電車やバス内での痴漢で逮捕されたら
日本の都市部では、公共交通機関が混雑しており、特に通勤・通学の時間帯には、満員になってしまうことが常態化しています。
それが原因となって発生しやすくなっている犯罪が痴漢行為であり、多くの女性が被害に遭っているという調査結果があります。
さらに、男性の被害者も珍しくないという報告もあります。
ここでは、電車等の公共交通機関における痴漢について解説します。
目次
満員電車・バスで痴漢になる行為
痴漢という言葉から、男性が女性の胸やお尻を、掌で触る行為をイメージする人も少なくないでしょう。
確かにそのような行為は痴漢に該当しますが、実際には、より幅広い行為が痴漢に該当します。
以下で、痴漢の手口について解説します。
衣服の上から触る
衣服の上から身体を触る痴漢行為は、都道府県の迷惑防止条例違反となる場合が多いです。
触り方が悪質な場合には、強制わいせつ罪が成立する場合もあります。
加害者が、故意に衣服の上から触る場合には、偶然の接触を装うことがあります。
被害者が事故や勘違いの可能性を考えて、抵抗しない場合があるからです。
それに成功する体験を繰り返すと、エスカレートして、執拗に触ったり、衣服の中に手を入れるようになったりするケースがあります。
迷惑防止条例違反については、以下の記事で詳しく解説しています。
迷惑防止条例違反とは?下着の中に手を入れる
下着の中に手を入れ、陰部等を直接触る痴漢行為は、強制わいせつ罪に該当します。
このような行為に及ばれると、被害者も被害を受けていることを認識できる場合が多いのですが、加害者からの報復を恐れていたり、自身の落ち度について他者から責められることを恐れていたりする等の理由で、被害の申告がされない場合も多いです。
強制わいせつ罪については、以下の記事で詳しく解説しています。
不同意わいせつ罪(強制わいせつ罪)とは押し付け行為
手の甲や腕や下半身等を、他者の衣服の上から押し付ける等の行為は、押し付け痴漢と呼ばれます。
このような行為は、迷惑防止条例違反になる場合があります。
掌で触っていないから犯罪ではないと思っている人もいますが、東京都の迷惑防止条例(正式名称は「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」)は、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、または人に不安を覚えさせるような行為を禁じており、その1つとして「衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れる」ことを禁じています。
そのため、掌を使わず、被害者の衣服の上からであっても、迷惑防止条例違反に該当します。
当たっているのにどかさない
満員電車で、揺れた際に、近くの女性に身体がぶつかってしまうことがあります。
それ自体は故意ではないため、犯罪ではありませんが、接触したことに乗じて、いつまでも手等をどかさずにいれば、それは犯罪になります。
この場合には、迷惑防止条例違反となります(ただし、その行為が悪質な場合、強制わいせつ罪が成立する可能性もあります)。
このような事故を成功体験であると認識し、痴漢行為を繰り返すようになってしまう加害者もいると言われています。
その他
近年になって、iPhoneの機能を悪用した「AirDrop痴漢」と呼ばれる手口が急増しています。
これは、AirDropという、iPhoneで画像をやり取りするための機能を使い、公共交通機関等において、見知らぬ相手に卑猥な画像を送りつけて、それを見た相手の反応を楽しむという手口です。
他にも、臭いを嗅いだり、息を吹きかけたり、不必要に接近した位置に長時間立ったりする等、「触らない痴漢」と呼ばれる手口が増えてきています。
これらも、行為態様によっては、迷惑防止条例違反となることがあります。
痴漢とは
痴漢とは、公共交通機関の車両内で、女性の体を触る、性器を押し付ける等の猥褻行為を行う男性を指し、そこから猥褻行為そのものを指す言葉にもなりました。
なお、痴漢行為の加害者は男性に限らず、女性が加害者になる場合もあります。
痴漢については、以下の記事で詳しく解説しています。
痴漢・迷惑防止条例違反痴漢で逮捕された場合について
勾留されるケースは少ない
痴漢で逮捕された場合に、勾留されるケースは少なくなってきています。
検察統計には、「地方公共団体条例(公安条例及び青少年保護育成条例以外の条例)」という罪名があり、その大部分は迷惑防止条例違反であると考えられますが、2019年における本罪の被疑者の総数は9279名であり、うち逮捕された者が4384名(全体の47.2%)、勾留された者が1654名(全体の17.8%)です。
痴漢冤罪が社会問題となり、拘束期間が長期に及ぶことが問題視されるようになったことや、迷惑防止条例違反である場合には、初犯であれば罰金刑となる場合も多く、長期間勾留することはバランスを欠いている、と考えられるようになってきたことが理由として挙げられます。
冤罪を主張することはできる?
