中絶で慰謝料請求は認められる?相場や請求方法について弁護士が解説!
残念ながら、望まない妊娠をしてしまい中絶手術を考えざるを得ないというケースがあります。中絶手術による母体への精神的・肉体的負担は計り知れません。
また、中絶費用は決して安くないため、慰謝料を請求し、金銭面だけでも相手方に負担してほしいと考えるのは当然のことでしょう。
では、中絶による慰謝料請求はできるのでしょうか?また、相場はどのくらいになるのでしょうか。
この記事では中絶した場合の慰謝料に着目し、中絶で慰謝料が認められやすいケースや相場などについて解説していきます。
目次
中絶で慰謝料請求は認められるのか?
中絶手術を行う当事者にとって、心身への負担は計り知れません。
しかし、2人が合意の上で性交渉をおこない、妊娠したのであれば、中絶のみを理由に慰謝料請求するのは基本的に難しいでしょう。慰謝料請求が認められるには、以下の要件を満たす必要があるからです。
- 故意または過失による違法行為によって、相手が、女性の権利または法律上保護される利益を侵害したこと(違法行為による権利侵害)
- 損害の発生
- ①と②の因果関係がある
「妊娠させられて、さらには中絶させられたことにより肉体的・精神的苦痛を被った」となると、①~③のすべてが認められ、慰謝料が請求できるようにも思えます。
しかし、実際には合意による性交渉や中絶である以上、①の違法行為による権利侵害があったとはいえないのです。
中絶で慰謝料請求が認められやすいケースと相場
「中絶した」といってもその背景には様々な経緯があります。
中絶をしなければならなくなった背景を考慮し、合意による性交渉や中絶といえない場合や中絶に至るまでの相手の行為に問題があった場合には、慰謝料の請求を認められるケースもあります。
次項では、慰謝料が認められる可能性が高いと思われるケースとその慰謝料相場を紹介していきます。
無理矢理性交渉をされた場合
強姦などの性的犯罪により妊娠し、中絶に至った場合は、「強姦」という、相手の故意による明らかな違法行為によって、女性が権利または法律上保護される利益を侵害されたといえるため、そもそも「強姦」という不法行為に対して慰謝料を請求できます。
強姦行為に対する慰謝料の相場は50万~200万円程度と幅広くケースバイケースといえますが、強姦により妊娠、中絶したとなれば慰謝料はさらに高額になるでしょう。
中絶を強要された場合
妊娠発覚後、交際相手から、暴言や暴力、脅迫などによって中絶を強要され、中絶に至った場合には、慰謝料請求が認められる可能性があります。
なぜなら中絶に至るまでの脅迫や強要が不法行為に当たり、相手の故意による違法行為によって権利または法律上保護される利益を侵害されたといえるからです。
相手の強迫行為などの態様によっては民事責任だけでなく刑事責任を追及できる可能性もあります。そのためには、強要や暴力を立証できるメールや音声、医師の診断書などの証拠が必要となります。
証拠を集める際には相手に気づかれないように気を付けましょう。証拠を集めていることが悟られると、暴力などがエスカレートしてしまうおそれもあるからです。
このケースでは50万円~300万円ほどが慰謝料の相場となるでしょう。
避妊していると嘘をついていた場合
避妊しているといわれたため性行為に応じたのに、実際には避妊しておらず、妊娠し、中絶せざるを得なくなった場合、相手への慰謝料請求が認められる可能性があります。
これは虚偽の事実を伝えることで、被害者側にとって妊娠についての自己決定権を侵害しているためです。したがって相手方の行為は不法行為となり、慰謝料の請求が認められる可能性があるでしょう。
妊娠後の男性の対応が不誠実だった場合
妊娠後、男性の対応が不適切だったため、精神的苦痛に至ったなどの場合には慰謝料が認められる可能性があります。
裁判所は、双方が合意していた性行為による妊娠ならば、男女両方に責任があると考えています。
そのため、女性が中絶によって被る精神的・肉体的負担や不利益についても、男性は必要な限り配慮をし、精神的・肉体的負担を解消する義務があると判断されます。
そのため、男性がこの義務を怠り、妊娠したと告げたとたんに一切対応しない、音信不通になって逃げたなどのケースでは慰謝料を請求できる可能性があるでしょう。
具体的には以下のようなケースが当てはまります。
- 合意の上の妊娠だったにも関わらず、男性が出産するか中絶するかの話し合いを避け、中絶を余儀なくされた
- 中絶する妊婦に対し、攻撃的な態度を取り精神的苦痛を拡大させた
