商標法違反で逮捕される?罰則や流れ、対処法など弁護士が解説
商標登録されたロゴやマークを無断で使用すると、「商標法違反」に該当し、逮捕される可能性があります。
実際に、「知らなかった」「似ているだけ」といった言い訳では済まされず、商標権侵害として刑事責任を問われるケースも少なくありません。
この記事では、商標法違反による逮捕のリスクや罰則の内容、逮捕後の流れ、そして違反してしまった場合の適切な対処法について、弁護士がわかりやすく解説します。
商標権をめぐるトラブルを未然に防ぎたい方や、すでに警察から連絡が来て不安を感じている方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
商標法違反とは
商標法違反とは、登録された商標に関する商標権を侵害する行為を指し、刑事罰の対象となる場合があります。
商標は、商品やサービスの出所を識別するための標識(マーク、ロゴ、文字、図形など)であり、特許庁に登録することで「商標権」が発生します。
商標権者には、次の2つの主要な権利が認められます。
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専用権
登録した商標を独占的に使用できる権利 -
禁止権
登録した商標を他者が無断で使用するのを防げる権利
他人の登録商標や類似商標を、商標権者の許諾なく業として使用する行為は、商標権侵害に該当し、刑事罰の対象となることがあります。
ただし、商標法違反は原則として故意犯であり、侵害の意思がない単なる偶然の一致では成立しません(商標法第78条等)。
商標法違反で逮捕される可能性はある?
刑事事件において、商標法違反は逮捕される可能性がある犯罪です。
特に、「証拠隠滅や逃亡のおそれがある」と判断された場合は、警察が逮捕に踏み切る可能性が高いです。
場合によっては、勤務先や自宅に対して家宅捜索が行われることもあります。
犯行態様が悪質であると判断されれば、実刑判決が下されるケースもあるため、早急な対応が必要となります。
逮捕の種類について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
商標法違反で逮捕される具体的な事例
商標法違反で逮捕される具体的な事例には、以下のようなケースが挙げられます。
- 他者の商標を無断で商品や広告などに使用した場合
- 他者の商標と類似する商標を使用した場合
- 偽ブランド品と認識したうえで、商品を輸入または輸出した場合 など
特に注意すべきなのは、準備段階でも処罰の対象となる可能性がある点です。
たとえば、偽ブランドのラベルを大量に仕入れた時点で摘発されることもあります。
このような、「他者の商標を無断で利用するための準備をした場合」も商標法違反となります。
また、商標が類似しているかどうかは、消費者が誤認または混同するおそれがあるかという観点から判断されます。
そのため、見た目や読み方、意味が他者の商標と似ていれば、たとえ完全に同じでなくても、違反とみなされる可能性があります。
「故意」でない場合は商標法違反にはならない
商標法違反は、基本的に故意(=意図的に他者の商標を使用する)がなければ成立しません。
そのため、自分が使用したロゴやマークが他者によって登録された商標とは知らずに使用した場合は、原則商標法違反に問われません。
しかし、誰でも知っているような有名ブランドのロゴと明らかに酷似しているロゴを使用していた場合は、いくら「知らなかった」と主張しても、故意があったと認定される可能性が高いです。
また、過去に警告を受けていたのにもかかわらず使用を続けていた場合なども、故意があると判断されやすいです。
商標法違反が成立する可能性のある罪・罰則
商標法違反に該当する行為を行った場合、以下のような罪に問われる可能性があります。
- 商標法違反
- 不正競争防止法違反
- 詐欺罪
