薬に関する注意義務

代表執行役員 弁護士 金﨑 浩之

監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士

薬を飲むときに、副作用が気になる方がいらっしゃると思います。特に、妊婦の方や、子供に飲ませる場合等については、不安が強くなるかもしれません。

薬には、必ず添付文書があり、基本的にはこれに従って処方・投与されます。しかし、医師が長年の習慣等を頼りにして不適切な使い方をすることがあり、生命・健康被害が生じるケースがあります。このような事態に陥らないように、医師には添付文書の記載を守ることが求められます。

ここでは、薬に関する注意義務について解説します。

薬に関する注意義務とは

薬に関する医師の注意義務として、患者に対して問診や説明等を行う義務、添付文書の記載を遵守する義務、投薬後患者の状態の経過を観察する義務等が挙げられます。

治療にあたって薬は欠かせないものといえます。しかし、薬は使用目的の作用とは別に、副作用を発生させる場合があります。中には、確率は低かったとしても、命にかかわるような重篤な症状を引き起こす薬も存在します。そのため、医師は投薬にあたって様々な注意義務を負っています。

これについて、以降詳しくみていきましょう。

問診や説明等を行う義務

医師が、投薬にあたって、患者に対してアレルギーがあるか、既往歴があるか等を問診し、薬の副作用などについて説明を行う注意義務を負っています。特に、薬によってアレルギー反応を起こしたことがある患者については、より慎重に薬の適応を判断する必要があります。また、家族のアレルギー歴等も確認することが望ましいでしょう。

添付文書の記載を遵守する義務

医師は、薬の添付文書に従って、適正な量を適正な期間用いる注意義務を負っています。薬は、必要な量よりも多く投与すると健康を害する場合があります。一方で、投与量が適切な量よりも少なければ、期待していた効果が現れず、病状が進行してしまうおそれがあるため、投与量や投与期間、投与態様を遵守することは大切です。

また、病態や疾患によっては禁忌事項が定められており、これに反して薬を用いることは、特段の合理的理由がないかぎり医師の過失が推定されることにつながります。

患者の状態の経過を観察する義務

医師は、投薬後、患者に副作用が生じるリスクがある場合は、患者の状態について経過観察する義務を負っています。投薬後副作用が疑われた場合には、直ちに検査、治療、投薬の中止等を行う必要があります。

患者がアナフィラキシーショック等、短期間に重篤な副作用を生じる危険がある場合には、発症した場合に備えて、迅速かつ的確な救急処置を行えるよう準備を行っておく義務等も裁判例上認められています。

アナフィラキシーショックと医師の注意義務

投薬に関する医療過誤でよく問題となるケースが、投薬後患者がアナフィラキシーショックを引き起こすケースです。

アナフィラキシーショックとは

アナフィラキシーとは、牛乳やピーナッツ等の食物や蜂の毒、抗菌薬等の薬といったアレルゲンが体内に入ることにより、全身性のアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与え得る過敏反応のことです。じんましんや息苦しさ、むくみなど、その症状はさまざまです。

アナフィラキシーショックとは、アナフィラキシーのなかでも血圧低下や意識障害といった重度の症状が生じた場合をいいます。

アナフィラキシーショックを起こしやすい薬

アナフィラキシーショックを起こしやすい薬として、造影剤や抗生物質、抗がん剤、解熱消炎鎮痛薬といった薬が挙げられます。アレルギーを起こしやすい患者に対して、これらの薬を投与する際には特に注意が必要とされています。

薬に関する注意義務についての判例

患者が薬(特に同種の薬)によってアレルギーを起こしたことを申告している場合には、薬剤の投与によりアナフィラキシーショックを引き起こす可能性が高いため、格別の注意を払うことが必要とされます。

また、薬剤を静注によって投与した場合に起きるアナフィラキシーショックについては、病変の進行は急速であり、多くの場合において投与後5分以内に発症するため、症状を引き起こすリスクが高い薬剤を投与する場合には初期症状をいち早く察知する必要があります。

風邪薬でじんましんが出た経験等を申告している患者に対して、2回目の投与となる抗生剤と初めての投与となる抗生剤の点滴静注を開始したところ、アナフィラキシーショックによる急性循環不全によって死亡した事案において、アナフィラキシーショック症状を引き起こす可能性のある各薬剤を新たに投与するに際して、医師には、アナフィラキシーショックを発症するおそれがあることを予見して投与後の経過観察を十分に行う態勢や、発症後における迅速かつ的確な救急処置を行える態勢を作る注意義務があったと認定しました。そして、それらの態勢を作るための指示をせずに各薬剤の投与を実施したことについて、注意義務を怠った過失があると認定しました(最高裁 平成16年9月7日第3小法廷判決)。

この記事の執筆弁護士

シニアアソシエイト 弁護士 宮本 龍一
弁護士法人ALG&Associates シニアアソシエイト弁護士 宮本 龍一
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弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 医学博士 弁護士 金﨑 浩之
監修:医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員
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