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メンタルヘルス不調社員の対応ポイント|会社を辞めさせることはできる?

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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員

近年、注目されているメンタルヘルス問題。これは個人の問題だけでなく、会社にとっても大きな課題です。

メンタルヘルス不調で業務に支障がでている従業員に、会社はどのように対応するべきでしょうか。
辞めてもらうとするならば、その判断はいつ、どのようにすべきでしょうか。

本稿では、メンタルヘルス問題が生じた従業員への対応方法や、法律の定め等について解説していきます。

メンタルヘルス不調社員への対応は会社の義務

メンタルヘルス不調とは、心の健康が損なわれている状態を指します。
うつ病などの精神疾患に該当するものだけがメンタルヘルス不調ではありません。

病名がつかなくても、気落ちしやすい、集中力が無くなる、仕事のパフォーマンスが低下するなどもメンタルヘルス不調の症状に含まれます。

このようなメンタルヘルス不調者に対し、会社は適切に対応する必要があります。

これは労働契約法5条に定められた安全配慮義務が根拠となっています。
メンタルヘルス不調者の早期発見と適切な配慮は会社の義務なのです。

労働安全衛生法改正によるメンタルヘルス対策の強化

労働者が職場から受けるストレスは高い割合で推移し、精神障害を原因とする労災給付の件数は年々増加しています。
このような情勢から、メンタルヘルス対策を目的とした労働安全衛生法の改定が行われています。
具体的には、以下のような内容となっています。

  • 50人以上の事業場でのストレスチェックの実施義務
  • 高ストレス者への医師による面接指導
  • 長時間労働者への医師による面接指導
  • 客観的な方法による労働時間の把握

メンタルヘルス不調は、長時間労働やハラスメント等の対人関係、急激な環境変化が要因となって引き起こされるケースが多々あります。上記内容に関する社内運用の状況確認をしましょう。

会社がメンタルヘルス対応を怠った場合のリスク

会社がメンタルヘルス対応を怠たり従業員にメンタル不調による損害が生じた場合、安全配慮義務違反とされ、不法行為や使用者責任等に該当し得ます。

この場合、従業員から損害賠償請求される可能性がでてくるでしょう。
安全配慮義務違反であると判断される基準は以下の点がポイントとなります。

  • 従業員のメンタルヘルス不調を会社が予測できたか
  • 従業員のメンタルヘルス不調を回避できたか

従業員のメンタルヘルス不調の原因がなんであれ、早期に対応するようにしましょう。
メンタルヘルス不調の兆しがあれば、まずは声かけから始めてもよいでしょう。
見過ごすことなく早急に対応することで改善の可能性が高まります。

メンタルヘルス不調社員への対応ポイント

メンタルヘルス不調の社員に対し、会社はどのような対応をとるのが適切でしょうか。
以下で、ポイントを解説していきます。

メンタルヘルスの「4つのケア」を実施する

メンタルヘルス対策を効果的に進める方法として、厚生労働省のガイドラインでは4つのケアが提唱されています。
メンタルヘルス対策は、身体的問題とは違い、外部からは発見しにくいケースが多くなっています。
そのため、日々接することの多い管理職の気づきが早期発見に繋がります。

しかし、管理職にメンタルヘルスに関する専門知識があるわけではありません。
専門的なケアは専門家へ引き継ぐことが大切となりますので、産業医などの面談を設定しましょう。

メンタルヘルス不調は本人・管理職・労務スタッフ・産業医等がチームを組み連携して取り組んでいくことが重要です。
産業医の選任義務は50人以上の事業場とされていますが、小規模事業所であってもメンタルヘルス対策のために産業医と連携体制を整えておくと安心です。

