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能力不足や適格性の欠如を理由にモンスター社員を辞めさせることはできる?

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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員

会社内に能力や適格性が欠如する問題社員がいると、「業務効率が下がる」「顧客からのクレームが増える」など、会社全体へ悪影響を与えるおそれがあります。

そのため、今すぐ退職してほしいと考える経営者の方は多くいらっしゃるかと思います。

しかし、能力不足の社員をいきなり解雇することは非常に難しく、社員との裁判トラブルに発展するリスクもあるため、慎重な判断が求められます。

本ページでは、能力・適格性が欠如する社員に対し、会社としてどのような対応をとるべきか、解雇する場合にはどのような点注意すべきかについて、解説していきます。

社員の能力不足・適格性の欠如が会社に及ぼす影響

職場内に、業務に必要な能力や適格性に欠ける社員がいると、周りの社員がその分フォローしなければならなくなるため、他の社員のモチベーションや業務効率が低下するおそれがあります。

その結果、職場全体の生産性が低下し、売上げの減少や経営状況の悪化へとつながりかねません。

そのため、会社側としては、能力や適格性が欠如する問題社員に対し、適切に対処しなければなりません。

能力・適格性が欠如するモンスター社員への対応

能力・適格性が欠如する問題社員への対応は、以下のとおり、段階的に進めていくことが適切です。

  • 注意・指導して改善の機会を与える
  • 配置転換を行う
  • 段階的な懲戒処分を行う
  • 退職勧奨を検討する

以下で詳しく見ていきましょう。

注意・指導して改善の機会を与える

能力や適格性を欠く問題社員に対しては、まず上司が注意・指導を行い、改善の機会を与えることは必要です。

本人に対して、業務能力向上のための教育指導を実施します。また、「いつ」「誰が」「どのような」指導を行ったのか、またどのような改善が見られたか等について、メールや指導票などに記録し証拠として残しておくことが重要です。

「会社として教育指導を行い、十分に改善の機会を与えた」という事実は、後に解雇の効力が争われた場合に、解雇が有効であると認められる根拠となり得ます。

配置転換を行う

注意・指導をしても改善が見られない場合は、別部署に配置転換することを検討しましょう。
営業職で能力を発揮できないならば、事務職に回すなど、異なる職種に就くことで新たな適性が発揮される可能性があります。

配置転換の検討の際、社員の意向や希望を聴取することは重要ですが、社員の意向に拘束されるわけではありません。

なお、配置転換は就業規則や雇用契約で定められた人事権の範囲内に限って認められるものです。

これらに反する配置転換は、人事権の濫用として無効になります。
特に、特定の業種に就くことを前提に雇い入れたにもかかわらず、全く別の職種への配置転換は雇用契約等により規制されているケースがあるため確認が必要です。

また、家族に要介護者がいるのに遠方に転勤させるなど不利益を与える配置転換や、嫌がらせ、退職強要など不当な目的の配置転換についても、権利濫用と判断される場合があるためご注意ください。

段階的な懲戒処分を行う

それでも改善が見込まれない場合は、懲戒処分を検討します。
著しい能力不足であって、会社にも損害を与えているならば、懲戒処分の対象となり得ます。

ただし、懲戒処分を行う場合は、いきなり解雇とせず、戒告(譴責)→減給→出勤停止→降格と、段階的なプロセスを踏むことが必要です。
会社として十分な注意・指導を行ったにもかかわらず、社員に改善が見られないのであれば、解雇してもやむを得ないと判断されやすくなります。

なお、懲戒処分を行うためには、①就業規則の懲戒事由に該当すること、②処分が問題行動の内容と比較して相当であること、③適正な手続き(弁明の機会の付与など)、といった要件を満たす必要があります。
これらを守らないと、懲戒処分は権利濫用・無効と判断される可能性があるためご注意ください。

