相続の対象になるのは現預金や不動産だけではありません。
なかには非上場株式を相続するケースもあります。
しかし、非上場株式の相続は上場株式とは異なり、市場価格が存在しないため、評価方法が複雑です。
また、非上場株式の相続では、その評価方法だけでなく、思わぬ高額な相続税の発生や売却の不便さなども問題になります。
本稿では、非上場株式を相続する際の注意点や具体的な手続きの流れ、「相続したくない場合」の対処法など、重要なポイントをわかりやすく解説していきます。
非上場株式の相続における3つの注意点
非上場株式は株式市場において取引されていないため、その流通性や株式の適正価格の判定に難点があるといえます。
そのため、非上場株式の相続においては以下の3点を踏まえた上で慎重に検討する必要があります。
- 評価方法が難しい
- 高額な相続税がかかる可能性がある
- 売却しづらい
評価方法が難しい
非上場株式の相続における最初の壁は、その評価の難しさにあります。
非上場株式には、上場株式のように市場での取引価格が存在しないため、客観的な価値を直ちに把握できません。
そのため、「類似業種比準方式」や「純資産価額方式」、「配当還元方式」などの評価方法を用いて株価を算定する必要があります。
評価方法については会社の規模や業種など様々な要素を考慮し、適切な評価方法を選択する必要がありますが、専門的な知識が必要となります。
また、会社の財務状況(売上高、利益、負債など)や保有する不動産などの資産価値といった情報も含めて評価することが必要となるため、専門家のサポートが不可欠といえるでしょう。
高額な相続税がかかる可能性がある
非上場株式の相続における注意すべき事項の1つとして、高額な相続税が発生する可能性が挙げられます。
上場株式と異なり、非上場株式の評価方法は複雑であるため、その仕組みを十分に理解していないと想定を大きく上回る税負担に見舞われることがあります。
相続税評価額の評価方法は、株式の相続人が、会社の経営に深く関与している同族株主か、少数株主(同族株主以外の株主)かによって大きく分かれ、さらに「同族株主」であるとしても、会社の規模(大会社、中会社、小会社)により評価方法が細分化するなど、様々な要素によって大きく変動します。
会社の「後継者」が非上場株式を相続した場合には、「事業承継税制」を活用することで相続税の納税猶予や免除を受けることができますが、「後継者」に当たらない相続人はこのような制度の適用を受けることができません。
売却しづらい
非上場株式を相続する際には、その換金性の低さに注意が必要です。
上場株式のように市場で売買することができないため、相続後に現金化を予定していた場合には想定外のリスクを負うことになるかもしれません。
この売却のしづらさは、非上場株式の大きなデメリットの一つといえるでしょう。
非上場株式には活発な取引市場が存在しないため、買い手を探すこと自体が難しく、売却交渉に時間がかかることが予想されます。
また、売買価格についても客観的な市場価格が存在しないため、売り手と買い手の間で意見の相違が生じやすく、価格交渉が難航するおそれがあります。
そのほか、非上場株式に譲渡制限が付いている場合には、売却にあたって会社の承認を得るというステップが必要になります。
仮に会社の承認が得られない場合には、会社法に基づく会社側に買取を請求することができますが、価格協議が調わなければ裁判所の手続を要するなど、株式を売却するためには多大な労力と時間を要します。
相続後に非上場株式を売却することを予定している場合には、売却が容易でないことを理解しておくべきでしょう。
非上場株式の相続手続きの流れ
非上場株式の相続手続きは適切な手順を踏む必要があります。
一般的には以下のような流れで手続きを行います。
- 相続人・相続財産の調査
- 評価額の算定
- 遺産分割協議
- 株主名簿の名義書き換え
- 相続税の申告・納付
①相続人・相続財産の調査
相続手続きの最初のステップは、相続人と相続財産の確定です。
相続人調査とは、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本などを収集し、誰が法定相続人となるのかを法的に確定させる作業です。
一方、相続財産調査とは、被相続人が所有していた財産の種類や金額を明確にする作業を指します。非上場株式の相続においては、まず、被相続人が非上場株式を保有していたかどうかを確認しなければなりません。
上場株式と違い、証券口座で一括管理されているわけではないため、以下のような資料を参考に発行会社等へ問い合わせをして、直接確認する必要があります。
- 被相続人が保管していた株券
- 過去に受け取っていた株主総会招集通知
- 配当金の支払通知書
- 確定申告書の控え
- 通帳の入出金記録
②評価額の算定
