会社の交通費を不正受給すると業務上横領になる?懲戒解雇の可能性も

会社の交通費を不正受給すると業務上横領になる?懲戒解雇の可能性も

監修
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治 弁護士法人ALG&Associates
横領罪の初犯は執行猶予がつく?背任罪とのちがい

会社から支給される交通費を不正受給すると、業務上横領罪や詐欺罪が成立する場合があります。

以下では、交通費の不正受給のパターンや、不正受給をすることによって会社から受けるおそれのある処分等について解説します。

目次

そもそも労働基準法等には交通費を会社が支給する規定はない

労働者に対して、交通費を支給している会社は少なくありません。
しかし、意外に思われるかもしれませんが、会社が労働者に対して交通費を支払う義務を負う旨を定めた法律はありません。

むしろ、職場までの交通費は労働者が自己負担するのが原則とされています。

そのため、支給された交通費が賃金と同視される場合があります。
例えば、交通費の金額が非課税枠を上回れば所得税等を課せられますし、交通費は社会保険料を算定する際の基礎賃金に含まれます。

交通費を支給するかどうかは会社の規約による

会社が支払う交通費は、あくまでも福利厚生の1つと位置付けられています。
そのため、交通費の支給に関するルールは、会社の規約により定められます。

交通費の支給の有無については原則として会社に裁量があるので、例えば、「交通費の支給は月4万円まで」といった規約を設けることや、「会社までの片道が2km未満の場合は交通費を支給しない」といった規約を設けることも会社の自由です。

会社の交通費を不正受給すると業務上横領罪や詐欺罪が成立するおそれがある

交通費を不正受給すると、業務上横領罪や詐欺罪が成立するおそれがあります。

具体的には、会社から交通費として事前に預かった現金を、使途以外の目的で自分の利益のために使った場合、業務上横領罪が成立するケースがあります。

また、会社の業務としてではなく、自分の旅行にかかった費用の領収書を会社に提出し、そのお金を会社から交通費として受け取った場合、会社を欺いて金銭という財物を交付させているので、詐欺罪が成立するケースがあります。

業務上横領罪や詐欺罪は、受領した交通費の金額の大小にかかわらず成立するため、注意が必要です。少額だから犯罪は成立しないということにはならないのです。

業務上横領罪とは

業務上横領罪は、「業務上自己の占有する他人の物を横領した者」に成立する罪です。

例えば、業務上の地位に基づいて預かった金銭を私的に流用する行為等が該当します。
この罪を犯した者は、10年以下の懲役に処されます(刑法253条)。

業務上横領罪は横領罪の3つのうちの1つ

刑法第38章には「横領の罪」という項目があり、3つの犯罪を規定しています。

具体的には、「横領罪(252条)」、「業務上横領罪(253条)」、「遺失物等横領罪(254条)」が規定されています。業務上横領罪は、3種類の横領罪のうちの1つであり、最も重い刑が定められています。

なぜなら、業務上の占有者による横領行為は、法益を侵害する範囲が広く頻発のおそれが大きいとされ、違法性が大きいと考えられているからです。

3種類の横領罪については、以下の記事で詳しく解説しています。

横領・背任

詐欺罪とは

詐欺罪は、「人を欺いて財物を交付させた者」に成立する罪です。
つまり、欺く行為をし、その行為により相手方が錯誤に陥り、錯誤に基づいて財物を移転することにより成立します。

この罪を犯した者は、10年以下の懲役に処されます(刑法246条)。

交通費の不正受給のパターン

交通費を不正受給する手口は複数存在しており、以下のようなパターンが考えられます。

業務上横領罪と詐欺罪のどちらが成立するかは会社の規約によって変わるので、個々の事案で異なります。

通勤交通費を支給されているのに自転車や徒歩で通勤し交通費を浮かせる

今までは電車やバスに乗って通勤していた社員が、健康に良いと考えて、自転車や徒歩で通勤することにしたものの、通勤方法を変更したことを会社に伝えず、今までと同じ通勤交通費を受け取り続けるケースがあります。

この場合、通勤定期券等を購入する必要が無くなるため、支給額の大半を手に入れることが可能となります。
交通費が不要であることを告げる義務を負っているにもかかわらず、その事実を秘匿し、交通費を交付させているため、詐欺罪が成立するおそれがあります。

しかし、人によっては、交通費が支給されていることについて深く考えずに、申請が面倒なので黙っているようなケースも存在するようです。

申請の際に住所を偽り通勤交通費を多く受領する

交通費を会社に申請する際に、実際には住んでいない実家等を住所として申請し、そこからの通勤交通費を受け取るケースがあります。

実家が遠方にある場合、そちらを住所として申請し、会社の近くにある本当の家から通うことで、通勤交通費の差額を手に入れることが可能となるのです。

会社の近くにある家に引っ越した際に、そのことを申請しないケースや、最初から住所を偽って、実際よりも遠い家に住んでいると偽るケースも存在します。

この場合、実際に通勤している自宅の住所で通勤交通費を申請するべき義務を負っているにもかかわらず、その事実を秘匿し、より高額の交通費を交付させているため、詐欺罪が成立するおそれがあります。