社会情勢の変化により、痴漢行為は悪質な犯罪であると考えられるようになりましたが、その反面で、痴漢冤罪も問題視されるようになってきました。
そのため、捜査機関も慎重に捜査を行うようになってきており、証拠が被害者の曖昧な証言だけである場合等には、逮捕しないケースも増えてきています。
また、逮捕したとしても、長期間の勾留を行わないようになってきたと言われています。
しかし、第三者の目撃証言がある等、逮捕された者が犯人であることが明らかであるにもかかわらず、不合理な否認に終始した場合、証拠隠滅のおそれがあると判断され、逮捕されるリスクや勾留されるリスクが高まります。
逮捕後勾留され、勾留延長がなされると、最大で23日間も拘束されてしまいます。
在宅事件となった場合でも、起訴されれば前科が付きます。その前に弁護士へご相談ください
本当に痴漢を行っていたのに、逮捕されない場合があります。
それによって、無罪になったと勘違いをしてしまう方もいるのですが、実際には在宅事件として捜査が続いており、起訴される場合があります。
日本の裁判では、起訴されると99%は有罪になると言われており、有罪判決を受けると、罰金刑であっても前科が付いてしまいます。
そのため、逮捕されなかったとしても、弁護士に依頼することをおすすめします。
前科が付くことによるデメリットについては、以下の記事で詳しく解説しています。
前科がつくデメリット逮捕後72時間以内の弁護活動が運命を左右します
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電車やバスで、痴漢行為により逮捕されたら
痴漢で逮捕されてしまったら、とても動揺するでしょう。
冤罪である場合の対応について、また、魔が差して本当に痴漢をしてしまった場合の対応について、以下で解説します。
やっていなければ絶対に自白しない
痴漢で逮捕されたものの、それが冤罪である場合には、決して自白してはなりませんし、「手が当たったかもしれません」などという、自白をしたかのように誤解されかねない発言もしてはなりません。
日本の刑事訴訟法上、任意にされた自白は直接証拠となります。
被害者や周囲から責められたり、警察から追及されたりしたからといって、冤罪を生みかねない自白をしてはなりません。
被害者と示談交渉する
本当に痴漢を行ってしまった場合には、心から反省し、被害者に謝罪するべきです。
不合理な否認をすると、逮捕されて長期間の勾留を受ける場合があります。
また、有罪判決を受けた際に、量刑が重くなるリスクもあります。
被害者とは、早期に示談することが重要です。
起訴される前に示談を成立させれば、不起訴処分や起訴猶予処分となり、前科がつかずに済むかもしれません。
なお、性犯罪を繰り返す人は性依存症であるケースもあるため、性犯罪者のための更生プログラムを受けることは、将来のために有益です。
弁護士ができること
被害者と示談交渉をする際には、弁護士にご依頼ください。
通常、性犯罪の被害者は、加害者と再び接触することをおそれているので、面会を申し込んでも断られる確率が高いです。
そもそも、警察は被害者の氏名や連絡先を教えてくれません。
そのため、加害者が自ら示談交渉をすること自体が困難です。
弁護士は、警察等を介して被害者の連絡先を知ることができた場合、示談を申し入れることができます。
その際に、謝罪文を手渡すことや、示談金等の支払いを提案することが一般的です。
もし、被害者との示談を成立させることができ、加害者を許す(宥恕する)という条項を示談書に設けてもらうことができれば、不起訴処分を獲得できるかもしれません。
仮に起訴されてしまっても、示談が成立していれば、量刑が軽くなる効果が期待できます。
早急に弁護士へ依頼しましょう
痴漢で逮捕されてしまったら、ぜひ弁護士へご依頼ください。
刑事事件においては、迅速な対応が重要です。
より早い時点でご依頼いただければ、より有利な解決が可能になりますので、すぐに弁護士へご依頼ください。
電車・バスの痴漢でよくある質問
バスが何度も大きく揺れたため結果押し付けてしまうこととなってしまいました。
バスが揺れたこと等が原因となり、近くにいた人と接触してしまうのは、都市部ではよくあることです。
そのような偶然により、一瞬だけ触れてしまったことは、故意ではないため犯罪にはなりません。
しかし、それに味をしめて接触を繰り返したり、故意に長時間触れたままでいたりすれば、痴漢行為として迷惑防止条例違反になります(ただし、その行為が悪質な場合、強制わいせつ罪が成立することもあります)。
事故による接触がきっかけとなって、痴漢を楽しむようになってしまった加害者もいるため、接触することは極力避けるようにするべきでしょう。
満員電車で、後ろに並んでいた女性から痴漢だと言われてしまったのですが。
示談金を脅し取ることを目的として痴漢事件を捏造したケースも、過去には存在しました。
今後も、このような目的で、明らかに不合理な供述をする者が現れるおそれは否定できません。
痴漢冤罪が社会問題となり、無罪判決が出されるようになってから、捜査機関も痴漢の逮捕等に関して慎重になってきています。
もし被害を捏造されるような事態に陥っても、冷静に自分の主張を貫くことが重要です。
冤罪で逮捕されてしまった場合には、心が動揺してしまうはずですが、決して自白してはなりません。
電車やバスでの痴漢で逮捕されたら弁護士へ
痴漢で逮捕されたら、すぐに弁護士にご相談ください。
冤罪の場合、弁護士は、捜査機関による虚偽自白を防ぐアドバイス等をすることが可能です。
本当に痴漢を行ってしまった場合であっても、被害者との示談の成立を目指して活動しながら、再犯を予防するための提案をすることも可能です。
刑事事件はスピードが大切です。
冤罪である場合はもちろん、本当に犯人である場合にも、今後の人生への影響が軽くなるように対応しますので、ぜひ弁護士にご依頼ください。
