇補償金の支払いが免除されるケース
タイでは、有期雇用契約であっても、要件を満たしていれば解雇補償金の支払い義務が発生します。しかし、「特定有期雇用契約」に該当する場合については、例外的に解雇補償金の支払いが免除となります。
この免除を受けるには、以下の1〜3の条件をすべて満たしていなければなりません。
- 業務内容が以下のいずれかに該当すること
(a) 通常の事業とは異なる、開始と終了時期が明確な特別のプロジェクト
(b) 終了時期や仕事の完成時期が確定している臨時的な業務
(c) 季節的な業務 - 契約期間が2年以内
- 解雇補償金の支給がない旨を、契約書等で合意している
この例外規定は、契約期間の満了によって終了する場合にのみ適用されます。上記の条件を満たしていても、期間途中で会社都合により解雇する場合には、原則通り解雇補償金の支払い義務が生じる点に注意しましょう。
有期雇用労働者を懲戒解雇する場合
有期雇用であっても、労働者に重大な規律違反がある場合は、労働者保護法119条に基づき懲戒解雇が可能です。
懲戒解雇については、原則として事前通知や解雇補償金の支払いは不要とされています。ただし、懲戒解雇は厳格に判断される傾向があるため、有効と認められるには、以下に該当する事実が必要です。
- 業務上の不正行為、または雇用主に対する故意の犯罪行為があった場合
- 故意に雇用主へ損害を与えた場合
- 過失により雇用主へ重大な損害を与えた場合
- 就業規則や適法な命令に対する重大な違反
- 書面による警告後、1年以内に同一の違反を繰り返した場合
- 正当な理由なく3日間連続して職務を放棄した場合
- 禁錮刑以上の判決が確定した場合
これらの事由に該当しない場合は、懲戒解雇が無効となるリスクがあります。不当解雇と判断されれば、賠償金などの金銭的負担が生じる可能性があるため、必ず事実確認を行った上で実施しましょう。
有期雇用労働者に向けた就業規則の作成
従業員数が10人以上になると、タイ語による就業規則の作成義務が発生します。この際、「無期雇用労働者用」と「有期雇用労働者用」の規則に分けて作成しておくことが望ましいです。
就業規則を一本化していた場合、全ての労働者に規則が適用されることになります。例えば、就業規則に「試用期間」の規定があり、それが有期雇用労働者にも適用されるとみなされれば、無期雇用と判断されるリスクがあります。
そのほか、雇用形態によって待遇が異なる場合にも、本来想定していない規定まで適用される可能性がありますので、雇用形態に即して各々の規則を作成することをおすすめします。
タイの有期雇用契約でご不明点があれば、タイ労務に詳しい弁護士にご相談下さい
タイにおける有期雇用契約は、その定義や解雇補償金の扱い、さらには無期雇用とみなされるリスクなど、日本とは異なる特有の注意点が多数存在します。
これらを正しく理解し、適切に運用できていなければ、意図せぬ解雇補償金の支払いや不当解雇トラブルに発展するおそれがあります。
法令を遵守し、リスクを抑えた労務管理を行うためには、現地の法制度に詳しい弁護士のサポートが不可欠です。
ALGでは、タイ労務に精通した弁護士が、貴社の状況に応じた雇用契約書の作成や就業規則の整備などの予防法務をサポートいたします。
また、現地法制度を踏まえた法的アドバイスやトラブル時の対応などワンストップの対応が可能です。
タイの有期雇用契約に少しでもご不明点があれば、ぜひ私どもへご相談ください。
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