業務上横領は必ず逮捕される?横領額と刑の重さは関係あるのか

業務上横領は必ず逮捕される?横領額と刑の重さは関係あるのか

監修
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治 弁護士法人ALG&Associates
横領罪の初犯は執行猶予がつく?背任罪とのちがい

業務上横領で逮捕された場合の刑罰

業務上横領罪

業務上横領罪の法定刑(刑法253条)
10年以下の懲役

お金に関する代表的な犯罪の1つとして、業務上横領罪が挙げられます。長期に渡って繰り返されることで、被害額が巨額になることがある犯罪です。

発端は軽い気持ちで少額をくすねたことだったという場合もあり、会社に発覚した時点で合計の被害額が数百万円、数千万円に達していると、横領した者としても、どうすれば良いのかが分からず途方に暮れているというケースも少なくないようです。

ここでは、業務上横領罪とはどのような犯罪なのか、どのような行為によって成立するのか、そして横領してしまった場合に検討すべきこと等について以下で解説します。

業務上横領罪とは?

他人の物を業務上管理する者が、その物を横領した場合には、業務上横領罪が成立します。
「業務」とは、必ずしも職業に限定しているわけではなく、人が一定の立場で継続して行う活動も該当します。

つまり、業務上横領は会社等の内部で行われるものだけを指すのではなく、近年では、高齢化に伴って、成年後見人となった親族等による着服によりこの罪が成立する事例も報道されるようになってきました。

横領罪の種類

横領罪には、単純横領罪、業務上横領罪、遺失物等横領罪の3種類があります。
業務上横領罪は、この中で最も重い罪です。

背任罪と業務上横領罪の違い

業務上横領罪と背任罪の違いは、自分に何かを任せてくれた相手に対して損害を与える方法の違いです。

誤解をおそれずに単純化して言うと、業務上横領罪は、業務に関して特定の財物を預かった者が、その財物を私的に用いることで成立する罪です。

例えば、会社の経理担当者が、業務上で預かったお金を自身の遊興費等として消費するケースを考えるとイメージしやすいでしょう。

一方で、背任罪は、具体的な財物を預けられていなくても成立する罪です。
一定の信頼関係のもと、他者のために事務処理をしている者が、任務に背いて自己や第三者の利益を図り、または故意に損害を与えると成立します。

取締役等は、会社法等の規定により、より重い罪である特別背任罪が成立する場合があります。

背任罪となる例

背任罪が成立する例として、

  • 不当に安い価格で、友人と会社との間に売買契約を締結する
  • ライバル会社に重要な機密情報を話してしまう
  • 返済される見込みのない巨額の融資を無担保で実行する

といったものが挙げられます。

窃盗罪と業務上横領罪の違い

窃盗罪と業務上横領罪の違いは、業務上横領罪が業務上委託されている他人の財物を自分の物とする罪であるのに対して、窃盗罪は他人が占有している財物を奪うことで成立する罪であることです。

例えば、経理担当者は会社から現金等を占有する権限を与えられているため、その権限の範囲内で占有している現金等を自分の物とすれば、その事実は業務上横領罪の成立を検討する要件となります。

しかし、経理担当者ではない一般社員が会社の現金等を持ち出して占有した場合、その社員には現金等を占有する権限が与えられていないため、業務上横領罪ではなく窃盗罪の成立を検討する方が妥当であると考えられます。

窃盗罪となる例

業務上横領罪と似た事例で、窃盗罪が成立する例として、

  • アルバイトをしている者が、勤務中に、店頭に並べてある商品を盗んだ
  • 経理担当者でない社員が、経理担当者の机から、会社のお金を盗んだ
  • 封がしてある荷物を預かった社員が、無断で開封して中身を盗んだ

