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労働組合から不当な要求をされた場合に会社がすべき対応

    労働組合

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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員

労働組合には、憲法や労働組合法で多くの権利保障が与えられています。そのため、団体交渉の申し込みを受けた会社側は、正当な理由がなければ団体交渉を拒否することができません。 ただし、労働組合からの求めにすべて従う義務まで負っているわけではありません。

このページでは、労働組合から不当な要求をされた場合は必ず応じる必要があるのか、不当な要求があった場合の会社としての適切な対応例などについて解説していきます。

労働組合から不当な要求をされた際の会社の対応とは?

会社には労働組合からの団体交渉の申し入れに誠実に応じるべき義務があり、正当な理由がない限り拒否することは認められていません。ただし、これはあくまで誠実に対応すべき義務であって、会社側の意思に反して、強制的に労働組合の要求に応じる義務までは負っていません。

労働組合から到底応じられない不当な要求をされたのであれば、会社側は毅然と拒否すべきですし、たとえ拒否したとしても、それは誠実交渉義務に違反しないものと考えられます。

団体交渉において不当労働行為にあたる例について、以下で解説していますのでご覧ください。

さらに詳しく不当労働行為の6つの種類と事例をわかりやすく解説!罰則はある?

正当な理由とは

会社が正当な理由なく団体交渉を拒否することは禁止されています。ではどのようなものが正当な理由と言えるのでしょうか?労働組合からの不当な要求を拒否できる「正当な理由」にあたる例として、以下が挙げられます。

  • 義務的団交事項ではない場合

    義務的団交事項とは、団体交渉に応じることが義務付けられた、労働者の労働条件等に関する事項です。賃金や労働時間などが挙げられます。これ以外の経営や生産等に関する事項を任意的団交事項といいます。任意的団交事項であれば、拒否することが可能です。

  • 子会社や関連会社の社員から団体交渉を求められた場合

    子会社等の社員の労働条件等について決定権を持つのは子会社等であり、通常、親会社に決定権はありません。そのため、これを理由に団体交渉を拒否することができます。

  • 何度も交渉を重ねている場合

    すでに何度も交渉を重ねていて、これ以上続けても進展の見込みがない場合は団体交渉を打ち切ることが可能です。見込みがないといえるかどうかは、団体交渉の回数や時間、交渉態度等を考慮して判断されます。

  • すでに裁判で解決した問題について団体交渉を求められた場合

    例えば、解雇を有効とする判決が出た後に、解雇の撤回を求める団体交渉を申し込まれたような場合、解雇問題についてはすでに裁判で決着済みであるため、団体交渉を拒否することが可能です。

労働組合からの不当な要求に対する会社側の対応例

団体交渉において労働組合から不当な要求をされた場合の対応例を、以下でご紹介します。

社長の出席を強要させられた場合

労働組合から「社長を団体交渉に出席させろ」と要求されることがありますが、社長が団体交渉に出席する義務はありません。この場合は、「応じることはできません。社長の代わりに、会社から団体交渉の権限を委任された担当者が出席します」などと回答すべきでしょう。

団体交渉の権限を持つ者が団体交渉に出席していれば、不当労働行為には当たりません。例えば、取締役や人事部長、支店長、工場長などを選任しても差し支えありません。

最終決定権をもつ社長が団体交渉の席上に出ると、その場での判断を求められたり、不用意な発言が命取りとなったりするなどのデメリットがあり、むしろあまり望ましくないと考えられます。

相手からの暴言・暴力・脅迫行為等があった場合

団体交渉において、過去に何度も暴言・暴力・脅迫行為等があり、今後も同じような暴言等が続く見込みが高いと考えられる場合は、団体交渉を拒否することができると考えられます。具体的には、「暴言や暴力は控えてください。

このような言動が今後も続くようであれば、交渉を打ち切らせていただきます」などと回答することが必要です。もっとも、労働組合から過去の暴言等への謝罪や、今後は暴言等を控える旨の表明があったならば、以後から団体交渉に応じるべき義務が発生するものと判断されます。