- 妊娠後の不当な婚約破棄や、冷たい態度により強い精神的苦痛を受けた
既婚者であることを隠していた場合
結婚を前提に交際していたため、妊娠しても良いと考え性交渉をしたものの、実際には男性は既婚者で妻がおり、中絶を余儀なくされたケースです。
このような場合は男性が女性に嘘をついていたわけですから、男性側の行為は貞操権を侵害する行為のため、不法行為といえます。そのため、慰謝料が認められる可能性が高まります。
婚約破棄により中絶を余儀なくされた場合
婚約中の性行為で妊娠し、婚約者へ妊娠を報告した後に一方的に婚約破棄され、中絶を余儀なくされたケースです。
正当な理由のない一方的な婚約破棄は不法行為といえますので、不当な婚約破棄について慰謝料の請求ができます。
また、一方的に婚約破棄された精神的苦痛に加え、中絶を余儀なくされた母体への負担などから、通常の婚約破棄より慰謝料が高額になる可能性が高くなります。
婚約破棄については以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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未成年が中絶した場合
交際相手が未成年の場合
交際相手も未成年の場合、双方が合意して性行為に及んだのであれば、望んでいなかったとしても妊娠したことについては、基本的に不法行為は成立しません。
しかし、妊娠発覚後に中絶の強要などがあれば、それが不法行為になる可能性もあります。ただし交際相手が学生で無収入の場合では、慰謝料の獲得は難しいでしょう。
交際相手が成人の場合
交際相手が成人であっても、双方が合意の上の性交渉であった場合、妊娠させたことについては、基本的に不法行為は成立しません。
しかし、交際相手には各都道府県が定める青少年健全育成条例違反として、刑事責任が問われる可能性があります。
慰謝料以外で請求が認められる費用とは?
慰謝料の支払いが認められなくても、中絶費用の支払いは認められるべきでしょう。
どのくらいの金額を負担するかは話し合いで決まりますが、妊娠・中絶は2人の行為の結果によるものなので、せめて半分は支払ってもらいましょう。
慰謝料以外に請求できる費用は以下のとおりです。
- 中絶費用
- 妊娠中の診療費
- 診察・中絶にかかった交通費
- 休業損害(中絶によって仕事を休んだ場合)
- 中絶によって後遺障害が残った場合の慰謝料・治療費・逸失利益など
- 弁護士費用の一部
これらを請求するためには、領収書や診断書、休業証明書などの証拠を用意すると良いでしょう。
実際に獲得できるかは証拠の有無や相手の経済状況などによりますが、ご自身のケースではどこまで請求できるのか、聞きなじみのない単語など分からないことは弁護士に相談しましょう。
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慰謝料の請求方法と流れ
慰謝料の請求は以下の流れで行います。
- 示談交渉(話し合い)
- 調停(調停委員を間に挟んだ話し合い)
- 裁判
次項ではそれぞれについて解説していきます。
①示談交渉
示談交渉とは当事者間の話し合いによって問題を解決する方法です。
相手方と会って直接やり取りができればいいのですが、中には難しい方もいらっしゃることでしょう。その場合は電話・メール・文書で請求するなど、どのような方法でも構いません。文書による場合は内容証明郵便による請求が一般的です。
慰謝料の支払いに合意でき、慰謝料の金額も決まったら、慰謝料の支払い金額や支払期限、支払方法などを記載した「示談書」を作成し、「言った・言わない」のトラブルを避けましょう。
また、示談書は公正証書として残しておくと安心です。 公正証書は公証人が作成する公文書です。公証役場に原本が保管されるため、改ざんされるリスクがないのも大きな特徴です。
また、「強制執行認諾文言付き公正証書」にすることで、相手方が金銭の支払いをしない場合に裁判所に強制執行を申し立て、直ちに財産を差し押さえることができます。
しかし、中には話し合いがスムーズに進まなかったり、相手が話し合いに応じなかったりする場合もあるでしょう。そのような場合には弁護士に依頼することで、交渉がスムーズに進む可能性が高まります。
慰謝料の内容証明郵便による請求については以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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②調停
