横領の損害賠償や示談金の相場は?支払いの際に注意するポイントや会社との示談交渉について

横領の損害賠償や示談金の相場は?支払いの際に注意するポイントや会社との示談交渉について

監修
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治 弁護士法人ALG&Associates
弁護士

出来心で会社のお金等を横領してしまい、そのことが発覚した場合、刑事事件化を避けるために示談することは有効です。そこで、ここでは、

  • 示談金の相場はいくらなのか
  • 支払いを行う際に注意すべきポイントは何か

の2点について解説します。

会社のお金等を横領すると業務上横領罪が成立するおそれがある

経費の架空請求や商品・備品等の横流し、あるいはキックバックを受ける等して会社のお金を横領してしまった場合、横領罪の中でも業務上横領罪が成立するおそれがあります。

刑法上、業務上横領罪は、通常の横領罪よりも重い罰則が規定されています。

業務上横領罪とは

業務上横領罪は、業務上自己の占有する他人の物を横領した場合に成立する罪です。この罪を犯した者は、10年以下の懲役に処されます(刑法253条)。

横領罪とは

横領罪は、自己の占有する他人の物を横領した場合に成立する罪です。この罪を犯した者は、5年以下の懲役に処されます(刑法252条)。

横領罪については、以下の記事で詳しく解説しています。

横領罪とは

横領すると民事上、刑事上の責任を負うことになる

会社のお金等を横領すると、業務上横領罪として刑事上の責任を負い、処罰されるおそれがあります。
さらに、民事上の責任を負うことも考えられ、その場合は会社から損害賠償金を請求されることになります。

なお、民事責任と刑事責任のどちらか一方を負うことになるのか、両方を負うことになるのかは、会社の判断によって変わってきます。

民事上の責任

横領により、会社に損害を発生させた場合、不法行為による損害賠償(民法709条)という民事上の責任を負います。

会社から損害賠償を請求されたときには、単に横領した金額のみを返して万事解決というわけにはいきません。
会社の金員は、会社の業務に使用される予定であることが通常だからです。

つまり、業務を滞らせたことによる損害や、失われた取引によって得られるはずだった利益、横領によって会社にかけた迷惑料等も支払わなければならないことも考えられます。

刑事上の責任

業務上横領罪が成立した場合、10年以下の懲役に処されます。罰金刑の規定がなく、初犯であっても被害額が多かったり、期間が長く計画的であったりした場合等には実刑を受けることがあるため、重い罪とされています。

起訴されて有罪となれば前科がつき、転職・再就職に大きな制限がかかりますし、執行猶予がつかなければ刑務所に収監され、自由な生活ができなくなってしまいます。

このような事態を防ぐためには、事件化しないことが重要です。

会社に損害を与えたことにより懲戒処分を受けるケースもある

会社のお金等を横領して損害を与えた場合には、懲戒処分を受けることがあります。

懲戒処分の種類は会社の就業規則に定められており、戒告、譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇等がありますが、「懲戒解雇(クビ)」はその中でも最も重い処分で、再就職の際に不利に働きます。

横領が非常に悪質だと会社に判断されると、懲戒解雇処分となるケースもあり、被害金額の多寡にかかわらず懲戒解雇処分を有効としている裁判例も存在するため(東京地方裁判所 平成23年5月25日判決)、わずかな金額であっても、横領の事実が認定されれば懲戒解雇処分となり得るでしょう。

重い処罰を回避するために損害を賠償しておくことは非常に重要

横領によって会社に与えた損害を賠償したとしても、懲戒処分を免れるとは限りませんし、刑事事件化されないことが保証されるわけでもありません。

しかし、業務上横領の場合は、会社からの被害申告がなければ事件化しないことが多く、特に被害額が少ないケースでは、会社側も大事にしたくないと考えていることもあります。

そのため、損害賠償金を支払う等して、少しでも会社側の心証を良くすることが重要となるのです。

業務上横領罪は会社からの被害申告(告訴)がなければ事件化しないことが多い

業務上横領罪は親告罪ではありません。そのため、理論的には、会社が刑事告訴をしなくても事件化する場合があります。

仮に会社が刑事告訴を行わなくても、第三者の通報等によって事件化することも考えられるからです。

しかし、業務上横領は放火等と異なり、第三者が会社の外からパッとみてわかる犯罪ではありません。

実態としては、事件化するきっかけは会社からの被害申告であるケースが多く、会社からの告訴がなければ事件化しないことが多いと考えられます。

示談交渉を弁護士に依頼するメリット

刑事事件化するのを防ぐためには、会社と示談することが有効です。
しかし、示談交渉の経験がある方は少ないでしょう。

そのため、会社との感情的な対立によって交渉が上手くいかなかったり、会社側の被害者感情によって、相場をはるかに上回る示談金を請求されたりするおそれがあります。

横領した金額が大きいと、分割払いでなければ弁済できない場合もあるでしょう。

弁護士に示談交渉を依頼していただければ、冷静に交渉を行い、相場に基づいた妥当な示談金を導き出すことができます。
また、分割払い等の条件を交渉することもできますで、ぜひご相談ください。

逮捕後72時間以内弁護活動が運命を左右します

刑事弁護に強い弁護士が迅速に対応いたします。
逮捕直後から勾留決定までは弁護士のみが面会・接見できます。ご家族でも面会できません。

損害賠償金を支払っておくことは、事件化した際の量刑に影響を与える可能性がある

会社との示談が成立しても、刑罰を受けることはあり得ます。
いずれにせよ処罰されるなら、損害賠償金を支払う人はいないように思えるかもしれません。

ですが、横領した者が起訴された場合、会社に与えた損害を弁済したか否かは、量刑に影響を与えると言われています。

つまり、損害賠償金を支払っておけば、執行猶予がついたり、刑が軽くなったりすると考えられるため、損害賠償金を支払って、示談を成立させておくことは重要なことなのです。

