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新入社員の履歴書で嘘が発覚した場合の対応|解雇することはできるか?

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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員

履歴書や職務経歴書は、多くの応募者の中から内定者を選ぶときに重要な判断基準となるものです。

しかし、採用時に「自分をより優秀に見せたい」「高い給与をもらいたい」といった理由から、経歴詐称をしてしまっているケースもあり得ます。

新入社員の履歴書の内容が嘘だった場合、想定した働きぶりを発揮しないなど、会社が受ける損失は大きいため、今すぐ解雇したいと思われることでしょう。

ただし、経歴詐称を理由に解雇するには、「重大な経歴詐称である」ことが必要など、法的に厳しい要件が求められます。

このページでは、新入社員の履歴書に嘘が発覚したら解雇はできるのか、解雇が認められるケースなどについて解説していきます。

新入社員の履歴書で嘘が発覚した場合の対応

新入社員の履歴書に嘘の記載があった場合の対応策として、以下が挙げられます。

  • 事実関係を調査する
  • 弁明の機会を与える
  • 懲戒処分を検討する

以下でそれぞれ詳しく見ていきましょう。

①事実関係を調査する

新入社員の経歴詐称が疑われる場合は、まず事実関係を調査することが必要です。

経歴詐称を理由に解雇すると、後から不当解雇として訴訟を起こされるリスクがあるため、経歴詐称を立証できるだけの十分な証拠を事前に収集しておくことが重要です。

本人より以下の書類を提出してもらい、詐称の有無を確認することが適切です。

  • 学歴・資格詐称の疑いがある:卒業証明書、資格証明書、合格証明書など
  • 職歴詐称の疑いがある:雇用保険被保険者証、年金の加入記録、退職証明書、源泉徴収票など

上記の書類と、採用時に提出された履歴書や職務経歴書、面談記録などの書類とを照合し、内容が一致しているかチェックします。
また、詐称の内容が採用や賃金等の労働条件にどの程度影響したのか、採用後の勤務態度や人事評価なども確認しておくと良いでしょう。

②弁明の機会を与える

事実関係の調査の結果、経歴詐称が発覚した場合は、本人から事情を聴取した上で、弁明の機会を与えることが必要です。

本人の言い分を聴くことで、誤った処分や過剰な処分を防止することが可能であるからです。
例えば、故意による経歴詐称なのか、単なる書き間違え・言い間違えなのかによって、処分は大きく変わってきます。

弁明の方法には、社員を直接呼び出す「面談」と、弁明内容を記載した書面を提出させる「書面」と2つあります。
いずれの方法をとるかはケースバイケースですが、これまでの社員の言動から激しい口論となることが予想される場合は、書面による弁明が望ましいでしょう。

また、弁明の機会として面談を行った際は、議事録などを作成し、面談内容を記録化しておくことも必要です。

③懲戒処分を検討する

事実関係の調査により収集した証拠資料や、本人による弁明の内容に基づき、懲戒処分を決定します。

新入社員による経歴詐称が就業規則に定めた懲戒事由に該当するのか、また、該当するとして、どのような処分が相当であるかを、証拠に基づき客観的に判断することが重要です。

懲戒処分の例として、低い処分から順に、訓告、譴責、減給、出勤停止、懲戒解雇などが挙げられます。
懲戒処分を決める際は、以下の点を考慮して総合的に判断することが通常です。

  • 詐称した経歴の重要性
  • 経歴詐称により被った企業の損害の大きさ
  • 企業秩序に及ぼした影響の大きさ
  • 本人の職務上の地位
  • これまでの勤務態度や懲戒処分歴
  • 過去の同一事案につき、企業が行った懲戒処分とのバランスなど

