会社の備品を横領すると業務上横領罪や窃盗罪になる可能性。懲戒処分は有効?
会社の備品や消耗品は会社の所有物ですが、社員の中には、そのような意識が薄れてしまい、持ち帰ってしまう人もいるようです。
ここでは、会社の備品等を持ち出すと罪に問われるのか、その成立要件や負担しなければならない責任等、「備品の業務上横領」について解説します。
目次
会社の備品を横領すると業務上横領罪や窃盗罪が成立するおそれがある
会社の備品等であるボールペン、買い置きしてあるトイレットペーパー、給湯室に置いてあるティーバッグ等を、軽い気持ちで持ち帰ってしまう人がいるようです。
これらは、お金ではなく、常日頃から自分が自由に使っていたり、簡単に持ち出せる場所に数多く存在していたりすることから、罪の意識は生じないのかもしれません。
ですが、これらのような会社の備品等を無断で持ち出すと、業務上横領罪や窃盗罪が成立するおそれがあります。
業務上横領罪とは
業務上横領罪は、業務上自己の占有する他人の物を横領した場合に成立する罪です。この罪を犯した者は、10年以下の懲役に処されます(刑法253条)。
窃盗罪とは
窃盗罪とは、他人の占有する財物を、占有者の意思に反して取得した場合に成立する罪です。
他人が占有している自己の所有物を無断で取り返した場合にも、この罪が成立するおそれがあります。
刑法犯認知件数の中でも、特に件数の多い罪名が窃盗です。犯行態様の種類が多く、万引き・空き巣・スリ・ひったくり等、一般的に様々な呼称があります。
他にも、「内引き」といった、店員が商品を盗む行為をいう呼称もあります。
窃盗罪は未遂でも処罰される
日本では、犯罪の未遂罪を処罰するには、個別の未遂罪を処罰する規定が必要です。
窃盗罪については、刑法243条により、その旨が規定されています。
法定刑は既遂の場合と同じですが、未遂の場合には、その刑を減軽することができると定められており、自己の意思で窃盗を中止した場合には、その刑を減軽し、または免除すると定められています。
なお、減軽された場合には、法定刑の上限と下限が半分になると定められています。
備品を一時的に私的利用しただけでは業務上横領罪や窃盗罪は成立しない
社員が、会社の備品であるボールペンやノート等を、一時的に私的利用するような行為は、「使用窃盗」と呼ばれています。
使用窃盗の場合には、業務上横領罪や窃盗罪が成立しないとするのが通常です。
財物を不法領得する意思のうちの権利者排除意思、つまり他人の物を自分の物にしようとする意思に欠けるためです。
しかし、使った物の経済的な価値が高い場合や、使用後に捨てるつもりであった場合、長時間使用し続けた場合等には、業務上横領罪や窃盗罪が成立するおそれがあります。
業務上横領罪と窃盗罪の違いは「占有」しているかどうか
業務上横領罪と窃盗罪との違いは、財物が「自分の占有下にあるか」「他人の占有下にあるか」というところにあります。
例えば、トイレットペーパーを管理する担当の社員が、トイレットペーパーを自宅に持ち帰って使った場合には、業務上横領罪が成立するものと考えられます。
一方、トイレットペーパーの管理とは何ら関係のない社員が、トイレットペーパーを自宅に持ち帰って使った場合には、窃盗罪が成立するものと考えられます。
「占有」とはどういう状態のことをいうのか
占有とは、ある物を事実上支配している状態のことを表します。
例えば、Aさんが所有している自転車をBさんが借りて乗っている場合、自転車の所有権はAさんにありますが、Bさんは占有者になります。
これは、Bさんが自転車を借りたのではなく、盗み出した場合であっても同様です。
占有者はBさんであり、Bさんの占有権が保護されるため、所有者であるAさんが、法的な手続きを行わずに無断で自転車を取り返すと窃盗罪が成立します。
会社が破棄する予定の備品を持ち帰った場合
会社が社内の整理を行った結果、不要になった備品を破棄することもあるでしょう。
