非上場株式とは、証券取引所で取引されない株式をいいます。
上場株式とは異なり、多くの非上場会社では経営戦略の一環として譲渡制限を設けています。
譲渡制限がある場合、株主が株式を譲渡するには会社の承認を得なければなりません。請求を受けた会社は適切に対応する必要がありますが、譲渡手続きは会社法に詳細な定めがあり、非常に複雑です。
正しい知識がなければ対応を誤ってしまうおそれもあるでしょう。
本稿では、非上場株式の譲渡手続きの流れや必要書類、適正価格の算定方法などについて解説します。
譲渡制限株式の詳細については、以下の記事をご参考ください。
さらに詳しく譲渡制限株式とは?非上場株式は譲渡できる?
非上場株式であっても譲渡は可能ですが、上場株式の譲渡とは手続きや性質が大きく異なります。
上場株式は証券取引所という市場を通じて自由に売買され、株価も市場で決定されます。一方、非上場株式は取引市場がないため、原則として当事者間の合意によって譲渡を成立させなければなりません。
また、売買時の株価に市場価格という明確な基準がないため、類似業種比準方式や純資産価額方式などを用いて株価を算定する必要があります。
非上場会社は定款で譲渡制限を設けていることが多く、譲渡には会社の承認決議が必要となります。
もし、会社の承認なく譲渡が行われた場合には、会社に対して株主としての権利を主張することはできません。
非上場株式の譲渡手続きの流れ
非上場株式の譲渡は、その特性上、譲渡制限の有無の確認や、承認請求、譲渡契約の締結など様々な手続きを適切に行う必要があります。
非上場株式の譲渡手続きの一般的な流れは以下のとおりです。
- 少数株主の株式の集約
- 譲渡制限の有無の確認
- 譲渡承認請求
- 株式譲渡承認決議
- 株式譲渡契約
- 株主名簿の書き換え
①少数株主の株式の集約
M&A(合併・買収)における株式譲渡では、買い手は対象会社の株式100%の取得を目指すことが原則です。
買収後の円滑な経営や迅速な意思決定の実現にあたっては、少数株主の存在がトラブルの原因になるケースもあるためです。
M&Aをスムーズに進めるには、売り手側で少数株主の株式を集約しておくべきでしょう。株式は代表株主や会社に集約しておくことが一般的です。
もし、株式の集約が難航した場合には、取引が遅滞したり、最悪の場合には計画が白紙になったりするおそれもあります。
事前の株式の集約は、後のトラブルを防止することはもちろん、成約にも影響する重要なステップといえます。
非上場株式における少数株主についての詳細は、以下の記事をご参考ください。
②譲渡制限の有無の確認
非上場株式の譲渡を進めるにあたり、譲渡制限の有無を確認することは必要不可欠です。
譲渡制限の有無については、会社の登記簿上の株式の譲渡制限に関する規定の項目を閲覧して確認しましょう。
非上場会社では、会社の望まない第三者が株主として経営に関与することを防ぐため、定款に譲渡制限規定を設けていることが多いです。
譲渡制限を定款で定めた場合、法令上登記簿にその旨を登記する必要があるため、譲渡制限の有無は、基本的に会社の登記簿を閲覧することで確認することができます。
③譲渡承認請求
譲渡制限のある株式を譲渡する場合、株式を譲り渡したい譲渡人、または株式を譲り受けたい譲受人が、会社に対して株式譲渡承認請求を行う必要があります。
実務上は、譲渡人が手続きするケースが多いでしょう。
請求方法は、以下の所定の事項を記載した譲渡承認請求書を作成し、会社に提出します。
- 譲渡したい株式の種類や数
- 譲渡の相手方(譲受人)の氏名または名称など
もし、譲渡承認手続きを経ずに当事者間で譲渡契約を結んだとしても、その譲渡は会社に対して効力を有しません。
譲受人は正式な株主として認められず、議決権などの権利を行使できないことになりますので、譲渡制限株式の譲渡には譲渡承認請求手続きを必ず行いましょう。
譲渡制限株式における承認なしの効力について、以下の記事で詳しく解説しています。
④株式譲渡承認決議
会社は株主から譲渡承認請求を受けた場合、株式譲渡を承認するか否か決議する必要があります。
承認決議は、取締役会設置会社では取締役会で決議し、取締役会非設置会社では株主総会で決議することが一般的です。
承認または不承認のいずれであっても、決議の結果は譲渡人(請求者)へ通知しなければなりません。
もし請求があった日から2週間以内に通知を行わなかった場合、決議の結果にかかわらず会社は譲渡を承認したものとみなされます。
会社が譲渡を承認した場合は、正式に当事者間で株式譲渡契約を締結します。