相手方が話し合いに応じない、交渉がまとまらない場合は家庭裁判所に調停を申し立てる方法があります。
調停とは家庭裁判所の手続きの一つで、調停委員が間に入り話し合いによって問題を解決する方法です。
調停委員が間に入ることで相手方に直接言えなかったことなど、調停委員を介して相手方に伝えることができ、冷静に話し合いを行うことができます。
しかし、調停はあくまでも話し合いですので、双方の主張が食い違う場合や話がまとまらない場合は調停不成立となります。
③裁判
調停が不成立となった場合は裁判を起こす方法があります。裁判では、当事者の主張や証拠をもとに最終的に裁判官が判決を下します。
裁判では客観的に不法行為があったとわかるような証拠が何より大事ですし、法的な問題が関わってくるため、一般の方が裁判で勝訴することは難しいでしょう。
裁判を起こす場合は弁護士に相談・依頼をし、どのような証拠が役に立つのか、慰謝料やその他請求できる金額はどのくらいになるのかを事前に把握しておくことが大切です。
また裁判の手続きに関しても、初めてでは分からない手続ばかりだと思いますので、弁護士がついている方が安心して裁判に挑めるでしょう。
慰謝料や中絶費用の請求に時効はある?
慰謝料や中絶費用の時効は下表のとおりです。
慰謝料請求の時効
基本的には中絶から3年が経過すると相手方の男性には慰謝料の請求ができません。しかし、見知らぬ男性からレイプされ、妊娠・中絶したような場合では犯人が誰であるか判明してから、3年間の時効が開始されます。
中絶費用請求の時効
本来は男性が半分支払うべき中絶費用を女性が全額負担した場合には、その半分を返すよう請求できます。
この請求権は女性が中絶費用を全額支払った日から起算して5年で時効となります。
慰謝料請求の時効 | 損害と加害者を知った時から3年 |
---|---|
中絶費用請求の時効 | 女性が中絶費用を全額支払った日から5年 |
男性が慰謝料を請求されたらどう対応すべき?
双方合意の上で性交渉をし、妊娠したのであれば、基本的には慰謝料の支払い義務はありません。しかし、妊娠発覚後に連絡を途絶えさせたり、中絶を強要し暴力をふるったりなど、妊娠発覚後の対応が不適切だと、その対応に対して慰謝料が発生する場合もあります。
妊娠は女性だけの問題ではありませんし、女性一人では妊娠できません。男性も女性の妊娠に加担しているわけですから妊娠発覚後の不適切な対応には十分注意をしましょう。
また、中絶費用は少なくとも半分支払う必要があるでしょう。中絶費用のほかにも交通費や診療費、休業損害についても当てはまる場合は半分支払う必要が出てきます。
中絶は女性にとって精神的・肉体的に大きな苦痛を負います。女性に妊娠したと告げられた時には誠意ある対応を取りましょう。
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中絶の慰謝料請求に関する裁判例
(事案の概要)
原告と被告はともに動物病院に勤めていた関係で知り合い、交際を始めました。両者が肉体関係を結んだのは、交際のごく初期であり、その後別れ話が出たこともありましたが交際は継続しました。
平成30年4月に原告の妊娠が発覚し、原告は被告の子であることを確信して被告に対し妊娠を報告しましたが、被告は妊娠を望まず、原告に対し「中絶費用の負担はするが、出産しても責任は取らない(結婚や認知はしない)」旨を述べました。
また原告が面会して話し合いをしたいから日程を決めてほしいと求めましたがこれに対し、自分の子であることを疑い、妻や知人に相談した結果自分の子供ではないと思う、レイプされたのが原因ではないかと問いかけるメッセージを送信しました。
なお、被告は独身であり、妻に相談した旨は虚偽でした。また、被告の知人女性は被告の依頼により母親を装い、電話で原告と会話し中絶を要求しました。
(裁判所の判断)
このような言動は、単に妊娠の責任を取らない身勝手な態度というだけでなく、不合理で社会通念上の常識を逸脱したものであり、不法行為に該当するというべきである。
上記の被告の不法行為は、著しく不誠実であり、原告が被った精神的苦痛は多大であるとして、慰謝料120万円を認めました。
【東京地方裁判所 令和元年5月30日 判決】
中絶慰謝料に関するQ&A
中絶慰謝料に関する質問にお答えしていきます。
中絶の際、夫の非情な対応によりうつ病を発症しました。慰謝料請求は認められますか?
