在宅事件は長期化する可能性も。呼び出しや示談など在宅捜査中の注意事項


目次
在宅事件と身柄事件の違い
「在宅事件」とは被疑者が逮捕されないまま捜査が行われる事件のことであり、「身柄事件」とは被疑者が逮捕(勾留)されたうえで捜査が行われる事件のことです。
「身柄事件」であれば、被疑者は留置所や拘置所に入れられて自由の無い状態になりますが、「在宅事件」であれば自宅で生活することができます。
ここで、なぜ被疑者が逮捕されない事件があるのかについて疑問に思われる方も少なくないでしょう。
刑事事件という言葉から、テレビ等で目にする逮捕の場面(手錠をかけるシーン等)を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
しかしながら、実際には、刑事事件の被疑者が逮捕されるとは限りません。逮捕は逃走のおそれがある等の要件を満たした被疑者のみがされるものであり、「最初に必ず行われる手続き」のようなものではないのです。
2019年の犯罪白書によれば、2018年の検察庁既済事件の総数は約30万件であり、逮捕されなかった事件は約18万件となっています。
事件の種類によっては異なるものの、全体としては逮捕されない確率はそれなりに高いと考えられます。
在宅事件となる条件
在宅事件となるためには、逃亡のおそれが無いことと、証拠隠滅のおそれが無いことが必要です。
そのため、在宅事件となるのは比較的軽微な事件である場合が多く、殺人や強盗のような凶悪事件については、在宅事件となるケースはほとんどありません。
しかし、どのように判断するかについては、絶対的な基準があるわけではないため、かつては「否認すると逮捕されて長期間勾留されてしまう」と言われていました。
例えば、痴漢事件で冤罪を主張した被疑者が、逃亡や証拠隠滅のおそれがあるとみなされて逮捕され、長期間勾留されてしまうようなケースがあったためです。
近年では、長期間の身柄の拘束が冤罪につながるリスクがあることや、裁判の判決が罰金刑である場合に長期間の身柄の拘束とのバランスが取れないこと等から、近年では逮捕や勾留の運用が見直されてきていると言われており、勾留請求が退けられる確率も少しずつ上がる傾向にあります。
在宅事件となるケース(具体例)
まず、犯行を行ったか否かが明らかでない場合には、逮捕されることはありません。
例えば、痴漢の疑いで当事者から話を聞いたところ、人違いのおそれがあると判断されたケースでは、逮捕されないまま捜査が行われることがあります。
また、犯行を行ったことが明らかな場合であっても、住所が定まっていて定職に就いている人物が、少額の万引き等の軽微な犯罪を行ったケースで、素直に犯行を認め、反省の言葉を述べていて、証拠となる物を提出しているような状況であれば、在宅事件となる可能性は高いと考えられます。
在宅事件と起訴(略式起訴)
「逮捕されなければ前科も付かないのではないか?」と誤解してしまう方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、逮捕されなくても在宅のまま捜査が進み、起訴されて有罪判決を受ければ前科が付いてしまいます。
略式起訴にも注意が必要です。
略式起訴の場合には、書類審査のみで手続きが終了し、判決は100万円以下の罰金または科料となるため、前科が付かないと思い込んでしまうかもしれませんが、罰金刑であっても有罪判決を受ければ前科は付いてしまいます。
在宅事件と起訴率
2019年の犯罪白書によれば、2018年の刑法犯の起訴率は37.1%であり、道路交通法違反を除く特別法犯の起訴率は50.9%です。
重大な犯罪の中にはほとんど在宅事件にならないものもあります。
また、より罪の重い犯罪の方が起訴されやすい傾向があることから、在宅事件の起訴率が全体の起訴率を大きく上回ることはないと思われます。
しかし、割合が高くなかったとしても、在宅事件で起訴される被疑者が少なからず存在することは心に留めておいてください。
在宅事件で実刑となることはあるの?
在宅事件であっても、実刑となることはあり得ます。
基本的に、犯行が発覚した時点で裁判の結果が実刑判決となることが予想される、重大な犯罪の被疑者は、逮捕されるケースが多いと考えられています。
何故なら、重大な犯罪の被疑者であること自体が、逃走するおそれや証拠隠滅するおそれがあるということだと解釈されるからです。
しかし、逮捕されなかったとしても、十分な弁護活動が行われなければ、裁判で不利になってしまうことが考えられます。
世間で逮捕が重大なイベントであると認識されていること等から、逮捕されなかったために安心してしまうと、無防備な状態で裁判に臨んで、予想外に重い判決を受けてしまうおそれがあるため注意が必要です。
身柄事件と在宅事件の流れ


身柄事件の流れ(拘束期間が長いケース)
逮捕→<48時間以内>→検察官送致→<24時間以内>→勾留請求→勾留→<10日以内>→勾留延長請求→勾留延長→<10日以内>→起訴→起訴後の勾留→刑事裁判
在宅事件の流れ
捜査→検察官送致(いわゆる書類送検)→《検察から呼び出しを受ける》→在宅起訴→刑事裁判
[略式手続の場合]→在宅起訴(略式起訴)→略式命令
在宅事件では検察から呼び出しがかかることがあります
在宅事件では、身柄を伴わない検察官送致(いわゆる書類送検)された後で、検察から呼び出しを受けることがあります。
逮捕されなくても被疑者であることに変わりはないため、捜査の一環として呼び出されるのです。
場合によっては、何度も呼び出されるケースもあります。
検察官から呼び出された場合には、素直に応じた方が良いでしょう。
正当な理由なく何度も出頭を拒否すると、逃亡や証拠隠滅のおそれがあるとみなされて逮捕されてしまうリスクが生じるからです。
どうしても都合が悪い場合には、検察事務官等に相談した方が良いでしょう。
日程を変更してもらえることがあります。
書類送検とは?
