空出張で出張費を不正に計上したら業務上横領になる?

空出張で出張費を不正に計上したら業務上横領になる?

監修
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治 弁護士法人ALG&Associates

出張した社員に対する監督が甘く、成果や報告をあまり求めない会社もあるでしょう。

そのような会社の社員は、出張を装って経費を受け取ることができるかもしれません。
しかし、そのような行為は犯罪であり、軽い気持ちで行うと、重い罪に該当する場合があります。

ここでは、業務上横領罪に問われ得る「空出張」に着目していきますので、ぜひ参考になさってください。

出張したかのように見せかけて出張費を不正に受領する空出張

空出張とは、出張したかのように見せかけて、出張費を不正に受領する行為のことです。

空出張をするとどのような犯罪が成立するおそれがあるのか等について、詳しくみていきましょう。

業務上横領罪が成立する可能性

会社から出張経費として事前に預かった現金を、使途以外の目的で、自分の利益のために使った場合には、業務上横領罪が成立し得ます。

出張の目的や成果の確認が不十分である場合に、このような不正が起きやすくなると考えられます。

なお、仮払金を受け取った時点で出張に行く気がなかった等の事情があれば詐欺罪が成立する余地があるため、どちらが成立するかを判断するのが難しいケースもあります。

業務上横領罪とは

業務上横領罪は、刑法253条に定められており、業務上自己の占有する他人の物を横領した者に成立する罪です。
「業務上」の占有であるか否かで、横領罪(刑法252条)と区別されており、横領罪よりも重い法定刑が定められています。

このようなケースで業務上横領罪が成立する可能性があります

空出張で業務上横領罪が成立し得るケースとしては、例えば、出張するために経費の仮払いを受けたものの、キャンセルして経費を遊興費等として消費し、会社には出張に行ったと報告して返済を免れた場合等が該当します。

業務上横領罪の刑の重さ

この罪を犯した者は、10年以下の懲役に処されます。罰金刑の定めがないため、求刑は懲役刑となり、被害金額や犯行態様、被害賠償の有無によっては、初犯でも実刑となる場合もあるため、重い罪だといわれています。

詐欺罪が成立する可能性

会社の業務とは関係のない私的な旅行で領収書を受け取り、会社には出張に行ったと報告して、旅行の領収書を提出し出張費を受け取った場合、会社を欺いて財産を交付させているので詐欺罪が成立する可能性があります。

出張に行く予定で出張費の前払金を受領後、考えを変えて出張に行かなかったケースとは、最初から会社をだます意図で出張費を申請し、受領している点などに違いがあります。

詐欺罪とは

詐欺罪は、刑法246条に定められており、人を欺いて財物を交付させた者に成立する罪です。
人を欺いて財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させた者も同様に処罰されます。

空出張や経費の水増しなどの会社に対する経費の不正請求は、犯行態様や加害者の意図、占有の所在によっては業務上横領罪が成立するケースもあり、どちらの罪が成立するかの判断が難しい場合もあります。

このようなケースで詐欺罪が成立する可能性があります

空出張で詐欺罪が成立するケースとしては、例えば、家族とのプライベートな旅行の際に領収書を受け取り、営業のための出張経費だと偽って会社に提出し、金銭を受け取った場合等が該当します。

詐欺罪の刑の重さ

この罪を犯した者は、10年以下の懲役に処されます。
この罪も、業務上横領罪と同じで罰金刑の定めがなく、初犯でも実刑となることもある重い罪とされています。

出張費を水増し請求するのも業務上横領罪や詐欺罪が成立する可能性がある

出張に行っていない場合だけでなく、出張費を水増し請求している場合にも、業務上横領罪や詐欺罪が成立するおそれがあります。

出張には行ったが新幹線の代わりに高速バスを使う、指定されたホテルよりも安いホテルに泊まるなどして差額を着服したケース、取引先の接待と偽って私的な飲食費を計上したケース等が該当します。

これらの手口を使われると、出張に行っていない場合よりも会社に発覚し難いと考えられ、特に1人で出張をしていれば監視することが難しくなります。

これも業務上横領?その他のケース

会社の経費に関する不正の手口は空出張だけではありません。
以下のようなケースでも、業務上横領罪や詐欺罪が成立する場合があります。

交通費を不正受給したケース

交通費を不正受給する手口には、以下のようなケースが挙げられます。

  • 一番早く移動できるルートを使ったと偽って、時間はかかっても安く移動できるルートを使って差額分を着服する
  • あえて本来よりも遠回りをするルートを申請して割高な交通費を請求する
  • 通勤定期券の範囲で費用が要らない路線を使った際の交通費を申請する
  • 住所を偽って実際よりも多くの交通費を申請する
  • 新幹線の指定席の費用を申請して自由席の代金との差額を手に入れるケース等

不正な接待交際費を計上したケース

接待交際費を不正受給する手口には、以下のようなケースが考えられます。

  • 自分や家族、あるいは同僚といった私的な飲食代を交際費として請求する
  • 店から白紙の領収書を受け取って自ら金額を書き込み請求する
  • 受け取った領収書の金額を書き換えて請求する
  • 取引先への手土産として購入した商品を持ち帰るケース等

