強制わいせつとなる行動と逮捕された場合の対処法
強制わいせつ罪
6月以上10年以下の懲役(刑法176条)
公然わいせつ罪
6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料(刑法174条)
犯罪とは無縁な生活を送っている人でも、衝動的に行ってしまうことのある犯罪が強制わいせつ等の性犯罪です。
一般的に、犯罪を行うような人は仕事をしていないと思われたり、誰とも親しい関係になれないと思われたりしがちですが、真面目に仕事や結婚をしている人が、突発的に性犯罪を行ってしまうケースは珍しくありません。
ここでは、強制わいせつとはどのような犯罪か、犯してしまったらどのように対処すべきか等について解説します。
目次
強制わいせつ罪とは
強制わいせつ罪とは、13歳以上の者に対して暴行または脅迫を用いながらわいせつな行為をすると成立する罪です。
13歳未満の者に対してわいせつな行為をした場合には、暴行や脅迫がなかったとしても成立します。
一般的に、加害者は男性であり被害者は女性であると思いがちですが、刑法の条文上、性別が問われていないことからもわかるとおり、女性が加害者・男性が被害者となるケースも存在しています(刑法176条)。
強制わいせつ罪に似た犯罪の種類
刑法には、強制わいせつ罪と似た名前の罪がいくつかあります。
以下、解説していきます。
公然わいせつ罪
公然わいせつ罪は、公然とわいせつな行為をした者に成立する罪です。
公然というのは、路上や公園のような、不特定多数の人から見られるおそれがあるということです。
現実に誰かに見られなくても誰かに見られる可能性があれば成立しますので、自動車やカラオケボックスの中のような閉ざされた場所であっても、外から簡単に見える場所でわいせつな行為をすれば成立する可能性があります。
家の中であっても、道路に面した窓の近くで、外の人間に見せつけるように露出する等すれば、公然わいせつ罪が成立すると考えられます。
なお、公然わいせつ罪を成立させる「わいせつな行為」とは、局部を露出することや性交すること等を意味します。
準強制わいせつ罪
準強制わいせつ罪は、人が抵抗できない状況でいることを利用して、あるいは抵抗できない状況にしてわいせつな行為をした者に成立する罪です。
お酒であれば、大量に飲んで泥酔した人や、大量に飲むように促して泥酔させた人に対してわいせつ行為を行うと成立します。
近年では、睡眠薬を飲ませて意識を失わせた相手にわいせつ行為を行う手口が問題視されています。
また、医師や教師が、治療や教育に必要であることを信じ込ませた相手に対してわいせつ行為を行った場合にも、準強制わいせつ罪が成立します。
強制わいせつ致死傷罪
強制わいせつ“致死傷罪”と強制わいせつ“致傷罪”で扱いが異なりますので注意しましょう。
前者は、強制わいせつ(準強制わいせつ、監護者わいせつを含む)を行った、または行おうとしたときに、被害者を死なせたり怪我をさせたりした者に成立し得る罪です。
一方、後者は、強制わいせつ等によってすり傷を負った場合にも成立する可能性があります。
また、わいせつ行為自体が未遂であったとしても、それによって怪我をした場合には既遂となります。
刑罰について
強制わいせつ罪の刑罰は6ヶ月以上10年以下の懲役です(刑法176条)。
準強制わいせつ罪も同じ刑罰が定められています(刑法178条1項)。
「準」が付いていても、相対的に軽い罪という意味ではないことに注意が必要です。
強制わいせつ致死傷罪の刑罰は、無期または3年以上の懲役であり、裁判員裁判を受けることになる重大な犯罪です(刑法181条1項)。
公然わいせつ罪の刑罰は、6ヶ月以下の懲役か30万円以下の罰金、拘留、科料です。
人に接触しないため、強制わいせつ罪と比べれば軽い罪が定められています(刑法174条)。
時効について
強制わいせつ罪等の公訴時効は以下のとおりです。
- 強制わいせつ罪 7年
- 公然わいせつ罪 3年
- 準強制わいせつ罪 7年
- 強制わいせつ致傷罪 15年
- 強制わいせつ致死罪 30年
なお、公訴時効は刑事罰を受けることがなくなる期限であり、不法行為による損害賠償請求を受けるか否かとは別の問題です。
民事の時効は、被害者が被害と加害者を知ってから3年、あるいは事件から20年です。
“わいせつ”の定義とは
強制わいせつ罪を成立させる「わいせつな行為」とは、「被害者の性的な羞恥心を害する行為」です。
