痴漢で逮捕されたら?刑罰や逮捕された場合の注意点について


痴漢の刑罰
強制わいせつ罪
6月以上10年以下の懲役(刑法176条)
公然わいせつ罪
6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料(刑法174条)
迷惑防止条例違反
6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(東京都の場合)
痴漢行為を行って逮捕されてしまったら、これからどうしようかと途方に暮れてしまうことでしょう。中には、闇雲に冤罪を主張してしまう人もいるかもしれません。
しかし、本当に痴漢行為を行っていた場合には、否認しても罪を免れることは容易ではありません。
また、性犯罪には依存性も指摘されており、繰り返してしまう傾向があるため、今後の人生のためにも、早い段階で更生に向けて動くことが大切です。
ここでは、痴漢とは何か、痴漢の刑罰、痴漢で逮捕された場合にすべきこと等を解説します。
目次
そもそも痴漢とは?
痴漢とは、元は「愚かな男」という意味であったと考えられますが、現在では「相手の意に反して卑わいな言動等の性的嫌がらせをする男」という意味になっており、さらに、そのような行為自体を指す言葉としても使われています。
なお、痴漢行為を行うのは男性に限られません。
痴漢行為を行う女性のことを「痴女」と呼ぶ場合があります。
また、痴漢行為の被害者も女性に限られず、男性が被害に遭うケースも珍しくありません。
痴漢が行われる場所・ケース
痴漢行為が行われやすい場所は、主に満員の公共交通機関や、夕方・夜の路上です。
特に、日本の都市部では通勤・通学時の満員電車等が常態化しており、痴漢が社会問題化しています。
満員電車等では、たまたま身体が触れるといった偶発的な接触が起こることが少なくなく、それに味をしめて痴漢行為を繰り返すようになる加害者がいます。
逃げることや犯人を特定することは、被害者にとって簡単ではなく、誤認による痴漢冤罪も社会問題となりました。
近年では、電車の車両の中にも防犯カメラが設置する等の痴漢対策が行われるようになってきています。
痴漢の刑罰
日本には「痴漢罪」という罪はありません。では、痴漢行為はどのような罪に該当するのか、以下で解説します。
迷惑防止条例違反
衣服の上等から軽度の接触を行う痴漢行為は、各都道府県の迷惑防止条例違反に該当します。
衣服の上から触ったか否かは判断基準の1つですが、絶対的な基準ではなく、悪質な触り方であれば強制わいせつ罪が成立します。
迷惑防止条例違反については、こちらで詳しく解説しています。
強制わいせつ罪
衣服の上からの悪質な接触や執拗な接触、あるいは衣服の中に手を入れて触る行為、衣服を脱がして身体を触る行為、無理矢理キスをする行為等は、強制わいせつ罪に該当します。
強制わいせつ罪については、こちらで詳しく解説しています。
公然わいせつ罪
主に路上等の公共の場で、陰部等の部位を露出する行為は公然わいせつ罪に該当します。
公然わいせつも痴漢行為の一種と考えられますが、一般的には公然わいせつを行う者を「露出狂」等と表現し、接触する痴漢とは区別する場合があります。
公然わいせつ罪については、こちらで詳しく解説しています。
痴漢で逮捕される場合とは
かつては、痴漢を捕まえられるのは現行犯の場合のみであると考えられていました。
しかし、近年では街や駅のホーム、一部の車両内に防犯カメラがあるため、犯人が特定されて後日逮捕されるケースもあります。
以下、痴漢行為を行った場合にどのように逮捕されることがあるのか、解説します。
現行犯逮捕
加害者が痴漢行為を行った際に、被害者や目撃者、駅員、駆けつけた警察官等によって、その場で逮捕される場合があります。