捨てるのはもったいないので、持って帰りたいと考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、捨てる予定の備品を持ち帰ると、たとえ会社の占有を離れたといえる状況であっても、遺失物等横領罪が成立し、1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料に処されるおそれがあるので、持ち帰りたい場合は、事前に責任者等に許可を求めるべきでしょう。
備品の横領、窃盗のケース
備品・消耗品の横領や窃盗は、様々なケースが考えられます。
それらについて、業務上横領罪と窃盗罪のどちらが成立するか解説します。
ボールペン、ノート、コピー用紙等の備品
消耗品や備品を持ち帰った場合には、それらを占有して管理する立場にある者が行えば業務上横領罪が成立し、そうでない社員が行えば会社や管理者の占有している物を奪うことになるため窃盗罪が成立すると考えられます。
例えば、通常、コピー用紙は個々の社員が占有するものではないため、社員がコピー用紙を持ち帰れば基本的には窃盗ですが、コピー用紙を管理する総務の担当者が持ち帰れば業務上横領です。
ボールペンやノート等は、業務のために支給されたものを個々の社員が占有することになるため、最初から私用に使うために備品置き場から持ち出せば窃盗ですが、仕事のために持ち出して使っていたものを私用で使うことにすれば業務上横領です。
自社の商品や取引先への納品物
自社の商品や、取引先への納品物を持ち帰った場合にも、その物を占有していたのが誰かによって、業務上横領罪と窃盗罪のどちらが成立するかが左右されます。
店頭に商品を並べていて販売員がその販売に従事している場合でも、商品を占有しているのは店や管理者であり、販売員がその一部を持ち帰った場合には窃盗罪に該当します。
しかし、店の商品の管理を任されている店長が、商品を転売する等の目的で持ち帰った場合には、業務上横領罪に該当します。
自分のスマホや電子機器を会社で充電
自分のスマートフォンや電子機器を会社で充電した場合、窃盗罪が成立するおそれがあります。
刑法245条により、電気は財物とみなされるため、無断で私物を充電すると、会社から電気を盗んでいることになるからです。
会社によっては、社内ルールで充電を認めている場合もあるので、充電しても問題ないかについて、就業規則等で確認するようにしましょう。
社用車を私的に利用
会社の業務のために貸し出されている社用車を私的利用すると、たとえ短時間・短距離の使用であっても業務上横領罪が成立するおそれが高まります。
また、業務のために社用車を使用することが認められていない、つまり車を占有していない社員が社用車を私的に使用した場合は、窃盗罪となります。
ボールペンや自転車等と比べて、自動車は経済的な価値が高く、たとえ短時間・短距離の使用であっても、他人の財物を自分のものとして利用・処分する意思(不法領得の意思)があるとされるためです。
そのため、たとえ一時的な使用であり、使用後に元の場所に戻したとしても、業務上横領罪または窃盗罪が成立するリスクは高いと言えます。
どのような責任を負うことになるの?
会社の備品を持ち帰る等の行為は、民事上の責任と刑事上の責任を生じさせます。
これらについて以下で解説します。
民事上の責任
会社の備品を持ち帰ると、不法行為に基づく損害賠償請求を受けるおそれがあります。
その場合、被害額の全額と、持ち帰ってから時間が経っている場合には遅延損害金の支払いを求められます。
会社は法人なので慰謝料を支払う必要はありませんが、会社と示談をする場合等には、迷惑料等の名目で、ある程度の金額を上乗せして支払う必要があるでしょう。
刑事上の責任
業務上横領罪で起訴された場合には、10年以下の懲役に処されます。
また、窃盗罪で起訴された場合には、10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。
被害額が高額である場合や、手口が巧妙で悪質である場合、備品の持ち帰り等を行っていた期間が長い場合等には、罪が重くなる傾向にあり、実刑判決を受けるリスクが高まります。
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備品の横領は会社に発覚する?