これらの罪は、単独で適用されるだけでなく、併合して処罰されることもあります。
以下で、罪の概要や罰則を詳しく解説していきます。
商標法違反
商標法違反が成立すると、以下のような罰則が科せられます。
【罰則(個人の場合)】
10年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金または併科
【罰則(法人の場合)】
3億円以下の罰金刑
また、「偽ブランドの包装資材を仕入れる」「模倣品の製造準備をする」などの商標権を侵害する準備行為を行った場合も、商標法違反に問われる可能性があります。
準備行為が商標権を侵害する行為と判断された場合には、以下のような罰則が科せられます。
【罰則(準備行為)】
5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金または併科
なかでも、営利目的で行為を繰り返している場合は、悪質性が高いと判断され、実刑判決が下される可能性が高いです。
不正競争防止法違反
不正競争防止法違反は、企業や個人が競争上不公正な手段を使用して利益を得ようとする行為を行った場合に成立します。
商標法と不正競争防止法は、いずれも知的財産権の保護を目的とする法律であり、不正競争防止法は、他者の営業上の信用や利益を不当に害する行為を取り締まっています。
そのため、商標に関する行為も対象となる場合があります。
【該当する行為の例】
- 他者の有名ブランドやロゴを模倣して商品に使用する
- 他者の商品やサービスと誤認させるような表示を行う
- 他者の営業秘密を不正に持ち出す など
不正競争防止法違反の罰則は、行為によって異なりますが、他者で人気の商品を模倣して販売する行為は、「形態模倣行為」とみなされ、以下の罰則が科せられます。
【罰則(個人の場合)】
5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金または併科
詐欺罪
他者の商標権を侵害する行為は、商標法違反と詐欺罪の両方の罪に問われる可能性があります。
たとえば、偽ブランド品などを本物だと偽って販売した場合などが挙げられます。
このような行為は、購入者を欺く行為と判断されるため、詐欺罪が適用される可能性があります。
詐欺罪とは、「人を欺いて財物を交付させた者」に適用される犯罪で、以下のような行為が該当します。
- 偽物の商品を正規品だと偽り販売した
- 偽物であることを知りながら、その説明を省略して販売した
- 偽物であるにもかかわらず、正規品と同等の価格で取引した など
詐欺罪では、以下の罰則が科せられます。
【罰則】
10年以下の拘禁刑
商標法違反と詐欺罪が成立すれば、併合罪となり、罰則は重い方の1.5倍に加重されます。つまり、詐欺罪の罰則×1.5=最大で15年以下の拘禁刑が科せられる可能性があるということです。
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商標法違反で逮捕された後の流れ
商標法違反で逮捕されると、主に以下のような流れで手続きが進みます。
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逮捕
警察署に連行されて、身柄を拘束されます。 -
留置、取り調べ
警察官や検察官による取り調べが行われます。
通常、逮捕されてから48時間以内に事件の資料と身柄が検察に引き継がれ、それから24時間以内に検察官は身柄拘束を継続するかどうかの判断を下します(勾留請求)。 -
勾留請求
検察官が裁判所に勾留請求を行い、これが認められると、まず10日間の勾留が実施されます。
勾留はさらに10日間の延長が可能です(最大で20日間)。 -
起訴・不起訴の判断
勾留満了日までに、検察官は起訴・不起訴の判断を下します。 -
刑事裁判
検察官が起訴した場合は、刑事裁判が開かれ、裁判官によって有罪・無罪の判断が下されます。
初犯の場合は執行猶予がつく?