このようなケースが現行犯逮捕です。
現行犯逮捕であれば、逮捕状は必要ありません。
なお、警察官等の司法警察職員でない者が犯人を逮捕する場合のことを「私人逮捕」といいます。
これは、現行犯の場合にのみ認められる逮捕であり、罪が軽い犯罪の場合には認められないケースがある等、一定の制約があります。
後日逮捕
痴漢は現行犯逮捕される場合が多いのですが、防犯カメラの映像やDNA鑑定等によって犯人が特定され、後日逮捕されるケースもあります。
この場合、警察が被疑者を逮捕するためには、必ず逮捕状が必要です。
軽微な痴漢事件で在宅事件となったものの、明らかな証拠があるにもかかわらず加害者が犯行を否認し、不合理な供述を繰り返しているようなケースでは、逃走のおそれがある等の理由で後日逮捕されることがあります。
逮捕・勾留の流れ
痴漢で逮捕された場合には、48時間以内に検察官に送致され、それから24時間以内に勾留請求が行われます。
勾留の期間は10日間で、さらに10日間の勾留延長が行われる場合があります。
逮捕後の流れについては、こちらで詳しく解説しています。
逮捕されない場合
痴漢事件の加害者が逮捕されない場合があります。
例えば、接触の度合いが軽微である等、あまり悪質でないと考えられており、加害者が犯行を認めているケースです。
というのも、迷惑防止条例違反が成立する場合には略式起訴されて罰金刑を受けるケースも多く、逃走等のおそれが無ければ、逮捕する必要性が低いと考えられるからです。
また、被害者や目撃者の証言があいまいな場合等、冤罪のリスクがあるケースでは、加害者とされている者を逮捕しない事例も増えていると言われています。
生活への影響
痴漢で逮捕された場合、警察から家族等に連絡があり本人が逮捕されたことを知らされるケースが多いですが、捜査機関には、逮捕の事実を家族等に伝える義務はなく、連絡がされない場合は一時的に失踪したような状況になります。
痴漢で逮捕されたという事実は非常に外聞が悪いので、勤務先や学校などには急病等を理由に休む旨を家族から連絡することも考えられます。
しかし、逮捕に引き続き10日間以上勾留されることになれば、欠勤・欠席も長引くことになり、痴漢で逮捕されていることを伏せたままにするのも難しくなります。
痴漢で逮捕されたことが分かれば、友人関係等の人間関係に多大な影響を与え、会社からも懲戒処分を受ける場合があります。
起訴されて有罪となれば、前科がつくこととなります。
また、もし実名報道されてしまえば、転職が難しくなったり、周囲から嫌がらせを受けたりするおそれもあります。
逮捕されてしまったらすぐに弁護士を呼ぶことが重要です
痴漢で逮捕されてしまったら、すぐに弁護士を呼んでください。
逮捕されてしまうと、外部との連絡が取れなくなり、勾留されれば長期間欠勤・欠席せざるを得なくなり、会社から解雇されたり、学校を退学させられたりするリスクが高まります。
弁護士であれば、接見して家族へ連絡する等のサポートが可能ですし、勾留の阻止や取消しに向けた活動が成功すれば、日常生活に戻ることができ、解雇や退学のリスクを下げることができます。
また、起訴されてしまえば有罪となる確率が極めて高く、そうなれば前科がついて生活への影響が生じてしまいます。
被害者との示談等が成立すれば、起訴されるリスクも下がるので、起訴される前に弁護士をお呼びください。
逮捕後72時間以内の弁護活動が運命を左右します
刑事弁護に強い弁護士が迅速に対応いたします。
逮捕直後から勾留決定までは弁護士のみが面会・接見できます。ご家族でも面会できません。
痴漢で逮捕された場合すべきこと
痴漢で逮捕されてしまった場合、どのように対応すれば良いのでしょうか?