最安値ではない経路で通勤交通費を申請する

社員が通勤ルートに要した交通費を申請する際に、あえて遠回りするルートを選択し、それに要した交通費を申請するケースがあります。

多くの会社では、通勤ルートに要した交通費を申請する際に、合理的なルートを選択し、それに要した交通費を申請するよう定められていますが、わざと余分な交通費を要するルートを選択することで、本来必要な費用との差額を得ることができます。

この場合、実際に使用したルートに要した交通費を申請するべき義務を負っているにもかかわらず、その事実を秘匿し、より高額の交通費を交付させているため、詐欺罪が成立するおそれがあります。

そのような悪意が無かったとしても、最安値のルートが遠回りになってしまう場合には、より時間のかからない方法として、より高額なルートを選択してしまう場合もあるようです。

切符を金券ショップ等で安く購入する

社員が金券ショップ等で切符を安く購入したにもかかわらず、本来の切符代を請求し、差額を得ようとするケースがあります。
特に、遠方への出張が多い社員が、役得であると考えて、悪気なく行う場合が多いようです。

似たような手口としては、新幹線の指定席の切符を購入して領収書を受け取り、それを払い戻して自由席の切符を購入し、会社には指定席の領収書を提出することで、指定席と自由席の差額を手に入れるケースがあります。

この場合、指定席と実際に利用した自由席の差額を会社に返還するべき義務を負っているにもかかわらず、その事実を秘匿し、返還するべき金銭を私的流用しているため、業務上横領罪が成立するおそれがあります。

交通費を申請する際に定期区間を控除しない

営業等で、会社から自宅のある方向へ移動する際に、途中までは通勤定期券で移動することが可能であるにもかかわらず、会社から営業先までの電車賃を全額請求するケースがあります。

定期区間は交通費がかからないため、必要な経費は定期区間外の電車賃であり、全区間の電車賃よりも安くなるはずなのですが、本来必要であった交通費との差額を得ることを目的に行われます。
会社の経理が注意すれば気づくことが可能な手口ですが、気づかない場合も少なくないようです。

このケースでは、通勤定期券を使用し、実際に要した交通費を申請するべき義務を負っているにもかかわらず、その事実を秘匿し、より高額の交通費を交付させているため、詐欺罪が成立するおそれがあります。

架空の業務や出張を装い交通費を不正受給する

実際には行っていない営業や出張(いわゆる空出張)をでっちあげ、交通費や宿泊費等を不正に申請するケースがあります。
営業や出張に関する裁量を与えられた者が、実際に営業や出張に行った際に、その成果についての報告を求められないことに気づいて常習化する場合等があります。

また、プライベートの旅行をする際に、営業のためだと偽れば費用をかけずに遊べると考え、会社に請求してしまう場合等があります。

空出張と業務上横領罪の成立のおそれについては、こちらで詳しく解説します。

空出張で出張費を不正に計上したら業務上横領になる?

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会社の交通費を不正受給した社員の懲戒解雇が認められた裁判例(大阪地方裁判所 平成31年3月7日判決)

当該事例は、原告が懲戒解雇を無効であると主張して被告に未払賃金等を請求したところ、被告が反訴を提起して、原告が不正に受給した通勤手当の返還を求めた事例です。

裁判所は、原告が通勤手当を不正に受給していたこと、正規の手続を経ずに文書を不正に発出していたこと、出勤実態を偽装していたこと、勤務時間中に業務外の行為を行っていたことを認定し、原告の行為は、会社の就業規則に規定している懲戒事由に該当すると述べました。

そして、原告の行為は、使用者の指揮命令から大きく逸脱しており、特に、通勤手当の不正受給が長期にわたっていること、金額も高額であること、正規の手続を経ずに文書を発出したことにより大きな混乱を招いたこと、古くからの取引業者との取引が拒絶されるに至ったこと等から、会社の秩序に重大な影響を与えたと述べ、会社の懲戒解雇は有効であると認定しました。

そして、被告からの反訴を認容し、原告には約237万円の通勤手当を返還する義務があると認定しました。

刑事上の責任だけではなく民事上の責任も負うことになります

交通費の不正請求は、業務上横領罪や詐欺罪が成立するおそれのある行為です。
そして、不正請求を行った者は、刑事上の責任だけでなく、民事上の責任も負うことになります。

不正に得た金銭を全額返還することを求められるのはもちろんですが、不正請求から時間が経っている場合には、遅延損害金を請求されることもあります。

不正請求は、一度上手くいってしまうと犯行態様等が徐々にエスカレートする傾向にあるため、発覚した時には被害額が大きくなっている場合もあります。

不法行為による損害賠償請求の可能性も

交通費を不正受給した場合、損害を取り戻したい会社から、法行為による損害賠償請求や、不当利得返還請求を受ける場合があります。
不正受給した金額が大きく、その多くを使ってしまったため、一括返還が困難になっている場合も少なくありません。

しかし、返還の意思を示さない場合には、会社から刑事責任を追及されるおそれもあります。
会社との示談交渉は、なるべく早い段階で行うべきですので、ぜひ弁護士にご相談ください。

会社の交通費を不正受給すると懲戒解雇される?