セルフケア 対象者自身が自分で行うケア。自らのストレスを発見し、予防する対処法。
ラインによるケア 管理職が行うケア。職場環境の改善や、部下の相談対応、声かけ等によりメンタルヘルス不調を早期発見する。
事業場内産業保健スタッフ等によるケア 産業医や保健師、社内の人事労務スタッフが主。管理職を含む従業員全体の支援を行い、メンタルヘルス対策の立案や実行を行う。
事業場外資源によるケア 社外の専門サービスを活用し、社内のメンタルヘルス対策の充実をはかる。
メンタルヘルス不調者への復職支援等、具体的な取組を含めた様々なサービスがある。

メンタルヘルス不調の社員を休職させる

メンタルヘルス不調の可能性があれば、放置せず医師の診察を受けるよう促しましょう。
診察の結果、休職が必要であれば、医師による診断書の提出を求めます。

休職命令が従業員にとって不服であれば、後々トラブルになる可能性もありますので、休職命令の根拠は明確にしておくべきです。

また、休職制度の内容が曖昧な場合も問題です。
制度の詳細については就業規則に定め、労働契約としてルール化しておきましょう。

就業規則に定めがないのであれば、弁護士へご相談ください。

従業員が診断書の提出や医師の受診を拒んだ場合

会社が従業員の、メンタルヘルス不調に気付いたにもかかわらず、従業員側が病院へ行くことや医師の診察を受けることを拒否する場合があります。
これは従業員が診断名が付くことによって、自身が不利益な取り扱いを受けてしまうのではないかといった不安や自身が病気であることと向き合えないことから来ている可能性があります。

このように、診断書の提出や医師の受診を拒んだ場合でも粘り強く話し合いの場を持つべきです。また、同時に会社が当該従業員の健康状況について配慮し指示したことなどを記録に残すようにしましょう。

なお、会社が従業員に病院を受診するように命令できるかという点が問題になることがあります。
会社は従業員の健康に配慮する義務があるため、就業規則に記載なくとも、受診命令をできるという考え方もありますが、紛争防止の観点からは、就業規則の中に、受診命令ができる旨記載しておく方が良いでしょう。

休職中の社員への対応

休職期間中の従業員の待遇についてはできるだけ就業規則で明確にしておくことをおすすめします。
最低限、賃金については必ず規定しておきましょう。
社会保険などの福利厚生は、休職していても在籍しているので原則として資格継続となります。

休職中の従業員は、しっかりと休んで心の健康を取り戻すことが最重要課題です。
休職期間満了間近や延長の必要性判断などで連絡をとる場面もありますが、必要以上の頻度で行う連絡はプレッシャーになり得ます。
従業員の負担が大きくならないよう、連絡についてはメールやオンラインツールを活用するなど工夫した方がよいでしょう。

休職に入る前に従業員に希望の連絡手段を確認しておくことも効果的です。
休職中の従業員への対応については弁護士や産業医へ相談しても良いでしょう。

復職可否の判断基準

従業員が復職を希望した場合、会社は本人の希望だけをもって判断してはいけません。復職のタイミングが適切でなかった場合、症状の再発や悪化などで、再び休職が必要になってしまうおそれがあります。

復職時に主治医の診断書を求める会社は多いですが、書類提出だけでなく、主治医と面談することが望ましいでしょう。
主治医は日常生活の状況を踏まえて診断書を作成しますが、従業員の具体的な業務内容を含めて復職判断をしているのではありません。

いつから勤務可能なのか、勤務時間の長さや業務内容の適切性などは会社から確認することが大切です。
連携できる産業医がいるのであれば、産業医との面談を設定して意見をもらうのもよいでしょう。

職場復帰を支援する「リハビリ出勤制度」とは

リハビリ出勤制度とは、本格的な職場復帰の前に、復帰を希望するメンタル不調者に対して行う模擬出勤等を指します。
リハビリ出勤制度は、休職していた従業員の職場復帰に対する不安を緩和でき、早期復帰に繋がるとされています。

また、元の業務が可能かを従業員本人に確認できるメリットもあります。
リハビリ出勤の状況を観察することで、時短勤務や業務の調整など具体的に対策を進めることができるでしょう。

ただし、リハビリ出勤制度は法律上の義務ではありません。
早期復帰を進めるために、従業員へリハビリ出勤を強要することのないようにしましょう。

メンタルヘルス不調を理由に辞めさせることはできるか?