懲戒処分の注意点について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

さらに詳しく

経歴詐称した新入社員を雇用しておくリスク

経歴詐称した新入社員を雇用しておく企業側のリスクとして、以下が挙げられます。

  • パフォーマンスが出ない

    学歴や職歴、資格などの事項に嘘があった場合、企業が要求する業務に対するスキルや知識が不足すため、採用時に期待した通りのパフォーマンスが出ないことが想定されます。

  • コンプライアンス上のリスクにつながる

    経歴詐称した新入社員は、業務においても問題を起こす可能性が高くなります。
    顧客や他の従業員に対し誠実な対応ができない、ルールに違反する、企業の対外的信用を低下させるなどして、コンプライアンス上のリスクを高めるおそれがあります。

  • 企業の秩序が崩壊する

    経歴詐称の新入社員を雇用し続けると、他の従業員の反感を招いて、職場の人間関係や雰囲気が悪化し、他従業員の離職率を高めるおそれがあります。

履歴書に嘘を書いたことを理由に解雇できるか?

履歴書に詐称があったとしても、直ちに解雇できるわけではありません。

裁判例上では、経歴詐称を理由とする解雇が有効となるためには、その経歴詐称が雇用契約前に判明していたら採用しなかったであろう「重大な経歴詐称」であることが必要と判断されています。

これは、解雇は労働者の生活の糧を失わせる重大な処分であるため、企業側の一方的な解雇を規制するという、解雇権濫用法理のルールによる制限です。

重大な経歴詐称として、学歴や職歴、犯罪歴等の詐称が考えられますが、これらが解雇事由に該当するかどうかは、詐称内容・悪質性や業務内容、会社による採用経緯・目的、勤務状況などを検討し、総合的に判断されます。

なお、新入社員を解雇する場合、入社から14日以内であれば、30日前の解雇予告や解雇予告手当の支払いは不要ですが、入社から15日目以降に解雇する場合は、試用期間中かつ懲戒解雇であっても、解雇予告や予告手当の支払いが必要です。

普通解雇と懲戒解雇はどちらに該当する?

解雇には、普通解雇と懲戒解雇の2種類があります。
普通解雇とは、雇用契約上の債務不履行により、労働契約を解約することをいいます。
一方、懲戒解雇とは、就業規則に基づく社員への懲戒処分として行う解雇です。

普通解雇と懲戒解雇では、解雇が有効となる要件等が異なり、普通解雇は就業規則の定めがなくとも可能ですが、懲戒解雇は就業規則の定めが必須です。

また、懲戒解雇するには、重大な企業秩序違反であることが求められ、さらに弁明の機会を与える必要もあります。

いずれの解雇を選ぶかは、就業規則の定めに基づき、会社ごとに判断します。

もっとも、懲戒解雇は普通解雇よりも有効性が厳しく判断され、会社に課される制約も大きいです。

また、懲戒解雇歴が残ると次の就職が難しくなるという意味では社員に与える影響が大きく、訴訟へと発展するリスクが高くなります。
トラブルを防止したいならば、懲戒解雇よりは普通解雇の方が適切でしょう。

履歴書の嘘で解雇できる可能性が高い3つのケース

裁判例上、経歴詐称による解雇が有効と認められたものとして、学歴や職歴、犯罪歴等が挙げられます。

ただし、解雇の有効性については、詐称の内容や程度、業務との関連性、仕事への支障などの事情を踏まえて、個別具体的に判断されます。
以下で、詐称の種類ごとに検討してみましょう。

学歴を詐称したケース

高校を卒業していないのにもかかわらず大卒といって偽る、その反対に大卒であるのに高卒と偽るような学歴の詐称は、重大な経歴詐称となり得ます。

社員の労働能力について企業の評価基準を誤らせ、真実が申告されていたら契約するはずではなかった労働契約を結ぶ、本来なら与えられるはずのない高い給与が支払われるなど、人事・労務管理に多大な支障を与えるものであるからです。

