器物損壊で逮捕される?警察は動かない?逮捕後の流れや不起訴について
器物損壊は、比較的軽微な犯罪とされているため、「警察は動かない」と思われがちです。しかし、犯行態様によっては、現行犯逮捕や後日逮捕される可能性があり、実際に目撃者の証言をきっかけに後日逮捕に至ったケースも少なからずあります。
そこで本記事は、器物損壊による逮捕に着目し、器物損壊で逮捕される具体的な行為や逮捕のパターンなどについて、詳しく解説していきます。
器物損壊で逮捕された後の流れについても解説していきますので、ぜひご参考になさってください。
目次
器物損壊で逮捕されることはある?
法務省が公表する令和5年犯罪白書によると、令和4年における器物損壊罪の認知件数は54,750件で、そのうち検挙されたのは7,879件でした。
そのため、令和4年における器物損壊の検挙率は14.4%と低いです。検挙とは、捜査機関が罪を犯した容疑者が誰かを特定して、被疑者として扱うことを指します。
器物損壊は、他人の物を壊す又は隠すと成立する毀棄(きき)・隠匿(いんとく)罪に含まれています。
令和5年の検察統計によれば、同年の毀棄・隠匿の既済事件は7,531件、逮捕されたのは2,972件ですので、令和5年における器物損壊の逮捕率は約39.5%となります。
これらの統計データを踏まえると、器物損壊で逮捕されるケースはあるものの、件数は比較的少数といえます。
そもそも器物損壊とは?
器物損壊とは、「他人が所有する物(動物も含む)を損壊、傷害をおわせる行為」を指し、このような行為に及ぶと刑法第261条が定める器物損壊罪が成立します。
器物損壊罪は、刑法で以下のように定められています。
第二百六十一条 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
刑法上の器物損壊は、「他人の物」を「損壊」又は「傷害」する行為を犯罪成立の要件としています。ここでいう「他人の物」とは、権利義務に関する文書や建造物を除くすべての他人の物です。別途刑罰が定められている理由により文書や建造物が除かれています。
権利義務に関する文書や建造物の損壊は、器物損壊罪よりも重い刑罰です。
器物損壊で逮捕される具体的な行為
器物損壊とみなされ、逮捕される可能性のある具体的な行為を下表にまとめました。
| 具体的な行為 | |
|---|---|
| 飲酒 |
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| 人間関係 |
|
| 職務質問 |
|
| 性犯罪 |
|
| 自己主張 |
|
なお、器物損壊の対象となる行為には、「他人の物を損壊・傷害」するだけでなく、効用を害する行為も含まれます。
故意ではない器物破損でも逮捕される?
故意ではない、つまり、不注意で他人の物を壊してしまった場合は、器物損壊罪として処罰されません。器物損壊罪は、罪を犯す意思を持ちながら行った犯罪=故意犯が処罰の対象となります。
そのため、不注意で罪を犯してしまった犯罪=過失犯は処罰されないのが基本です。ただし、過失により人に怪我を負わせた場合には、過失傷害罪に問われる可能性があります。
なお、酒に酔っていて覚えていないなどの事情は故意がなかったことにはならないため、民事上の賠償責任を負い、損壊した物を弁償する必要があります。
器物損壊で逮捕された場合の刑罰
器物損壊罪には、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料の刑罰が定められています。
なお、故意に他人の物を損壊・傷害しようとしてできなかった場合、つまり、未遂の場合には処罰されません。
器物損壊罪は、比較的軽微な犯罪とされているため、起訴されても罰金刑や執行猶予付き判決となるケースが多いです。
しかし、必ずしも軽い刑が科せられるのではなく、犯行態様が悪質な場合には、たとえ初犯であっても実刑判決が下される可能性があります。前科の回避や減刑を目指すには、まず被害者との示談を成立させる必要があります。
器物損壊で逮捕される3つのパターン
器物損壊で逮捕される主なパターンは、次の3つです。
- 現場での現行犯逮捕
- 犯人が特定され後日逮捕
- 自首したことによる逮捕
