未払い養育費を強制執行で回収したい!必要な条件は?
養育費とは、子供が経済的、社会的に自立するまでの間に、子供の監護や教育のために必要な費用です。
養育費は「子供の権利」ですが、子を育てている一方の親から、他方の親に請求されることが一般的です。
なお、離婚する夫婦が、「養育費は支払わない」と合意したとしても、子供から「扶養料」として請求された場合、支払い義務が認められることもあります。
しかし、離婚に際し、養育費の取り決めがなされないケースはまだまだ多く、取り決めをして養育費を継続的に支払ってもらえているというケースは、むしろ割合的には多くありません。養育費の未払問題は、重要な社会問題の一つと言えるところ、未払い養育費について、強制執行で回収することが考えられます。
この記事では「養育費の強制執行」に着目し、強制執行のための条件や流れについて解説していきます。
目次
養育費は強制執行で回収できる
未成年の子供がいて離婚した場合、子供を育てる側(親権者)は、他方(非親権者)に養育費を請求する権利があります。
しかし、中には取り決め通り支払ってもらえないケースやそもそも養育費の取り決めをせず離婚してしますケースもあるでしょう。
養育費は子供の養育をするための費用であり、重要な子供のための権利です。
そのため、養育費の未払い分だけでなく、将来分にわたって差押えることができるなど、強制執行手続きにおいて特別に保護されています。
では、「強制執行」とはいったいどのような手続きなのでしょうか。
次項では、強制執行について詳しく解説していきます。
強制執行を求める側のデメリットは何か
養育費を支払おうとしない非親権者に養育費の強制執行をしてデメリットはあるのでしょうか?
以降で確認していきましょう。
【養育費の強制執行によるデメリット】
- ①手続きが複雑
- 強制執行の手続きは必要書類も多く、手続きが複雑です。そのため、調べながら行おうとすると大きな負担がかかってしまします。
- ②相手の財産が分からなければ申立てができない
- 強制執行の申立てをすれば、財産は裁判所が調べてくれるわけではありません。相手の財産の情報は事前に調べておく必要があります。
- ③感情的な対立になりやすい
- 強制執行は裁判所からの命令で無理やり財産を奪うことになるので、相手の反感を買って感情的な対立が生じる可能性があり、相手方が勤務先を変更してしまう事態もあり得ます。
特に、面会交流などで相手と交流がある場合はこのような対立は避けたいでしょう。
強制執行しても回収できない場合がある
養育費の強制執行は法的効力のあるものですが、必ずしも成功するとは限りません。
強制執行で養育費が回収できないケースは以下の2つが考えられます。
- ①困窮しているケース
- 養育費の支払い義務があっても、非親権者が自己破産や失職、病気などを理由に収入が途絶えてしまったら、回収することはできません。
- ②再婚に伴う養育費の軽減を求められるケース
- 親権者が再婚し、子供と新たな配偶者が養子縁組をした場合、新たな配偶者に一次的な扶養義務が生じます。
すると、養育費を支払うべき元配偶者は養育費の支払いの軽減を求めてくる可能性があります。
強制執行をするための条件
強制執行をするためには3つの条件があります。
- ①債務名義はあるか
- ②相手の住所を把握しているか
- ③相手の財産を把握しているか
次項では、それぞれについて詳しく解説していきます。
債務名義があるか
債務名義とは、養育費の請求権の有無及び範囲を公的に証明する文書、次のような裁判所の作成する文書が一般的ですが、裁判所以外で作成されるものとして、「強制執行認諾文言」付きの公正証書もあります。
- 調停証書
- 審判書
- 和解調書または判決正本
なお、上記の債務名義のうち、公正証書、和解調書、判決については、公証役場や家庭裁判所に執行文(強制執行ができることを証明するもの)付与の申立てをしなければなりません。
手元にあるのが、当事者間で作成された「離婚協議書」や「和解合意書」のみの場合は、すぐには強制執行手続きを取ることができません。まずは、相手方と話し合って強制執行認諾文言付きの公正証書を作成するか、双方のみで話し合うことが難しければ調停を申し立てて、調停証書を作成しましょう。
相手の住所を把握しているか
養育費を支払う側(非親権者)の住所がわからないと差押え手続きができないため、現住所を調べる必要があります。
現住所は裁判所が調べてくれるものではありませんので、自分で調べる必要があります。
【現住所を調べる方法】
- ①戸籍の附票(ふひょう)を取り寄せる
- 戸籍の附票とは、その戸籍に入籍してから現在までの住所の異動に関する情報が記録された書類で、戸籍と一緒に管理されています。
元配偶者が離婚後に本籍地を変えていなければ、本籍が置かれている役所で交付が可能です。 - ②住民票から転居先を調査
- 戸籍の附票は今までの住所がわかりますが、離婚後に本籍を変えていた場合、辿ることができません。その際は住民票から転居先を調べる方法もあります。
本来は同一世帯でないと取得できませんが、正当な理由や証拠を提出することで取得できる可能性があります。
相手の財産を把握しているか
強制執行の実行で忘れてはいけないのが元配偶者の財産の把握です。なぜなら、強制執行で財産を差し押さえるためには、そもそも差し押さえられるだけの財産が必要だからです。
例えば相手が離婚後に失職したり、病気になったりして養育費の支払いが難しい場合もあります。
元配偶者にも「自分の生活を守る権利」が存在しますので、養育費の支払いに余裕がない場合は強制執行をしても養育費の回収は難しいでしょう。
そのためにも、相手の財産の把握は重要なポイントです。
財産を特定するには以下のような方法があります。
- ①相手方から任意に開示してもらう