といったものが挙げられます。

業務上横領罪の刑の重さ

業務上横領罪は、業務上自己の占有する他人の物を横領した場合に成立する罪です。この罪を犯した者は、10年以下の懲役に処されます(刑法253条)。

業務上横領の時効

業務上横領の公訴時効は7年です。
しかし、これは刑事事件の時効であり、民事では異なる時効が適用されます。

不法行為に基づく損害賠償請求の場合は、新民法が適用されるケースでは、損害および加害者を知った時から3年、あるいは不法行為の時から20年が時効です。

業務上横領を行って、仮に発覚しなかったとしても、20年は損害賠償請求を受けるおそれがあり、時間が経てば遅延損害金も支払う必要が生じるため、賠償金が膨らむリスクを抱えることになります。

また、不当利得返還請求の場合は、新民法が適用されるケースでは、権利を行使することができることを知った時から5年、または権利を行使することができる時から10年が時効です。

業務上横領罪の裁判例

  • 合計約6494万円を横領したケース(懲役4年)
    会社の経理担当者が、出会い系サイトで知り合った相手に送金するために、自身が勤めている会社の預金の払い戻しを繰り返し受けた事例です(大分地方裁判所 平成30年11月16日判決)。
  • 600万円以上に相当する研究機材を横領したケース(懲役3年・執行猶予4年)
    大学の准教授が、研究機材として納入されたノートパソコン等を質店で複数回にわたり売却していた事例です(福岡地方裁判所小倉支部 平成30年10月11日判決)。
  • 3899万円の収入印紙を横領したケース(懲役3年)
    会社の収入印紙の管理等に従事していた事務担当者が、収入印紙を持ち出して金券ショップで複数回にわたり売却していた事例です(仙台地方裁判所 平成30年3月27日判決)。

これも業務上横領?ケース別事例 

大々的に報道されるような巨額の業務上横領事件は、会社等の経理担当者や、金融機関に勤めている社員による横領である場合が目立ちます。

そのため、業務上横領罪は、お金を日々扱っている者だけに成立するような気がしてしまうかもしれません。

しかし、お金を扱わない一般の社員が、軽い気持ちで行った不正行為であっても、業務上横領罪を構成するケースがあります。

以下で、「これは業務上横領になるのか?」という質問が多い事例を解説します。

空出張で出張費を着服した

実際には出張していないのに、出張したと会社へ報告することで、出張費を着服する手口のことを空出張といいます。
空出張の場合には、業務上横領罪や詐欺罪が成立します。

交際費を着服した

取引先を接待したと偽って、同僚等と私的な飲食を行い、その費用として交際費を受け取り着服する手口があります。
このような場合には、業務上横領罪や詐欺罪が成立します。

領収書を偽造した

白紙の領収書に金額を書き込んで領収書を偽造する手口や、書き込まれた金額を書き換えて改ざんする手口があります。

このような場合には、(有印)私文書偽造罪と、業務上横領罪や詐欺罪が成立します。

交通費を着服した

わざと遠回りをする経路を申請したり、会社から遠くにある実家を住所として申請したりする等の方法で、本来は必要のない交通費を請求して着服する手口があります。

このような場合には、業務上横領罪や詐欺罪が成立します。

交通費の不正については、以下の記事で詳しく解説しています。

交通費の不正について解説

備品を自分のものにした

会社が購入した備品や消耗品を無断で持ち帰り、ネットオークション等で売りさばく手口があります。
このような場合には、業務上横領罪や窃盗罪が成立します。

会社のカードのポイントを私用で使った

会社から支給されているクレジットカードのポイントを私用で使った場合に、業務上横領罪が成立するのかについて、疑問に思う人が多いようです。

実は、このケースについては、成立するともしないとも断言できません。
というのも、ポイントは財物ではないという解釈も存在するからです。

財物は「所有権の目的となり得べき物」と解釈されており、ポイントそれ自体は電磁的記録に過ぎないことから、横領罪の対象でないと評価される可能性は高いです。

しかし、ポイントは金銭等と同じく、客観的な交換価値を有するものであるため、刑法的な要保護性を重視する考え方をとる場合には、異なる結論も否定できません。

なお、社内規則によってポイントの取扱いが定められている場合には、私的に流用すると懲戒処分を受けるおそれがあるため、使う前に会社に確認すべきでしょう。

さらに、ポイントが巨額であった場合には、税法上の問題となるおそれがあります。

会社のマイルを私用で使ったり、自分のカードにマイルを貯めたりした

少なくとも現状においては、原則としてマイルは個人に付与され、法人に与えられることはない仕組みとなっています。

そのため、会社の経費を使った出張によって付与されたマイルであっても、帰属するのは個人であると考えられるため、そのマイルを私的に用いることには、問題のないケースが多いと言えるでしょう。