解雇が法的に認められるのは、客観的に合理的な理由がある場合に限定されます。
メンタルヘルス不調だからという理由だけで安易に解雇すると、後から不当解雇と主張されトラブルに発展するおそれがあります。
不調による欠勤が長期に及び、業務に耐えられないと客観的に認められる場合には解雇できる場合があります。

ただ、最初から解雇を言い渡すのではなく、退職勧奨で合意退職を目指すべきでしょう。
退職勧奨は話し合いですので、メンタルヘルス不調であっても行うことは可能です。

しかし、メンタルヘルス不調時は、退職勧奨で受ける精神的負荷が通常よりも重くなることも想定されます。

このような状態の従業員に退職勧奨を行う場合には、あくまで話し合いであり、拒否も可能であることを丁寧に伝えるなど、細心の注意を払う必要があります。

メンタルヘルス不調の従業員に対する退職勧奨や解雇請求は、非常に繊細な配慮が必要となりますので、弁護士に相談してから行うのをお勧めします。

休職期間満了となっても職場復帰できない場合

メンタルヘルス不調で従業員が休職した場合、会社として一番悩むのが、復職の可否・タイミングと休職期間満了による解雇や退職させることの可否でしょう。

最も重要なのが、休職の原因となったメンタルヘルスが私傷病なのか、業務上の疾病なのかという点です。
ハラスメント等の業務上の理由でメンタルヘルス不調をきたした場合は、退職・解雇は無効と判断されてしまいます。

私傷病の場合、休職期間が終わっても、従業員の状態が回復せず職場復帰が不可能なのであれば、自然退職もしくは解雇とすることが多いでしょう。
休業期間満了により「自然退職」とするには、就業規則でその旨明記しておく必要があります。
自然退職として規定されているのであれば、従業員の自己都合退職として対応することが一般的です。

また、職場復帰できない場合には解雇するとして定めている就業規則もあります。
解雇する場合には、解雇予定日から30日以前に予告通知を行うことが必要です。

解雇予告手当を支払うことで、この期間を短縮することもできます。
休職期間満了時にどのような対応をすればよいか疑問があれば弁護士へご相談ください。

メンタルヘルスを理由とした解雇に関する裁判例

メンタルヘルス不調は、プライバシーの観点から従業員が職場への報告をためらうケースもあります。

では、従業員から報告がなかった場合、会社には安全配慮義務等の責任は発生しないのでしょうか。
メンタルヘルス不調傾向の従業員に対する会社の対応姿勢について判示した裁判例をご紹介します。

事件の概要

(平成23年(受)第1259号・平成26年3月24日・最高裁・上告審・東芝事件)

電気機械器具製造業Yで技術者として勤務していたXは、プロジェクトリーダーに任命されたあと、不眠症等を発症しました。
当時Xが担当していた業務は新規技術を駆使した大きなプロジェクトであり、心理的負荷は非常に大きいものでした。

納期の短縮や人手不足などを上司に訴えましたが、具体的な解決策は得られず、Xの業務は増える一方となっていました。
Xは業務軽減をYに申し出ましたが、Yは対応せず、産業医からも特段の就労制限の指示がないまま、長時間労働が継続しました。

その後、Xは体調を悪化させ、3年間休職することになりましたが、休職が満了しても体調は戻りませんでした。
Yは休職満了であるとして、Xに解雇通知を行いましたが、Xは、発症したうつ病は業務が原因であり、解雇は無効であるとしてYを訴えました。

裁判所の判断

裁判所は、YがXに対する業務軽減等の適切な対応を怠ったとして、安全配慮義務違反を認定しました。

その上で、東京高裁では、Xが通院の事実や病名をYに報告していなかったため、Xにも非があると判断し、過失相殺による損害賠償額の減額を行いました。
これに対し最高裁は、病名等の報告がなくとも、当時のXの体調悪化に気づくことは十分可能であったと判断しました。

