前医と後医の責任の競合

代表執行役員 弁護士 金﨑 浩之

監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士

医師の診療を受けている患者が、事情によって医師を変えることがあります。 しかし、その患者の身体に、医師を変えた後で異変が生じた場合、医師の過失を疑ったとしても、どちらの責任を追及すべきなのかが分かりにくくなります。両方に責任がある場合もありますし、どちらにも責任がなく、不可抗力である場合もあるからです。

複数の医師が関わった場合には、後医が前医を批判したこと等により、患者やその家族の医師に対する心証が悪化して異変が生じる場合もあります。しかし、後医の意見が正しいか否かは分からないため、患者やその代理人としては、あくまでもカルテ等の証拠に基づいて、誰を相手方とすべきかを検討しなければなりません。

前医・後医とは?

1人の患者の診療に、複数の医師が関わることがあります。重篤な傷病が疑われた患者が転医させられる場合や、患者の転居等の事情によって病院が変更される場合等です。

そのような場合に、先に患者を診察した医師を前医、後に患者を診察した医師を後医と呼びます。

前医は、自身が行った診察の内容として、把握した症状や考えられる診断名、治療の経過、現在の状態、今後必要だと考えられる治療やリハビリ等の情報を、紹介状等によって後医に伝える責任があります。

後医は、前医からの情報を活用しながら、独自の立場で、自身の責任により治療を行います。

前医・後医のいずれが責任を負うのか。

患者が複数の医療機関を受診し、最終的に悪しき結果が発生している場合、まず“どの医療機関に責任があるのか”を明らかにするため、“どの医療機関の診療行為が悪しき結果に影響しているのか”を検討する必要があります。それゆえ、調査段階では、前医、後医双方の診療録等を検討していくことになります。その上で、前医のみの責任を追及する、あるいは、後医のみの責任を追及すると方針を決定していきます。

他方で、両方の行為が競合している場合には、両方の責任を追及していかなければなりません。

前医と後医の過失が競合する場合は?

症状が刻々と悪化していく患者の治療を、複数の医師が行う場合があります。そのようなケースにおいて、患者に悪しき結果が生じた原因として、前医の過失によって後医の診療が困難になり、さらに後医の過失が影響したためである、という場合があります。

このように、医療過誤が競合した場合、一方のみの医療機関を訴えた場合、過失は認められるものの、因果関係が認められないことがあります。

そこで、双方を訴える必要があります。

共同不法行為に関して、最高裁において、「交通事故と医療過誤が順次競合し、そのいずれもが被害者の死亡という不可分の一個の結果を招来しこの結果について相当因果関係を有する関係にあって、運転行為と医療行為とが共同不法行為に当たる場合において、各不法行為者は被害者の被った損害の全額について連帯責任を負う」とされています(最高裁 平成13年3月13日第三小法廷判決)。

この最高裁判例は、交通事故と医療過誤が競合した事案ですが、前医の医療過誤と後医の医療過誤が順次競合した場合にも妥当し、共同不法行為の問題となり、双方が連帯して責任を負うことになります。この点に関し、「急性喉頭蓋炎を発症した患者が、前医による誤診によって転送が遅れ、後医による気道確保の際の手技の誤りによって心肺停止に陥り、植物状態になった事例において、後医が慣れない方法で気道確保を行ったのは、前医の誤診によって転送が2時間程度遅れたことが原因であるとして、また、後医がミニトラック穿刺を行った位置が不適切であったとして、患者が植物状態になるという不可分一個の結果を招来したと裁判所は認定し、共同不法行為に当たる」とした下級審判例があります(大阪地方裁判所 平成16年1月21日判決)。

当職の経験

実際に過失が競合したと考えられた事案において、当事務所でも、次のような事案で共同不法行為事案として、訴訟提起して解決を図っています。

  1. ①前医の鼠経ヘルニア手術に問題があり、後医が精巣摘出の判断をした事案
  2. ②前医で内視鏡検査で胃がんを疑う所見を見落とし、慢性萎縮性胃炎と誤診し、その後、後医のX線検査でも胃がんの所見を見落とした事案
  3. ③介護施設で急性膵炎の症状があり、救急搬送させるべきであったのに、搬送が遅れ、搬送先の病院でも対応に問題があった事案
  4. ④介護施設の提携医療機関(前医)で肺炎の診断がされず(誤診)、そのまま介護施設で、肺炎が悪化したが対応が遅れた事案
  5. ⑤前医の医療機関で血液検査(PT-INR)の数値が見落とされた結果、後医に搬送され、検査値からは手術できないにもかかわらず、手術を実施して、出血性ショックで死亡した事案

小括

このように、患者が複数の医療機関に関わっている場合には、それぞれの診療録を検討し、責任の所在を明らかにしていくことが必要です。

そのうえで、過失が競合していると判断した事案においては、双方に対して、責任を追及していく必要があります。

この記事の執筆弁護士

医療事業部長 弁護士 井内 健雄
弁護士法人ALG&Associates 医療事業部長医学博士 弁護士 井内 健雄
東京弁護士会所属
弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 医学博士 弁護士 金﨑 浩之
監修:医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員
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