説明義務違反

代表執行役員 弁護士 金﨑 浩之

監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士

重い病気になったり、大きな怪我をしたりしてしまったら、とても不安な気持ちになることでしょう。患者としては、「自分はどのような状態なのか?」「完全に治るのか?」等の多くの疑問を抱き、医師に説明をしてほしいと望むのは当然のことといえます。

しかし、昔に限らず今も、説明を十分に行わない医師がいることは確かです。医師に説明を求めることは、患者が獲得した重要な権利であるといえるでしょう。そして、医師には患者に対し、説明をする義務があるといえます。

ここでは、医師の説明義務違反について解説します。

医師の説明義務とは

医師の説明義務とは、患者の自己決定権を実現するために、医師らに求められている義務です。つまり、患者が診療を受けるか否かを決めるために必要な情報を、医師が説明する義務のことをいいます。

説明義務とインフォームドコンセント

インフォームドコンセントとは「説明と同意」と訳されることが多いですが、医療者が患者に対して十分な説明を行い、それに患者が明確に同意を示して初めて医療者は患者に治療を施すことができるという考え方をいいます。医師の説明義務は、インフォームドコンセントとも密接な関係があります。それは、患者が医療に関する決断を下す際に、自己の病状について説明を受け、理解したうえで、自主的な同意や拒否の選択ができることが重要だからです。

説明義務とパターナリズム

パターナリズムとは、かつて医療界に存在した価値観です。それは、医師と患者の関係を父と子の関係と同様に捉え、治療に関することは医師が決めて、患者はそれに従えば良いという価値観でした。パターナリズムに基づいた医療では、医師が患者に対して、治療方針についての意思を確認しないことも珍しくありませんでした。

日本では、1965年に医師の説明義務に関するドイツの理論が提唱され、1970年代には下級審で医師の説明義務に関する民事責任を認める裁判例がいくつか出されました。そして、1980年代以降にインフォームドコンセントについての認識が広がったことで、医師の説明義務について重視されるようになっていきました。

説明義務の内容

医師から患者への説明は、医療に関する知識のない人にとっても、理解しやすいものでなければなりません。医師が説明すべき内容としては、以下のようなものが挙げられます(最高裁 平成13年11月27日第三小法廷判決)。

  • 疾患の診断(病名及び病状)
  • 実施予定の治療の内容
  • 実施予定の治療に付随する危険性
  • 他に選択可能な治療方法があればその内容と利害得失
  • 予後

手術前の家族への説明

医師の説明の相手方は、原則として患者本人です。例外的に、患者本人が意識不明の者、重度の精神障害者等である場合には、代理人等による承諾が求められます。患者が未成年者の場合においては、親権者の承諾が必要となります。

親権者の承諾については、手術のため訪室した看護師に母親が「じゃあお願いします。」という返事をした事実はあるものの、父親は手術の必要性に疑問を感じ詳細な説明を求めていたのに、十分な説明をしないまま手術を行った結果、患者である子供が死亡した事案で、手術に緊急性がなかったこと、父親が手術に関する詳細な説明を求めていたこと等から、特段の事情のないかぎり両親の承諾を得て手術を行うべきであったが、特段の事情も両親の承諾もなく行われた手術が違法であるとして、1880万円の損害賠償を認容した裁判例があります(横浜地方裁判所 昭和54年2月8日判決)。

説明義務違反による損害

医師の説明義務違反が認められる場合、その説明義務違反がなければ問題となった医療行為(手術等)を受けなかったといえる場合には、生命、身体に対する侵害との因果関係が認められる(説明義務違反がなければ生命、身体に対する侵害という結果が生じなかった高度の蓋然性があるといえる)ため、逸失利益や死亡・後遺症慰謝料などが損害として認められ、損害額は高額となります。しかし、多くの裁判例では、医師の説明義務違反がなければ問題となった医療行為を受けなかったとは認められず、生命、身体に対する侵害という結果との因果関係が否定され、自己決定権が侵害されたことによる慰謝料しか認められないため、損害額としては少額に留まっています。

説明義務違反に関する裁判例

説明義務違反と、生命、身体に対する侵害という結果との因果関係が否定されたにもかかわらず、高額の損害賠償が認められた裁判例がありますので紹介します。

事案は、患者XがY病院において脳動静脈奇形(AVM)の全摘手術を受けたところ、重篤な障害が残り、その後で事故死したため、Xの両親である原告らが、Y病院の医師らの説明義務違反等を主張したというものです。

1審は、Y病院側の説明義務違反を認めましたが、患者の障害及び死亡との因果関係は否定したうえで、患者は医師の不十分な説明のために、自己の疾患についての治療、ひいては自らの人生そのものを真しに決定する機会を奪われたとして、慰謝料・弁護士費用合計1800万円を認容しました(東京地方裁判所 平成8年6月21日判決)。

Y病院側が控訴しましたが、控訴審も1審の結論を維持しました。控訴審では、本件の説明義務違反について次のように判示しています。Y病院側は、「手術をする理由、手術を行った場合の症状の改善や障害発生の見込みなどについては一定の説明をしているとは認められるものの、抽象的な域に止まり、本人及び家族が最も知りたいと願っていたと推測される情報の提供と説明、すなわち大型AVMの摘出手術適応に関する当時の一般的医学的知見や、自ら経験した本件病院及び提携病院での同種症例の手術成績を踏まえた脳神経外科医としての専門的立場からの情報提供や、本件のような非出血性大型AVMの摘出手術の危険性と予後についての厳しい側面については必ずしも明らかにされず、保存的療法と外科的療法との得失の比較の説明において、その真摯さ、具体性、詳細性の点からして不十分なものがあったと判断せざるを得ない。」(東京高等裁判所 平成11年5月31日判決)。

弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 医学博士 弁護士 金﨑 浩之
監修:医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員
保有資格医学博士・弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:29382)
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