産後クライシスとは?離婚に発展しやすいケースや対処法について
待望の子供が産まれ、幸せに満ちた産後ですが、厚生労働省の「全国ひとり親世帯等調査報告(2016年)」によると、離婚件数全体(死別以外)の約4割が産後2年以内に離婚を決意しています。
産後は「産後クライシス」になりやすく、離婚の原因となってしまうケースが多くあります。
では、産後クライシスとはどのような状態を指すのでしょうか。産後クライシスによる離婚を避ける方法はあるのでしょうか。この記事で解説していきます。
目次
産後クライシスとは?
産後クライシスとは、出産後2~3年ほどの間で夫婦仲が急激に冷めてしまうことを指します。まだ育児に慣れていない第一子の出産で起こりやすいといわれています。
産後クライシスと似た言葉に「産後うつ」がありますが、これらはどのような違いがあるのでしょうか。
産後クライシスや産後うつは妊娠や出産、子育てに対するストレスや不安が原因となっている場合が多くあります。産後うつは心の病気であることから、医師による診察や、場合によっては投薬が必要となります。
一方、産後クライシスは出産や子育てによる疲れ・ストレスから夫婦関係が悪化している状況を指します。そのため、心の病気というよりは夫婦関係が危機的状況にあることを表しています。
産後クライシスの症状は?
以下のような症状がある場合は産後クライシスを疑った方が良いかもしれません。夫婦でそれぞれ確認してみましょう。
【妻向けチェックリスト】
- 些細なことで夫にイライラするようになった
- 感情がうまくコントロールできず、攻撃的になった
- 夫婦の会話や一緒にいる時間が減った
- 夫との触れ合いが苦痛に感じる
- 夫への愛情が冷めたように感じる
- 夫が家事・育児に非協力的に感じる
【夫向けチェックリスト】
- 最近妻がいつもイライラしていて、家でくつろげなくなったと感じる
- 妻と口げんかが絶えず、普段の会話が減った
- 妻が子供にかかりきりで、自分は放置されているようで不満を感じる
どんな人がなりやすい?
男性 | 女性 |
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子供が産まれるとこれまでの夫婦生活とは大きく異なります。育児や家事の負担を夫が気づかなかったり、無視してしまったりすることで、それまで上手くいっていた夫婦関係が悪化するおそれもあります。
特に女性は産まれるまでお腹の中で育ててきた赤ちゃんに対し、「母親」という意識を持ちやすいですが、男性は「父親」という意識が芽生えるまで時間がかかることがあります。
その意識の差が夫婦関係に溝を作ってしまう可能性もあります。
産後クライシスになる理由
なぜ産後クライシスになってしまうのでしょうか。理由を見ていきましょう。
産後のホルモンバラスの乱れ
女性は妊娠から出産までの過程で、女性ホルモンが多く分泌されます。しかし、出産後は女性ホルモンが急激に低下します。そのため、ホルモンのバランスが大きく乱れてしまうのです。
また、陣痛により何時間も痛みに耐え抜いたり、大きくなった子宮が元に戻ろうとする後陣痛の痛みに耐えたりするなど産後は身体にも大きな負担がかかります。
このように、ホルモンバランスの大きな乱れに加え、体への負担、睡眠不足などから感情がコントロールできなくなり、本人もなぜこんなにイライラしているのか分からなくなってしまうのです。
子供優先の生活による疲れ
産前の生活とは異なり、子供が産まれたら子供優先の生活となります。赤ちゃんは言葉を話すことができず、欲求は泣いて知らせます。そのため、どうして泣いているのか分からずイライラしてしまうこともあるでしょう。
今までの家事に加えて育児が増え、自分の時間は無くなり、自由に行動することや、好きなだけ眠ることができなくなってしまいすべては子供中心の生活になります。
そうして積もり積もったストレスが、今まで通り飲み歩いていたり、趣味に出かけたりする夫に向けられてしまうのです。
母親だけ負担が多くなる
特に乳幼児については妻が世話をする家庭がほとんどだと思います。女性は出産直後から、子供に気を配り、ミルクやおむつ替え、寝かしつけなどの世話をしなければなりません。
一方で男性はこれまでと変わらない生活を送っていたり、夜泣きに気付かず寝続けていたりすると、妻は自分ばかりが大変な思いをしているとストレスを感じる場合があります。
夫婦間でのコミュニケーション不足
産前は夫婦のコミュニケーションが取れていた夫婦でも、産後の生活にすれ違いが生じコミュニケーションが減ってしまう場合もあります。
夫婦の会話が減ったり、コミュニケーション不足になったりすることで、お互いへの愛情を感じられなくなることもあります。
