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経歴詐称を理由に辞めさせることはできる?懲戒解雇をする際のポイント

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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員

「採用した従業員が実は経歴を詐称していた」という事実が入社後に判明するケースは少なくありません。
企業としては、経歴詐称していたような問題社員はすぐにでも解雇したいと思われるところでしょう。

ただし、経歴詐称を理由に解雇するには、「重大な経歴詐称」といった一定の要件を満たす必要があります。

解雇の方法を誤ると、不当解雇として多額の金銭の支払いが命じられるなど、企業側が受けるダメージは大きいため、慎重に手続きを進めなければなりません。

そこで、このページでは、経歴詐称で懲戒解雇が認められるケースや、解雇する際の注意点などについて解説していきます。

そもそも経歴詐称とは何か?

経歴詐称とは、従業員が企業に対し、履歴書や採用面接などにおいて、虚偽の学歴や職歴、犯罪歴等を申し出ること、あるいは真実の経歴を隠すことをいいます。

経歴詐称の代表例として、以下が挙げられます。

  • 学歴

    最終学歴や学校名、卒業学部を偽る、留年や浪人を隠すため入学・卒業の年月などを偽るなど

  • 職歴

    過去の勤務先や業務内容、在籍期間、役職・マネジメント経験、雇用形態、転職回数、年収などを偽る、実際は未経験の業務について経験があると申告するなど

  • 免許・資格

    受験して不合格だったが合格したと履歴書に記載する、級やTOEICの点数等を実際より高く記載するなど

  • 犯罪歴

    面接で犯罪歴を尋ねられたが申告しない、履歴書の「賞罰欄」に犯罪歴を書かないなど

  • 病歴

    現在患っている病気や病歴について虚偽の申告をする、軽症であるように偽る、完治していないのに健康状態は良好と答えるなど

経歴詐称した人を雇用することのリスク

経歴詐称した者を雇い入れた場合に、企業側が受けるリスクとして以下が挙げられます。

  • 採用してもパフォーマンスが低い

    学歴や職歴、資格といった事項を詐称して入社すると、企業が要求する業務スキルや知識に欠け、採用時に期待した通りの成果をあげられないことが予想されます。

  • コンプライアンス上のリスクが高い

    経歴詐称して入社する者は、仕事においても問題を起こす可能性が高くなります。
    取引先や周りの社員に対し誠実な対応ができない、ルールに違反する、企業の信用・イメージを低下させるなどして、コンプライアンス上のリスクを高めるおそれがあります。

  • 社内の秩序を保持できなくなる

    経歴詐称の者を雇入れ続けると、他の社員の反発を招いて、トラブルへと発展し、職場の人間関係や雰囲気が悪化するおそれがあります。

経歴詐称したことを理由に辞めさせることはできる?

採用面接時に経歴詐称をしていることが分かっていれば、企業としても従業員を採用しなかったものと考えられます。しかしながら、一度採用を決めて契約を結んだ以上、また解雇権濫用法理の観点からも、過去の判例からは安易に解雇することはできないものと考えられます。

特に懲戒解雇は従業員に制裁として科す処分であるため、その有効性は厳格に判断されます。

経歴詐称により懲戒解雇できる場合とは、「就業規則に懲戒事由の規定があること」を前提とした上で、その経歴詐称が「重大な経歴詐称」にあたるケースに限定されると解されており、たとえ経歴詐称があったとしても「重大な経歴詐称」にあたらなければ懲戒解雇が無効とされる危険があります。

以下で各要件について見ていきましょう。

就業規則に懲戒事由の規定があることが前提

経歴詐称を理由に、懲戒解雇を含む懲戒処分を行うには、就業規則に懲戒の種類と懲戒事由として「経歴詐称」を定めて、従業員に周知しておかなければなりません。

そもそも、懲戒処分は就業規則の相対的必要記載事項であり、懲戒をするには定めることが必須となっています。
そのため、就業規則に「雇用契約時に学歴や職歴など重大な経歴を偽り、企業の判断を誤らせた者は、懲戒処分に処する」といった規定を設ける必要があります。

たとえ就業規則の作成義務のない10人以下の企業であっても、就業規則なしに懲戒処分を行うことはできないため注意が必要です。

「重大な経歴詐称」でなければ解雇は認められない

学歴や職歴などの経歴詐称は、労働者の評価や適正配置を誤らせ、雇用契約のベースとなる信頼関係を損なう行為であるため、懲戒処分の対象となり得ます。多くの企業において、懲戒処分の中でも、懲戒解雇事由として定められることが一般的です。

