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試用期間の社員に問題があるので辞めさせたい!解雇はできる?

    問題社員

    #試用期間

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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員

正社員として本採用する前に、数ヶ月の試用期間を設定している会社は多いでしょう。
試用期間は従業員としての適性を見極める「観察期間」です。実際に働いてもらうことで、能力不足や問題の発見に繋がることもあります。

では、試用期間で従業員を辞めさせたいと思ったとき、法的にはどのような対応が求められるかご存知でしょうか。
本稿では試用期間中における解雇や本採用拒否等について解説していきます。

試用期間中の社員に問題があったら解雇できる?

試用期間は、正社員としての本採用を決定する前段階として設定されます。
雇用契約は締結されていますが、解約権が留保されている状態ですので、本採用については保留の状態と考えるとよいでしょう。

では、試用期間中の従業員に問題があった場合、この解約権を発動させ、解雇することはできるでしょうか。
理論上は可能ですが、どんな場合でも会社が自由に解雇できるわけではないという点に注意が必要です。

試用期間であっても解雇は従業員にとって大きな不利益となりますので、一定の要件を満たす必要があります。
つまり、客観的にみて合理的な理由があり、社会通念上からしても解雇の判断が相当であると認められなければいけません。

また、解雇を言い渡すタイミングも、試用期間中なのか、試用期間終了後なのかによっても大きく変わります。

本採用の拒否は可能か?

本採用拒否は、試用期間中の従業員の勤務態度や能力をみた上で、正式な採用をしないと判断することです。
試用期間中も雇用契約は締結されていますので、この本採用拒否も解雇の一つといえます。

つまり、本採用拒否についても合理的な理由や、本採用を拒否することが社会通念上、妥当であると認められることが必要となりますので、判断は慎重に行いましょう。

ただし、本採用拒否はお試し期間の勤務内容を踏まえての結果です。正式に採用した後の通常の解雇と比べると、広い範囲で解雇事由が認められる傾向にあります。
決断しきれずに本採用してしまうと、後から会社の負担が大きくなる可能性もあります。試用期間中にしっかり見極めて本採用について決断した方がよいでしょう。

試用期間中でも解雇できるのか?

試用期間中に解雇するということは、あらかじめ設定した試用期間を満了せずに解雇に踏み切ることになります。
客観的・合理的理由の必要性や、社会通念上の相当性の有無については、本採用拒否や解雇と同じです。

しかし、試用期間中は「教育期間」でもあります。
教育期間中でありながら解雇に踏み切るということは、会社が教育を十分に行ったにもかかわらず改善する見通しが合理的に見て立たないということが必要でしょう。
一般的に、解雇のハードルは本採用拒否→試用期間中の解雇→通常の解雇の順に高くなるといわれます。

周囲の従業員への悪影響が大きく、一刻も早く解雇しないと他の従業員が退職してしまう等の緊急性の高い事案であれば決断は必要かもしれません。
緊急性を伴わないのであれば、試用期間中は教育による改善を目指し、試用期間満了をもって本採用拒否を行うべきでしょう。

なお、試用期間満了による本採用拒否をするのであれば、指導内容、改善内容を書面やメールなどでしっかり残すように心がけて下さい。

試用期間に解雇が認められる事由とは

試用期間の解雇が認められる事由にはどのようなものがあるでしょうか。
一般的には以下のような理由が多く挙げられます。

  • 成績不良・能力不足
  • 欠勤・遅刻・早退の繰り返し
  • 協調性がない
  • 指示や命令に従わない
  • 病気やケガで復職が難しい
  • 重大な経歴詐称

上記の例に当てはまれば、解雇が相当と認められるわけではありません。
このような行為の程度や回数、そのときの会社の指導状況も含めて妥当性が判断されることになります。

また、試用期間で解雇する理由は、①採用前には分からなかった事実が、②試用期間で判明し、③このまま雇用することは困難であることが必要です。
つまり、採用時の資料等でわかるような事実であれば、試用期間の解雇理由としては認められないでしょう。

能力不足を理由に解雇する場合

試用期間中の能力不足は解雇事由になるでしょうか。
実際には、能力不足だけを理由として解雇するのは簡単ではありません。
なぜなら、試用期間は「教育期間」だからです。新入社員に丁寧な指導を行うことは、会社の義務です。
単に能力不足といっても、本人の能力欠如なのか、会社の指導不足なのか判定することは困難でしょう。

そのため、解雇の有効性を争い、裁判に発展することもあります。
しっかり教育しても改善されないのであれば、そのつど指導書を作成し、どのような指導を行ったのか記録を残すようにしましょう。
客観的な資料があれば、解雇の合理性等の証明になります。

