執行猶予とは?違いや注意点を解りやすく解説します

執行猶予とは?違いや注意点を解りやすく解説します

監修
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治 弁護士法人ALG&Associates

罪を犯して起訴されてしまった場合、刑務所に入れられて社会から隔離されてしまうのではないかという恐怖や、不安を覚えるかもしれません。

しかし、刑の全部に執行猶予が付けば、新たな罪を犯さないかぎり刑務所に収監されずに済みますので、懲役刑や禁錮刑を受ける場合には執行猶予の獲得を目指すべきです。

ここでは、執行猶予とは何か、執行猶予を獲得するメリット、執行猶予が付けられた際に気を付けるべきこと等について解説します。

執行猶予について

執行猶予とは、判決により定められた期間について、被告人を刑務所へ収監することを猶予し、その期間に新たな罪を犯すことがなければ、刑の言い渡しの効力が失われるという制度です。

刑務所に収監することによって被告人の更生を図るという方法ではなく、社会生活に復帰させることによって更生を促しつつ、再び罪を犯さないようにすること等を目的として設けられています。

刑の一部執行猶予制度とは

現在では、刑の一部執行猶予という制度があります。

これは、実刑が相当である罪を犯した被告人について、施設内処遇(刑務所の中での処遇)と社会内処遇(社会の中での処遇)を連携することで、再犯を防止すること、および改善更生を図ることを目的とした制度です。

この制度は、薬物に関する罪を犯した者や、窃盗を行ったクレプトマニア(窃盗を繰り返してしまう精神障害)の者等のケースで有用だと考えられて導入されました。

現在でも、同様の趣旨で仮釈放という制度を利用することが可能です。

しかし、仮釈放の期間は短いケースが多いため、刑の一部執行猶予によって十分な期間を設けることができるメリットがあります。

執行猶予と懲役・実刑の違い

懲役刑は、刑務所に収監されて刑務作業を強制される刑罰です。

なお、禁錮刑の場合には、刑務所に収監されますが刑務作業は強制されません(受刑者が自ら申し出て作業を行うことは可能です)。

執行猶予は、懲役刑等が一定の期間猶予され、その猶予期間が無事に経過すれば、刑の言い渡しの効力が消滅して懲役刑等を受けずに済む制度です。

執行猶予の付いていない懲役刑・禁錮刑が実刑であり、実刑判決が確定するとすぐに刑務所に収監されます。

執行猶予の考え方

例えば、懲役2年・執行猶予4年という判決を受けた場合には、直ちに刑務所に収監されることはなく、逮捕される前と同様の社会生活を送ることができます。

そして、4年の執行猶予期間中に再び罪を犯す等の行為がなければ、刑の言い渡しの効力が失われます。

しかし、4年の間に再び罪を犯す等の理由で執行猶予が取り消されれば、新たに言い渡された刑罰に加えて、前回の裁判で言い渡された懲役2年の刑罰も受けることになります。

執行猶予の期間について

執行猶予の期間は完全に裁判官の裁量で決定されるわけではなく、1年以上5年以下と定められており、重い罪を犯した者に対して何十年も付けることはできません。

これは、執行猶予が、罪を犯した者に短期間の懲役刑等を与えることによって生じる弊害に配慮する趣旨であること等が関係していると考えられています。

なお、執行猶予の期間は個別の事情により決められますが、懲役や禁錮の期間よりも短くなることはほとんど無いと考えられます。

日常生活に制限はあるか

懲役刑や禁錮刑に執行猶予が付けば、刑務所に収監されないため様々なことが自由になりますが、前科が付くことに変わりはありません。

以下で、執行猶予付きの有罪判決を受けた場合の影響について解説します。

仕事・就職への影響

執行猶予期間であっても、仕事・就職に制限が加わることは原則的にありません。

ただし、弁護士や医師や公務員等の職種では、必要な資格の取得が制限されたり資格を剥奪されたりするケースもあるため、前科が付いている者は就職できなかったり、解雇されたりする場合があります。

また、警備や金融等の業種では、これまでの経歴等を詳しく調べられることがあり、前科があることが判明した場合には採用されないおそれがあると言われています。

公務員の場合
公務員に関して、「禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることができなくなるまでの者」は公務員になることができなくなるため、実刑判決または執行猶予判決を受けると、判決の確定時に自動的に失職します。
そして、執行猶予の期間が満了するまで公務員にはなれません。なお、罰金刑の場合には該当しません。

就職時に申告は必要か
就職時に執行猶予期間中であることを申告する義務は、原則的にありません。
ただし、履歴書に賞罰欄がある場合には、罰を記入する欄に、刑の言い渡しの効力が消えていない前科を記入する義務が生じます。

海外旅行

旅券法は、「禁固以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることができなくなるまでの者」については、パスポートを取得することができず、海外旅行ができない場合もあります。