ただし、すべての経歴詐称を懲戒解雇事由にできるわけでなく、裁判例上、「重大な経歴詐称」でなければ、懲戒解雇は認められないと解されています。

重大な経歴詐称とは、分かりやすくいうと、「その経歴詐称が雇用契約前に分かっていたら、企業が従業員を採用することはなかった、又は同一の労働条件での契約には至らなかったと認められ、かつ他社であっても同じ判断をしたといえる場合」を指します。

一般的に重大な経歴詐称として、学歴や職歴、犯罪歴等の詐称が考えられますが、これが懲戒解雇事由に当たるかどうかは、詐称内容・程度や業務内容、企業による採用目的、入社後の状況等を考慮し、個別具体的に判断されます。

不当解雇による訴訟リスク

経歴詐称を理由に解雇された場合、元従業員が解雇を不服として訴訟を起こすおそれがあります。

仮に裁判所より不当解雇として無効と判断された場合は、企業と従業員との雇用契約は現在も続いていることになります。

そのため、従業員を復職させた上で、解雇日から解雇無効と判断された日までに発生した賃金(バックペイ)を支払う義務を負います。

また、悪質な場合は、慰謝料の支払いが命じられることもあります。実際にも、従業員が経歴詐称していたにもかかわらず、会社に1000万円を超える支払い命令が出された裁判例が複数あります。

解雇は方法を誤るとリスクを伴うため、解雇に踏み切る前に、まずは従業員に退職勧奨を行い、退職届を提出してもらい、依願退職扱いとすることを検討すべきでしょう。

退職勧奨とは、企業が従業員に対し「辞めてほしい」と伝えて、退職を勧めることです。退職勧奨のメリットは、円満に従業員を辞めさせられ得る点にありますが、退職には従業員の同意が必要です。

従業員がどうしても退職に応じない場合は、リスクを覚悟で普通解雇や懲戒解雇に踏み切るべきといえます。

「重大な経歴詐称」として懲戒解雇が有効になるケースとは?

「重大な経歴詐称」としては、一般的には「学歴」「職歴」「犯罪歴」の3つが該当します。

ただし、これらの点について詐称があれば必ず懲戒解雇が認められるというわけではなく、詐称の内容や程度、従業員の業務との関連性、詐称による業務への支障などの事情も合わせて、個別に判断されます。

以下で、経歴詐称の種類ごとに具体的に検討してみましょう。

学歴の詐称

学歴詐称として、高卒なのに大卒と偽るといったケースが挙げられます。
企業では学歴を判断材料として従業員を採用し、賃金や業務内容等を決めることが多いです。

そのため、学歴が採用条件となっていた場合は、詐称が企業の円滑な運営を妨害することになるため、重大な経歴詐称として、懲戒解雇の対象となり得ます。
学歴を高く偽るだけでなく、大卒を高卒と申告するなど低く偽る場合も同様です。

裁判例では、高校中退を高卒と偽り、自動車教習所の指導員として採用した従業員を、就業規則「履歴書の記載事項を詐って採用されたことが判明したとき」に該当するとして懲戒解雇した事案につき、懲戒解雇は有効と判断しています(浦和地方裁判所 平成6年11月10日判決)。

他方、短大卒を高卒と偽り入社した工場従業員を懲戒解雇した事案につき、作業の特質や従業員の定着性等の考慮から、高卒以下に限定採用したものであるため、懲戒解雇を有効と判断した裁判例があります(東京地方裁判所 昭和55年2月15日判決)。

ただし、応募条件を学歴不問とするなど、学歴を採用基準としていなかった場合は、懲戒解雇が認められない場合があります。

裁判例でも、大学中退を高卒と偽り入社した従業員を懲戒解雇した事案につき、面接時に企業側から学歴の質問をすることなく、実際の業務も支障なく行われていたため、懲戒解雇は無効と判示しています(福岡高等裁判所 昭和55年1月17日判決)。

職歴の詐称

職歴は企業が従業員の採否を決める際の決定的な動機となるだけでなく、入社後のパフォーマンスや賃金等に影響を与える可能性が高いものです。

そのため、即戦力性や高度スキルを期待して採用した場合や、職歴があるために高額な給与等の支払いや重要ポストを与えているといった事情がある場合には、重大な職歴詐称として、懲戒解雇の対象となり得ます。