また、未経験者や新卒採用者の場合には能力不足の判断がさらに厳しくなる傾向があります。
通常、彼らは即戦力ではなく、より丁寧な指導が必要とされる対象だからです。
能力不足を理由として解雇する場合にはその経緯も含めて専門家へアドバイスを求めた方がよいでしょう。

試用期間中の解雇が不当とみなされた場合のリスク

解雇が不当と判断されれば、解雇自体が無効となります。
この場合、会社にはどのようなリスクが発生するでしょうか。
解雇が無効になれば、解雇の時に遡って雇用契約の継続が認められることになります。
つまり、従業員は在籍し続けていることになりますので、未払賃金を含めた損害賠償請求のリスクが発生します(バックペイ)。

また、不当解雇を行う会社だと世間から認識されれば、今後の採用面に大きな影響も出てくるでしょう。
労働問題が裁判に発展するような会社なのだと、社会的な信用低下に繋がるリスクもあるのです。
不当解雇は金銭的負担だけではないということを認識しておきましょう。

試用期間中の問題社員を解雇する際の注意点

試用期間中もしくは試用期間満了時に問題社員を解雇する場合、従業員から不当解雇と主張される可能性があります。

裁判にまで発展するリスクを踏まえ、下記で1つずつ対方法についてポイントを解説しています。

社内制度や運用がどうなっているのかも合わせて確認しましょう。

退職勧奨を検討する

試用期間満了による本採用拒否が、解雇よりも緩やかに認められるからといって、従業員に突然解雇を言い渡すのは得策ではありません。

裁判例上も、本採用拒否や試用期間での解雇が認められず紛争化する場合もありますので、解雇の前に、まずは退職勧奨を検討しましょう。

退職勧奨は、労使が話し合い、合意した上で行う雇用契約の解消です。
合意退職となりますので、紛争化するリスクはかなり軽減できます。
なお、退職勧奨は“退職強要”にならないように注意することは重要です。

試用期間の延長を検討する

まずは試用期間の延長を検討しましょう。
期間を延ばすことで、指導回数を重ね、従業員の改善機会を増やすことができるため、判断の合理性を高めることに繋がります。

ただし、試用期間の従業員の立場は不安定なので、試用期間延長は従業員にとっての不利益とされています。
そのため、試用期間の延長は基本的には認められていません。

例外として、就業規則や雇用契約書に試用期間延長の可能性等について規定されている場合に、延長が可能となります。

就業規則等に規定している場合

試用期間の延長を可能とするためには、原則として以下の2点が必要です。

  • 就業規則等に延長する可能性や延長理由、期間などが定められている
  • 試用期間延長を選択する合理的な理由がある

試用期間延長を理由も無く行った場合には無効と判断されてしまう可能性もあります。
延長の理由としては、適格性判断のためや勤務態度の改善確認等が多いでしょう。

また、延長する期間を不必要に長くしたり、延長回数をいたずらに増やすと、試用期間では無く、通常の就労期間と判断される可能性があります。

延長回数は1、2度まで、延長する期間は1~6ヶ月以内にしておくべきでしょう。

就業規則等に規定していない場合

就業規則等に定めがない場合は法的拘束力が無いので、原則として試用期間を延長することはできません。

ただし例外として、延長が必要なよほどの事情があり、従業員から個別の同意を得ていれば、延長が可能となります。
この場合の事情とは、本人の適格性に疑問があり、本採用の可否について勤務態度を観察する期間がさらに必要とされるケースなどです。

ただし、本人の同意があってもその同意が会社からの圧力によるもの等と判定されれば試用期間延長は無効となります。

今、就業規則に期間延長の定めがないのであれば、早急に整備しておくことをおすすめします。

改善のための指導・教育を行う

従業員に能力不足や勤務態度不良がみられた場合、本採用拒否を決めたからといって、その後の教育・指導を適当にするのはよくありません。
試用期間という教育期間を設けたにもかかわらず、指導教育が不十分なのであれば、会社の義務を尽くしていないと判断されてしまいます。

また、本採用拒否をするということは、紛争になる可能性があるということですので、教育・指導の内容を記録化しておく必要があります。
問題行動については口頭注意だけではなく、指導票を作成し、いつ誰がどのような指導を行ったのか明確にしておきます。

また、毎月面談を行い、面談記録を残しておくのも重要です。
記録を作ることは手間になるため敬遠されますが、日々の指導を客観的に証明できる書類があれば、裁判で証拠として活用することができるのです。

弁明の機会を与える

会社として雇用継続は難しいと判断していても、一方的に解雇を言い渡すと、従業員の心理的反発は大きくなります。

まずは、勤務態度の不良や、能力不足について注意し、従業員に弁明の機会を与えるようにしましょう。
解雇は従業員に大きな影響があります。自身の事情も踏まえて判断して欲しいと思うのは当然です。