これに該当する行為には、胸やお尻を触る行為等があります。また、自分の陰部を触らせる行為等も該当します。
なお、キスやハグのように、海外では挨拶の代わりに用いられることもあるコミュニケーションが、「わいせつな行為」に該当するとみなされることもあります。
強制わいせつとなる行動とは
強制わいせつ罪が成立するのは、13歳以上の人に対して、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為を行った場合です。
ここでいう「暴行または脅迫」とは、殴ったり刃物で脅したりすることだけを意味しているわけではなく、押さえつける等の軽度の行為であっても該当します。
さらに、加害者が被害者の下着の中に手を入れる等の行為が行われれば、その行為自体が「暴行」とみなされることもあります。
なお、以前の判例では、強制わいせつ罪が成立するためには、加害者に性的意図があったことが必要であるとされていましたが、客観的にわいせつな行為が行われた場合には、加害者に性的意図がなくても、行為そのものの性質によっては、強制わいせつ罪が成立し得ると変更されています。
他の犯罪との違い
強制わいせつ罪と関係のある性犯罪について、以下で解説します。
痴漢との違い
痴漢と呼ばれる行為の中で、執拗に触る等の強い接触を伴うものや、着衣の中に手を入れて触るものは強制わいせつ罪が成立することがあります。
そうでない軽度の接触を伴うものは、各都道府県の迷惑防止条例によって処罰される可能性があります。
痴漢について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
痴漢について詳しく見る強制性交等罪との違い
わいせつ行為にとどまらず、13歳以上の者に対して暴行または脅迫を用いて性交、肛門性交、口腔性交を行った場合には、強制性交等罪が成立し得ます。
13歳未満の者については、暴行や脅迫を用いなくても成立し得ます。
暴行罪との違い
加害者が被害者を押さえつけて犯行が未遂に終わった場合、わいせつの意図があれば強制わいせつ未遂罪が成立すると考えられますが、わいせつの意図があったのかが微妙なケースもあります。
しかし、押さえつけた行為によって暴行罪が成立する可能性があります。
暴行罪について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
暴行罪について詳しく見る法改正による強制わいせつ罪の変化
平成29年の法改正によって、強制わいせつ罪にはいくつかの変更が加えられました。
以下で、改正された事項についてみていきましょう。
親告罪から非親告罪へ
強制わいせつ罪は、親告罪から非親告罪へ変更されました。これにより、被害者の刑事告訴がなくても被疑者を起訴することができるようになりました。
強制わいせつ事件について捜査や裁判を行うと、被害者にとってはプライバシーの侵害等が負担となるおそれがあるため、かつては親告罪とされていました。
しかし、告訴を要求されることが被害者にとって負担となることや、被害者への逆恨みが生じるおそれがあること等から、非親告罪へと変更されました。
監護者わいせつ罪の追加
監護者わいせつ罪とは、18歳未満の子供に対し、その子供を監護する者が「監護者の立場を利用して」わいせつな行為に及んだことによって成立します。
この場合、被害者である子供は、暴行や脅迫がなくても拒めないおそれがあるため、当該罪が成立し得ます。
法改正により厳しくなった強制わいせつ罪で不起訴を獲得するなら弁護士へ
法改正により、強制わいせつ罪で罰せられるリスクは高くなったといえます。
以前であれば、示談をして告訴を取り下げてもらえば、強制わいせつ罪で罰せられるおそれはありませんでした。
しかし、現在の法律では、告訴の有無にかかわらず罰せられるおそれがあります。
とはいえ、現在でも示談が成立すれば不起訴処分を獲得できる可能性がありますので、弁護士に相談することをおすすめします。
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強制わいせつ罪による逮捕
強制わいせつ罪で逮捕される場合には、現行犯逮捕であることが多いといわれていますが、後日逮捕されるケースがないわけではありません。
これについて、以下で解説します。
現行犯逮捕
強制わいせつの被疑者が現行犯逮捕される場合、被害者や目撃者に取り押さえられたり、通報を受けて駆けつけた警察官等によって、その場で逮捕されたりしたことが考えられます。