裁判例でも、ソフトウェア開発会社において、職務に必須のJAVAプログラミング能力がなかったにもかかわらず、その能力があると思わせる虚偽の職歴を記載し、面接でも同様の説明をした従業員を懲戒解雇した事案につき、懲戒解雇を有効と判断しています(東京地方裁判所 平成16年12月17日判決)。

ただし、職歴が労働力の評価に影響を与えない場合は、懲戒解雇が認められない可能性があります。

裁判例では、採用直前の3ヶ月間風俗店で働いていたことを職歴に書かなかった事案で、勤務期間が短いこと、有期契約のアルバイト社員である等の理由から、軽微な経歴詐称として、懲戒解雇は重すぎるため無効と判示しています(岐阜地方裁判所 平成25年2月14日判決)。

犯罪歴の詐称

犯罪歴の詐称として、面接で犯罪歴を尋ねられたが申告しなかった場合や、履歴書の賞罰欄に犯罪歴を書かなかった場合が挙げられます。

一般的には、犯罪歴が申告されていれば、その従業員を採用しなかったと認められる重大な経歴詐称に限り、懲戒解雇が有効になり得ると解されています。

例えば、銀行や経理部門において、窃盗歴のある者を採用した場合は、他の従業員の業務遂行や対外的信用に悪影響を与えることは確かであるため、重大な経歴詐称となる可能性が高くなります。

他方、過去に飲酒運転で事故を起こした者を料理人として採用した場合は、通常仕事中に飲酒することはないため、問題はないものと考えられます。

つまり、懲戒解雇にあたっては、過去に起こした犯罪が実際の業務や企業秩序にどの程度影響するのか検討する必要があります。

なお、履歴書の「賞罰欄」に書くべき犯罪歴は、確定した有罪判決に限られます。

不起訴や裁判中、刑の言渡しの効力が消滅したもの(執行猶予期間の経過、禁錮以上の刑執行終了後10年経過など)等については、基本的に申告義務はありません。

裁判例でも、強盗歴を賞罰欄に書かずに採用したタクシー運転手を解雇した事案につき、刑の言渡しの効力が消滅した前科であり、賞罰欄に申告義務がないため、解雇は無効と判断しています(仙台地方裁判所 昭和60年9月19日判決)。

経歴詐称で懲戒解雇する場合の対応方法とポイント

経歴詐称で懲戒解雇する場合に踏むべき手順は、以下のとおりです。

  • 事実関係の調査
  • 弁明の機会の付与
  • 懲戒処分の決定
  • 解雇通知書の交付

以下でそれぞれ詳しく見ていきましょう。

①事実関係の調査

懲戒解雇を行うには、まず事実関係を正確に把握することが必要です。

従業員本人や関係者(上司や同僚など)からヒアリングを行い、客観的な資料を収集した上で、経歴詐称があるのか否か、事実認定を行います。

後に従業員が不当な懲戒解雇として裁判を起こすことも想定されるため、経歴詐称を立証できるだけの十分な証拠をあらかじめ確保しておくことが重要です。

学歴詐称の疑いがある場合は卒業証明書、職歴詐称の疑いがある場合は日本年金機構の年金記録等を本人から提出してもらい、詐称がないかチェックするといった方法があります。

②弁明の機会の付与

事実関係を調査した結果、経歴詐称が判明した場合は、本人に認定した事実を伝えた上で、弁明の機会を与えることが必要です。
弁明の機会を与えるとは、従業員本人の言い分や反論を聴く機会を与えることをいいます。

また、企業としてどのような経歴詐称につき懲戒を予定しているのかを記載した「弁明通知書」を従業員本人に交付した上で、本人から「弁明書」を提出してもらうといった方法も有効でしょう。

弁明をさせずに懲戒解雇すると、手続き不備として裁判所により無効と判断される可能性が高くなるためご注意ください。

③懲戒処分の決定

調査により認定された経歴詐称の事実と、本人による弁明内容を検討したうえで、経歴詐称が就業規則に記載された懲戒解雇事由に該当するか検討します。
該当すると判断された場合は、懲戒処分を行うか否か、処分を行うとしてどのような懲戒処分が適切か決定します。

