悪意の遺棄とは?具体例や慰謝料相場、離婚が認められた判例
「生活費を配偶者に渡さない」、「理由もなく同居を拒否する」、「頻繁に家出する」このような行為は悪意の遺棄として配偶者に慰謝料請求できる可能性があります。
また、悪意の遺棄は法的に離婚が認められる理由の一つででもあります。
この記事では悪意の遺棄に着目し、悪意の遺棄になるケースや悪意の遺棄での離婚方法、離婚慰謝料相場などについて解説していきます。配偶者の行為が果たして悪意の遺棄に該当しているのか、またどのように離婚を進めていけばいいのか分からずお困りの方、ぜひ本ページをご覧ください。
目次
悪意の遺棄とは
「悪意の遺棄」とは、夫婦間の義務である「同居の義務」「協力義務」「扶助義務」を正当な理由なく履行しないものであり、法定離婚事由の一つとなります。
法定離婚事由とは、裁判で離婚する際に必要となる離婚理由のことで、民法第770条において5つの理由(原因)が定めされています。このうちどれかの離婚事由に該当しなければ、裁判で離婚を認めてもらえません。
【法定離婚事由】
- ①配偶者に不貞行為があったとき
- ②配偶者から悪意で遺棄があったとき
- ③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
- ④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- ⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
「悪意の遺棄」は法定離婚事由の②配偶者から悪意で遺棄があったときに該当します。
では、悪意の遺棄に該当するケースとは、一体どのようなものなのでしょうか。次項で見ていきましょう。
悪意の遺棄となるケース
夫婦には「同居義務」「協力義務」「扶助義務」があります。悪意の遺棄とは、この3つを履行しないことです。
次項では、上記の3つがどのような役割を担っているのか見ていきます。
同居義務
同居義務とは、夫婦が同じ家に住み、同居をすべき義務のことをいいます。ただし、以下の場合は同居義務違反にはなりません。
- 単身赴任で同居できない
- 夫婦がお互いの都合により別居している
ここで、同居義務違反となるのは以下のようなケースです。
- 特に理由もなく同居を拒否している
- 生活費は送られてくるが、相手がどこに住んでいるのかわからない
- 何の説明もなく家出してしまった
裁判で別居により離婚が認められるためには最低でも3年ほどの別居期間が必要ですが、悪意の遺棄では、別居の期間の長さより、積極的に夫婦生活の破綻を企図し、もしくは認容する「悪意」で遺棄したのかどうかが問題となるといえます。
協力義務
協力義務とは、生活の様々な場面で、夫婦がお互いに協力し合う義務のことです。
協力義務違反となるケースは以下のとおりです。
- 健康で働ける状態であるのに働かず、家事もしない
- 夫婦間の決め事(生活費の折半など)を守ろうとしない
- 配偶者を言葉などで追い詰めて追い出す、追い出そうとする
ただし、協力義務違反をしたからといって処罰されることはありません。
扶助義務
扶助義務とは、夫婦の一方が扶助を必要としているときにもう一方が同等の生活を送れるように援助することをいいます。「扶助」とは、力を添え、助け合うことであり、同程度の生活水準を保持できる程度の援助をする義務があります。
【扶助義務違反となるケース】
- 収入があるにも関わらず、生活費を渡そうとしない
- 別居前に約束したにも関わらず、生活費を送ってこない
- 大きな病気をしているにもかかわらず、医療費を負担しない
悪意の遺棄とならないケース
形式的には悪意の遺棄に該当する場合でも、正当な理由があれば夫婦の同居・協力・扶助義務に反しませんので、悪意の遺棄とならないケースもあります。
【悪意の遺棄とならないケース】
- 単身赴任など、仕事の必要性のために別居する場合
- DVやモラハラから逃げるために別居する場合
- 夫婦関係を見つめなおすために別居する場合
- 病気などの療養のために別居する場合
- 子供の教育上の必要性のために別居をする場合
- 実家の親を介護するために別居する場合
- 健康上の理由で仕事や家事ができない場合
- 失業中のため生活費を渡せない場合