路上痴漢等のケースでは、犯行現場の近くをうろついていた被疑者に警察官等が声をかけたときに、被疑者が逃げ出したのであれば、準現行犯逮捕を行うことが可能です。
現行犯逮捕以外の逮捕
現行犯逮捕以外の逮捕としては通常逮捕(後日逮捕)があります。
この場合、防犯カメラの画像・映像や目撃者の証言等により被疑者として特定されたことが要因と考えられます。
また、同様の事件を繰り返しているケースでは、余罪を捜査され、過去の事件が明らかとなるケースもあります。
通常逮捕の場合には、逮捕令状の発行・呈示を受けて逮捕されるのが原則です。
同意の有無について
行為の時点では同意していても、後から「同意なくわいせつ行為をされた」と訴えられるおそれがあります。
状況はいくつか考えられますが、交際が順調に進まなかったときに復讐等の目的で訴えられることや、示談金の獲得を狙って訴えられること、不倫関係であったため一方的な行為だったと嘘をつかれることが想定できます。
これらの理由であれば、強制わいせつ罪は成立せず、冤罪だと考えられます。
一方で、加害者に認知のゆがみがあり、被害者が同意していると思い込む場合もあります。
性犯罪の被害者は、身体が固まってしまい明確に拒絶できないことが珍しくありません。
それに対して、加害者が「受け入れている」と解釈し行為に及んだ等の場合であれば、強制わいせつ罪が成立します。
相手が18歳未満の場合
強制わいせつ等の性犯罪は、被害者が低年齢であると罪が重くなる傾向にあります。
被害者が被害を認識できない場合があることや、抵抗する能力が低いので保護する必要性が高いこと、精神的なダメージによる被害者の将来への影響が懸念されること等が理由です。
18歳未満の子供は、強制わいせつ罪が成立しなかったとしても、児童買春・児童ポルノ規制法や各都道府県の淫行条例によって保護されている年齢であるため、性犯罪の罪が重くなる要素になることは否定できません。
特に、被害者が13歳未満である場合には、暴行や脅迫を用いなくても強制わいせつ罪が成立します。
仮に被害者が同意するような言動をしていたとしても、13歳未満では本当の意味で性的な行為に同意することはできないと考えられているため、強制わいせつ罪が成立するので注意が必要です。
逮捕された際の対処
強制わいせつ罪で逮捕されてしまった場合には、被害者と示談を成立させることが有効です。
ただし、性犯罪の場合には、示談交渉は弁護士に依頼するべきです。
なお、逮捕後の流れについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
逮捕後の流れについて被害者との示談交渉
強制わいせつ罪は親告罪ではなくなりましたが、被害者と示談を成立させることによって不起訴処分になる可能性が高まります。
特に、加害者を許す旨の文言を入れた示談を締結することができれば、身柄の早期解放や不起訴処分の獲得等の有力な要因となります。
弁護士による弁護活動
性犯罪の被害者は、通常の場合、加害者との接触を拒みます。無理に接触しようとすれば、証拠隠滅を図ったとみなされてしまい、不利に働くおそれがあります。
それに、見ず知らずの者に対してわいせつ行為を行った場合には、被害者の住所や連絡先等を教えてもらうのは難しいです。
弁護士であれば、被害者の同意の上で接触し、示談交渉を行うことが可能です。
起訴されてしまったら
強制わいせつ罪で起訴されてしまった場合、刑罰として懲役刑のみが定められているため、無罪にならなければ懲役刑を受ける事態になってしまいます。
そこで、なるべく懲役刑の期間を短くすること、そして執行猶予を獲得することを目指さなければなりません。
そのためにも、被害者との間に示談を成立させることが重要であり、弁護士による示談を獲得するための活動が必要となります。
起訴について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
起訴について詳しく見る迅速な対応が不起訴獲得へと繋がりますので、急いで弁護士へご相談ください
強制わいせつの疑いをかけられたら、冤罪である場合には最後まで戦うべきです。
しかし、犯罪を行った自覚があるケースでは、早期に被害者との示談を成立させて、逮捕や起訴を免れるべきです。
示談交渉は弁護士にお任せください。
強制わいせつについてよくある質問
以下で、強制わいせつに関してよくある質問について解説します。
セクハラは強制わいせつとなりますか?