団体交渉義務を負わない事項の要求があった場合

例えば、役員の人事や経営戦略など、団体交渉義務を負わない「任意的団交事項」についての団体交渉の申し入れを受けた場合、会社はこれに応じるべき義務はありません。このような要求があった場合は、「その事項は団体交渉義務を負わない事項であるため、話し合いには応じられません」などと回答することが必要です。

もちろん、会社の判断で団体交渉事項として取り上げることもできますが、申し込みを拒否しても不当労働行為にはあたらないと判断されます。

一方的な要求があった場合

労働組合側から、「要求を受け入れろ」など一方的な要求があったとしても、直ちに応じる必要はありません。会社にはあくまで誠実に団体交渉を行う義務が課せられているのであって、労働組合の要求にすべて応じたり、譲歩したりする義務までは負っていないからです。

ただし、労働組合側の要求に応じられない場合は、応じられない理由を具体的に説明し、それを裏付ける証拠資料などを示して、組合側の理解を得る努力をすることが必要です。

これらを行わず、単に拒否するとだけ回答することは、誠実交渉義務に違反し、不当労働行為に当たるリスクがあります。

事前に連絡されていない質問があった場合

団体交渉を行う際は、労働組合から会社側へ要求事項を記入した文書が送付され、また会社側から組合へ要求事項について確認を行うなど、あらかじめ調整がなされることが通例です。しかし、団体交渉において、事前に連絡されていない質問がなされる可能性もあります。

この場合でも、義務的団交事項に当たるのであれば、団体交渉を拒否することはできないものと判断されます。万が一団体交渉の場で、このような質問を受けた場合は、「この場では回答できませんので、持ち帰って検討します」などと説明し、社内に持ち帰って検討した上で回答するのが望ましいでしょう。

ただし、当然に予想されるはずの質問に対する会社からの回答不足は、誠実交渉義務に違反し、不当労働行為と判断されるおそれがあるためご注意ください。

団体交渉の不当要求に関する判例

ここで、会社側の団体交渉拒否が適法とされた裁判例をご紹介します。

【東京地方裁判所 令和5年5月25日判決 労働委員会命令取消請求事件】

(事案の概要)

本件は、ファミリーマートとフランチャイズ契約を結ぶコンビニオーナーを構成員とする組合が、「再契約の可否を決める具体的基準」を議題とする団体交渉を2回申し入れたにもかかわらず、会社が応じなかったことが不当労働行為にあたるとして、組合から救済申立てがなされた事案です。

労働委員会が会社に対し、団交応諾および文書交付等の救済命令を下したところ、これを不服とした会社が、命令取り消しを求めて提訴しました。

(裁判所の判断)

裁判所は、労働組合法上の労働者に当たるかどうかは、次の①~⑥を考慮して評価すべきとしました。

  • 事業組織への組入れ
  • 契約内容の一方的・定型的決定
  • 報酬の労務対価性
  • 業務の依頼に応ずべき関係
  • 指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束
  • 顕著な事業者性

その上で、裁判所は以下のとおり、本件につき当てはめを行いました。

  • コンビニオーナーが会社の事業遂行に不可欠な労働力であるとはいえない。
  • 契約書で定型的に決定され、加盟者ごとの特約も認められていないから、会社による契約内容の一方的・定型的決定がある。
  • 会社からコンビニオーナーに支払われる金銭は、労務供給の対価といえない。
  • 店長が、店舗業務に関し会社から個々の依頼を受けることは想定されていない。
  • 会社が行う店長への指導は、経営支援としての指導であるため、店長が会社の指揮監督下で働いているとはいえない。
  • コンビニオーナーは、販売商品の種類・数量の選択や社員の雇用に裁量があるから、顕著な事業者性がある。

裁判所は上記の事情を考慮し、コンビニオーナーは労働組合法上の労働者に当たらないため、団体交渉拒否は不当労働行為に当たらないと判断しました。

(判例のポイント)

裁判所は、労組法上の労働者の該当性の判断基準を示した上で、本件フランチャイズオーナーは、団体交渉権の保障が及ぶ「労働組合法上の労働者」に当たらないため、会社側の団体交渉拒否を適法であると判断しています。

ただし、過去にフランチャイズオーナーの労働者性を認めた判例もあるため、実際に該当するかの判断にあたっては、フランチャイズ契約という形式だけではなく、個別の事情に応じて評価する必要があります。

労組法上の労働者性について判断にお困りの場合は、団体交渉に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

団体交渉における不当要求に関するよくある質問

ここで、団体交渉における不当要求について、よくある質問をご紹介します。

要求額が法的根拠を欠く過大なものである場合は不当な要求にあたりますか?