飲食した店や、引先などが口裏を合わせた場合には、強く疑って調査をしなければ発覚しない場合があります。

業務上横領が発覚したらどうなるのか

会社が調査をして業務上横領や詐欺が発覚した場合、その後どのような法的、社会的責任を負う可能性があるのかについて、以降みていきましょう。

懲戒解雇などの処分がくだる可能性

業務上横領が発覚すれば、会社の就業規則に基づき、懲戒処分を受けるおそれがあります。
懲戒処分には戒告、譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇といったものが規定されている場合が多く、なかでも最も重い処分が懲戒解雇です。

懲戒解雇の処分を受けると、現在の職を失うだけでなく、再就職も難しくなるおそれがあります。

極めて重い処分である懲戒解雇は、裁判で無効とされることもありますが、金銭に関する不正では有効とされる場合も多いため、横領した場合の懲戒解雇のリスクは高いといえるでしょう。

業務上横領罪や詐欺罪が成立したら刑事罰が

業務上横領罪も詐欺罪も、成立すれば逮捕・勾留され、起訴されるおそれがあります。
これらの罪には10年以下の懲役が定められており、重い罪であるとされています。

また、これらの犯罪は、発覚するまでに何度も繰り返されている場合が少なくなく、その場合には併合罪として処断され、最高刑は懲役15年となります。

執行猶予が付くのは懲役3年以下の場合のみであるため、これらの罪は大変重いものです。

不法行為による損害賠償請求の可能性も

業務上横領罪や詐欺罪が成立した場合には、刑事上の責任だけでなく、民事上の責任も負うことになります。
不法行為に基づく損害賠償請求や不当利得返還請求により、不正に受給した金銭を弁済することになります。

不正受給から時間が経っている場合には、遅延損害金を合わせて支払う必要があり、高額になることもあります。
会社は法人であるため、慰謝料を支払う必要はありませんが、示談によって解決を図る際には、迷惑料等の名目で金額を上乗せして支払う必要がある場合もあります。

逮捕後72時間以内弁護活動が運命を左右します

刑事弁護に強い弁護士が迅速に対応いたします。
逮捕直後から勾留決定までは弁護士のみが面会・接見できます。ご家族でも面会できません。

業務上横領は相手からの被害申告がないと逮捕されないケースが多い

業務上横領罪や詐欺罪は親告罪ではないため、被害者が刑事告訴をしなくても、第三者の通報により事件化することが考えられます。
しかし、実態としては被害者が通報することによって事件化するケースが多いす。

この場合、早期に被害者との示談を成立させることにより、事件化を防いで逮捕されずに済む可能性を高めることができます。
事件化を防ぐためには、会社との示談をなるべく早く成立させる必要があります。

事件化させないためにも弁護士のサポートが必要です

業務上横領や詐欺の事件化を防ぐためには、弁護士によるサポートがあった方が良いでしょう。
なぜなら、横領された会社の被害感情が強い場合には、当事者の話し合いで解決することが難しくなるからです。

場合によっては、身に覚えのない横領についても罪を被せられたり、迷惑料等の名目で高額の請求を受けたりするトラブルに見舞われるかもしれません。
弁護士であれば、法律や証拠に基づいて、冷静な態度で交渉を行うことが可能です。

事件化した場合も弁護士が減刑にむけてサポートします

すでに事件化してしまった場合であっても、弁護士にご相談いただければ、量刑を軽くするためにサポートすることができます。

横領や詐欺の裁判では、示談を成立させて、被害者に処罰を求めない意思を示してもらうことが特に重要であるため、示談の成立を目指して専門家である弁護士が会社と交渉します。

また、情状証人を集めるための活動などにより、可能な限り量刑を軽くして、執行猶予を獲得するために活動します。

量刑に影響を与える要素

空出張で業務上横領罪や詐欺罪が成立した場合には、横領、詐取した金額だけでなく、犯行の動機や態様、犯行を繰り返した場合にはその期間、回数、同様の事件の前科や自由刑の前科があるか、横領した社員の当時の役職、執行猶予とした場合に監督者となる人物がいるかなど、様々な要素が量刑に影響を与えます。

なかでも、被害の弁済がされたか、されていなかったとしても、これから弁済される見込みがあるかが重要な要素とされているケースが多いです。

まずは弁護士にご相談ください

空出張をして出張費を不正に受領してしまい、事件化する前に会社と示談したいといったことでお悩みの方は、弁護士にご相談ください。

空出張は、起訴されると実刑となるおそれもある犯罪ですが、会社側は被害を回復したいと考えている場合が多く、返済して示談を成立させれば起訴されずに済むケースも多くあります。

起訴されてしまったとしても、示談を成立させれば執行猶予を獲得できる可能性が高まるため、一度弁護士に相談されることをおすすめします。

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逮捕直後から勾留決定までは弁護士のみが面会・接見できます。ご家族でも面会できません。

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監修 : 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治 弁護士法人ALG&Associates

保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)

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