ただし、社内の規定等によりマイルの用途が制限されている場合には、定められた用途以外に使うと懲戒処分を受けるおそれがあります。

特に公務員の場合には、出張費が税金によって賄われるという事情があるため、付与されたマイルは次回の出張で用いる等の規定が設けられているようです。

業務上横領は必ず逮捕される?

業務上横領を行ってしまっても、必ずしも逮捕されたり、起訴されたりするわけではありません。

横領が会社等の組織の中で行われた場合であって、被害額が少ないケースでは、捜査機関が捜査や逮捕について、積極的に動かないこともあるからです。

被害を受けた会社等も、横領が発生したことが世間に知られると評判が落ちるおそれがあり、刑事罰を与えてもお金が返ってくるわけではないため、民事的な手続きを優先して、刑事事件化することは後回しにすることもあります。

被害者からの被害申告(告訴)により刑事事件化するケースが多い

業務上横領罪は親告罪とされておらず、被害者ではない第三者からの通報で刑事事件化することはあり得ます。

ですが、業務上横領は組織の内部で行われる場合が多いことから、実態としては被害者である会社からの申告によって刑事事件化するケースが多いです。

そのため、横領した金銭を全額返済し、示談を成立させておくことによって、会社が刑事事件化に向けて動くことを防ぎ、逮捕されたり起訴されたりするリスクを減らすことができます。

横領した会社のお金を返済したら逮捕されない?

会社からお金を横領した時点で既遂となるため、その後でお金を全額返済しても、横領の事実は無くならず、罪も消えることはありません。

そのため、被害額を全額返済したら逮捕されないと断言することはできません。

しかし、被害額が返済されていれば、あえて刑事罰を与える必要はないと判断されて、警察が捜査に動かない場合や、検察官が起訴しない場合があります。

仮に起訴されてしまったとしても、全額を賠償しておくことには、量刑を軽くする効果があると考えられます。

刑事事件化する前にできること

会社がまだ刑事事件化に向けて動いていない段階であれば、弁護士による示談交渉により、刑事事件化することを防ぐことができる可能性があります。

横領した金銭を一括で返済することが望ましいですが、一括返済できない場合であっても、分割払いによって返済することを認めてもらうことや、再就職を妨げないように懲戒解雇をしないでもらう等、加害者が自分で要求することが難しい内容についても、弁護士が会社側と交渉することができます。

ぜひお早めにご相談ください。

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逮捕されてからの流れ

業務上横領で逮捕されてからの流れは、こちらで詳しく説明します。

逮捕された時の流れを解説

業務上横領に執行猶予は付く?

業務上横領は、基本的に被害額が大きくなる傾向にある犯罪であり、実刑となるリスクは低くありません。

そのため、執行猶予を付けてもらうためには、会社との示談を成立させること、あるいは被害弁償を行っておくことが極めて重要です。

500万円以上なら実刑?横領した額は刑の重さに影響あるの?

噂話としては色々な金額が目安として挙げられていますが、裁判においては様々な要素が考慮されるため、一概にいくらが目安であるとは言えません。

被害額が数百万円であれば、反省の意を示して全額を返済することで、執行猶予が付く可能性があります。

しかし、被害額が数千万円に達すると、全額を返済することの困難さが増し、将来的にも返済される見込みはほとんどないと認定される等して、執行猶予が付く可能性は相当低くなると考えられます。