非上場株式の相続において、相続税評価額の算定は非常に重要なプロセスです。
株式の評価額によって相続税額が大きく変動することになるため、慎重に算定すべきでしょう。
非上場株式の評価方法には、主に原則的評価方式と配当還元方式の2つがあります。
「原則的評価方式」は、主に相続人が同族株主となる場合に用いられ、会社の規模や業種に応じて、類似業種比準方式、純資産価額方式、または両者を併用して株式を評価します。
類似業種比準方式では、事業内容が類似する上場企業の株価を参考に評価額を算出するのに対し、純資産価額方式は、会社の資産から負債を差し引いた純資産額を基に評価額を算出します。
一方、「配当還元方式」は、相続人が少数株主となる場合に用いられ、過去の配当実績を基に評価額を算出する方法です。
これらの評価方法は自由に選択できるわけではなく、同族株主と少数株主の別、会社の規模や株主の種類によってどの評価方法を用いるかが定められています。
非上場株式の相続税評価額については、以下のページで解説しています。
さらに詳しく非上場株式の相続税評価額の計算方法は?③遺産分割協議
遺産分割協議とは、相続人全員で被相続人の遺産をどのように分割するかを話し合い、決定する手続きです。
相続財産の中に非上場株式が含まれている場合、他の財産以上に分割方法を慎重に検討すべきでしょう。
なぜなら、非上場株式は、その評価額や換金性、経営への影響力などが複雑に絡み合っているため、安易に分割するとリスクを生じる可能性があるからです。
特に、事業承継を行う場合は、誰が後継者となるのか、後継者がどれだけの株式を相続するのか等を明確にしなければ、経営の安定に大きく影響を及ぼしかねません。
後継者に非上場株式を集中させ、その他の相続人には預貯金や不動産などの他の財産を多く相続させる、あるいは、後継者が代償金を支払うなども検討すべきです。
また、遺産分割協議の内容は、必ず書面にまとめて、相続人全員が署名・捺印するようにしましょう。
④株主名簿の名義書き換え
遺産分割協議が成立し、非上場株式の相続人が決定したら、次は株主名簿の名義書き換え手続きを行う必要があります。
株主名簿の名義書き換えとは、会社の株主名簿に記載されている株主の氏名を、被相続人から相続人に変更する手続きのことです。
この手続きを行うことで、相続人は正当に株主としての権利(配当を受け取る権利、株主総会に出席し議決権を行使する権利など)を行使できるようになります。
名義書き換えの手続きは、非上場株式を発行している会社、または会社から委託を受けて株主名簿を管理している株主名簿管理人に対して行います。
まずは、対象会社または株主名簿管理人に連絡を取り、名義書き換えに必要な書類や手続きの流れを確認しましょう。
一般的に必要となる書類としては、以下のような書類が挙げられます。
- 相続関係を証明する戸籍謄本
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書
- 株式名義書換請求書
- 株券(発行されている場合)
譲渡制限株式の相続における名義書換については、以下のページをご参照下さい。
さらに詳しく譲渡制限株式の相続における名義書換|手続きの流れなど企業の対応⑤相続税の申告・納付
相続財産を受け継いだ結果、その総額が相続税の基礎控除額を超える場合には、相続税の申告と納付が必要となります。
基礎控除額は、3000万円+600万円×相続人の数で計算されます。
つまり、相続人が多ければ多いほど、基礎控除額は大きくなり、相続税の申告が必要となる可能性は低くなります。
また、相続税の申告と納付には期限が定められており、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に行わなければなりません。
この期限を過ぎてしまうと、延滞税や加算税などのペナルティが課せられる可能性があるため、期限には十分注意しましょう。
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非上場株式を相続しない場合の対応
非上場株式を相続しない場合には、以下のような対応をとることが必要です。
- 相続放棄する
- 会社や第三者に売却する
各対応の詳細も踏まえた上で相続するか否かを決断するとよいでしょう。
相続放棄する
相続放棄とは、被相続人の財産を一切相続しないという法的な手続きです。
これは、借金などのマイナス財産だけでなく、預貯金や不動産、株式などプラス財産も含めたすべての財産を相続しないことを意味します。
つまり、特定の財産(例えば、非上場株式のみ)のみを相続放棄することはできません。相続放棄を行うと、最初から相続人ではなかったとみなされるため、遺産分割協議に参加する必要もなくなります。
