責任能力とは?無罪になる理由や判断基準などをわかりやすく解説
刑事事件では、逮捕・起訴されても「責任能力」がなければ刑事責任を問われません。
たとえば、ニュースや新聞などで「犯人は心神喪失・心神耗弱状態だった」などと報道された場合、裁判では「責任能力なし」と判断される可能性があります。
この記事では、責任能力なし、または制限されていると判断されるケース、責任能力の判断方法、不起訴や執行猶予付き判決を獲得するためのポイントなどを詳しく解説していきます。
目次
刑事事件における責任能力とは?
刑事事件における責任能力とは、行為の違法性を理解し(事理弁識能力)、その理解に基づいて、自分の行動を制御できる力(行動制御能力)のことです。
刑法第39条1項・第39条2項では、以下のように規定されています。
心神喪失及び心神耗弱
第三十九条 心神喪失者の行為は、罰しない。
2 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。
心神喪失と判断された場合、罪を犯しても刑事責任が問われず、無罪となります。
一方、心神耗弱では刑事責任は問われますが、刑は減軽されるのが基本です。
責任能力なし、または制限されていると判断されるケース
責任能力に関する規定は、刑法第7章(犯罪の不成立及び刑の減免)に記載されています。
- 「責任能力なし」と判断されるケース:
心神喪失者、14歳未満(罰しない)- 「責任能力が制限されている」と判断されるケース:
心神耗弱者(刑を減軽する)
主に精神障害や未成熟により、被告人自身が行為の違法性を理解できず、行動を制御できなかったケースが該当します。
心神喪失
心神喪失(しんしんそうしつ)は、精神の障害により「事理弁識能力」または「行動制御能力」が完全に欠けている状態を指します。簡単にいうと、物事の善悪を適切に判断できない、またはその能力はあるものの、判断に従って行動できない状態のことです。
刑法第39条1項では、心神喪失者の行為は罰しないと定められているため、認定されれば無罪となる可能性があります。統合失調症や重度のうつ病だけでなく、アルコール、薬物などの影響で判断力を失った場合も、心神喪失に含まれます。
ただし、アルコールや薬物の影響による心神喪失は、「意図的に飲酒・薬物を使用した」として、責任能力があったとみなされることも多いです。
心神耗弱
心神耗弱(しんしんこうじゃく)は、精神障害により「事理弁識能力」または「行動制御能力」が著しく制限されている状態を指します。簡単にいうと、物事の善悪を適切に判断する・判断に従って行動する能力はあるが、それが著しく低下した状態のことです。
刑法第39条2項では、心神耗弱者の行為は刑を減軽すると定められているため、認定されれば刑が軽くなる可能性があります。心神耗弱は、能力が完全に失われている心神喪失とは異なり、ある程度は残っているため、限定責任能力とも呼ばれます。
心神耗弱者に該当するかは、犯行時の精神状態や病歴、犯行動機などを総合的に考慮し、裁判官が判断するのが基本です。精神鑑定の結果や医師の意見も重要な判断材料となります。
14歳未満
刑法第41条では、責任年齢について、「14歳に満たない者の行為は、罰しない」と定められています。
14歳未満の者は心身が未成熟であり、物事の善悪を適切に判断する能力や判断に従って行動する能力が十分に備わっていないと考えられているためです。
ただし、「14歳未満なら何をしても許される」というわけではありません。刑事責任を問われない代わりに、児童自立支援施設や児童養護施設への送致といった保護処分が検討されます。
特に12歳以上の場合、責任能力の有無は慎重に判断される傾向があり、事件の内容次第では、少年院に収容される可能性もあります。
責任能力が問われやすい場面
一般的に以下のような精神疾患や人格を持っていると、被疑者・被告人の責任能力が問われやすくなります。
- 統合失調症
- うつ病
- 知的障害
- 発達障害
- 多重人格
- クレプトマニア(窃盗症)
自分の意思では抑えられない「盗みたい」という衝動によって窃盗行為を繰り返してしまう精神疾患
特に、犯行時に精神疾患や人格の程度が悪化していた場合は、心神喪失や心神耗弱が疑われやすくなります。
ただし、犯行の動機や手口、計画性があるかなどの事情も総合的に考慮されるため、病状だけで責任能力の有無が決まるわけではありません。
精神鑑定や医師の見解も重要な判断材料となりますので、ご不安な場合は弁護士に相談することをおすすめします。
責任能力なしだとなぜ無罪になるのか?
責任能力のない人が無罪になるのは、その人を「非難」できないからです。
刑罰は、自らの行為が違法であると理解しているにもかかわらず、その行為を制御できなかった人に科すものです。
心神喪失者や心神耗弱者は、そもそも善悪の判断ができない(または判断をするのが難しい)ため、行為の違法性を理解することもできません。
よって、たとえ犯罪行為を行っても社会的非難の対象にはならず、刑罰を科すことはできないと考えられています。
責任能力なしで無罪となったらその後はどうなる?