妻は夫に伝えたいことをうまく伝えられず、悩みや不安を溜め込んでしまうことで夫婦の溝が深くなり、産後クライシスにつながる場合もあります。
産後クライシスが原因で離婚となる理由
なぜ産後クライシスは離婚に発展してしまうのでしょうか。ここでは、産後クライシスが離婚の原因となる理由を見ていきましょう。
●妻は子供にかかりっきりの生活になる
子供が産まれると子供優先の生活になります。妻は母親として自分のことは後回しにし、子供の世話をする日々が続きます。そのため、夫のことにまで頭が回りにくくなります。
●妻はやることが増え生活が一変する
子供が産まれてからは夜泣きもあるでしょうし、妻は夜深く眠ることができません。そのため、昼間にうとうとしてしまうこともあるでしょう。普段の家事に加え子供の育児が加わり、妻の生活は一変してしまいます。
●夫は実質生活に変化はない
生活が一変する妻に比べ、夫はいつも通り仕事に行き、夜帰宅するという生活に大きな変化はありません。子供の世話も休日に見るくらいなので、妻の生活の大変さを理解してあげることができません。
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産後クライシスによる離婚を避けるための対処法
産後クライシスにより離婚に至る夫婦も多い中、離婚を避けるためにはどうしたら良いのでしょうか。
具体的には以下の対処法があります。
- 夫婦で話し合いの時間を作る
- 役割分担を決めておく
- 妻が気を付けること
- 夫が気を付けること
次項からはそれぞれについて詳しく解説していきます。
夫婦で話し合いの時間を作る
特に第一子の場合、子育ては初めてのことですから、「これでいいのかな?」と不安になることも多いと思います。
しかし男性は女性の不安に鈍感であることも多く、悩んでいること、ストレスが爆発しそうなことまで気づかない場合もあるでしょう。ましてや察して動くなんてことは難しいものです。
そのような場合に、妻は不安やストレスを溜め込まないで夫に伝えるようにしましょう。些細なことであっても小さなことが積み重なり大きなストレスとなるので、シンプルな悩みでも言葉にして伝えるようにしましょう。
また夫は産後の妻を理解し、「何かしようか?」「やることはある?」と積極的に声かけし、コミュニケーションをとっていきましょう。
役割分担を決めておく
「育児も家事も完ぺきにこなさなきゃ」と頑張りすぎていませんか?育児も家事も夫婦で協力してするものです。夫にはできないと思い込まず、いちど夫を頼ってみてはいかがでしょうか。
家事・育児の役割分担をしてくことで、妻の負担が軽減され、何をどのように手伝ったらいいのかわからないという夫の不安や不満を回避できるでしょう。
夫は役割分担だけでなく、率先してほかの家事・育児を手伝うようにしましょう。
名前のない家事はたくさんあります。少しでも妻の負担を減らすよう心がけ、自分に手伝えることはないか質問するようにしましょう。
妻側も家事や育児に不慣れな夫に対し、「自分で調べてほしい」などと突っぱねることはやめ、家事・育児の手順について詳細に教えてあげるようにしましょう。
妻が気を付けること
女性は「母親だから」と家事も育児も完ぺきにこなそうとしてしまいますが、1人で家事・育児も完ぺきにこなそうとする必要はありません。夫や家族、自治体サービスなどを頼りましょう。
自分自身が限界に達する前に人の手を借りることが大切です。育児で悩み事がある場合は家族や友人、自治体の相談窓口を利用するのも良いでしょう。
また、子供を家族に預けたり、一時預かりを利用したりすることで、自分の時間を持つことも大切です。自分の時間を持つことでリフレッシュすることができ、ストレスの軽減につながります。
夫が気を付けること
産後、イライラしている妻を見て「変わってしまった」と感じる男性も多いかもしれませんが、イライラはホルモンバランスの乱れから起こるものであり、妻の意思とは関係なく起こり得るものです。 夫側が産後クライシスで気を付けることは、以下の2つです。
- 産後クライシスはなぜ起きてしまうのか正しく理解すること
- 妻の態度に対し「産後はこういうものだ」と理解して受け入れること
妻がイライラしていても温かく見守りましょう。
産後クライシスで離婚を検討すべきケース
努力を重ねても離婚を避けられないケースもあるでしょう。 次項からは真剣に離婚を考えた方が良いケースを解説していきます。
相手の浮気
産後の妻とのコミュニケーション不足、愛情の低下、セックスレスなどから夫がほかの人と浮気をしてしまうこともあります。
浮気はどのタイミングでも許せないと思いますが、産後のタイミングで浮気された妻は深く傷つき、許せない行為となるでしょう。