相続放棄をするかどうかは、相続財産の全体像を把握したうえで検討する必要があるでしょう。相続放棄を行う場合は、相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。
非上場株式の相続放棄については、以下のページで詳しく解説しています。
さらに詳しく非上場株式を相続放棄するには?会社や第三者に売却する
相続した非上場株式は、会社や株主などの第三者に買い取りの交渉をし、交渉が成立すれば売却して現金化することができます。
ただし、非上場株式は譲渡制限株式である場合が多く、譲渡制限株式を譲渡するには会社の承認を得る必要があります。
売却を希望する相続人は、会社に対して株式の譲渡承認を請求し、会社の承認を得るプロセスを経なければ第三者へ譲渡することはできません。
この譲渡承認の手続きは会社法に定められており、会社は株主総会または取締役会で譲渡の可否を決定します。
もし会社が譲渡を承認しない場合は、会社もしくは指定買取人に株式買取請求を行うこともできます。
しかし、株式買取請求では、株式価格に関する定めがないため、適正価格の協議が難航し、裁判所における手続に発展するおそれもあります。
非上場株式の譲渡に関する手続きについては、以下のページをご参考下さい。
さらに詳しく非上場株式の譲渡手続きの流れ|必要書類・適正価格・税金など非上場株式の買取請求については、以下のページで解説しています。
さらに詳しく非上場株式の買取請求とは?流れや価格、税金など弁護士が解説非上場株式を相続した場合にかかる税金
非上場株式を相続すると、相続税や譲渡所得税、贈与税が発生します。
相続税は、被相続人の財産総額が基礎控除額(3000万円+600万円×相続人の数)を超える場合に課税されます。
また、譲渡所得税は、相続後に非上場株式を売却した際に発生します。
売却益に対して課税されるもので、取得費用や譲渡費用を差し引いた金額に対して税率が適用されます(ただし、みなし配当課税にも注意が必要です)。
贈与税は、生前に非上場株式を贈与された場合に、その年の贈与財産が基礎控除(年間110万円)を超えると贈与税が課されます。
事業承継など非上場株式を相続する場合、計画的に進めなければ思わぬ税負担が生じる可能性があります。
非上場株式の税金対策として活用できる特例
非上場株式の相続においては、相続税の負担が大きくなることがありますが、一定の要件を満たすことで、税負担を軽減できる特例が存在します。
主な特例として、以下の2つが挙げられます。
非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例(事業承継税制)
後継者が会社の事業を承継する場合、一定の要件を満たすことで、非上場株式に係る贈与税・相続税の納税が猶予される制度です。
さらに一定期間、事業を継続して要件を満たし続ければ、納税が猶予されていた贈与税・相続税が免除されるという非常に大きなメリットがあります。
この特例制度には「一般措置」と「特例措置」があり、必要書類を提出することで、対象株数や納税猶予の割合の上限を引上げることができます。
発行会社に非上場株式を譲渡した場合の課税の特例
相続した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合、一定の要件を満たせば、みなし配当課税を行わずに譲渡所得税として計算できる非常に有利な特例があります。
ただし、この特例を利用するには、相続が発生してから3年10ヶ月以内に売却しなければならないなどの要件がありますので注意しましょう。
非上場株式の相続に関しては弁護士法人ALGにご相談ください。
非上場株式の相続は、評価方法の複雑さや相続税の負担、売却の難しさなど、様々な問題が伴います。
これらを踏まえた上で、相続するのか、もしくは相続放棄するのかを検討しなければ思わぬ税負担やリスクを背負うことになるでしょう。
非上場株式の相続に関しては、会社法や相続に専門性をもつ弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士法人ALGには、企業法務に精通した弁護士が多数在籍しており、積極的に非上場株式の相続に関するご相談を承っております。
相続における調査や手続き、遺産分割協議、非上場株式にまつわる関連手続など、様々な面から法的サポートをさせていただきます。
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- 監修 :
- 弁護士法人 ALG&Associates執行役員弁護士 家永 勲
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:41560)
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