一方、会社が譲渡を不承認とした場合、譲渡人が不承認時の買取請求を行っていれば、会社または会社が指定した指定買取人が株式を買い取る必要があります。
買取り手続きについては会社法で詳細な定めがあるため、法律に則った対応が求められます。
非上場株式の買取請求については、以下の記事で詳しく解説しています。
さらに詳しく非上場株式の買取請求とは?⑤株式譲渡契約
会社による譲渡承認決議を経て、譲渡が正式に承認された後、譲渡人と譲受人は正式に株式譲渡契約書を交わします。
契約書には譲渡の合意や価格、決済方法など株式譲渡に関する詳細を定め、契約に基づき譲受人は譲渡人に対して代金を支払います。
もし会社が株券発行会社である場合は、原則として株券の交付も必要となります。
なお、金銭的な対価が発生しない無償による譲渡であっても、双方合意の上で贈与契約などを締結しておきましょう。
たとえ無償であっても、税務上は課税対象となる可能性もあるため、契約書を作成しておくことがトラブル防止に役立ちます。
⑥株主名簿の書き換え
株式譲渡の承認と契約締結が完了しても、正式な株主としては不十分です。
譲受人が会社に対して正式に株主としての権利を主張するためには、株主名簿の書き換え手続きを行わなければなりません。
通常、株主名簿の書換請求は、譲渡人(旧株主)と譲受人(新株主)が共同して会社に株主名簿書換請求書を提出します。
ただし、株券発行会社の場合で、譲受人がすでに株券を所持しているときは、譲受人が単独で会社に対して名義書換を請求することも可能です。
請求を受けた会社は書類の内容に従って株式の持ち分を移動し、株主名簿の記録を更新します。
株主名簿の書き換えが行われることによって、譲受人は議決権や配当金の受取りなどの権利を得ることができます。
非上場株式の譲渡手続きに必要な書類
非上場株式の譲渡手続きに必要となる書類は事案により異なりますが、主な書類は下表のとおりです。
下表以外の書類が必要となるケースもありますので、注意しましょう。
たとえば、譲渡制限株式の譲渡承認請求を不承認とする場合、譲渡人が会社へ買取請求権を行使するのであれば、買取通知や供託の証明書類なども必要となります。
買取において価格協議が難航すれば、裁判所へ売買価格決定の申立てを行うことになるケースもあります。
状況に応じて必要書類は異なるため、不明点があれば早めに弁護士へ確認することをおすすめします。
| 書類 | 作成者 | 内容 |
|---|---|---|
| 株式譲渡承認請求書 | 譲渡承認請求者 | 譲渡承認請求時に譲渡人と譲受人が会社に提出する書類 株式の種類や数、譲渡先などを記載 |
| 株主総会招集通知 | 会社 | 株主総会にて譲渡承認の決議を行う際に、会社が株主に対して送る通知書 |
| 株主総会議事録 | 会社 | 株主総会で決定した内容の記録 開催日時や参加者、議案に関する決議結果などを記載 |
| 株式譲渡承認 (不承認)通知書 |
会社 | 承認又は不承認の決議の結果を譲渡承認請求者へ通知する書類 |
| 株式譲渡契約書 | 譲受人及び 会社 |
譲渡が承認された場合に、譲渡人と譲受人が締結する譲渡契約書 譲渡する株式数や種類、譲渡価額などの条件や代金の決済方法などを記載 |
| 株式名義書換請求書 | 譲渡人及び 譲受人 |
譲渡人と譲受人が共同して会社に株主名簿の書換え請求をするための書類 |
| 株主名簿 | 会社 | 株主の氏名や法人名、住所、株式数などが記載された名簿 株主の異動があった際には、書換請求の内容に従って記録・更新する |
| 株主名簿記載事項証明書 交付請求書 |
譲受人 | 株券不発行会社の場合に、株主名簿の名義が変更されたことを確認するために会社に提出する書類 |
| 株主名簿記載事項証明書 | 会社 | 株主の氏名や法人名、住所、株式数、株式の種類、取得年月日など、株主名簿記載事項を記録した書類 株主であることを第三者へ証明するための書類 |
| 取締役の決定書 | 会社 | 取締役会設置会社において、決議した内容を証明する書類 |
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非上場株式の譲渡手続きにおける適正価格
非上場株式には市場価格がないため、当事者間の合意によって価格が決定されます。ただし、税務上やM&Aの実務上、どのような価格でもよいというわけではなく、根拠のある価格算定が求められます。
株式価格の計算方法としては、主に以下の方式が用いられます。
- 類似業種比準方式
- 純資産価額方式
- 配当還元方式