また、執行猶予期間が終わって刑の言い渡しの効力が消滅したとしても、前科が付いたことは変わらないため、ビザの取得に影響を与えるおそれがあります。

なぜなら、ビザの取得の際には、犯罪歴に関する書類を提出する必要があるからです。

とはいえ、「前科があれば必ずビザが取得できない」というわけではないので、執行猶予期間が終わっていれば海外旅行が可能であるケースもあります。

引っ越し

執行猶予期間中であっても、引っ越しをするのは原則的に自由です。

ただし、保護観察付執行猶予である場合には注意が必要です。

この判決を受けた者は、住所地を管轄する保護観察所に手続きをして、保護観察官や保護司の指導や監督を受けることになるからです。

そのため、引っ越しをする際には保護観察官等に報告して、許可を取らなければならないケースもあります。

ローンは組めるか

執行猶予中であることは、ローンを組めるか否かに直接的な影響を与えません。

通常であれば、金融機関がローンを申し込んだ者の犯罪歴等を確認することはなく、ローンを組む際に執行猶予期間中であることの申告義務があるわけでもないため、金融機関が執行猶予期間中であることを知る機会はほとんどありません。

ローンを組めるか否かについては、あくまでも、年収や資産状況等が審査の対象です。

弁護士への依頼で執行猶予が付く可能性が上がります

執行猶予が付くことで、刑務所に収監されずに済むことによる利益はとても大きなものです。

弁護士にご依頼いただければ、被害者との示談を成立させる等の弁護活動を行い、執行猶予を獲得できる可能性を高めることができますので、ぜひ弁護士にご相談ください。

執行猶予を付ける条件

執行猶予を付けてもらうためには、少なくとも、「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」の範囲内であることが必要です。

しかし、この条件に合致すれば必ず執行猶予が付くというわけではありません。

まず、罰金刑に執行猶予が付くことはほとんどありません。

そして、3年以下の懲役刑や禁錮刑であっても、様々な事情を考慮して、執行猶予を付けるか否かが判断されます。

執行猶予を付けてもらうためには、犯行の悪質性が低い、初犯である、深く反省しており再犯のおそれがない、被害者との示談が成立している等の事情を裁判官に訴えて考慮してもらう必要があります。

取り消される場合について

執行猶予の付いた判決を受けたとしても、執行猶予期間中に再び罪を犯して実刑判決を受けてしまった事例等では、必ずその執行猶予は取り消されます。

また、執行猶予期間中に新たな罪を犯してしまい、それによって罰金刑を受けた事例や、保護観察付執行猶予とされた者が遵守事項(皆が守るべき一般遵守事項と、ギャンブル禁止等の特定の者が守るべき特別遵守事項)を守らず、違反の程度が重大な事例等では、検察官が裁判所に対して執行猶予の取消を請求することができます。

請求を受けた裁判所は、様々な事情を考慮して執行猶予の取り消し決定を出すか否かを決定します。

なお、執行猶予期間中でも、新たな裁判の判決が1年以下の懲役刑もしくは禁錮刑である等の要件を満たせば、再度の執行猶予が付けられて、刑務所への収監を免れることができる可能性があります。

執行猶予が取り消されたら

執行猶予が取り消されると、直ちに刑務所に収監されます。

そして、執行猶予期間中に新たな罪を犯してしまい、実刑判決を受けたために取り消された場合には、執行を猶予されていた罪と合わせて刑罰を受けることになります。

例えば、懲役2年・執行猶予4年の判決を受けた者が、4年経過しないうちに懲役1年の実刑判決を受けてしまうと、前回の2年間の懲役と新たな1年間の懲役を合わせた3年間の懲役刑を受けてしまうのです。

この例において、「執行猶予の期間の半分である2年が経過していれば、前の懲役の期間が半分の1年に短縮される」といったことはなく、期間は2年のままです。

それぞれの期間が短くても、合算するとそれなりの期間になることがお分かりいただけるでしょう。

どのような状況であっても犯罪を行うべきではないことに変わりはありませんが、執行猶予の付いた判決を受けることができた場合には、新たな罪を犯すことがないように、特に注意して自身を律する必要があります。

逮捕後72時間以内弁護活動が運命を左右します

刑事弁護に強い弁護士が迅速に対応いたします。
逮捕直後から勾留決定までは弁護士のみが面会・接見できます。ご家族でも面会できません。

執行猶予を付けてもらう方法はある?

初犯である場合や法定刑が短い罪を犯した場合であっても、必ず執行猶予が付けられるわけではありません。

以下では、執行猶予を付けてもらえる可能性を高めるための方策を説明します。

被害者との示談交渉

被害者が存在する犯罪の場合には、被害者との示談を成立させることが、執行猶予の獲得のために極めて重要です。

特に、示談が成立したことにより、加害者を許すという記載や加害者を罰することを望んでいないという記載を示談書に盛り込むことができれば、当該内容を裁判所に考慮してもらうことができ、執行猶予判決を獲得できる可能性が高まります。