商標法違反で逮捕されても、初犯であれば執行猶予がつく可能性があります。
ただし、執行猶予は必ず認められるわけではなく、犯行態様や被害弁償の有無などの事情が考慮され、総合的に判断されます。
執行猶予がつく可能性があるのは、以下のような事情がある場合です。
- 初犯である
- 被害者との示談が成立している
- 被害弁償が済んでいる
- 反省の意思が明確に示されている など
一方で、「営利目的で行為を繰り返し行っていた場合」や「被害額が大きい場合」などは、初犯でも実刑判決が下される可能性が高いため、注意が必要です。
商標法違反の時効について
商標法違反には「時効」があり、侵害の内容によってその期間が異なります。
【商標法違反の公訴時効】
- 専用権侵害 ➡ 7年
- 禁止権侵害 ➡ 5年
刑事事件における時効とは、公訴時効を指します。これは、違法行為が終わってから一定期間が経過すると、検察が起訴できなくなる制度です。
つまり、商標法違反で刑事責任を問われるには、時効が成立する前に起訴される必要があります。
また、商標法違反は刑事責任だけでなく、民事上の損害賠償責任も発生します。民事の時効は以下の通りです。
- 損害と加害者を知った時から3年
- 侵害行為から20年(いずれか早い方)
商標法違反をしてしまった場合の対処法
商標法違反をしてしまった場合は、以下のような対処法が有効です。
- 早急に弁護士に依頼する
- 被害者と示談交渉する
商標法違反の可能性に気付いた場合や、逮捕された場合には、早急な対応が必要となります。
では、対処法について詳しく解説していきます。
早急に弁護士に依頼する
早急に弁護士に依頼すれば、商標権侵害の有無を法的に判断してもらえ、法的サポートを受けられます。その他にも、以下のようなメリットがあります。
<弁護士に依頼するメリット>
- 自首の同行や警察・検察に対する対応について、アドバイスをもらえる
- 逮捕直後から面会(接見)できるため、早急に弁護方針を構築できる
- 必要に応じて保釈請求を行ってもらえる
- 被害者との示談交渉を進めてもらえる
- 家族や職場とのやり取りを代わりに行ってもらえる など
刑事事件は、起訴・不起訴の判断まで想像以上に早く手続きが進んでいくため、初動の対応がその後の刑事処分の判断に大きく影響します。
スピード感をもって弁護活動を行う必要があるため、刑事事件に精通した弁護士に依頼することが大切です。
被害者と示談交渉する
商標法違反に限らず、被害者が存在する刑事事件では、被害者との示談成立が不起訴処分や執行猶予付き判決獲得への大きな一歩となります。
ただし、被害者は、加害者に対して強い処罰感情を抱いている場合が多く、加害者との接触を拒否する傾向にあります。
特に、法人が被害者となる場合には、個人と比べて示談交渉が難航しやすいため、弁護士による交渉が不可欠となるでしょう。
また、「被害額が大きい場合」や「国や行政が商標権者である場合」なども、示談交渉が難航する可能性が高いです。
被害者との示談交渉が難しい場合には、犯行態様に悪質性がない点などを客観的に証明することで、刑事処分が軽くなる可能性があります。
このような、有利となる事情を適切に主張かつ立証するには、商標法違反を得意とする弁護士に依頼されることをおすすめします。
商標法違反に関する判例
【事件番号:昭和40年(あ)第1055号/最高裁判所第三小法廷 昭和41年10月25日判決】
<事件の概要>
被告人は、時計用の文字版やケース、バンドなどが指定商品として登録商標された品を密輸入して製造販売を行っていました。
被告人は、当然それらの商標権者ではなかったため、起訴されました。
<裁判所の判断>
裁判所は、登録商標された品が、密輸入品のように法の禁止する手段によって得られたものであっても、その商標権または専用権は保護されるべきだと判断しました。
そのため、それらの品を使用して製造販売する行為は、商標法違反となる旨の判決を下しました。
密輸入品であっても、商標権の保護対象となるという判決内容は、商標法の適用範囲をより明確にしました。
この判例は、特に知的財産権の保護に関する実務において、商標権者の権利が広く認められることを示すものとなりました。
商標法違反で逮捕された・逮捕されそうな場合は早急に弁護士法人ALGにご相談ください
商標法違反は、他者の商標権を知らずに侵害してしまった場合でも、逮捕や起訴される可能性があります。
誤った対応を行えば、逮捕や起訴の可能性が高まり、社会的信用や生活基盤を大きく失うことにつながります。
不当な逮捕を避け、不起訴処分や執行猶予付き判決の獲得を目指すには、早期段階から弁護士による法的サポートを受けることが大切です。
弁護士法人ALGには、刑事事件に精通した弁護士が複数在籍し、商標法違反についても対応可能です。
「商標法違反の疑いで逮捕された」「警察から連絡が来た」「商標権を侵害したかもしれない」など、少しでも不安がある方は、弁護士へお気軽にご相談ください。