- ②裁判所に財産開示請求を申し立てる
差し押さえできる財産
差し押さえできる財産は以下のとおりです。
- ①動産
- 不動産を除くものが対象です。例えば、現金、絵画、宝石、ブランドバックなどが当たります。
しかし、相手の生活に最低限必要な家財道具、家電、仕事用品などは差し押さえできません。 - ②不動産
- 相手名義の家や土地も差し押さえできます。婚姻前に元配偶者が取得した不動産も差し押さえ可能です。
- ③債権
- 元配偶者が第三者に対して持っている権利を差し押さえることが可能です。例えば、勤務先から支払われる給与や銀行に預けている預貯金を債権として差し押さえられます。
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民事執行法の改正で強制執行が容易になった
養育費を請求する側(親権者)が強制執行の申し立てを行うためには、元配偶者の財産状況を把握しなければなりません。
従前から財産開示制度はありましたが、実効的でなく、あまり利用されていませんでした。しかし、2020年4月1日から「改正民事執行法」が施行され、以前よりも財産調査が容易になりました。
- ①第三者から情報を取得できるようになった
- 改正民事執行法によって、裁判所を通じて役所や金融機関に対し、元配偶者の「給与支払者情報」や「預金口座情報」などの開示を求めることができるようになりました。
また、法務局へ元配偶者名義の不動産に関する情報の開示も求められるようになりました。 - ②財産開示を拒否する相手方に刑事罰が適用されるようになった
- 以前は相手が財産開示を拒否したり、虚偽の情報を開示したりした場合の制裁が軽く、また実際に運用されることは多くなかったことから、実効性が十分ではありませんでした。
現在では、財産開示を拒否したり、虚偽の情報を開示したりすることは罪に当たり、刑罰が科されてしまいますので、財産開示手続を利用することによって元配偶者の財産の把握がしやすくなっています。
強制執行の流れ
強制執行の流れは以下のとおりです。
- ①相手の情報がそろっているか確認する
- ②申立てのための書類を準備する
- 強制執行の申立てにはいくつかの書類が必要です。
具体的には以下のような書類を準備しましょう。
債務名義 | 強制執行認諾文言付き公正証書など債務名義に該当する書面(正本) |
---|---|
執行文 | 債務名義が判決、和解調書、公正証書の場合 |
送達証明書 | 公証役場や家庭裁判所で交付可能 |
確定証明書 | 債務名義が審判書の場合 |
資格証明書 | 強制執行の対象となる元配偶者の勤務先や預貯金の金融機関(第三債務者)の本店所在地、会社名、代表者氏名などが記載された商業登記事項証明書 |
当事者の住民票や戸籍謄本 | |
差押命令申立書 | 給与、預金等の債権を差押える場合、債権差押命令申立書 |
当事者目録 | 債権者、債務者、第三債務者の住所などを記載する書面 |
請求債権目録 | 請求権や請求額等を記載する書面 |
差押債権目録 | 差押える債権の特定、差押える金額等を記載する |
- ③地方裁判所で差押え申立て
- 元配偶者の住所地を管轄する地方裁判所に申し立てます。
強制執行の申立てには次の手数料が発生します。
- 収入印紙:4000円(債務名義1通の場合)
- 郵便切手代:裁判所によって変わり、相場は3000~4000円
- ④債権差押命令の発令
- ⑤取り立て
- ⑥未払い分回収後取立届を裁判所に提出
債務名義がない場合の強制執行までの流れ
債務名義がない場合は、まず「債務名義」を取得する必要があります。
債務名義取得には養育費の調停を申し立てるのが一般的です。
調停で取り決めをすると債務名義となる「調停証書」が作成されます。
そこから未払い分の強制執行が可能となります。ただし、この場合、調停調書に基づいて強制執行できるのは、原則として、調停成立後に支払時期が到来した未払いの養育費ですので、注意が必要です。
強制執行する場合には養育費の時効に注意
養育費にも時効があることを知っていましたか?
ここでは、ケース別に養育費の時効について解説していきます。
- ①離婚時に養育費の取り決めをしなかった場合
- この場合、子供を育てている親権者は非親権者に対して、過去の養育費の請求ができる可能性があります。しかし、実務的には請求したときから、養育費を請求できるとされることが多いです。
- ②養育費について取り決めをしたが、拒否されている場合
- 具体的に毎月いくら払うという、定期的な支払いの取り決めの場合、消滅時効の期間は各支払時期から5年とされています。つまり、毎月の養育費ごとに、相手が支払わなくなり5年経つと順次消滅時効が完成していくということです。
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しかし、「強制執行」となると「難しそう」といったイメージを持ち、なかなか踏み込めないのではないでしょうか。
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強制執行の手続きは一般の方が行おうとすると、債務名義に応じた必要書類を用意しなければならなかったり、強制執行申立て前に行わなければならない手続きがあったり、複雑なため、負担が大きくなってしまします。
弁護士に任せることで、適切な必要書類を効率的に集めることや、相手の住所や財産を調べることができ、あなたの負担を軽減できます。
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保有資格 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:41560)