なお、生活費を渡していたとしても自分のために全部使うというのも悪意の遺棄になります。
悪意の遺棄として離婚が認められた判例
- ①妻子を見捨てて家を出たケース
- 難病を発症して中途失明に等しい状況で生活していかなくてはならなくなった妻と子を家に残し、夫が実家に帰ってしまったケースです。
裁判所は、レーベル症という大きな障害を抱えて生活していかなければならなくなった妻をしっかり支えることができず、自分の身の回りのことですら一人で行うのは困難でありながら、子を残して実家に戻ることは悪意の遺棄をしたに他ならないと判断し、離婚が認められました。
(令和2年3月12日 東京家庭裁判所) - ②同居を拒否したケース
- 夫が本社勤務を命じられたのに、社宅での同居を拒み別居していたケースです。
夫は同居を拒み続け、約9年間別居をし、その間に2度の離婚調停をしていました。いずれも調停不成立となりましたが、夫が別居を解消しようとすることはありませんでした。
裁判所は夫婦の同居・協力・扶助義務に反し、夫の行動が悪意の遺棄に該当すると判断し、離婚を認めました。
(平成30年6月19日 福岡家庭裁判所)
悪意の遺棄として認められるポイント
悪意の遺棄が裁判で認められるケースは多くありません。裁判で悪意の遺棄が認められるためには、以下のようなポイントがあります。
- ①同居・協力・扶助義務を放棄していたこと
- 民法第752条で定められている「夫婦は同居し、互いに協力し、扶助しなければならない」義務を放棄していた事実です。
- ②正当な理由がないこと
- 同居・協力・扶助義務の放棄に正当な理由がないことを証明する必要があります。
- ③「悪意」で遺棄したこと
- 積極的に夫婦生活の破綻を企図し、もしくは認容して同居・協力・扶助義務を放棄したことを証明する必要があります。
上記のとおり、裁判において「悪意の遺棄」に該当すると認められることは少ないですが、例えば、正当な理由のない別居(同居義務違反)が「悪意の遺棄」に該当すると認められない場合であっても、その他の事情も総合的にみて、「婚姻関係を継続し難い事由」に該当するとして、離婚請求が認められることもあります。
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悪意の遺棄での離婚方法
悪意の遺棄での離婚方法にはどのような方法があるのでしょうか。また、裁判で悪意の遺棄は認められるのでしょうか。
次項では、離婚方法の種類、離婚に必要な証拠について詳しく解説していきます。
離婚方法の種類
離婚の種類と流れは以下のとおりです。
- ①協議離婚
- 当事者の話し合いで離婚する方法です。慰謝料や財産分与などについても当事者で話合って決めます。
- ②離婚調停
- 協議離婚が成立しない場合は家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。
調停とは、調停委員が間に入り、離婚するか否かや離婚条件について話し合って離婚する方法です。 - ③離婚裁判
- 離婚調停でも合意に達せず、調停不成立となった場合は裁判に移行します。
裁判では、法定離婚事由がある場合に限り、裁判官が離婚を認める判決をします。これと同時に慰謝料や財産分与の金額も裁判官により決められます。
「悪意の遺棄」は法定離婚事由の一つであることから、証拠をそろえて裁判官に悪意の遺棄があったと認めてもらえれば、裁判で離婚できることになります。
離婚に必要な証拠
話し合いによる離婚でも、調停や裁判による離婚でも、相手に「そんな事実はない」と反論されないようにするために、「証拠」は何より大事です。
以下では、悪意の遺棄の証拠になるものを列挙していきます。
- 生活費が振り込まれなくなった通帳
- 悪意の遺棄の状況がわかる日記や家計簿
- 別居の事実がわかる住民票や賃貸契約書
- 一方的な別居だとわかるメールのやり取り
- 夫婦関係の修復を求めたのに拒否された経緯がわかるメールのやり取り
- 別居の原因が不貞行為の場合は肉体関係がわかる写真やメールのやり取り
- 配偶者の浪費や借金がわかるクレジットカードの明細やキャッシング明細 など
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悪意の遺棄での離婚慰謝料の相場