その他の、量刑に影響を与える要素

刑事事件化した場合、弁済の有無だけでなく、横領した方法や動機、犯行に及んでいた期間、事件による社会的影響等の様々な要素が量刑に影響を与えます。

会社への謝罪や反省の態度、被害額の弁済、会社等からの処罰を求めない嘆願、社会に戻った際に加害者を監督する者の存在等には、量刑を軽くする影響があるとされています。

横領の損害賠償金(示談金)の相場

横領の損害賠償金を支払う場合、当然ながら、横領した金額は全て返済する必要があります。
さらに、横領したときから時間が経っている場合には、遅延損害金を上乗せして支払うことになります。

それらの金額に加えて、当事者間の取り決めによって、迷惑料等を上乗せした金額を支払うケースもあります。
迷惑料がいくらになるかはケース・バイ・ケースです。

横領したお金は使ってしまった。分割で支払うことは可能なの?

横領したお金を使ってしまい、手元にほとんど残っていない場合や、横領した額が大きく、一括で返済するのが難しい場合等があります。
そのような場合には、示談は不可能ではないかと思うかもしれません。

しかし、会社は被害金額の回収を優先することがあるため、あくまでも会社が認めてくれた場合に限られますが、損害賠償金の分割払いも可能です。

会社との分割払いの交渉も弁護士にお任せください

会社に分割払いを認めてもらうためには、一括で支払えるだけのお金が残っていないことや、時間をかければ返済が可能であることを会社に説明する必要があります。

また、分割払いを行う際には、1回の支払額や支払回数を交渉で決めなければなりません。

しかし、それらの説明や交渉は、横領した当事者が行うと、上手くいかない場合があります。
会社を説得するためには、支払計画書の作成等の支援も必要であると考えられるため、弁護士にご相談ください。

自分が支払えない場合、親や家族に損害賠償請求がいくことはあるの?

横領した者が既に成人している場合、親に支払い義務はありません。
また、賠償責任はあくまでも本人のみにあるというのが原則なので、妻や子であっても、本人の代わりに賠償する義務はありません。

しかし、横領した者の家族が、入社の際に身元保証人になっていたり、会社と返済契約した際に保証人になっていたりすると、会社からの損害賠償請求を受けるおそれがあります。

自己破産すれば損害賠償金を支払わなくていいの?

自己破産をしても、損害賠償金は支払わねばなりません。
免責許可がおりたとしても、破産法第253条に定める「非免責債権」は免責されないからです。

破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権は「非免責債権」なので、支払いを免れることはできません。

なお、損害賠償金以外の債務がある場合に、そちらの債務だけを免責してもらうことはできないと考えられます。
債権者の間で不公平が生じてしまうからです。

損害賠償を支払う際のポイント

損害賠償金を支払う際に注意しなければならないのは、後で支払額や支払いの有無等についてトラブルが発生しないようにすることです。
そこで、損害賠償金を支払う際に気をつけたいポイントについて解説します。

公正証書を作成しておく

どれだけの金額を、何回に分けて支払うのかというのは、返済を継続するために重要な事項です。

しかし、せっかくそれらについて合意しても、その証拠がなければ、後で会社側が話を蒸し返す等、トラブルになりかねません。

したがって、支払額や分割払いの回数等について確実な証拠を残すために、公正証書を作成しておくようにしてください。

会社としても、確実に証拠を残せるというメリットがありますので、応じてくれるでしょう。

領収書を必ずもらい保管しておく

支払額や分割払いの回数について合意しても、返済を行ったことが証明できなければ、支払ったか否かについて、後でトラブルになりかねません。

そのため、返済した際には、必ず領収書を受け取るようにしましょう。分割払いであれば、支払いを行ったら、1回ごとに領収書を受け取ってください。

面倒に思えるかもしれませんが、大切な証拠なので確保しておきましょう。
領収書がもらえない場合は、せめて振込を利用して支払いを記録に残してください。

支払期限は必ず守る

会社との示談が成立したら、合意した支払期限は必ず守るようにしてください。
返済が遅れた場合、遅延損害金を支払うことになるケースがあります。

また、示談の際に、1回でも支払いが遅れたら、残額の一括返済を要求できる条項が盛り込まれるケースもあります。
会社からの心証が悪くなり、刑事事件化するリスクも否定できませんので、期限は必ず守りましょう。

横領の損害賠償請求が来た方や示談交渉をお考えの方は弁護士にご相談ください

会社との示談交渉は、横領した当事者が行うと、話がこじれてしまうことがあります。

特に、分割払いの交渉を行う場合には、会社に信用してもらう必要があるため、交渉に慣れている者が行うべきだと言えるでしょう。

横領してしまい、会社との示談をお考えの際には、お早めに弁護士にご相談ください。

逮捕後72時間以内弁護活動が運命を左右します

刑事弁護に強い弁護士が迅速に対応いたします。
逮捕直後から勾留決定までは弁護士のみが面会・接見できます。ご家族でも面会できません。

監修

監修 : 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治 弁護士法人ALG&Associates

保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)

プロフィールを見る

緊急で無料法律相談受付

60分無料法律相談(24時間予約受付)