これについて、以下で解説します。
実際に痴漢行為を行った場合は否認せず認める
魔が差して痴漢行為を行ってしまった場合、逮捕されると否認したくなるかもしれません。
しかし、実際に痴漢行為を行ったのであれば、微細物鑑定やDNA鑑定、防犯カメラの映像、あるいは被害者本人や目撃者の証言等、様々な証拠によって犯行が立証されることになるため、否認を続けると長期間勾留されてしまうおそれがあります。
痴漢行為が事実であれば、素直に認めることで早期釈放につながります。
不起訴を獲得し前歴で食い止める
痴漢で逮捕された場合、その時点で前歴となります。
そして、起訴されて有罪判決を受けた場合には前科となります。
前科がつくことを阻止できれば生活への影響はほとんどないため、起訴される可能性を下げるべく、被害者との示談を成立させることが重要です。
前科と前歴の違いについては、こちらで詳しく解説しています。
冤罪であれば、釈放されたいからといって罰金刑を受け入れない
痴漢で逮捕された場合に、冤罪であるにもかかわらず、捜査機関が供述を促すために「素直に認めればすぐに釈放されるし、初犯なら罰金刑で済む」といった発言をするケースもあるようです。
このような場合に、逮捕された人は「お金を払って済むなら」と考えてしまい、自白してしまうかもしれません。
しかし、罰金刑であっても前科がつくため、職業に制限を受ける等の不利益を被る場合があります。
罰金刑を安易に受け入れず、否認し続けることが大切です。
前歴で食い止めるには弁護士の力が必要不可欠です
痴漢で逮捕されてしまった場合には、すぐに弁護士にご相談ください。
前科がつくと、今後の人生に影響が生じるおそれがあります。
そのような事態を防止するためには、被害者との示談を成立させることが有効です。
そのためにも、ぜひ弁護士にご相談ください。
不起訴を得るためには?
痴漢行為を行って逮捕されてしまった場合には、不起訴処分を獲得するために被害者との示談等を行うことが重要です。そのための方法を、以下で解説します。
被害者との示談を行う
起訴されるのを免れるためには、被害者と交渉して示談を成立させることが極めて大切です。
しかし、性犯罪の被害者は、加害者との接触を拒むのが通常であり、名前や連絡先を知ることもできません。
また、仮に何らかの方法で接触することができたとしても、報復等を疑われて新たなトラブルが生じるおそれもあるため、加害者本人が示談交渉をすることは難しいでしょう。
弁護士であれば、被害者が了承したケースに限られますが、捜査機関を通じて被害者の名前や連絡先を知ることが可能であり、被害者に危害を加えるおそれがないため、加害者の代わりに示談交渉を行うことができます。
弁護士ができる弁護活動
弁護士は、まだ逮捕されていない段階であれば、被疑者が逃走するおそれがないこと等を説明して逮捕されないように取り組みます。
もし逮捕されてしまっても、勾留する必要がないことを説明して、在宅事件にしてもらうことで社会生活への悪影響を軽減します。
また、被害者と示談交渉を行い、起訴されずに済むように取り組みます。
起訴されてしまった場合であっても、示談の成立は量刑に大きな影響を与えるので、被害者に反省していることを伝えて謝罪文を手渡す等、更生しようとしていることをお伝えして交渉します。
さらに、性犯罪の加害者のための更生プログラムの利用や、親族等に監督を依頼することで、社会生活を送りながら更生するお手伝いをいたします。
弁護士による弁護活動で不起訴獲得を目指しましょう
痴漢で逮捕されてしまい、不起訴処分を獲得したいのであれば、弁護士にご相談ください。
弁護士であれば、被害者の望みを聞き出して弁護活動に反映させる等、示談交渉に必要な対応を行うことができますので、ぜひ弁護士にご相談ください。
逮捕後72時間以内の弁護活動が運命を左右します
刑事弁護に強い弁護士が迅速に対応いたします。
逮捕直後から勾留決定までは弁護士のみが面会・接見できます。ご家族でも面会できません。
痴漢に関する裁判例