このような場合は、企業秩序にかかわる事項の申告義務違反として、懲戒解雇の対象となり得ると考えられます。

ただし、採用する際に学歴を不問としていたなど、学歴が労働能力の評価に影響を及ぼさない場合には、解雇が無効となる可能性があります。

裁判例でも、大学中退を高卒と申告し入社した社員を懲戒解雇したケースにつき、面接時に企業側から学歴について問うことがなく、入社後の仕事も問題なく行われていたため、懲戒解雇は無効と判断しています(福岡高等裁判所 昭和55年1月17日判決)。

学歴詐称による解雇が有効とされた裁判例

ここで、学歴詐称による解雇が有効とされた裁判例をご紹介します。

【浦和地方裁判所 平成6年11月10日判決 正興産業事件】

(事案の内容)

自動車教習所で指導員として働いていた元社員は、採用面接時に、高校中退の学歴を高校卒業と嘘の申告をしていたところ、入社後に学歴詐称が企業側に知られて懲戒解雇されました。
これに対し元社員は、懲戒解雇の無効を求めて、自動車教習所を訴えた事案です。

(裁判所の判断)

裁判所は、以下の理由から、本件学歴詐称は就業規則の「履歴書の記載事項を詐って採用されたことが判明したとき」に当たるとして、懲戒解雇を有効と判断しました。

  • 自動車教習所は自動車運転の技術・知識の習得を指導する公益的役割を担うため、指導員には高度の技術や知識等が求められ、かつ教習生や経営者等と信頼関係を保持する必要もあるため、学歴もその職務の適格性等を判断する上で、重大な要素の一つである。
  • 高校中退者であることが雇用契約時に判明していたら、指導員として雇用しなかったものと認められる。

職歴を詐称したケース

職歴の詐称として、過去の勤務先や雇用形態、仕事内容、在籍期間、転職歴などを偽る行為が挙げられます。

職歴は会社が社員の採用の可否を判断する際に決定的な理由となるのに加えて、入社後の業務や給与などに影響を及ぼすものです。

そのため、即戦力や高度な能力を期待して採用したり、職歴を有しているゆえに高額な給与等や重要な職種を与えていたりするケースでは、重大な職歴詐称として、懲戒解雇が認められ得ると考えられます。

ただし、職歴が労働能力の評価に関係しないケースでは、解雇が無効となる可能性があります。

裁判例でも、採用直前の3ヶ月間風俗店で勤務していたことを職歴に記載しなかったケースで、風俗店の勤務が短期間であること、有期契約のアルバイトにすぎない等の事情から、軽い経歴詐称として、懲戒解雇は無効と判断しています(岐阜地方裁判所 平成25年2月14日判決)。

職歴詐称による解雇が有効とされた裁判例

ここで、職歴詐称による解雇が有効とされた裁判例をご紹介します。

【東京地方裁判所 平成16年12月17日判決 グラバス事件】

(事案の内容)

チケット予約システムのプログラマーとして、ソフトウェア開発会社に入社した契約社員につき、JAVA言語のプログラミング能力があると偽って採用されたことが入社後に発覚したため、解雇予告手当の支払いなく、懲戒解雇されました。
これを不服とした元社員が、懲戒解雇の無効と予告手当等の支払いを求めて会社を提訴した事案です。

(裁判所の判断)

裁判所は、以下の理由から、本件懲戒解雇を有効とし、解雇予告手当の支払いも不要であると判断しました。

  • 元社員は業務に必須のJAVA言語プログラミング能力がほぼないにもかかわらず、経歴書にその能力があるかのような記載をし、面接時にも同じ説明をしているため、「重要な経歴を偽り採用された」というべきであり、就業規則の懲戒解雇事由に該当する。
  • 労基署長による除外認定は受けていないが、「労働者の責めに帰すべき事由」による解雇に該当するため、解雇予告手当の支払義務はない。