器物損壊事件のほとんどが、上記3つのパターンで逮捕されています。
では、各パターンについて次項で詳しく解説していきます。
①現場での現行犯逮捕
器物損壊で逮捕されるケースの大半は、現行犯逮捕によるものです。
現行犯逮捕とは、文字通り、犯罪が行われている最中またはその直後に犯人を逮捕することです。人の身柄を拘束する逮捕は、その人の意思に反する行為でもあるため、人権侵害に該当します。
日本国憲法において、人権侵害は許されないとされており、通常の逮捕には裁判所が発布する逮捕状が必要です。
しかし、現行犯逮捕に関しては、何人でも(一般人でも)逮捕状なしに逮捕できます。そのため、犯行を目撃した人による現行犯逮捕が多いです。
②犯人が特定され後日逮捕
器物損壊で逮捕されるケースには、後日逮捕も少なからずあります。
後日逮捕とは、裁判所が発布した逮捕状に基づいて犯行日以降に犯人を逮捕することです。
たとえば、車のガレージが蹴られて破損していることに気づいた被害者が警察に被害届を提出するケースなどが挙げられます。現行犯逮捕できなくても、付近の防犯カメラから犯人が特定されれば、後日逮捕となる可能性が高いです。
現行犯逮捕されなかったからといって安心するのは大変危険です。故意ではなく過失(不注意)だったとしても、捜査機関から故意犯として捜査される可能性があります。
③自首したことによる逮捕
器物損壊が捜査機関に発覚する前に自首して逮捕されるケースがあります。
自首とは、「捜査機関に犯した罪が発覚する前に、罪を犯したと自発的に名乗り出る行為」です。
自首は、反省を示す行為とみなされるため、逮捕の要件である逃亡・証拠隠滅のおそれがないと判断されやすいです。そのため、自首により逮捕される可能性は低く、在宅事件として手続きされる傾向にあります。
また、刑事処分の判断においても、自首をした行為により、不起訴処分や減刑となる可能性が高まります。
- 在宅事件とは?
逮捕や勾留(身柄拘束)されずに捜査が進められる刑事事件です。普段通りの生活を送りながら、捜査機関からの呼び出しなどに応じます。
器物損壊で警察が動かないケースとその理由は?
「器物損壊で警察は動かない」と聞いたことのある方は、少なくないでしょう。器物損壊は立派な犯罪行為ですが、一般的には軽く見られやすい傾向にあります。
次項では、器物損壊が軽く見られやすい理由について、詳しく解説していきます。
比較的軽微な犯罪類型だから
器物損壊が軽く見られているのは、比較的軽微な犯罪類型とされているのが理由の一つです。
日本では、主に次のような犯罪行為が重大犯罪になります。
- 殺人
- 強盗
- 強姦
- 放火
- 不同意性交等
- 不同意わいせつ
- 略取誘拐
- 傷害致死 など
これら重大犯罪には重い刑罰が定められており、これらと比べると器物損壊は相当軽微な犯罪類型に位置付けられています。
そのため、「犯行態様が余程悪質ではない限り、捜査機関は動かないだろう」と思われがちです。確かに、器物損壊は軽微な犯罪類型とみなされていますが、犯罪行為である事実は変わりません。
立派な犯罪行為である以上、犯行の内容次第では、捜査機関が本格的に捜査を始める可能性も十分に考えられます。
親告罪だから
器物損壊では警察は動かないと考えられている理由には、親告罪である点も含まれています。
親告罪とは、被害者からの告訴(犯人に処罰を求める訴え)がないと検察が起訴できない犯罪を指し、被害者の訴えなしに捜査機関は捜査を進められません。
そのため、「被害者が訴えなければ罰せられない」と考える人が多くいますが、被害者が提出した告訴状が受理されれば、捜査機関は必ず本格的な捜査を開始します。絶対に罰せられない保障はないため、安易に考えるのは大変危険です。
親告罪の告訴は、被害者が犯人を知った日から6ヶ月後 が期限とされており、器物損壊の被害者が告訴状を作成し提出する必要があります。なお、告訴状の提出に費用はかかりませんが、弁護士や司法書士に依頼した場合には依頼費用が発生します。
証拠を集めるのが難しいから
証拠を集めるのが難しい点も、器物損壊で警察が動かないと考えられている理由に挙げられます。
器物損壊事件に関わらず、犯行を裏付ける証拠は、犯人特定や刑事処分の判断に大きく影響します。特に次のような客観的証拠の有無は、事件の流れを大きく変えます。