懲戒処分の注意点については、以下のページで解説しています。

さらに詳しく

退職勧奨を検討する

能力不足が著しく、配置転換や懲戒処分を行っても改善しない場合は、退職勧奨を検討しましょう。
退職勧奨とは、社員に退職するよう説得し、相手の同意をもらって、退職させることをいいます。
会社からの一方的な解雇ではなく、本人の合意のうえ退職してもらうため、トラブルを最小限に抑えることが可能です。

ただし、退職勧奨の進め方には注意する必要があります。
長時間・繰り返し行われる執拗な退職要求や、「辞めないなら懲戒解雇する」など脅迫的な言動を行うと、違法な退職強要として、損害賠償責任を追及されるおそれがあります。

あくまで退職勧奨は、社員が自発的に退職するよう説得する行為であることに留意しなければなりません。

能力・適格性の欠如を理由に辞めさせることはできる?

社員は、雇用契約に基づき、給与に見合った適正な労働を提供する義務を負っています。

そのため、能力や適格性に欠けている場合は、社員側に労働義務の債務不履行があるとして、解雇事由となり得ます。

ただし、会社がいつでも自由に解雇できるわけではなく、解雇は法律上厳しく制限されています。

解雇の方法を誤ると、不当解雇として損害賠償請求されるリスクもあるため、慎重に手続きを進めなければなりません。

以下で、解雇が有効と認められるための要件について見ていきましょう。

裁判所における解雇の有効要件

能力不足を理由に解雇を行う場合でも、「客観的に合理的な理由と社会的相当性」という解雇権濫用法理による制限を受けます(労契法16条)。

つまり、法律上解雇が認められる程度の能力不足とは、雇用関係が維持できないほど重大で、かつ改善の見込みがないものと考えられます。

裁判例上では、能力不足による解雇が有効と認められるためには、少なくとも以下の要件を満たすことが必要と判断されています。

  • 著しい成績不振

    単に他の社員より成績が低いというものではなく、利益の減少や、顧客との信頼関係の悪化など、会社に損害を与えるほどの成績不振を指す

  • 客観的に平等な評価

    経営陣や上司等の感覚による判断ではなく、客観的な数字や指標により評価されていること、評価制度や目標の設定に問題はないことなど

  • 適切な指導がなされた上で、改善の見込みがないこと

    再三の注意指導や研修、他部署への配置転換、降格など解雇回避の努力を重ねても、能力不足が解消されないこと

就業規則の解雇事由の規定

社員を解雇する場合は、普通解雇と懲戒解雇、2つの方法があります。
普通解雇は、就業規則の定めがなくとも、労働契約の債務不履行として解雇することが可能です。

ただし、社員の解雇に対する事前の予測可能性を高めるためにも、就業規則や雇用契約書には、能力不足が解雇事由となることを明示しておくことが望ましいでしょう。

一方、懲戒解雇を行うには、就業規則による定めが必須となります。就業規則に懲戒の種類と懲戒事由として「能力や適格性の欠如」を定めて、社員に周知しておかなければなりません。

なお、懲戒解雇はペナルティとして科すものであり、有効と認められるハードルも高いです。トラブルを最小限に抑えたいならば、普通解雇を検討するのが妥当でしょう。

能力不足を理由とした解雇の有効性が争われた裁判例

ここで、能力不足を理由とした解雇の有効性が争われた裁判例【大阪地方裁判所 平成22年10月29日判決 類設計室事件】についてご紹介します。

事件の概要

被告である学習塾は、小中学生を対象に英語、国語、社会を教える「文系講師」として、原告を採用しました。

しかしながら、原告には授業能力向上や改善の意欲が認められず、生徒アンケート評価が最低ラインから向上しなかったこと等を理由として、被告は原告を普通解雇しました。

この解雇を不服とし、原告が解雇無効を求めて被告を提訴した事案です。

裁判所の判断

裁判所は、以下の事情を考慮し、本件解雇は「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である」として、解雇を有効と判断しました。