交通費の不正受給が発覚すると、会社から懲戒処分を受ける場合があります。
どのような処分を受けるかは会社の規定によります。

懲戒処分としては戒告、譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇といったものが規定されている場合が多く、最も重い処分が懲戒解雇です。

一般的に、会社でのお金に関する不正は重く処罰されるため、被害額が少ない場合でも懲戒解雇となるケースが多いようです。
特に、不正受給の手口が巧妙である場合には、悪質だと判断されて懲戒解雇となるリスクが高まります。

このようなケースは、裁判例も多く存在しているため、当該事件の見通し等についても弁護士にご相談いただけます。

交通費の横領が発覚すると逮捕される?

交通費を不正受給したことが会社にバレてしまったら、逮捕されてしまうのでしょうか?

まず、逮捕するためには「逃亡するおそれ」や「罪証を隠滅するおそれ」がある(刑事訴訟法規則143条の3)ことが必要となります。
また、不正に受け取った金額や、不正の手口等が影響するため、逮捕されるか否かは一概にいえません。

そして、不正受給した金額が大きくなると、逮捕されたり、起訴されたりするリスクは高まります。

無論のこと、刑事罰を受けなかったとしても、不正受給をしたことが正当化されるわけではありません。
発覚すれば、民事の手続きによって弁済を求められたり、懲戒処分を受けたりするため、結局は損をすることになります。

業務上横領は被害者(会社の)被害申告により刑事事件化するケースが多い

業務上横領罪は親告罪ではないので、被害者ではない第三者からの通報であっても、刑事事件化するおそれがあります。
しかし、実態としては、被害者からの申告がきっかけで刑事事件化する場合が多いです。

そのため、刑事事件化を防ぐためには、不正受給が発覚する前に自己申告したり、不正受給が発覚した後では早期に被害弁償をしたりする等の方法で、示談を成立させることが重要です。

刑事事件化を回避するために弁護士ができること

刑事事件化を回避するためには、示談を早期に成立させる必要があります。ですが、当事者が交渉すると、感情的な対立が原因で、話し合いが進まない場合も少なくありません。また、会社側の裏切られたという気持ちが強い場合には、法外な示談金の支払いを求められるおそれもあります。

自身の不正受給が発覚した場合、もしくは不正受給が発覚していないものの自己申告したいと考えた場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。

弁護士であれば、会社と冷静に交渉し、法的に妥当な条件で示談をまとめることが可能です。なるべく早い段階でご相談ください。

刑事事件化した場合も弁護士のサポートが必要です

経費の不正受給について刑事事件化されてしまっても、手遅れだと諦める必要はありません。
刑事事件化された後でも、会社との示談を成立させることは可能ですし、示談が成立すれば、不起訴処分もくは刑罰を減刑される可能性が高くなります。
そのような処分を獲得するためにも、弁護士のサポートは不可欠です。

具体的には、以下のような弁護活動を行います。

減刑に向けて活動します

経費の不正受給が刑事事件化されてしまっても、被害者(会社)との示談を成立させることが重要であることに変わりはありません。
起訴される前に、横領した金品の全額を返還したという事実は、不起訴処分を獲得するために有利な事情となります。

他方、起訴された後であれば、横領した金品の全額を返還したという事実は、量刑を軽くするために重要な要素となります。
場合によっては、遅延損害金や迷惑料を上乗せして支払います。

そして、加害者に対する処罰を一切求めないという嘆願書を作成してもらったり、親族に出所後の監督者を依頼したりする等により、量刑を軽くして、執行猶予を付けてもらうことを目指します。

返済の意思はあるけれど一括で支払うのは難しい。分割払いはできる?

交通費を不正受給してしまったことを反省し、受給した金額を返済したいと考えている方がいるかもしれません。
しかし、不正受給した金額が大きく、手元にあまりお金が残っていない場合、一括で返済することは困難でしょう。

このような場合には、被害者(会社)に分割払いで返済するという内容で合意することを認めてもらう必要があります。
こうした交渉も、弁護士が行います。

ご依頼者様にとって無理のない返済計画を立て、会社に納得してもらえるように交渉しますので、ぜひ弁護士にご依頼ください。

まずは弁護士にご相談ください

交通費を不正受給してしまい、刑事事件化されたくない、会社との間で示談を行いたいと考えていらっしゃる方は、ぜひ弁護士にご相談ください。

弁護士であれば、相場を踏まえた示談交渉を冷静に行うことが可能です。
場合によっては、一括返済ではなく分割返済を認めてくれるよう、会社と協議することも可能です。

既に刑事事件化されてしまい、逮捕されてしまった場合には不起訴処分、起訴されてしまった場合には減刑のために活動し、執行猶予付きの判決を目指すことは可能ですので、ぜひ弁護士にご相談ください。

逮捕後72時間以内弁護活動が運命を左右します

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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)

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