横領した額が少額の場合

横領した金額が数千円や数万円の場合には、警察で微罪処分となるケースや、検察官により起訴猶予処分となる可能性が考えられます。

とはいえ、少額であれば起訴されないと決めつけて良いわけではありません。

起訴を免れるためには、動機が悪質でなく、深く反省しており、被害額を全額返済している等の条件が揃っていることが望ましいと言えるでしょう。

当然ながら、刑事罰を受けるリスクが低いからといって、少額ならば横領しても良いということにはなりません。

仮に刑事罰を受けなかったとしても、金銭に関する不正に対しては、懲戒解雇処分が有効とされる場合が多いため、職を失い、再就職も難しくなってしまいます。

示談の際には遅延損害金や迷惑料等を上乗せして支払う場合もあり、決して得をすることはありません。

量刑に影響を与えるその他の要素

業務上横領は、横領した金額の他にも、刑の重さに影響を与える要素があります。

どのような要素があるのかについて、以下で解説します。

横領行為をした動機

横領した動機によって、量刑が変わる場合があります。

遊興費に使った場合や分不相応な生活を維持するために使った場合、愛人にお金を与えるために使った場合等には、同情の余地はないとされて量刑が重くなる傾向があります。

一方で、会社が用意してくれた経費が足りなかったために穴埋めした等、私的な目的ではなかった場合等には、情状酌量の余地があると認められ、量刑が軽くなる可能性があります。

社会的影響

横領によって生じた社会的影響によって、量刑が変わる場合があります。
会社等で横領事件が発生すると、会社の内部統制に疑問を持たれてしまい、社会的な評価が下がってしまうおそれがあります。

また、横領が行われたのが銀行の内部であったり、横領したのが弁護士や司法書士等の社会的信頼の高い立場の者であったりした場合には、判決で社会的影響の大きさについて言及される場合があり、量刑が重くなる要素であると考えられます。

被害者との示談は成立しているか

横領は財産犯であることから、裁判にあたって、被害者との間に示談が成立していることは重視されます。

特に、被害を全額弁済したことは、量刑を軽くしたり、執行猶予が付けられたりするための、大きな要因として扱われているようです。

判決の時点で全額の返済が実現していなくても、分割払い等によって全額の返済が行われる見込みがあれば、執行猶予の判断に影響を与えるケースもあるようです。

親族間でも業務上横領罪は成立するの?

刑法244条に、親族相盗例という規定が設けられています。

これは、家庭内の問題は家族で解決すべきという考え方によるもので、一定の条件に当てはまる親族間の犯罪については、その刑を免除したり、親告罪として扱ったりするというものです。

刑法255条により、この規定は業務上横領罪についても準用されています。

この規定によって、親族経営の会社のお金を横領した場合等には罪が免除されるようにも思えますが、この場合には親族相盗例は適用されず、業務上横領罪が成立すると考えられます。

なぜなら、横領の被害者はあくまでも法人である会社であり、家族である個人ではないからです。

損害賠償請求のおそれも。まずは弁護士にご相談を

業務上横領は、刑事罰を受けるリスクがあるだけでなく、損害賠償請求を受けるリスクもあります。

会社側から民事上の請求を受けた場合には、弁護士にご相談ください。
加害者が直接交渉すると、感情的な対立により交渉が難航したり、被害額の数倍の金銭を請求されたりするおそれがあります。

場合によっては、会社側の報復感情が高まり、刑事事件化されてしまうかもしれません。
そのような事態に陥る前に、ぜひ弁護士にご相談ください。

業務上横領は弁護士による弁護活動が必要です

業務上横領を行ってしまった場合には、弁護士にご相談ください。
まだ刑事事件化しておらず、裁判になっていない段階でも、会社との交渉等の弁護活動が必要です。

会社との交渉次第では、刑事事件化することや懲戒解雇処分を防ぐことができる場合があり、もし刑事事件化してしまっても、示談が成立していれば起訴されなかったり、起訴されて有罪となっても執行猶予が付いたりする等、社会生活の継続が可能となることが期待できるケースもあります。

実刑判決を受けて刑務所に収監されてしまうと、社会復帰が困難となり、今後の人生に大きな影響を及ぼすおそれがあります。刑事事件は早期の対応が重要ですので、ぜひお早めに弁護士にご相談ください。

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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)

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