  • 原告の生徒アンケートの評価は毎回ほぼ最下位であり、生徒や保護者からもクレームが多数寄せられていたこと
  • 被告は原告の評価を改善するため、授業技術研修や模擬授業を複数回行い、その後、授業から外し教材担当補佐に配属するなど教育指導を行ったにもかかわらず、原告の生徒アンケート評価は向上せず、クレームも多く寄せられる状況が続いていたこと
  • 一般的に生徒・保護者が進学塾を選ぶ要素として、有名校への進学率だけでなく、担当講師の評価も一要因となっていると考えられること
  • 原告は「講師としては問題があったとしても、教材担当としては問題がなかったから、雇用を継続すべきであった」旨主張するが、原告は文系講師として採用されているから、解雇権濫用にあたらないこと

ポイント・解説

本件では、学習塾側が能力不足の講師に対し、注意指導や研修、部署異動など労働能力の改善を試みたにもかかわらず、それでも一向に改善しないといった事情が考慮され、解雇が有効と判断されたものと考えられます。

また、裁判所は、原告社員が「文系講師」として採用されていることも、解雇が有効となる一要因として挙げています。
つまり、職種を限定した専門能力者を採用した場合において、期待を満たさない能力不足に対する解雇は、ジェネラリストとして採用された一般社員よりも認められやすいものと判断されます。

能力・適格性の欠如を理由に解雇する際の注意点

能力・適格性の欠如を理由に解雇する際の注意点として、以下が挙げられます。

  • 解雇をする際には30日前の解雇予告が必要
  • 裁判リスクに備えて証拠化しておく

解雇をするには30日前の解雇予告が必要

社員を解雇する場合は、30日前に解雇予告するか、予告しない場合は30日分の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません(労基法20条)。

予告の日数は、日数分の平均賃金(解雇予告手当)を支払えば、その日数分だけ予告期間を短縮することが可能です。

ただし、労働基準監督署長より解雇予告除外認定を得た場合は、解雇予告や予告手当なしに、直ちに解雇することができます。また、入社後14日以内の試用期間中の社員の解雇については、一般社員の解雇と異なり、解雇予告や予告手当の支払いは必要ありません。

なお、解雇予告は口頭でも有効ですが、後のトラブル防止のために、「解雇予告通知書」を社員に発行するのが望ましいでしょう。

裁判リスクに備えて証拠化しておく

能力不足を理由とする解雇は、社員とトラブルになるリスクが高く、裁判で不当解雇との判決を受けると多額の支払いを命じられるおそれがあります。

このような事態に備えて、会社側の主張を裁判所に認めてもらうため、以下の証拠を事前に収集しておきましょう。

  • 採用時に一定の能力が前提とされていた証拠

    求人広告、履歴書、職務経歴書、雇用契約書など

  • 能力・適格性の欠如を裏付ける証拠

    人事考課の資料、試験等の成績、ボーナスの査定書、能力不足が明らかとなる社員の作成した文書、本人がミスをした際の始末書・顛末書・反省文、顧客からのクレーム書、議事録など

  • 会社として注意指導や配置転換等の改善措置を行った証拠

    業務指導書、注意書、懲戒処分通知書、指導に関するメール、議事録、面談記録、研修の受講証、辞令、退職勧奨に関する報告書など

試用期間中であれば能力不足を理由に解雇はできる?

試用期間とは、社員の能力や適性を見極めるための雇用期間をいいます。

試用期間中の雇用契約は、解約権の留保された契約であり、試用期間中に能力不足と判断された場合は、この解約権を行使し、本採用へと移る際に本採用を拒否し、雇用契約を終わらせるものであると考えられています。

そのため、判例でも、本採用拒否は通常の解雇より広い範囲で認められるべきと判断されています(最高裁判所大法廷 昭和48年12月12日判決 三菱樹脂事件)。

ただし、試用期間中の社員を自由に解雇または本採用拒否できるわけではありません。

試用期間中でも、雇用契約が成立している以上、解雇するには「客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性」が求められます。
例えば、単に勤務成績が一般社員より低いことや、社風に合わないなど、漠然とした理由で解雇することはできません。

ただし、試用期間中ではない一般の従業員と比べて、解雇または本採用拒否が認められやすいという傾向はあります。

そのため、試用期間中に解雇または本採用拒否をする可能性があるのであれば、従業員の資質を見極めるために、十分な指導や注意改善を行い、定期的な面談をすることが望ましいと考えられます。

新卒採用と中途採用とでは、解雇の難しさが異なるか?