浮気は不貞行為として裁判における離婚事由の一つです。夫の浮気で離婚する場合は言い逃れができないよう浮気の証拠を集めてから離婚を切り出しましょう。
【証拠となり得るもの】
- 肉体関係があったと分かる写真や動画
- 夫や浮気相手が浮気を自白した録音
- ラブホテルの領収証
- 肉体関係があったと推測されるメールやSNSのやりとり など
相手からのDVやモラハラ
産後、夫婦関係が悪化し夫からDVやモラハラを受けている場合は早めに離婚を決意した方が良い場合もあります。産前からDVやモラハラがある場合も同じです。
DVやモラハラは子供に向かう可能性もありますし、子供が、母親が父親にDVやモラハラをされているところを見続けるのは、子供の成長に悪影響を及ぼす場合もあります。
まずは信頼できる家族や友人、自治体の窓口に相談しましょう。
DVでの離婚については以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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「生活費を渡さない」「健康なのに働かない」などの悪意の遺棄
夫が生活費を渡さない、健康なのに働かないといった場合は離婚した方が良い場合もあるでしょう。 夫婦には一緒に暮らし、お互いに助け合って生活していくことが法律で義務付けられています。これらの義務に対して正当な理由もなく夫婦の共同生活に協力しない場合は悪意の遺棄として裁判上の離婚事由となり得ます。
十分な生活費がないと子供の健康面にも悪影響を及ぼす可能性もあり、離婚して養育費と行政からの助成金で生活する方が良いケースもあります。
離婚する際の注意点
離婚することを決意した際には離婚する際の注意点についても知っておく必要があります。次項から見ていきましょう。
離婚後の経済的な問題への対策をする
離婚後は相手の収入がなくなるため、金銭的に苦しくなることが予想されます。離婚後に子供と暮らす場合は自分だけの生活費だけでなく、子供の生活費まで考える必要があります。
子供は衣食住だけでなく、大きくなれば学費などのお金がかかるため、経済的に自立する必要があるでしょう。
婚姻中は夫婦間では扶助義務があることから、婚姻費用を請求することができますが、離婚後は婚姻費用を受け取ることはできません。離婚する前に別居する場合などは婚姻費用を忘れずに請求するようにしましょう。
離婚をする際、金銭の分配としては財産分与があります。
財産分与は婚姻中に夫婦が築き上げた財産を離婚時に均等に分配することです。住宅や預貯金、株式などを分配することができるため忘れずに行いましょう。
また相手が離婚事由を作った有責配偶者であれば慰謝料の請求も検討しましょう。
婚姻費用については以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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離婚時には必ず親権者を決める必要がある
日本では離婚後は単独親権となり、父母どちらかが子供の親権者となり一緒に暮らします。離婚届に親権者を記載する欄があるため、離婚時に決めておかねばなりません。
子供が乳幼児である場合は、子供の世話を中心的にしてきた母親が優先となるでしょう。
親権は一度決まると後から変更するのは難しくなるため、親権者を決める際は「どちらと暮らす方が子供にとって幸せか」ということを考え、慎重に決めましょう。
離婚の親権については以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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子供と生活する際は養育費を請求する
親権者となり、子供と一緒に暮らす場合は相手に「養育費」を請求することができます。
養育費とは、子供の監護・養育に必要なお金のことで、子供が社会人として独立して生活できるまで請求できるのが一般的です。
養育費の金額は父母がそれぞれ合意すればいくらになっても構いません。
しかし、養育費の金額で揉めるようであれば家庭裁判所が公表している「養育費算定表」を基に、夫婦の収入や子供の年齢・人数から養育費の相場を算出することができます。
養育費は子供の権利ですので、適切な金額で支払ってもらうようにしましょう。
養育費の相場については以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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慰謝料は必ず受け取れるわけではない