犯罪歴を詐称したケース

犯罪歴の詐称として、面接時に犯罪歴を聞かれたが告知しなかったケースや、履歴書に犯罪歴を記載しなかったケースなどが挙げられます。

裁判例上では、その犯罪歴が告知されていたら採用しなかったであろうと認められる場合は、「重大な経歴詐称」として、解雇が有効になり得ると解されています。

例えば、強盗歴のある者が銀行員となった場合は、会社の社会的信用や業務遂行にマイナスの影響を与えることは間違いないため、重大な経歴詐称となる可能性が高くなります。

ただし、刑の言渡しの効力が消滅しているケース(禁固以上の刑執行終了後10年経過した場合や執行猶予期間が経過した場合など)等については、懲戒解雇が無効とされているため注意が必要です。

裁判例でも、強盗歴を賞罰欄に記載せずに入社した社員につき、刑の言渡しの効力が消滅した犯罪歴であり、賞罰欄に書くべき義務がないため、解雇は無効と判示しています(仙台地方裁判所 昭和60年9月19日判決)

犯罪歴詐称による解雇が有効とされた裁判例

ここで、犯罪歴詐称による解雇が有効とされた裁判例をご紹介します。

【東京地方裁判所 平成22年11月10日判決 メッセ事件】

(事案の内容)

派遣会社Aは、アメリカでの経営コンサルタント経験を信用し、Bを営業マンとして採用しました。
しかし、Bの発言等から経歴に疑問を感じ、ネットでBの名前を検索したところ、「役員を中傷するFAXを流したため名誉棄損で逮捕された」との記事を発見したため、Bを犯罪歴詐称により懲戒解雇しました。これに対し、Bが懲戒解雇は無効として訴えた事案です。

(裁判所の判断)

裁判所は、以下の理由から、本件犯罪歴詐称は「重大な経歴詐称」であるとして、懲戒解雇を有効と判断しました。

  • Bが服役歴を隠し、服役期間中にアメリカで経営コンサルタントをしていたと虚り、被告もこれを重視して労働能力を評価したことを考慮すると、「重要な経歴を偽り採用された」といえ、就業規則の懲戒解雇事由に該当する
  • 弁明の機会や自主退職の機会も与えられていたため、懲戒解雇には客観的合理性や社会通念上の相当性も認められる

経歴詐称で解雇に踏み切る前に退職勧奨も検討を

これまで見てきたとおり、経歴詐称による解雇は容易に認められるものではありません。

仮に裁判で不当解雇・無効と判断された場合は、多額のバックペイや慰謝料などを支払う義務が生じてしまいます。
解雇はトラブルへと発展するリスクが高いため、解雇に踏み切る前に、まずは退職勧奨を検討することをお勧めします。

退職勧奨とは、会社が社員に対し退職することを勧め、社員に納得してもらった上で、雇用契約を終わらせる手続きをいいます。
円満に社員を退職させられるというメリットがあります。

ただし、退職勧奨の方法に注意しなければなりません。長時間・複数回にわたる執拗な退職勧奨や、「退職しないなら解雇する」など退職を強制させるような発言を行うと、違法な退職強要として、退職が無効となる可能性があります。
あくまで社員の意思を尊重するよう努めましょう。

新入社員の履歴書の嘘が発覚した際の対応は、人事労務に強い弁護士までご相談下さい。

このページでは、経歴詐称の新入社員を解雇する際の注意点について説明してきました。

たとえ、経歴詐称が真実だったとしても、不当解雇として、会社側に多額の金銭の支払いが命じられているケースも少なくありません。

また、新入社員が履歴書に嘘を記載していたことが判明したとき、すぐに解雇できるようしておくには、採用面接の段階からの準備がポイントとなります。

経歴詐称による解雇が有効なのか、不当な退職勧奨に当たらないかなど、新入社員の経歴詐称への対応についてお困りの場合は、企業側の労務問題に精通する弁護士法人ALGまで、ぜひご相談ください。

社員の詐称内容や業務内容などを踏まえて、個別に判断させて頂きます。

この記事の監修

担当弁護士の写真

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員

保有資格
弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

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