懲戒処分の種類として、軽いものから順に、戒告→譴責→訓戒→減給→出勤停止→降格→解雇が挙げられます。経歴詐称の程度に対して重過ぎる処分は無効となる場合があるため注意が必要です。

懲戒処分を決定する際は、以下のような点を考慮して総合的に判断します。

  • 詐称した経歴の重要性
  • 詐称した動機に酌量の余地があるか
  • 経歴詐称により生じた業務上の支障の程度
  • 本人の職務上の地位から重い処分を選択する必要があるか
  • 入社後の勤務態度や反省の有無
  • 過去に企業が行った懲戒処分との均衡など

懲戒解雇の方法についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

さらに詳しく

④解雇通知書の交付

懲戒解雇は、その意思表示が従業員に到達した時から効力が発生するものです。

そのため、使用者は経歴詐称を行った従業員に対し、懲戒解雇通知書を発行し、懲戒解雇することを通知しなければなりません。
また、本人の署名・受領印を得ておくことも必要です。

なお、従業員に直接、懲戒解雇することを伝えられないような場合は、懲戒解雇通知書を本人宛に内容証明郵便等で送付し、確かに交付したことが証拠として残るようにしておきましょう。

経歴詐称による懲戒解雇でも解雇予告は必要か?

経歴詐称を理由に懲戒解雇する場合であっても、基本的には、30日前までに解雇予告を行うか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。

ただし、労働基準監督署長より解雇予告の除外認定を受けた場合は、解雇予告や予告手当を支払うことなく即時解雇することが可能です。
とはいえ、申請手続にかかる労力や時間の関係上、実務上は解雇予告手当を支払って解雇する企業が多い傾向にあります。

なお、試用期間中の従業員については、入社日から14日以内であれば、解雇予告・解雇予告手当は不要とされています。

採用段階で経歴詐称を見抜く方法

採用時に経歴詐称を見抜く方法として、応募者に経歴を保証する資料の提出を求めることが挙げられます。

学歴・資格については、卒業証明書や資格証明書等、職歴については、退職証明書や雇用保険被保険者証、源泉徴収票等を提出してもらえば、詐称を見抜けます。

また、面接時に職歴に基づく具体的な活動について質問し、応募者の言動を観察することも有効です。
答えられない、言葉を濁すといったことがあれば、経歴詐称の可能性が高くなります。

ただし、犯罪歴や病歴については注意が必要です。
個人情報保護法は、企業が犯罪歴や病歴といった要配慮個人情報を得る場合は、本人の同意が必要としています。
そのため、応募者はこれらに関する質問を拒否することも可能です。

対策として、履歴書の記載事項に犯罪歴や病歴を含め、応募者がそれらを書かずに履歴書を出した場合は、面接時に尋ねます。
それでも回答しない場合は、これらの事情を考慮し、採用の可否を決めるべきでしょう。

最後にもう一度退職勧奨を検討しましょう

従業員が経歴詐称をしていた場合、会社から当該従業員への信用は失墜しており、また騙されたという気持ちもあり、すぐにでも辞めさせたいと思うでしょう。

ただ、安易に懲戒解雇をしてしまうと、これまで解説してきた通り会社もリスクを負ってしまう危険があります。
懲戒解雇通知書を示すまでは、退職勧奨による自主退職を求めることは可能です。

会社が懲戒解雇に踏み切る覚悟をして手続きを進めた場合でも、懲戒解雇通知書を示す際に最後の段階でも退職勧奨による自主退職を促す選択肢は持っておきましょう。

従業員の経歴詐称への対応でお困りなら、人事労務を得意とする弁護士にご相談下さい

経歴詐称があるからといって簡単に解雇できるわけではありません。
従業員の経歴詐称への対応でお困りの場合は、弁護士にご相談下さい。

弁護士であれば、どのような手続きを踏めば、経歴詐称による解雇が有効と認められるか、また、解雇無効としてトラブルへと発展した場合に、どのような対策を講じるべきか等についてご提案できるため、解雇に伴う企業側のリスクを最小限に抑えることができます。

また、退職勧奨についても弁護士が代理人として行うことは可能です。

弁護士法人ALGには、企業側の人事・労務に精通した弁護士が多く在籍しています。
法的・経験的知識を活用した、問題社員への対応サポートが可能ですので、ぜひご相談ください。

この記事の監修

担当弁護士の写真

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員

保有資格
弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

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