離婚の慰謝料とは、相手が離婚事由を作り離婚に至ったことによる精神的苦痛に対する金銭の補償です。
そのため、単に性格の不一致などで離婚する場合は慰謝料を受け取れないケースもあります。
慰謝料を受け取るには、配偶者の以下のような行為により、離婚に至ったことが必要となります。
- 不貞行為(浮気・不倫)
- 悪意の遺棄
- DV
- モラハラ
- セックスレス
- 過度な浪費・借金 など
離婚慰謝料を請求できるケースについては以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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離婚の流れ
離婚の流れは以下のとおりです。
- ①協議離婚
- 夫婦の話し合いで離婚を目指すといった、日本では最も一般的な離婚方法です。夫婦の話し合いにより離婚に合意できれば理由は何でも構いません。
夫婦で養育費や財産分与といった金銭に関する約束事をする場合は離婚協議書や公正証書などを作成し、後から「言った・言わない」のトラブルを避けるようにしましょう。 - ②離婚調停
- 協議離婚で合意が得られない場合に協議の場を裁判所へ移し、調停委員に間に入ってもらいながら話し合いにより円満な解決を目指す手続きです。
調停委員が間に入ることにより、本人に直接言えなかったことを調停委員に代わりに伝えてもらう事ができ、冷静な話し合いができるようになるでしょう。 - ③審判離婚
- 調停内容や提出された書類、その他さまざまな事情を考慮して離婚の可否や条件などを裁判所が判断を下す方法です。
些細な点で離婚することに合意できないケースや調停内容に合意しているものの、事情があり調停に出席できないケースで審判離婚が活用されます。 - ④離婚裁判
- 協議や調停を経てもなお離婚に対し対立する場合には裁判に移行します。離婚裁判では法律で定められた離婚事由(法定離婚事由)があるかどうか判断され、双方の主張・立証を基に裁判官が判決を下します。
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産後クライシスでの離婚に関するよくある質問
産後クラシスでの離婚に関するよくある質問にお答えしていきます。
産後クライシスで離婚したことを後悔するケースを教えてください
産後クライシスで離婚することは、一時の感情で離婚を決意してしまうこともあるため、後悔してしまうケースもあります。
具体的にどのような時に後悔するのかを見ていきましょう。
●金銭的に苦しくなる
夫の収入に頼れなくなり、自分一人ならまだしも、子供も育てていかなければならず金銭的な苦しさを感じ「離婚しなければよかった」と後悔してしまうケースもあります。
●仕事と育児の両立ができない
子供の急な体調不良や保育園や学校の送り迎えなど、母親ひとりでは難しい場合もあります。生活していくためには仕事をしなければならないと感じつつも、仕事と育児を両立することの大変さが身に染みて、夫の必要性を感じる場合もあります。
産後クライシスで離婚したことは子供にも影響しますか?
離婚に伴って夫婦が別居したり、引っ越しで生活環境や保育園、学校が変わったりすることにより子供が精神的に不安定になることがあります。
しかしながら、あなたが夫からDVやモラハラを受けていながら、子供へ配慮して離婚しないこともまた同様に、子供に悪影響を与えるでしょう。
離婚後は悪影響がなければ父親との面会交流も行い、子供が父母どちらからも愛されていることを認識できるようにしましょう。
産後クライシスなどをきっかけに離婚を検討している場合は弁護士にご相談ください
産後クライシスはホルモンバランスの乱れで起きるため、女性の意思ではありません。しかし、夫が理解してくれず日々を過ごしていくのは女性にとってつらいことであり「離婚」を考えることは珍しいことではありません。
産後クライシスは他人には理解されないことも多く一人で悩んでしまいがちですが、そのお悩みは私たち弁護士法人ALGにご相談ください。
私たちは夫婦問題や離婚問題に詳しい弁護士が多数在籍しており、夫婦問題に強い女性弁護士も在籍しております。
女性だからこそ話しやすい問題もあると思いますので、まずは一度ご相談ください。
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保有資格 弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)