ニューズレター


2019.Apr vol.53

あの日落ちてきた果実の名前を僕たちはまだ知らない


不動産業界:2019.4.vol.53掲載

私が借りているアパートには駐車場がついているのですが、その駐車場の隣の家の庭には木が植えられています。この木は、全く手入れがされていない様子で、木の枝が駐車場にある塀を超えてこちら側に伸びている状態となっていました。

私は、塀のそばにある駐車区画に車を停めていたのですが、ある朝駐車場に行ってみると、伸びていた木の枝が折れ、木に生っていた果実と枝が私の車に当たったようで、私の車に傷がついていました。

駐車場の隣の家は、庭も荒れ放題で、まだ人が住んでいるのかよく分からない状態なので、代わりに私が借りているアパートの大家さんに、車についた傷の修理代金を弁償してもらえないでしょうか。


本件においては、木の枝がどの程度塀を超えて伸びていたのか、今回の被害以前にも果実や枝が落下することがあったのか、本件アパートの入居者の方などから大家さんに対して木が伸びていることについて苦情が入れられたことがあったか等の事情次第では、入居者さんは、大家さんから、車についた傷の修理代金を弁償してもらえる可能性があります。

さらに詳しく

まず、樹木の管理が不十分であったことにより他人に損害が生じた場合、その樹木を事実上支配している者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負うとされています(民法717条2項)。本件においては、駐車場の隣の家の庭に植えられている木は、全く手入れがされていない様子とのことですから、樹木の管理が不十分であったといえそうです。そのため、木を事実上支配している者、即ち駐車場の隣の家の住人は、入居者さんに対して、車についた傷の修理代金を弁償する義務を負うことになります。

しかしながら、本件においては、駐車場の隣の家はまだ人が住んでいるのか定かではないとのことですから、事実上、隣の家の住人から修理代金を弁償してもらうことは難しいと考えられます。

では、本件アパートの大家さんから、車についた傷の修理代金を弁償してもらうことはできるのでしょうか。

この点については、大家さんが本件駐車場の管理する義務を十分に果たしていたかということが問題となります。即ち、賃貸借契約における貸主は、借主が賃貸借契約の目的物を支障なく利用できるように管理する義務を負っています。そして、貸主が、この管理義務を怠っていたことから借主に損害が生じた場合には、貸主は、借主に対して、その損害を賠償しないといけません(415条前段)。

本件においては、例えば木の枝が駐車場の塀を超えていることが明らかであって、その量も多く、その付近の駐車区画に車を停めてしまうと、その車に木の枝や果実が落下して当たってしまうことが一見して明らかだった場合や、本件の被害以前にも、入居者の方などから木の枝が塀を超えてしまっており、駐車場を利用するうえで支障がある旨のクレームがあったにもかかわらず、大家さんが何らの対応もしていなかったという場合等には、大家さんが本件駐車場を管理する義務を怠っていたと認められることになるでしょう。

したがって、上記のような場合には、入居者さんは、大家さんに対して、車についた傷の修理代金を弁償してもらえる可能性があります。

しかしながら、ここで注意すべきポイントが2点あります。

まず一つ目は、過大な修理をした場合です。大家さんが弁償する義務を負うのは、一般的にみて必要だろうといえる範囲の損害に限られます。大家さんに、必ずしも修理にかけた費用のすべてを請求できるわけではないことに気を付けてください。

二つ目は、いわゆる「過失相殺」の問題です。過失相殺とは、被害を受けた側にも一定の落ち度がある場合には、これをも考慮した上で弁償すべき金額が定められるというものです。大家さんに連絡するなど、何らかの対応もすることなく漫然と車を停めていた場合や、今までも木の枝や果実が車に当たったことがあるにもかかわらずその時には車に傷がつかなかったことから、同じ場所に車を停め続けていた場合などには、入居者さんの方にも落ち度があると判断され、弁償額が一定程度減額される可能性があります。

賃貸借契約においては、貸主は目的物を適切な状態に管理する義務を負っていますが、借主としても、不具合などがある場合にはこれを速やかに貸主に通知する必要があります。駐車場に限らず、借りている部屋に不具合などがある場合にも、大家さんに管理する義務があるからといってこれを放置せず、入居者さんとしても早めの対応をとることが肝要です。

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