会社の備品等は、大量に保管されている場合もあるので、少し持ち帰ってもバレないと思うかもしれません。
しかし、このような行為は、発覚しないと歯止めがきかず、徐々にエスカレートしていく傾向にあります。
長期にわたって続けると、会社が不審に思って調査し発覚する場合があり、インターネットのオークションサイトで転売すれば、それを発見した社内の人間に、自社の備品等であることに気づかれるケースもあります。
発覚した際には巨額の返金を求められたり、刑事事件化したりする場合もあるので、備品は会社の物であるという意識を強く持つことが大切です。
会社が社員の所持品検査をすることはある?
会社は、社員による備品の持ち帰り等を防ぐために、所持品検査を行うことができる場合があります。
ただし、所持品検査は、被検査者の基本的人権を侵害しかねないものであるため、以下の要件を満たす場合に限って認められます(最高裁 昭和43年8月2日第2小法廷判決)。
- 検査の合理的理由が存在すること
- 一般的に妥当な方法と程度で行われること
- 制度として画一的に実施されること
- 就業規則その他明示の根拠に基づくこと
以上の条件から、執拗に身体を触ったり、特定の人物だけ頻繁に検査したりする等の不合理な検査は、不法行為に該当するおそれがあります。
備品を持ち帰ってしまった際の対応方法
会社の備品を、転売する目的や、自分のものにする目的で持ち帰ってしまった場合には、隠し通せると思わずに適切な対応をすることが大切です。
業務上横領罪や窃盗罪は、想像以上に重い罪であり、会社からの懲戒処分を受けるリスクもあるからです。
何度か注意されていたり、高価な品を持ち帰っていたりした等の事情があれば、最悪の場合には懲戒免職となり、再就職等に悪影響を及ぼしてしまいますので、決して軽く考えないでください。
高価な備品等、横領した額が大きい場合は弁護士が示談交渉します
会社の被害が小さい場合には、被害の賠償を行い、反省の態度を示すことで、スムーズに示談交渉が進むことが多いです。
しかし、持ち出したのが高価な備品であるケースや、長期間にわたり横領したために被害額が大きいケース等では、会社の被害感情が強くなると考えられます。
さらに、それらのケースでは、一括払いでの返済が困難になるため、当事者間での示談交渉が難しいことも考えられます。弁護士が会社との間に入れば、分割払いの交渉等が可能ですので、ぜひ弁護士にご相談ください。
弁護士に示談交渉を依頼するメリット
会社の備品を持ち出すことについては、仮に損害額が小さかったとしても、強い否定的な感情を抱く人がいます。
場合によっては、会社側が懲戒解雇や刑事事件化を行おうとしたり、被害額を大きく上回る賠償を求めたりするかもしれません。
他の社員も同様のことを行っている場合には、その分まで賠償させられることもあり得ます。これらの事態に直面しても、弁護士であれば、判例に基づくアドバイスや冷静な交渉によって、会社側を説得することが可能です。
会社の備品を横領してしまったらお早めに弁護士にご相談ください
会社の備品を持ち帰ってしまい、示談をしたいと考えている場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。
持ち帰った際には軽い気持ちだったとしても、備品を無断で持ち出すことは、刑事罰を受けるリスクのある行為です。
気づかれていないと思っていても、周囲は、誰が犯人なのかを把握している場合もあります。
反省の態度を示すためにも、会社から指摘を受ける前に、謝罪をして返還の意思を示す方が望ましいですが、やり方を間違えれば逆効果となり、ただちに刑事事件化されてしまうリスクもあります。
最初から弁護士が介入したうえで会社に横領の事実を伝え、謝罪と弁償の話を進めていくことが最も望ましい方法といえますので、なるべく早く弁護士にご相談ください。