セクハラ(セクシャルハラスメント)と呼ばれる言動のうちでも、極めて悪質なものの中には強制わいせつ罪が成立するものがあります。
原則的に、セクハラは民事上の問題であり、必ず刑事事件に該当するとはいえません。
しかし、嫌がっている相手の胸やお尻を執拗に触ったり、下着の中に手を入れて陰部を触ったり、押さえつけて強引にキスをしたりすれば、強制わいせつ罪が成立すると考えられます。
また、これらよりも軽度だと思える接触であっても、暴行罪や迷惑防止条例違反が成立するおそれがあります。
加えて、民事上の責任を追及されるおそれがあるだけでなく、会社から懲戒処分を受けるおそれもあるため、絶対にセクハラをしてはいけません。
酒の席でついキスをしてしまったのですが、強制わいせつとなるのでしょうか?
キスをすると強制わいせつ罪が成立する場合があります。
しかし、酒の席で行ったキスが必ず犯罪になるわけではなく、キスをした状況について総合的に判断されます。
キスをした2人の関係や、キスをする前後の言動、キスをした態様等が判断の要素になるでしょう。
仮に相手が嫌がっていないようにみえても、キスをした相手が職場の人間等であった場合には注意が必要です。
なぜなら、相手は職場の人間関係を悪化させることや、仕事の上で不利に扱われること等をおそれて拒絶しなかっただけかもしれないからです。
また、親しい関係になって一緒にお酒を飲んだとしても、必ずしもキス等の性的な行為に同意したわけではないことに注意してください。
相手が18歳未満だと知りませんでした。強制わいせつとなるのでしょうか?
相手の同意があっても強制わいせつが成立するのは13歳未満であるため、相手が13歳未満か否かが問題となります。
相手が13歳未満だと知らなければ、同意を得たうえでのわいせつ行為によって強制わいせつ罪は成立しないのが原則です。
ただし、13歳未満の子供の容姿は幼くみえるのが通常であり、13歳未満だと知らなかったという弁解を、捜査機関に信用してもらえるとは限らない点に注意が必要です。
なお、18歳未満の児童が相手であれば、児童買春・児童ポルノ規制法違反や、各都道府県の淫行条例(東京都の条例の正式名称は「東京都青少年の健全な育成に関する条例」)違反として処罰されるおそれがあります。
これらの疑いをかけられたときにも、18歳未満であると知らなかったという弁解は、なかなか信じてもらえないので注意してください。
弁護士に依頼していただければ、日常生活への影響を最小限に抑えます
強制わいせつの疑いをかけられた場合には、すぐに弁護士へご依頼ください。
強制わいせつ罪は、懲役刑しか定められていない重罪であり、悪質であるとみなされれば実刑を受けるおそれもあります。
弁護士にご依頼いただければ、逮捕されて身柄を拘束されることを阻止するための活動を行いながら、被害者との示談を成立させるために活動します。
性犯罪である強制わいせつの示談交渉は、ぜひ経験豊富な弁護士にお任せください。