- 防犯カメラの映像
- 目撃者の証言
- 指紋
- DNA鑑定 など
器物損壊事件では、犯人が犯行を目撃されないような場所を選びかつ防犯カメラのある場所を避けて犯行に及ぶケースが多く、証拠の収集が難しいとされています。
証拠が不十分だと、捜査機関は本格的に捜査を開始できません。しかし、近年では一軒家でも住居人が防犯のために家に防犯カメラを設置するようになり、以前よりも証拠が集めやすくなりました。
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器物損壊で逮捕後の流れ
器物損壊で逮捕された後は、主に以下のような流れで手続きが進んでいきます。
- 警察で取り調べを受ける
- 検察官に送検される
- 検察官から取り調べを受ける
- 検察官が起訴・不起訴を決める
- 起訴されると刑事裁判にかけられる
次項では、各手続きを流れに沿って詳しく解説していきます。
注意すべき点や押さえるべき点も併せて解説していきますので、ぜひご参考になさってください。
警察で取り調べを受ける
逮捕されると、まず警察署で取り調べを受け、事件の動機や経緯、被害者との関係などの質問を受けます。
取り調べでの質問は、事件に関する内容から生い立ちや家族構成などのプライベートな内容まで多岐にわたります。被疑者は逮捕されると必ず取り調べを受ける必要があり、これを拒否できません。
逮捕後の身柄は、留置所もしくは拘置所で拘束され、その間に取り調べを受けます。逮捕後から48時間が経過するまでに事件の資料と被疑者の身柄は検察に送られます(これを、「送致」といいます)。
警察から呼び出しされた場合の対応については、以下のページをご覧ください。
警察から呼び出しがきたらどうする?逮捕の可能性や対処法、今後の流れなど検察官に送検される
被疑者は、警察の取り調べから48時間以内に検察官に送検されます。送検とは、被疑者および事件の資料を警察が検察に引き継ぐことで、報道などでは送致ではなく「送検」と呼ばれています。
なお、送検は次の2種類に分かれています。
- 身柄送検
被疑者の身柄を事件の資料や証拠物とあわせて検察官に引き継ぐこと - 書類送検
被疑者の身柄を拘束せずに事件の資料や証拠物のみを検察官に引き継ぐこと
検察官から取調べを受ける
検察官の取り調べには、原則送致されてから24時間以内までの時間制限が設けられています。この間、被疑者が取り調べの拒否や自宅への帰宅を望むことは許されません。
検察官は、24時間以内に勾留請求(被疑者の身柄を引き続き拘束する)するか、釈放するかの判断を下します。検察官が被疑者の身柄を引き続き拘束するべきと判断した場合は、裁判所に対して勾留請求が行われます。
裁判官が勾留請求を認めれば、被疑者はまず10日間 勾留され、さらに10日間の延長が可能なため、最長で20日間 の身柄拘束が続きます。逮捕されてからだと、最大で23日間 の身柄拘束を受けることになります。
検察官が起訴・不起訴を決める
被疑者を起訴するか、不起訴とするかは、検察官によって判断されます。検察官は、勾留満期までにこれまでの捜査資料や取り調べの結果を踏まえて、この判断を下します。
起訴されれば、被疑者は被告人となり、刑事裁判で最終的な刑事処分が下される一方で、不起訴と判断された場合には、被疑者は釈放され刑事裁判も開かれません。
また、証拠が不十分などの理由から検察官が起訴不起訴の判断をつけられなかった場合には、「処分保留」として釈放されます。
起訴されると必ず前科がつくわけではありませんが、刑事裁判で有罪判決が下されれば前科はつきます。
検察官は起訴の判断を慎重に下すため、日本の刑事裁判における有罪率は約99.9%と高く、起訴されれば100%に近い確率で有罪判決が下されるのが実情です。そのため、この段階では不起訴処分を獲得するための対策が必要となります。
起訴されると刑事裁判にかけられる
起訴されると、約1~2ヶ月後を目安に刑事裁判が開かれ、被告人の刑事処分をどのようにするのかが審理されます。
起訴の種類は、主に以下の2つです。
- 正式起訴
通常の起訴で、公開された法廷で刑事裁判が行われます。 - 略式起訴
公開された法廷での刑事裁判は行われず、書類のみで審理されます。