悪意の遺棄による離婚慰謝料の相場は、事案にもよりますが、50万~200万円の範囲内となることが多いです。
また、以下のような場合には、離婚慰謝料が増額される可能性があります。
悪意の遺棄だけでなく、相手が不貞行為をした場合は特に離婚慰謝料が増額される傾向にあります。
- 婚姻期間が長い場合
- 子供がいる場合
- 相手が不倫相手と同居するために出ていった場合
このように、離婚慰謝料の相場は、ケースバイケースですので、ご自身にあった詳しい金額が知りたい場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
慰謝料の請求方法
離婚慰謝料の請求方法の流れは以下のとおりです。
- ①話し合い
- 離婚並びに慰謝料の支払義務及び金額について話し合いをします。話し合いで相手方が慰謝料の支払義務を認め、慰謝料の金額が決まった場合には、後から「言った・言わない」が無いように合意書にまとめましょう。
- ②内容証明郵便を送る
- 話し合いに応じてくれないような場合には、内容証明郵便を送ります。内容証明郵便とは、送付した内容を郵便局が証明してくれる郵便です。内容証明郵便を送付することで、自分が本気であると示すことや相手に心理的なプレッシャーを与えることができます。
- ③離婚調停
- 話し合いや内容証明郵便でも解決しない場合は離婚調停を申し立て、調停委員を介して話し合いをします。
- ④離婚裁判
- 離婚調停不成立の場合は裁判を起こします。裁判では、離婚事由と離婚慰謝料をもらうだけの事実があったことを証明する証拠が必要です。
慰謝料請求の時効に注意
悪意の遺棄を理由に慰謝料を請求する際にも時効が存在します。
慰謝料請求の時効は、請求の内容によりますが、悪意の遺棄が始まってからまたは離婚時から3年間です。慰謝料を請求せずに3年経ってしまうと1円も請求できなくなるため、注意が必要です。
悪意の遺棄ですぐに離婚できなくても請求できるお金
離婚せずに当面別居する場合は婚姻費用を請求することができます。婚姻費用は毎月支払ってもらうものであるため、生活費の不安解消に役立ちます。
悪意の遺棄は証明することが難しいのに対し、婚姻費用は婚姻の事実を証明すればいいのです。
婚姻費用の請求方法は以下のとおりです。
- ①話し合い
- 相手が支払いに了承してくれれば婚姻費用を受け取れます。
- ②婚姻費用分担請求調停
- 話し合いで決めることが難しい場合は家庭裁判所に「婚姻費用分担請求調停」を申し立て、調停委員を介し話し合いをします。
- ③審判
- 調停不成立となった場合は自動的に審判の手続きに移り、裁判官によって判断されることとなります。
また、不貞行為の場合は、離婚しなくとも「不貞慰謝料」を請求することができます。このように、すぐに離婚しなくても請求できるお金もあります。
婚姻費用については以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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悪意の遺棄に該当するかどうか、経験豊富な弁護士にご相談ください
これまで「悪意の遺棄」について解説してきましたが、実際にご自身のケースが「悪意の遺棄」に該当するかの判断は難しいことだと思います。また、悪意の遺棄をされているにもかかわらず、それを主張し、離婚できることに気づいていない当事者も多くいらっしゃいます。
「これってどうなのかな?」と少しでも疑問に思われた方は弁護士にご相談ください。
悪意の遺棄は証拠を集めることが難しく、裁判で悪意の遺棄が認められるケースは多くありません。
しかし、悪意の遺棄に該当しなくとも、事情を総合的にみれば、婚姻関係を継続し難い事由があると認められるケースもあります。
弁護士に相談してみることで、離婚までの道筋が見えること、離婚しない場合あっても、生活費をもらえないなどの現状を改善できることがあります。
また、弁護士が入ることで、適切な慰謝料を受け取れる可能性が高まります。
悪意の遺棄で離婚をお悩みの方は私たち弁護士法人ALGにご相談ください。
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保有資格 弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)