例えば、労働組合から未払い残業代の請求を受けた場合に、その請求額が法的根拠に欠ける過大なものであったとしても、直ちに交渉を拒否することは望ましくありません。

まず、会社として、その請求額が法的根拠を欠く過大なものである理由を、雇用契約書やタイムカードなど客観的な証拠資料を提示して、労働組合側に具体的に説明することが必要です。

会社側が説明したにもかかわらず、妥当な根拠をもって反論することもなく、労働組合側が交渉を一方的に要求する場合には、会社側は組合側に合意の意思がないものとして、団体交渉を拒否することも認められるものと判断されます。

社員への解雇が不当とし撤回を求める団体交渉には必ず応じなくてはいけませんか?

社員への解雇は、「義務的団交事項」に当たります。そのため、解雇の撤回を求めて団体交渉の申し入れを受けた場合は、基本的に団体交渉に応じなければなりません。

ただし、解雇後10年近く経つなど長期間経過した後であれば、もはや会社側が雇用する社員とはいえないため、団体交渉を適法に拒否できるものと判断されています(東京地方裁判所 昭和63年12月22日判決参照)。

労働組合による長時間にわたる団体交渉の強要は、不当な要求に該当しますか?

長時間にわたる団体交渉の強要は、不当な要求にあたる可能性があります。団体交渉があまりに長時間続いている場合には、その日の交渉は一度中断し、別の日に再開することが望ましいでしょう。

ただし、団体交渉の時間を常に2時間以内と設定し、交渉の進展のいかんに関係なく、これを打ち切るという条件は不合理であると判断した判例もあるため、交渉時間を理由に交渉を中断することについては慎重に検討する必要があります(東京高等裁判所 昭和62年9月8日判決参照)。

労働組合が会社に突然押し掛けてきた場合、団体交渉は拒否できますか?

会社が正当な理由なく団体交渉を拒否することは、不当労働行為として禁止されています。ただし、その場ですぐに要求事項に対して回答すべき義務までは、会社は負っていません。

労働組合が会社に突然押しかけてきて、社長に会わせて欲しいと求めたとしても、直ちにこれに回答する必要はなく、社内で検討して後日回答することを説明すれば問題ありません。

もっとも、このようなケースでも、労働組合の要求内容を確認し、あらためて日時調整を行うなどして、誠実に対応する必要はあります。

就業時間中の団体交渉を労働組合から要求されましたが、これは不当な要求に該当しますか?

団体交渉の時間帯について、法律上のルールはありませんので、業務時間中に、団体交渉を開催するよう求められたことだけをもって、不当な要求に当たるとは判断されません。

もっとも、業務時間中は、職務に専念するべき義務を社員に課している会社が多いため、そのような場合には、業務時間中の団体交渉開催の求めは拒否できるものと考えられます。業務時間中の団体交渉の開催に不都合があるのであれば、その旨伝え、開催日時を協議して決めましょう。

労働組合からの不当な要求は、団体交渉問題に強い弁護士にご相談ください。

労働組合からの要求について、いったい何が不当な要求に当たるのかの判断については、法的解釈が求められるため、容易なものではありません。万が一この判断を誤って、団体交渉を拒否してしまうと、不当労働行為として、労働委員会から救済命令を出されるリスクもあります。

会社として受けるリスクを最小限に抑えるためにも、団体交渉の申し入れを受けたら、できる限り早く弁護士に相談することをお勧めします。

弁護士法人ALGには企業側の労働問題に精通する弁護士が多く所属しており、団体交渉の案件についても数多くの解決実績を有します。団体交渉への対応方法や交渉の場での同席など、トータルでサポートすることが可能ですので、ぜひご相談ください。

この記事の監修

担当弁護士の写真

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員

保有資格
弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

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