在宅事件では、検察から呼び出される前に、警察から検察へ捜査書類が送られ、捜査の主体が移ります。
これが、いわゆる「書類送検」です。
なお、法律上は「書類送検」という言葉はありません。
身柄を伴わず、検察へ書類を送致する実態から、報道機関等が付けた呼称です。
ちなみに、被疑者が死亡した場合にも「書類送検」が行われます。
検察に引き渡す人物が、既に存在しないためです。
どのように検察から呼び出しがかかるの?
検察からの呼び出しは、通常であれば手紙か電話によって行われます。
被疑者が自分の家族に対して、被疑者となった事実を明かしていない等の事情がある場合には、プライバシーに配慮して電話してもらえるケースもあります。
呼び出された被疑者は、検察官の聴取を受けます。
そして、聴取の結果や証拠品、警察での聴取の内容等、諸々の捜査の結果を踏まえて、検察官は被疑者の処分を決めます。
なお、1回の聴取では処分を決めず、何度も聴取を受けるケースもあります。
被疑者が全面的に自白している場合には、被害者との示談を促されることがあります。
検察官は被害者とも話をしているため、検察官が示談を促したときには、被害者が示談に前向きである可能性が高いと考えられます。
事前に弁護士にご相談を。どう対応すべきか弁護士がアドバイスいたします
在宅事件となった場合であっても、すぐに弁護士にご相談ください。
逮捕・勾留された場合、資力要件を満たしていれば国選弁護人を選任してもらうことができますが、在宅事件の場合には、弁護士と話をしないまま起訴されてしまいかねません。
そうなってしまえば、その時点で可能な対策も限定されてしまいます。
検察から呼び出されて出頭する前にご相談いただければ、出頭する時までに示談を成立させたり、反省していることを示す証拠を用意したりする等、より軽い処分を獲得するための活動を行うことができます。
在宅事件では、連絡が無いまま数ヶ月も待たされるおそれがあります。
その期間の不安を和らげるためにも、専門的な知識を有する弁護士へ、ぜひご相談ください。
在宅事件のメリットは普通の生活ができること
在宅事件となれば、今までと同様の社会生活を送ることが可能となることがメリットです。
逮捕され勾留されてしまうと、会社を欠勤したり学校を欠席したりする状態が長期間継続し、それだけで解雇されたり退学させられたりするリスクが生じます。
また、周囲に逮捕された事実を知られるリスクが高まり、社会生活に重大な悪影響が生じるおそれがあります。
在宅事件となれば、それらのリスクを避けることができます。
さらに、在宅捜査となれば、自分で弁護士に相談に行くことができます。
逮捕・勾留された場合でも私選または国選の弁護人を選任してもらうことができますが、国選弁護人の場合、必ずしも刑事事件に詳しい弁護士が選ばれるとは限らないので、自ら弁護士を選ぶことができるのは大きなメリットです。
在宅事件のデメリットは長期化するおそれがあること
在宅事件の場合には、公訴時効以外に時間の制限がほとんどありません。
逮捕されると、勾留や勾留延長の期間も含めて、最大で23日以内に処分が決められますが、在宅事件の場合、起訴されるか否かが分からない不安定な状態が数ヶ月かそれ以上に及ぶおそれがあります。
在宅事件となった方の中には、無罪になったと思い込んでしまう方もいらっしゃいますが、忘れた頃に起訴されて慌ててしまうことになるかもしれないので注意が必要です。
公訴時効まで捜査が続くおそれも
公訴時効とは、犯罪の後で一定期間が経過すると公訴権が消滅する制度のことです。
公訴時効が成立するだけの期間が経過すれば、原則的には、その後で起訴されるおそれは無いということになります。
以下に、公訴時効が比較的短い罪の代表例を記載します。これらが在宅事件になるかは分かりませんが、参考としてお考えください。
公訴時効1年 | 侮辱罪、軽犯罪法違反等、拘留または科料にあたるもの |
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公訴時効3年 | 暴行罪、名誉棄損罪、公然わいせつ罪等、人は死亡させていないが、長期5年未満の懲役または禁錮、罰金刑にあたるもの |
公訴時効5年 | 監禁罪、背任罪、自動車運転過失致傷罪等、人は死亡させていないが、長期10年未満の懲役または禁錮、罰金刑にあたるもの |
公訴時効7年 | 窃盗罪、業務上横領罪、強制わいせつ罪等、人は死亡させていないが、長期15年未満の懲役または禁錮、罰金刑にあたるもの |
在宅捜査中にできること
在宅事件であれば、身柄を拘束されず、基本的には自由に動くことができるため、身柄事件の場合と比べて自身で対応できることが多くなります。
以下で、在宅捜査中に行うのが望ましいことを解説します。
刑事事件に強い弁護士に依頼する
逮捕・勾留されてしまった場合には、資力要件を満たせば国選弁護人を付けてもらうことはできますが、在宅事件の場合には起訴されるまで国選弁護人を付けてもらうことはできません。
そして、弁護士にも得意分野と不得意分野があるケースもあるため、国選弁護人が刑事事件を得意分野としており、示談を成立させる等の対応に慣れているとは限りません。
在宅事件であれば、自ら刑事事件に精通している弁護士を探し、相談や依頼をすることが可能であるため、起訴される前に活用していただくことをおすすめします。
被害者と示談
在宅事件であれば、自ら示談交渉に向けて動くことが可能です。
ただし、自分で被害者に会いに行くことは、圧力をかけて証拠隠滅を画策したと解釈されるおそれがあり、最悪の場合には逮捕されてしまうリスクが考えられるため注意が必要です。
特に性犯罪の場合等であれば、被害者は加害者との接触を拒むのが通常であり、連絡先等が入手できないケースも多いでしょう。
そのため、事前に刑事事件に強い弁護士へ依頼して、交渉を任せることが望ましいと考えられます。
被害者と示談が成立すれば不起訴となる?
