未必の故意とは?過失との違いや問題となる例をわかりやすく解説

未必の故意とは?過失との違いや問題となる例をわかりやすく解説

監修
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治 弁護士法人ALG&Associates

未必の故意(みひつのこい)とは、犯罪の成立要件である故意の一種として扱われている概念です。刑事事件において、未必の故意が認められるかどうかは、罪名や量刑に重大な影響を与えるため、重要です。しかし、この概念は、専門的で正確に理解するのは難しいものです。

そこで本記事では、未必の故意に着目し、未必の故意がなぜ重要となるのか?をはじめ、過失との違いや問題となる例などについて、詳しく解説していきます。

未必の故意とは?

未必の故意(みひつのこい)とは、犯罪結果が起こる可能性を認識しつつ「それでも構わない」と受け入れて行動する心理状態のことです。
たとえば、刺せば死ぬかもしれないと理解しながら人を刺し、死亡した場合などが該当します。

刑法では原則として故意が必要ですが、過失による犯罪も例外的に成立します

確定的故意と未必の故意

刑法における故意は、確定的故意未必の故意の2種類に分類されます。

  • 確定的故意
    自分の行為によって犯罪の結果が必ず発生すると確信し、その結果を積極的に望んでいる心理状態を指します。
    (例)「殺してやる」と思いながら相手を刃物で刺す
  • 未必の故意
    自分の行為によって犯罪の結果が発生するかもしれないと認識しながら、それを認容している心理状態を指します。
    (例)「死ぬかもしれないが、そうなったらそれでいい」と思いながら相手を刃物で刺す

どちらも処罰の対象であり、明確な殺意がなくても未必の故意が認められれば故意ありと判断されます。そのため、未必の故意の有無が争点になることも多くあります。

未必の故意と認識ある過失の違い

未必の故意と認識ある過失は、どちらも結果が発生する可能性を認識していた点は共通しますが、その結果を認容していたかどうかが決定的に違います。

認識ある過失とは、自分の行為によって結果が発生する可能性があると認識していながら、「大丈夫であろう」と軽信して行動する状態を指します。

たとえば、事故が起きるかもしれないと思いながらも、「自分は運転が上手いから大丈夫だろう」と軽信して発生した死亡事故などが該当します。

事故が発生する可能性を認識していながらも、法定速度を大幅に超えるスピードで運転し、結果的に人を死傷させてしまったケースです。未必の故意は「起きても構わない」と考えて行動する状態であるため、認められれば故意犯として重い処罰を受けます。

一方、認識ある過失は、「起きないだろう」と軽信して行動する状態であるため、過失犯として、故意に比べて軽い刑罰に留まります。

この違いは、量刑に大きく直結します。

未必の故意はなぜ重要なのか?

未必の故意が認められるかどうかは、罪名の決定や量刑の重さに大きく影響します。

刑法では、故意がある行為のみを原則として処罰するという考え方(故意犯処罰の原則)が採用されています。つまり、過失による行為は、特別な場合を除いて犯罪とはならず、処罰の対象外となることが多いです。

このような中で、「未必の故意」は刑法上の故意の一種とされており、確定的な故意と同様に処罰の対象となります。未必の故意とは、結果が発生する可能性を認識しながらも、それを容認して行動する心理状態を指します。

たとえば、「相手が死ぬかもしれないが、それでも構わない」と考えて行動した場合などが該当します

特に殺人事件などの重大犯罪では、未必の故意があるかないかによって、殺人罪が成立するか、それとも傷害致死罪や過失致死罪になるかが分かれることがあります。

未必の故意が問題となる例

未必の故意が特に問題となるのは、以下のような犯罪です。

傷害致死

人に傷害を加えた結果、死亡させてしまった場合は、未必の故意の有無で罪名が大きく変わります。

  • 相手を殺すつもりで犯行に及んだ場合 ➡ 殺人罪が成立
  • 相手が死亡するかもしれないと認識しつつも、死亡してもいいとは思わずに犯行に及んだ場合 ➡ 傷害致死罪が成立

未必の故意が認められるかどうかは、発言や行為の態様、凶器の有無、攻撃の部位などの客観的な事情を考慮し、総合的に判断されます。その結果、未必の故意が認められれば、殺人罪が成立し、量刑が大幅に重くなります。