略式起訴されれば、主に100万円以下の罰金刑あるいは科料の判決が下される可能性が高いですが、正式起訴となれば重い刑罰が科せられる可能性が高まります。
そのため、起訴された場合には、罰金刑や執行猶予付き判決を目指した防御活動に専念する必要があります。
器物損壊による逮捕や示談について弁護士に相談するメリット
器物損壊による逮捕や被害者との示談について弁護士に相談すると、以下のようなメリットを得られます。
- 被害者との示談成立を円滑に進めてもらえる
- 不起訴処分獲得に向けた防御活動を適切に進めてもらえる
- 会社や家族への連絡をお願いできる
- 捜査機関からの取り調べに対するアドバイスをもらえる
- 証拠の収集をしてもらえる など
器物損壊罪は、比較的軽微な犯罪とされているため、犯行態様次第では早期釈放や不起訴処分の獲得が期待できます。しかし、捜査機関の取り調べに対して不利な発言や行動をしてしまえば、早期釈放や不起訴処分の獲得が望めなくなるでしょう。
この点、弁護士であれば、適切な防御活動を早々に開始でき、有利な結果となる可能性を高められます。また、身柄拘束中でも会社や家族への連絡を代わりにお願いできるため、より安心を得られます。
器物損壊の逮捕や示談に関するよくある質問
器物損壊で示談しないとどうなりますか?
犯行態様が悪質でない器物損壊事件であれば、30万円以下の罰金刑もしくは科料を科せられる可能性が高いです。
この場合は、検察官から略式起訴される可能性が高く、そうなれば前科がつきます。不起訴処分を獲得して、前科を回避するには、被害者との示談成立が欠かせません。
被害者が存在する刑事事件では、被害者との示談成立が被疑者・被告人の刑事処分に大きな影響を与えます。
また、示談できなければ、刑事上の責任ではなく、損害賠償金を支払わなければならない民事上の責任に対して被害者から民事裁判を起こされる可能性があります。
器物損壊の示談金の相場はいくらですか?
器物損壊の示談金額は、一般的に数万円~数十万円程度とされおり、5万円~10万円前後が多い傾向にあります。
ただし、損壊した物の時価額や修理額、被害者が負った精神的苦痛の程度などの事情を踏まえて総合的に判断されるため、必ずしも相場の金額となるわけではありません。
被害者が被疑者・被告人の処罰を強く望んでいる場合には、相場よりも高い金額でないと示談できないケースも少なくありません。
示談交渉のための話し合いの場を設けるのも容易ではないため、被害者の心情に配慮しながら示談交渉を慎重に行っていく必要があります。
器物損壊の証拠不十分の場合は逮捕されませんか?
被疑者が器物損壊の罪を犯したと判断できる証拠が不十分の場合は、逮捕されない可能性が高いです。
被疑者を逮捕するには、「被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」がなければならず、ここでいう相当な理由は証拠の有無を指します。
証拠が乏しければ被疑者が罪を犯したと疑えないため、捜査機関は被疑者の身柄を拘束(逮捕)できません。
もっとも、器物損壊罪は親告罪であるため、被害者からの告訴がなければ捜査機関は動けません。被害者から告訴され、本格的な捜査が開始でき、その結果ある程度の証拠が収集できた場合に、逮捕の手続きが取られます。
器物損壊による逮捕や示談についてはなるべく早く弁護士にご相談ください
器物損壊事件は、早期釈放や不起訴処分の獲得を目指して早い段階から弁護活動を行う必要があります。
弁護活動の中心となるのは、「被害者との示談交渉」です。被害者との示談成立に加え、被疑者にとって有利となる情状を適切に主張できれば、長期間の身柄拘束や前科を回避できる可能性が高まります。
しかし、加害者に対して強い怒りや悲しみを抱いている被害者との示談交渉は、決して容易ではありません。被害者本人だけでなく被害者の家族までもが加害者との接触を拒むケースが多く、示談に向けた話し合いの場を設けるのも難しいのが実情です。
しかし、弁護士が間に入ることで、被害者側が交渉に応じてくれやすくなり、示談を成立できる可能性が高まります。弁護士であれば、被害者の心情に配慮した交渉を行えるため、安心して交渉を任せられます。
お一人で悩まず、お気軽に弁護士にご相談ください。