事情を聞くことで、会社が把握していなかったパワハラ等、思わぬ問題が明らかになることもあります。
従業員の事情を聞く場を設けられれば、会社の一方的な判断による決定では無くなるので、円満な解決となるでしょう。

解雇予告手続きを行う

試用期間はお試しだから、解雇はいつでもできるというわけではありません。
試用期間開始から14日以上経過していれば、通常と同じく解雇予告手続きが必要となります。
解雇予告は原則として、解雇予定日の30日以上前に当事者へ伝えなければなりません。

ただし、解雇予告手当を支払えば、その日数分、解雇予定日を短縮することができます。
つまり、30日分の解雇予告手当を支払えば、即日解雇が可能になります。

しかし、これは単なる手続き上のルールであり、解雇の有効性とは別の問題であることに注意しましょう。
解雇予告手当を支払っていたとしても、合理的な理由のない解雇は無効となります。

試用期間中の解雇の有効性について争われた裁判例

従業員の業務遂行能力や適格性の判定は難しいものです。
試用期間中のミス等から、期間満了を待たずに解雇と判断せざるを得ないこともあるでしょう。
試用期間中の解雇についての裁判所の判断をご紹介します。

事件の概要

(平成20年(ワ)第14377号・平成21年10月15日・東京地裁第一審・医療法人財団健和会事件)

XはYが経営する病院の健康管理室で常勤事務職として採用されました。Xにはパソコンの実務経験がなかったため、3ヶ月の試用期間が設定され、1ヶ月毎に面談が行われることになりました。

1ヶ月面談でXは、教育係からミスの多さや学習意欲の低さ、報告の欠如等の指摘がされていました。
2ヶ月目の面談では、ミスの減少と報告についてはプラス評価されたものの、依然として学習意欲の低さや、ミスがなくならないとの指摘を受けています。
この面談後、Xは退職の意思を伝えていますが、Yはもうしばらく頑張って欲しいと伝えています。

その後、Xは労働組合へ退職強要を受けたと相談し、適応障害を発症したとして休職しました。
Yはこれらの経緯から試用期間満了を待たず、事務能力欠如を理由として解雇通知を発送しましたが、Xは不当解雇であるとしてYを訴えました。

裁判所の判断

裁判所は試用期間中の解雇について無効と判断しています。
Yの教育・指導内容については的確であり、時に厳しい指摘はされているものの、正確性を必要とする医療事務では、業務上の範囲内にとどまるもので、十分な指導であったと認定されています。

その上で、2度目の面談ではミスの回数が減るなど、Xの成長が垣間見られ、能力不足はあるものの改善傾向にあったとしました。

試用期間満了まで指導を行えば、XはYが必要とする業務水準に達する可能性があったにもかかわらず、復職を命じることも無く、期間満了前に採用を取り消すのは、解雇すべき時期の選択を誤ったといえると判示しています。

Xの業務遂行能力に不備はみられるものの、改善見込みがある状況で、試用期間中に解雇を選択する合理的な理由は認められず、社会通念上も相当であるとはいえないとして解雇無効となりました。

ポイント・解説

本事案では、Xにパソコンの実務経験が無かったことから、通常よりも長く試用期間を設定しています。

また、就業規則には職員として不適当と認められた場合には、試用期間中でも採用を取り消すことがあると規定されていました。
YはXに対し、根気強く指導を行い、定期的な面談で改善点を明確にするなど、会社として十分な指導改善教育の体制を敷いていたといえるでしょう。

しかし、それでも試用期間中に教育を諦め、解雇と結論づけるのは時期尚早と判断されました。
雇用継続を断念せざるを得ないとしても、試用期間満了までは従業員の改善を見込んで指導するようにしましょう。

本事案では、休職した従業員の状況を把握したうえで、復職命令を出し、それでも出社しない、もしくは復帰しても事務能力が水準に達しなかったという結論があってこそ、解雇という結論が相当であったとしています。

試用期間中の解雇は非常に難しいと認識しておくべきでしょう。

試用期間の解雇や延長でトラブルとならないためにも、弁護士に相談することをお勧めします。

試用期間だからといって、期間延長や解雇を軽々しく行うことは大きなリスクを伴います。
会社の不利益となることもありますので、慎重に判断しましょう。

不当な処分であると認められれば、処分は無効となり、会社側に大きな損害が発生する可能性があります。
不当解雇等とならないために、法律の専門家である弁護士へアドバイスを受けることをおすすめします。

弁護士法人ALGでは労働問題に詳しい弁護士が多数在籍していますので、御社の悩みに応じた柔軟な対応が可能です。 トラブルになる前にご相談頂く事で、日々の対応についてアドバイスし、紛争化を予防することができます。

事前相談があれば、万が一裁判となった場合にも、スムーズに対応できます。
少しでも気になることがあれば、まずはお気軽にご相談ください。

この記事の監修

担当弁護士の写真

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員

保有資格
弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

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