被害者との示談が成立したとしても、処分を決めるのは検察官であるため、必ず不起訴にしてもらえるわけではありません。
しかし、被害者が存在する事件においては、被害者の感情や被害弁償の有無が起訴の判断に大きな影響を与えると考えられています。
そのため、示談の成立は、不起訴処分の獲得を目指す際にとても重要です。
仮に不起訴処分とならなくても、示談が成立していれば量刑が軽くなる場合が多いため、罰金刑となったり、執行猶予が付いたりする可能性が高くなると考えられます。
示談交渉は弁護士にご相談ください
被害者との示談交渉を行いたい場合には、弁護士にご相談ください。
不起訴処分の獲得を目指すのであれば、被害者との示談を成立させることは非常に重要です。
しかし、自ら被害者に会いに行くと、証拠隠滅を疑われかねないだけでなく、被害者と感情的に対立してしまい、状況が悪化するおそれがあります。
示談交渉の経験が豊富な弁護士であれば、被害者に反省している旨を伝える等、冷静に交渉することが可能ですので、ぜひ弁護士にご相談ください。
在宅捜査中に注意すること
在宅捜査中には、基本的に普通の生活を送ることができますが、注意が必要なこともあります。
以下で、在宅捜査中に注意すべきことを解説します。
検察の呼び出しにはきちんと応じましょう
在宅事件であっても、捜査が継続しており、検察から呼び出される場合があります。
その際に、正当な理由なく繰り返し出頭を拒むと、逃走や証拠隠滅のおそれがあるとみなされて逮捕されてしまうおそれがあります。
呼び出しには素直に応じるようにして、重要な予定があるために出頭することが難しいときには、その旨を必ず説明するようにしてください。
在宅捜査中の行動に気を付けましょう
例えば、在宅捜査中に、誰にも伝えないまま遠方への長期間の旅行を、期限を決めることなく実施することは、やめておいた方が良いでしょう。
逃亡を図ったとみなされて、逮捕されてしまうリスクがあります。
在宅捜査中には旅行ができない、というわけではありませんので、居場所を明らかにして連絡が取れるようにしておくべきでしょう。
被害者の家に押しかける等して示談交渉を行おうとすることも、場合によっては、証拠隠滅のための動きだと解釈されてしまうおそれがあります。
被害者が示談に前向きである場合や、被害者から呼び出された場合等、状況によっては問題ないケースもありますが、交渉中に言い争いに発展してしまう等のリスクもあります。
被害者が最初から嫌がっているのであれば、特に注意が必要です。
在宅事件でも逮捕される場合があります
上に挙げたようなケースでは、当初は在宅捜査であった場合でも、逮捕されて身柄を拘束されてしまうリスクがあります。
また、在宅事件の場合でも、捜査が進んでから逮捕されるケースがあります。
捜査によって証拠が集まり、実刑判決が予想されるような重大犯罪を行ったと疑われたケースや、明確な証拠があるのに不合理な弁解を繰り返したため、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがあるとみなされたケース等です。
在宅事件は弁護士に相談を(まとめ)
在宅事件となった場合には、すぐに弁護士へご相談ください。
在宅事件では、起訴されるまで国選弁護人が付けられず、いつ手続きが進むのかが分からないまま、不安な日々を送ることになる場合があります。
その期間には、被害者との示談交渉や、性犯罪を行ってしまった場合にはカウンセリングを受ける等、不起訴処分の獲得等に有効な対策がいくつも存在しており、弁護士には様々な協力やアドバイスが可能です。
今までと同様の社会生活を送りながら更生して、今後の人生をより良いものにするためにも、ぜひ弁護士にご相談ください。