最高裁は、たとえ労働者から病名等の申告が得られなかったとしても、会社の安全配慮義務として、体調の悪化等の変化がみられた場合には、業務軽減等の配慮をすべきとしています。
XがYに病名等の報告をしなかったことを理由とした過失相殺は棄却されることになりました。

ポイント・解説

精神科への通院やその診断名、薬剤の処方等、精神的健康(メンタルヘルス)に関する情報は、人事考課等への影響を懸念し、労働者が職場に報告しないことが想定されます。

これらの情報は従業員からの積極的な申告が期待できないことを前提として、会社は従業員の安全配慮を行わなければならないと、本事案で示唆されました。

つまり、従業員に過重な労働や、急激な職場環境変化等があるのであれば、その従業員の様子には一定程度の関心を払っておくべきでしょう。

そして、体調の変化(悪化)が見られる場合には、申告がなくとも、必要に応じて業務軽減を行うなど、心身の健康へ配慮した対処が求められます。

メンタルヘルス不調の早期発見を社内に浸透させ、適切に対応できる仕組み作りが今後ますます重要となってくるでしょう。

メンタルヘルス不調の社員を早期発見するには?

メンタルヘルス不調は早期に対処できれば、業務量の調整や、短期間の休職等で解消することも可能です。

しかし、不調のサインを見逃し、長期の休職が必要になるまで悪化してしまうと、その後の復職も危うくなるおそれがあります。

以下に挙げるメンタルヘルス不調の兆候を参考に、該当者がいないか確認してみましょう。

【メンタルヘルス不調の兆候の例】

  • 顔色が悪い
  • 寝不足の様子がある
  • 遅刻、欠勤、早退が増える
  • 感情の起伏が激しい
  • 仕事のミスが増える など

ストレスチェックの実施

ストレスチェック制度は、従業員に対する定期的なストレス検査をいいます。
平成27年12月から50人以上の事業所で実施が義務づけられました。
検査結果は従業員本人に通知されるので、自身のストレスについての気づきを促す効果があります。

また、検査結果を集団分析することで、職場環境改善の目安になるなど、メンタルヘルス不調を未然に防止することが可能になります。
50人未満の事業所については努力義務となっていますが、メンタルヘルス不調者が過去にいたのであれば、定期的な実施を検討してもよいでしょう。

メンタルヘルス研修

メンタルヘルス不調=精神疾患という認識はまだまだ多いことでしょう。
従業員にメンタルヘルス研修を行うことで、心の健康問題を正しく理解することができ、自分自身のストレスや変化に気づけるようになります。

また、管理職にたいして4つのケアを含めた研修を行えば、自身の役割を把握し、部下の様子やサインに気づくきっかけとなります。
心身を健康に保てる職場環境作りができれば、仕事の生産性やモチベーションの向上にも繋がります。

また、精神的に安定しやすい環境下では、定着率の向上が見込まれますので、離職率改善も期待できるでしょう。

社員のメンタルヘルス対応でお困りの際は、弁護士に相談することをおすすめします。

会社に安全配慮義務がある以上、メンタルヘルス対策は必須の課題です。
予防はもちろん、メンタルヘルス不調の従業員がいれば適切に対応しなければなりません。

業務の軽減や休職制度を活用しても復職が難しいケースもあるでしょう。
事案によっては解雇を検討する場合もあると思いますが、不当解雇とならないよう注意が必要です。

メンタルヘルス対応には様々なトラブルに発展する可能性が秘められています。
社内だけでなく社外の第三者の目を入れることもトラブル防止に効果的です。

労務問題に精通した弁護士であれば、予防から発生後の対応まで幅広く対応することができます。
従業員のメンタルヘルス対応でお悩みがあれば、ぜひ弁護士法人ALGへご相談ください。

この記事の監修

担当弁護士の写真

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員

保有資格
弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

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