能力不足の従業員に対して解雇を検討する場合、新卒採用か中途採用かとでは、解雇の難しさが異なります。これは試用期間を設けていた場合も同様となります。
以下、見ていきましょう。

新卒採用の場合

新卒の場合、最初は仕事ができなくても当然であり、会社の指導や教育が必要不可欠です。

また、新卒者については、特定の業務を行わせることを前提に採用されていないため、能力が雇用契約上の約束とはなっていません。

キャリアを形成しながらスキルアップを図るものであるため、試用期間中だけでなく、試用期間終了後であっても、能力不足を理由に新卒者を解雇することは難しいといえます。

裁判例でも、新卒採用の社員を解雇する場合は、十分な指導や教育、配置転換、他の業務を担当させるなど改善の機会を与えたにもかかわらず、改善の見込みがないことや、会社経営や運営に重大な支障を与えたこと(またはそのおそれがある)などの事情が必要としています。

特に裁判例では、中途採用に比べ配置転換や業務の変更を要求されるケースが多いです。

中途採用の場合

中途採用といっても経緯は様々ですが、中途採用の場合、これまでの職歴や経験などに基づき、即戦力として、職種・役職を特定して採用するケースが多いです。例えば、新規事業を立ち上げるために、専門技術者や営業部長などを採用するケースが挙げられます。

このように、特定の技術があることを条件として採用された場合、社員が採用時に期待されたパフォーマンスを挙げられないのであれば、債務不履行の可能性があります。
このような場合、新卒者に必要とされるほど教育指導のプロセスを踏まなくても、試用期間中の解雇は認められやすい傾向にあります。

つまり、中途採用者の解雇の有効性の判断では、教育指導のプロセスよりも、採用時に業務や役職に必要な能力について具体的に説明したか、その要求能力からどの程度離れていたか、問題点を指摘して改善の機会を付与したかといった点が重視されると考えられます。

もっとも、経験不問(業界・職種未経験)として中途採用した場合は、始めは仕事ができなくても当たり前であり、会社側にも育成する努力が求められます。

マネジメント能力不足である管理職への対応

マネジメント能力不足を理由に管理者を解雇できるかについては、役職や地位を特定し、それに見合う給与が支払われることを条件として採用されたか否かがポイントとなります。

つまり、その管理職が、自分自身の役職を遂行する能力に不足し、雇用契約を結んだ当時に期待されていた能力と実際のパフォーマンスとに乖離がある場合には、解雇できる可能性があると考えられます。

これに対し、役職等の特定がなく採用した場合は、いきなり解雇すると無効となる可能性が高くなります。管理職研修の実施や、当該管理職でも対応できるレベルの管理職に降格させるなど、改善の機会を与えることが望ましいでしょう。

ただし、降格処分を行うにあたっても、いくつか注意すべき点があります。

問題社員対応に関するお悩みは、企業労務に強い弁護士法人ALGにご相談下さい。

例えば、無断欠勤を繰り返す社員であれば、「〇日休んだ」ということが客観的に明らかであるため、解雇の主張・立証がしやすいといえます。

他方、能力不足はそもそも何をもって能力が不足していると判断したのか、つまり評価が入るため、主張や立証が難しく、解雇の有効性が認められるのには一定のハードルがあります。

また、能力不足等の社員への対応には、注意指導、配置転換といった段階的なプロセスを踏む必要があり、その中では多くの判断に迫られます。
適切に対処したいのであれば、弁護士への相談をご検討ください。

弁護士法人ALGには、企業側の労働問題に対する豊富な経験と実績をもつ弁護士が多く在籍しております。
能力・適格性に欠ける社員へのベストな解決方法をご提案することが可能ですので、ぜひご相談ください。

この記事の監修

担当弁護士の写真

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員

保有資格
弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

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