しかし、示談交渉は、加害者やその親族が行うと、感情的な対立に発展する等のリスクが生じます。そのため、示談交渉は弁護士に任せるべきでしょう。

被害弁償・贖罪寄付

被害者の処罰感情が強い場合には、慰謝料等を受け取ってもらえないおそれがあり、示談の成立が困難になってしまいます。

そこで、示談を成立させられない場合に可能な手続きについて解説します。

その1つが被害弁償です。これは、加害者が被害者に与えてしまった損害に相当する金銭を支払うことで、被害を回復するものです。

被害弁償金を支払えば、示談の成立ほどではないものの、執行猶予が付く可能性があります。

また、贖罪寄付という制度もあります。
日弁連(日本弁護士連合会)等に改心する気持ちがあることを表すための寄付を行うことで、裁判所に情状に関する事情として考慮してもらえる可能性があります。

監督人がいることの主張

再び罪を犯してしまわないように、被告人には監督する人が存在していることを主張するのは、執行猶予を獲得するためにとても有益です。

再犯のおそれが高いのであれば、裁判所が執行猶予を付けてくれる可能性は低くなります。

そこで、家族や雇用主等が、被告人が社会に戻った後でも再び罪を犯さないように監督し、更生を支援してくれるのであれば、再犯のおそれが低くなると考えてもらえる可能性が高まります。

執行猶予を付けるために弁護士が交渉致します

懲役刑や禁錮刑を免れたいのであれば、執行猶予を獲得することは極めて重要です。

弁護士は、ご依頼者様のために執行猶予を獲得するための活動を行い、今までと同様の社会生活を送ることができるように尽力いたします。

執行猶予についてよくある質問

以下では、執行猶予についてよくある質問についてご説明いたします。

なぜ罪を犯しているのに執行猶予という制度があるのですか?

一般的に、罪を犯した者は刑務所に入れて更生させるべきである、と考えられています。

しかし、刑務所に入ることによって再犯を防止できるとは限らないケースがあります。

例えば、懲役刑や禁錮刑を受けた者を短期間だけ刑務所に収監すれば、再就職の困難さが増す等の影響が生じて更生が難しくなり、犯罪を繰り返してしまうおそれがあります。

他にも、刑務所で犯罪組織の一員と接点を持ったこと等により、悪い影響を受けるおそれも否定できません。

そのため、執行猶予を付け、社会生活を送ることによって更生する制度が必要なのです。

執行猶予中に逮捕された場合は、逮捕された時点で執行猶予取消しとなりますか?

逮捕されても、それだけを理由として、直ちに執行猶予が取り消されるわけではありません。

例えば、執行猶予期間中に罪を犯して実刑判決を受けたケースでは、必ず取り消されることになります。

しかし、判決を受ける前に執行猶予期間が経過すれば、逮捕されたのが執行猶予期間中であったとしても、前回の刑の言い渡しの効力は消滅することになり、執行猶予を取り消されることはありません。

ただし、刑の言い渡しの効力が消滅しても、執行猶予期間中に新たな罪を犯したという事情は、新たな罪の量刑を重くする効果を生じさせるおそれがあります。

懲役以外でも執行猶予が付く刑罰はありますか?

懲役刑や禁錮刑以外にも、50万円以下の罰金刑に対しても執行猶予が付けられる可能性があります。

ただし、実務上では、罰金刑に対して執行猶予が付けられるのはレアケースであるとされています。

懲役刑や禁錮刑に執行猶予がつけば、執行猶予期間中に罪を犯し刑務所に収監されることを避けるために、再犯をしないように努めるのが通常です。

罰金刑に執行猶予を付けても、そのような抑止効果は乏しいと考えられるからです。

何事もなく執行猶予期間を終えた場合、前科は消えることになりますか?

執行猶予期間が満了すれば、刑の言い渡しの効力は消滅しますが、それによって前科が消えるわけではありません。

そのため、前科の記録は警察や検察、市区町村に残り続け、ビザの取得等に悪影響を及ぼすおそれがあります。

とはいえ、執行猶予期間が終わって刑の言い渡しの効力が消滅すれば、公務員や弁護士等になるための障害が取り払われる等、多くのメリットが生じることも確かです。

前科がつくとどうなる?

執行猶予を付けたいなら弁護士へ早めのご相談を!

罪を犯して逮捕されたり、起訴されたりしてしまった場合には、すぐに弁護士にご相談ください。

「軽い罪だから執行猶予が付くだろう」という考えは危険です。実刑判決を受けて刑務所に収監されてしまうと、たとえ数ヶ月であったとしても、今後の人生への悪影響は計り知れません。

刑事事件に詳しい弁護士であれば、早期に被害者との示談交渉等の活動を行い、実刑判決を受けてしまうリスクを最小限に抑えることができます。

弁護士法人ALGに所属している弁護士は、刑事事件において数多くの執行猶予判決を獲得した実績がありますので、ぜひ弊所の弁護士にご相談ください。

逮捕後72時間以内弁護活動が運命を左右します

刑事弁護に強い弁護士が迅速に対応いたします。
逮捕直後から勾留決定までは弁護士のみが面会・接見できます。ご家族でも面会できません。

監修

監修 : 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治 弁護士法人ALG&Associates

保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)

プロフィールを見る

緊急で無料法律相談受付

60分無料法律相談(24時間予約受付)