医療過誤における損害の減額要素

代表執行役員 弁護士 金﨑 浩之

監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士

医療過誤特有の事情によって、損害額の減額が必要となるケースがあります。

医療過誤の場合は、何らかの既往症がある患者について、その死亡や後遺症残存に関する損害が問題となります。適切な医療行為が施されていたとしても、結果(死亡・後遺症残存等)を回避できていたとは言い切れない場合があるからです。

また、患者側に何らかの過失がある場合にも、一定の過失割合を損害額から減額されることがあります。

医療過誤のような総損害額が大きい事案では、減額割合が1割違うだけで、賠償額が大きく異なります。そのため、安易に減額を受け入れるのではなく、減額の主張を緻密に検証する必要があります。

本ページは、医療過誤事案において、損害額が減額される場合がある、いくつかの要素について説明します。

素因減額

素因減額とは、患者が医療過誤の発生以前から有していた疾患等の素因が、損害の拡大に影響を与えた場合、その素因を考慮して、損害賠償額が減額されることをいいます。

そもそも、「素因」(そいん)とは、ある病気にかかりやすいもともとの原因を意味します。素因は、一般的に、患者の精神的傾向である「心因的要因」と、既往の疾患や身体的特徴等の「体質的・身体的素因」に区別されています。

交通事故事案ではありますが、最高裁は以下のように判断しています。

被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌(しんしゃく)することはできないと解すべきである。

引用元:最高裁 平成5年(オ)第875号 損害賠償請求事件 平成8年10月29日第3小法廷判決

したがって、単なる身体的特徴では素因として見なされず、患者の素因が「疾患」として認められる必要があります。

医療過誤の場合に素因減額が認められるかどうか

では、「素因が疾患と認められる場合に限って素因減額が認められる」という交通事故事案の基準を、医療過誤事案についても適用することができるのでしょうか。

医師は、患者の素因(疾患)を認識したうえで治療を行っており、交通事故の事案とは異なり、被害者がどのような素因を有しているかを知っています。そのため、医師は事前に損害の拡大を防止することが可能であったのではないかと考えられます。

そこで、医療過誤事案においては、適切な治療を行ったとしても、患者の有する疾患のために、結果(患者の死亡や後遺症残存)が生じた場合に限って、素因減額がなされる傾向にあります。

裁判所も、素因の影響が明確である場合に、素因減額を認めています。また、減額の割合についても、具体的事案毎に判断しているのが現状です。

過失相殺

素因減額とは別に、「過失相殺」によって損害額が減額される場合もあります。

過失相殺とは、患者側にも一定の過失が認められる場合、その過失割合に応じて損害賠償金を減額することをいいます。

具体的に、患者側の過失とは、「患者が医師の指示を守らない場合」、「問診時に患者が正しく自覚症状や既往症等を医師に伝えなかった場合」、「受診が遅くなった場合」等が挙げられます。ただし、このような患者の行為が、直ちに患者の過失と判断されるわけではありません。

裁判所においては、患者の知識や認識能力、加害側者の過失等、個々の事情や事案の状況を総合的に考慮し、過失相殺を行うかが検討されています。

また、過失相殺においても、減額割合について、具体的事案毎に判断されているのが現状です。

逸失利益の減額

医師の医療過誤により、患者が死亡した事案の中に、もともとの症状が重篤であったため、医療過誤がなくても、余命が限られていたと考えられる場合があります。

このようなケースでは、患者の死期を少なからず早めたとして、損害賠償が認められる可能性があるものの、損害額算定において、「死亡逸失利益」という項目を減額する方法で、損害額の調整が取られる傾向にあります。

死亡逸失利益の減額とは

「逸失利益」とは、医療過誤に遭わなければ、将来得られたであろう利益をいいます。患者が亡くなった場合は当然ですが、後遺症が残存した場合にも労働能力を喪失することで本来得られていたであろう収入分を得られなくなる可能性があります。そのような医療過誤がなければ発生しなかった将来分の減収については、「逸失利益」として医師・医療機関側に請求することができます。

死亡逸失利益は、患者が死亡することによって生じた逸失利益をいい、通常、医療過誤発生前の患者の収入を基礎として、生活費控除を考慮したうえで、残就労年数(通常67歳までの就労期間)のライプニッツ係数を乗じることによって算定します。

そのため、医療過誤が発生する以前から、すでに患者の余命が長くなかったと予測される事案では、医療過誤がなければ就労可能であったと考えられる期間について“のみ”損害が認められています。

したがって、既に重篤な疾患に罹患していた場合には、その事実を考慮して死亡逸失利益が減額される可能性があります。

この記事の執筆弁護士

シニアアソシエイト 弁護士 宮本 龍一
弁護士法人ALG&Associates シニアアソシエイト弁護士 宮本 龍一
大阪弁護士会所属
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監修:医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員
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