たとえば、「殺すつもりはなかった」と弁解しても、相手の急所を何度も刃物で刺しているような場合には、未必の故意が認定されやすいです。本当に殺すつもりがなかったのなら、致命傷にならない部位を狙い、急所は避けるのが普通と考えられるからです。

交通事故

交通犯罪もまた、未必の故意の有無で罪名が大きく変わります。
たとえば、法定速度を大幅に超えるスピードで自動車を運転し、死亡事故を起こしたケースでみてみましょう。

  • 「事故が起きても構わない」と認識していた場合 ➡ 危険運転致死傷罪が成立
  • 「事故は起きないだろう」と軽信していた場合 ➡ 過失運転致死傷罪が成立

危険運転致死傷罪が成立するのは、制御困難な速度で運転する行為によって事故が起きるかもしれないと認識しながら、「それでも構わない」と受け入れているケースです。

この場合は、未必の故意が認められます。一方で、過失運転致死傷罪が成立するのは、事故が発生する可能性を認識してはいたが、「自分の運転技術なら事故は起きないだろう」などと軽信した場合です。

この場合は、認識のある過失と認められます。大幅な速度超過や飲酒・薬物の使用がある場合には、未必の故意が認定されやすいです。

その他

未必の故意は、薬物事件や詐欺事件でも度々争点となることがあります。たとえば、覚醒剤を所持していたケースでは、「これは覚醒剤かもしれないが、それでも構わない」と思って所持していた場合に覚醒剤取締法違反が成立します。

覚醒剤の所持で罪に問われるのは、故意がある場合のみです。つまり、覚醒剤と知らなかった場合は、罪に問われません。

詐欺事件についても、「これは詐欺かもしれないが、お金がもらえるならいい」と考えて行動すれば詐欺罪が成立し、故意がなければ成立しません。

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未必の故意と判断された裁判例

【事件番号:昭和23年(れ)1680号/最高裁判所第一小法廷 昭和24年2月24日判決】

事件の概要
被告人は、共犯者と強盗を企て実行に移ろうとしていたところを被害者である警察官に連行されそうになり、とっさに銃を発砲して被害者を射殺しました。

裁判所の判断
被告人は、「逃走する際に誤って引き金に手がかかり発砲した」と主張し、故意はなかったと訴えました。これに対し裁判所は、場合によっては人が死ぬかもしれないと意識しながら発砲し、その結果弾丸が命中して人が死んでしまったら、それは殺意を持って人を殺したことになる。したがって、被告人が被害者から追われないようにするため、「射殺することになるかもしれないが、それもやむを得ない」と考え発砲したと認定しました。本件は、未必の故意が認められたため、過失による傷害致死罪ではなく、殺人罪が成立しました。

未必の故意が成立すると量刑にはどう影響するか?

未必の故意が成立すると、確定的故意と同様に故意犯として処罰されるため、過失犯よりも量刑は重くなります。下表は、未必の故意が認められた場合とそうでない場合の量刑を比較したものです。

死亡事案 殺人罪 死刑または無期もしくは5年以上の拘禁刑
傷害致死罪 3年以上の有期拘禁刑
交通事故 危険運転致死傷罪 死亡の場合:1年以上の有期拘禁刑
負傷の場合:15年以下の拘禁刑
過失運転致死傷罪 7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金

死亡事案の場合、未必の故意が認められると殺人罪が、認められなければ傷害致死罪が成立します。それぞれの量刑をみてみると、傷害致死罪よりも殺人罪の方がより重いことが分かります。

ただし、未必の故意と確定的故意では、同じ罪でも未必の故意の方が減軽される傾向にあります。

未必の故意が疑われたら弁護士へ相談してサポートを受けましょう

未必の故意が疑われると、「故意犯」として処罰される可能性が高いです。そうなれば、過失犯よりも重い刑罰が科されることになります。

これを回避するには、「犯罪結果を認容していなかった」点を証明する必要がありますが、そのためには客観的な証拠や供述が不可欠です。故意がなかったことの証明は、決して容易ではありません。ご自身だけで対応すると、思わぬ不利益を受ける可能性があります。

刑事事件に精通した弁護士であれば、取り調べに対する対応の仕方についてのアドバイスを受けられ、不利な供述調書の作成を防げます。また、故意がなかったことを証明する有効な証拠の収集もお願いでき、最適な弁護方針を提案してもらえます。

未必の故意の有無は、量刑に大きく影響する可能性のある重要なポイントです。未必の故意が疑われた場合には、早急に弁護士にご相談ください。

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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)

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