裁判所は性行為の結果生じる妊娠や中絶は女性に精神的・肉体的負担を与えるものであるから、共同行為である性行為を行った男性においても、それらの負担を軽減・解消する義務があるとしています。
つまり、質問者様の夫も質問者様の負担を軽減・解消する義務があるということです。
それを怠り、うつ病になってしまったことは不法行為として慰謝料が認められる可能性が高まります。
実際にどのくらいの慰謝料が認められるのかはケースのよって様々ですので、弁護士にご相談ください。
事実婚(内縁関係)でも中絶の慰謝料を請求できますか?
事実婚(内縁関係)であっても中絶の慰謝料を請求することはできますが、性行為が双方の合意を得ていた場合、中絶をしたというだけでの慰謝料請求は難しいでしょう。
中絶に至るまでに中絶の強要があったとか、中絶に対し不誠実な対応を取られたなどの事情があれば不法行為として慰謝料を請求できる可能性があります。
また、中絶により内縁関係が解消に至る場合は精神的苦痛が強いとして慰謝料が認められる場合もあります。中絶により内縁関係を解消する場合の慰謝料は50万~150万円程度でしょう。
内縁関係については以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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別れた後に彼女の妊娠・中絶が発覚しました。慰謝料を請求される可能性はありますか?
双方が性行為に同意していた場合は、別れた後に妊娠が発覚、中絶したからといって慰謝料請求が認められる可能性は低いでしょう。
もっとも、中絶発覚後、中絶費用を請求されたにもかかわらず、誠実な対応をしなかったことで、相手が精神疾患を発症したような場合などには、慰謝料請求が認められる可能性もあります。
妻が勝手に中絶したことに対して慰謝料を請求できますか?
夫側は自分の子供が産まれてくると喜びをかみしめていたところ、妻が勝手に中絶をしてきたとなると、ショックで慰謝料を請求したくもなるでしょう。婚姻関係にある夫婦の場合は、中絶の際に夫と妻の同意のサインが必要です。
妻が相談なしに勝手に中絶をした場合、同意書を偽造したとなれば、有印私文書偽造の罪が成立する可能性もあります。
女性が身体的・精神的・経済的に子供を出産・養育することが難しい場合に中絶することが認められていますが、婚姻関係にある夫婦であればこれらを困難だと判断するのは難しいでしょう。そのため、慰謝料が認められる可能性もあります。
中絶の慰謝料についてお悩みなら、まずは弁護士にご相談ください。
中絶は女性にとって肉体的・精神的に大きな負担となります。そのため、中絶した女性に対し、適切な対応を取らずに、肉体的・精神的に損害を与えた場合には慰謝料請求が認められる可能性があります。
仮に、慰謝料を請求できなかったとしても中絶費用や休業損害などを請求できる場合もあります。
相手に慰謝料請求したい場合や、女性に慰謝料請求され不安な場合は私たち弁護士法人ALGにご相談ください。
弁護士に依頼することで、慰謝料請求に対し必要な証拠を確保できたり、適切な主張ができます。
また、慰謝料を請求された側は突然のことで焦る気持ちもあるかと思いますが、弁護士に相談することで、対応方法について適切なアドバイスをしてもらうことができます。
妊娠は女性一人でできるものではありません。男性も大きく関わっていることです。女性に「妊娠した」と告げられた時は誠意ある対応を取りましょう。
離婚のご相談受付
来所法律相談30分無料
※事案により無料法律相談に対応できない場合がございます。※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。
保有資格 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:41560)