痴漢行為を行って起訴されると、具体的にどの程度の罪になるのかが気になる方もいるでしょう。
以下で、裁判例を2つ紹介します。
- 懲役2年、執行猶予3年(横浜地方裁判所 平成28年8月24日判決)
当該事例は、被告人が夜間の路上で、当時20歳の被害者の両胸を着衣の上から鷲掴みにした事例です。
接触は着衣の上からですが、強制わいせつ罪が成立しています。また、被告人はこの種の事案を繰り返していたと供述しており、常習性もうかがわれると認定されています。
被告人は事件当時、警察官であったこと、ジョギングを装う等の計画性があったこと、被害者の処罰感情が厳しいこと等から刑事責任は重いとされましたが、懲戒免職されていることや前科前歴が無いこと、父親が今後の監督を誓っていること等は被告人の量刑について有利に考慮されています。
また、示談は成立していないものの、被害弁償金として70万円が交付され、被害者がこれを受け取っていることも考慮されたため、執行猶予がつけられました。
- 懲役4月、執行猶予2年(東京地方裁判所 平成29年8月16日判決)
当該事例は、被告人が駅の通路上で、当時49歳の被害者の臀部(お尻)を着衣の上から触った事例です。
このケースでは、東京都の迷惑防止条例違反が成立しています。なお、被告は否認しましたが、裁判では有罪であると認定されています。
被告人は、過去に同種事案で罰金刑を2回も受けており(それぞれ罰金5万円、罰金30万円)、信用性の高い目撃証言があるのに不合理な弁解に終始したことから、厳しい非難は免れないとして懲役刑とされましたが、先述の罰金刑以外の前科が無いこと等が考慮され、執行猶予がつけられました。
以上のように、様々な事情が考慮されて量刑が決められます。
被害者が小児である場合や、被告人に懲役刑の同種前科がある場合等は、より重い罪が科せられることになると考えられます。
よくある質問
痴漢事件に関する質問について、以下で解説します。
痴漢の被疑者が学生だった場合、刑罰に違いはありますか?
まず、被疑者が14歳未満である場合には、成人と同様の刑罰が与えられることはないので逮捕されることはありませんが、警察から児童相談所の通告した上で、重大事件等については児童相談所に送致され、一時保護という形で身体拘束を受ける場合があります。
そして、重大事件等、家庭裁判所での審判が相当と判断されるケースでは家庭裁判所に送致され、少年鑑別所への収容か在宅での調査を経て審判を受けることになります。
その後、審判の結果により保護観察処分等を受けることになりますが、概ね12歳以上の少年であれば少年院に入院させられるケースもあります。
被疑者が14歳~19歳の未成年者であれば、逮捕・勾留されることがあります。
逮捕・勾留あるいは在宅捜査の後、家庭裁判所に送致されて、保護観察処分を受けたり少年院へ入院させられたりします。
学生であっても、被疑者が20歳以上であれば、通常の刑事事件として取り扱われることになります。
現場から逃げてしまったのですが、後ほど自首した場合、刑罰は軽くなりますか?
痴漢行為を行って逃走したものの、後で捜査機関に出頭した場合には、既に自分が犯人であることを特定されていなければ、自首の成立が認められます。
一般的に、自首をすれば裁判の際に量刑が軽くなることが知られていますが、それ以外にも、逮捕されにくくなる効果があると考えられます。
例えば、現場から逃げてしまった場合には逃走のおそれがあるとみなされて逮捕されてしまうリスクがありますが、自首をすることで逃走のおそれがないと認めてもらえる可能性が高くなります。
痴漢で逮捕されたら弁護士へすぐご連絡ください
痴漢行為を行ってしまい、逮捕されてしまったら、すぐに弁護士へご連絡ください。
弁護士は、勾留請求を行わないように求める等して身柄を拘束される期間を短くすることで、仕事や学校生活への影響を抑えながら、被害者との示談交渉を行い、社会で暮らしながら更生するためのお手伝いをいたします。
家族が痴漢行為を行って逮捕されてしまった場合にも、ぜひ弁護士にご相談ください。