責任能力がないと判断されて無罪になっても、即自由となるわけではなく、指定医療機関への入院や通院を通して社会復帰を目指すのが一般的です。
日本では、一定の重大犯罪に及んだ責任能力のない人に対して、医療観察法に基づく特別な手続きが取られます。
手続きは、以下のような流れで進みます。
- 検察官が地方裁判所に対して審判を申し立てる
- 審判で「入院」「通院」「入院・通院もしない」のいずれかが決定される
- 指定医療機関へ入院・通院する
- 退院後は原則3年、最長5年に渡って通院することが義務付けられる
入院決定がなされた場合は、治療が進み、「再犯のリスクが低い」と判断されると退院できます。しかし、殺人などの重大犯罪を行った場合は、退院までに数年かかることもあります。
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責任能力の有無はどのように判断されるのか?
責任能力の有無は、検察官または裁判官が、以下のような事情を総合的に考慮して判断します。
- 精神鑑定の結果
- 医師の意見
- 犯行状況
- 証拠
- 証言
責任能力の有無を医学的診断だけで決めるのは難しいため、犯行状況や証拠なども重要な判断材料となります。
判断するのは検察官か裁判官
責任能力については、起訴前であれば検察官、起訴後であれば裁判官が判断します。
ただし、検察官は起訴・不起訴を決めるために被疑者の責任能力を測るため、最終的な判決や刑罰にはあまり影響しません。
起訴となった場合、裁判官が“検察官の意見”や“医師の鑑定結果”などを十分に尊重し、被告人の責任能力や量刑を検討します。つまり、最終的に責任能力の有無を決定するのは裁判官ということです。
被疑者としては不起訴を目指すのが第一ですが、起訴された場合は裁判で責任能力の有無を争わなければなりません。
裁判官が「責任能力あり」と判断すれば有罪に、「責任能力なし」と判断すれば無罪、または減刑となるため、対策や主張の方針をあらかじめ固めておくことが重要です。
責任能力の判断基準
責任能力は、生物学的要素(医学的要素)と心理学的要素の両方から総合評価されます。
生物学的要素と心理学的要素には、次のようなことが含まれます。
- 生物学的要素
精神疾患や知的障害の有無や程度- 心理学的要素
犯行時の善悪判断能力、行動制御能力の程度
生物学的要素は、責任能力に影響を与える脳や精神の機能障害の有無を評価するものなので、病名だけでなく、症状の重さや発症時期なども重視されます。
一方、心理学的要素は、行為時に善悪を理解し、行動を制御することができたかどうかを評価するものです。そのため、精神鑑定や心理テストなどで認知機能、衝動性、妄想の程度などが総合評価されます。
責任能力を判断するための精神鑑定
責任能力の有無を判断するには、医師による精神鑑定が不可欠です。
精神鑑定には3つの種類があり、起訴前であれば「簡易鑑定」や「本鑑定」、起訴後であれば「公判鑑定」が行われます。
- 簡易鑑定
勾留期間中に半日~1日程度で行われ、初期判断に用いられます。- 本鑑定
より精密な評価を行うため、勾留期間とは別に2ヶ月程度の鑑定留置期間を設けて行われます。- 公判鑑定
起訴後、裁判所が選任した医師によって行われ、裁判での判断材料となります。
鑑定では、病歴や犯行時の精神状態に加えて、行動制御能力なども総合的に分析されます。
精神鑑定の結果は、責任能力の有無や程度を決定する重要な根拠となるため、弁護士と連携しながら適切な対応を取ることが重要です。
責任能力ありと判断されても不起訴や執行猶予の余地はある
責任能力が認められても、「再犯の可能性が低い」と判断されれば、不起訴や執行猶予付き判決が下される可能性があります。
以下のような状況であれば、再犯の可能性が低いと判断されやすくなります。
- 精神的な問題を自覚できている
- 治療に意欲的または既に通院中
- 家族が更生をサポートできる など
検察官や裁判官は、犯行の動機や反省の度合い、社会復帰の見込みなどを総合的に考慮して判断します。
被疑者や被告人は、できるだけ自身に有利な材料を揃え、「再犯の可能性が低い」旨を主張することが重要です。
刑事事件に詳しい弁護士のサポートを受けることで、不起訴や執行猶予付き判決を獲得できる可能性も高まるため、一度相談を検討してみると良いでしょう。
刑事事件で責任能力を争う場合は早急に弁護士にご相談ください
責任能力が争点となる刑事事件では、専門的な知識と経験が必要となります。精神鑑定や医療観察法の手続きが進むなかで対応を誤ると、不利な結果につながる可能性が高いです。
弁護士であれば、捜査段階から裁判終了後まで幅広くサポートすることができます。例えば、有利に働く証拠収集や鑑定依頼、検察官への意見書提出といった弁護活動が可能です。
「責任能力あり」と判断されても、再犯の可能性が低いとなれば不起訴や執行猶予付き判決を獲得できる余地が生まれます。刑事事件に詳しい弁護士に相談し、早急に対策を検討することも重要でしょう。
弁護士法人ALGには、刑事事件の知識と経験が豊富な弁護士が複数名在籍しています。
刑事事件で責任能力を争う場合は、お気軽にご相談ください。