非上場株式の売買価格についての詳細は、以下の記事をご参考ください。
さらに詳しく非上場株式の売買価格はどう決まる?類似業種比準方式
類似業種比準方式とは、評価対象の非上場会社(対象会社)と事業内容が類似する複数の上場会社(類似会社)の株価を基準として、非上場株式の評価額を算定する方法です。
類似会社の平均株価をもとに、対象会社の1株当たりの「配当金額」「利益金額」「簿価純資産価額」の3要素で比準して評価額を算出します。
類似業種比準方式を活用するメリットは、市場の動向を反映した価格を評価に取り入れるため、実態に近く、客観的な評価額が算出できる点です。
一方、デメリットとしては、比較する上場会社の選定の難しさや、企業独自の強みなどが反映されにくい点が挙げられます。
純資産価額方式
純資産価額方式とは、会社の総資産と負債の差額をもとに1株あたりの純資産価額を算出する方法です。
この方式のメリットは、会社の保有する財産価値を直接的に反映するため、客観的で信頼性の高い評価額となる点です。
特に、不動産や含み益の多い資産を多く持つ会社では、現実に即した財務状況を反映させられるというメリットがあります。
一方、デメリットとしては、会社の将来的な収益力やブランド価値といった無形資産が評価額に反映されにくく、事業の成長性が高い会社の評価としては実態より低く算出される可能性がある点が挙げられます。
配当還元方式
配当還元方式とは、評価対象会社の1株あたりの年間配当金額を一定の利率(10%)で割り戻して、株式の評価額を算定する方法です。
株主がその株式から得られる収益に着目した評価方法で、主に会社の支配権を持たない少数株主が取得した株式の評価に適しています。
配当還元方式の最大のメリットは、算定が比較的簡単で分かりやすい点といえるでしょう。
一方、デメリットとしては、評価額が会社の純資産や真の収益力を反映しない点です。特に、配当をあまり行わない会社であれば、実際の価値よりも極端に低い評価額になってしまうことがあります。
非上場株式の譲渡手続きにかかる税金
株式の譲渡によって利益が発生した場合、譲渡人には税金が発生します。
ただし、譲渡人の以下の立場によって税金が異なるため、注意が必要です。
- 個人による譲渡の場合
- 法人による譲渡の場合
非上場株式の売却における税金の詳細は、以下の記事で解説しています。
さらに詳しく非上場株式の売却(譲渡)にかかる税金は?個人による譲渡の場合
個人が非上場株式を譲渡して利益を得た場合、その譲渡所得に対して所得税(15.315%)と住民税(5%)の合計20.315%がかかります。
株式の譲渡所得に対する税額は、給与など他の所得とは分けて、以下の計算式で算出されます。
譲渡所得=譲渡対価(売却価格)―株式の取得費(購入価格)―譲渡費用(売却手数料など必要経費)税額=譲渡所得×20.315%
なお、取得時期が古いため費用が不明な場合などは、税務上の特例として、売却価格の5%相当額を概算の取得費として計算することが可能です。
法人による譲渡の場合
法人が非上場株式を譲渡して利益を得た場合、その譲渡益は法人の利益として扱われます。
株式の譲渡損益は他の事業による損益と合算され、法人税や法人住民税などが課されます。
譲渡所得:(譲渡した非上場株式の譲渡価額―取得価額)×税率
実効税率は会社の規模や利益水準によって異なりますが、一般的には30%程度と考えてよいでしょう。
なお、個人の譲渡所得税とは異なり、株式の取得費が不明であっても、売却価格の5%を取得費と見なして計算する税務上の特例は適用できません。
法人の場合は、原則として実際の取得費を厳密に算出し、会計処理を行う必要があります。
非上場株式の譲渡手続きに関しては弁護士法人ALGにご相談ください
非上場株式の譲渡手続きでは、会社法の遵守、適正価格の算定、税務上の適切な処理など、幅広い知識が求められます。
特に、当事者間の利害が対立する場合や、事業承継が関わるような複雑な事案では、専門的な知見が不可欠となるでしょう。
非上場株式の譲渡手続きに不安があれば早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士法人ALGでは、非上場株式の譲渡に関する相談を積極的にお受けしています。
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- 監修 :
- 弁護士法人 ALG&Associates執行役員弁護士 家永 勲
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