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労働審判で未払い残業代を請求されたら?会社側の反論・対応など

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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員

法改正によって残業代請求の時効が2年から3年に延長となり、未払い残業代を請求する労働審判の件数は増加傾向にあります。

労働審判は早期解決を目指す制度であるため、労働審判を申し立てられた場合、会社は適切かつスピーディーに対応する必要があります。

本稿では、残業代請求の労働審判において、会社側が主張すべき反論や、答弁書の作成ポイントなどについて解説していきます。

未払い残業代とは?

未払い残業代とは、法定労働時間を超過した労働に対して支払うべき割増賃金の不払いもしくは不足をいいます。未払い残業代が発生する状況を放置すれば、労働基準監督署の調査で是正勧告を受けたり、社員から残業代請求の裁判を起こされる可能性があります。

未払い残業代を請求できる期間は、法改正によって3年に延長されましたが、将来的にはさらに5年に延長することが想定されています。請求期間が長くなれば請求金額も膨らむことになり、会社の未払い残業代に対するリスクはより一層高まることでしょう。

未払い残業代を発生させないためには、社内体制の見直しや勤怠管理の徹底などが不可欠です。

残業代請求の労働審判で会社側が主張すべき5つの反論

未払い残業代請求の労働審判で会社側が主張すべき反論として、以下が挙げられます。

  • 残業時間や残業代の認識に差がある
  • 管理監督者のため残業代が発生しない
  • 固定残業代として支払い済みである
  • 残業を禁止していた
  • 残業代に関する時効が完成している

①残業時間や残業代の認識に差がある

社員から請求された未払い残業代が正しいとは限りません。
労働時間や計算方法の認識にズレがあれば、会社は客観的な資料を基に反論できるでしょう。

会社には労働時間を把握する義務があり、原則としてタイムカードやPCログ情報などの客観的な記録で管理しなければなりません。

これらの記録を、会社が労働時間を適正に把握していた事実として示し、正確な労働時間を主張しましょう。
タイムカードに記録があっても、私用の居残りなどは残業時間から除外できます。

また、残業代の計算方法が誤っている可能性も考えられます。
割増賃金の計算で除外できる諸手当が算入されていたり、割増率が誤っているケースも少なくありません。
法令や就業規則の内容に則った残業代を算出し、請求額の過大を指摘しましょう。

詳しくは以下の記事をご確認ください。

さらに詳しく残業代の計算方法とは?

②管理監督者のため残業代が発生しない

残業代を請求する社員が、管理監督者(監督もしくは管理の地位にある者)にあたるならば、残業代は発生しないという反論が可能です。

なぜなら、労働基準法41条により、管理監督者については時間外労働・休日労働に対する割増賃金の支払い義務は発生しないと定められているからです(ただし、深夜手当は支払う必要があります)。

なお、管理監督者であるかどうかは、役職名など形式面ではなく、職務内容や権限、待遇などに照らして、実態面から経営者と一体的な立場にあるかどうかを基準に判断されます。
いわゆる名ばかり管理職に対してはこのような反論はできないため注意が必要です。

管理職から残業代を請求された場合の対応方法について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

さらに詳しく管理職から未払い残業代を請求されたら支払い義務はある?

③固定残業代として支払い済みである

固定残業代制とは、実際の残業時間にかかわらず、あらかじめ定められた残業代を毎月定額で支払う制度です。固定残業代制を採用する会社であれば、固定残業手当の支給により、すでに残業代を支払い済みであるという反論が可能です。

ただし、固定残業代制を採用していたつもりが、制度設計や運用の仕方が間違っていて、法的には残業代が未払いであると判断されるケースは少なくありません。

固定残業代制を採用している場合は、基本給と区別されていることや、何時間分の残業の対価として支払っているか等の点が社員に周知されて、適切に運用されているか確認する必要があります。

さらに詳しく固定残業代(みなし残業)が違法になるケースとは?

④残業を禁止していた

会社として残業を禁止していた場合は、会社の指揮命令によるものではないため、残業代は発生しないと反論できる余地があります。

ただし、残業禁止命令を発令していただけでは、反論として弱いです。
残業禁止に加えて、終業時間後に仕事が残った場合の処理(役職者への引き継ぎなど)を指示したり、残業を行う社員に対して残業を中断して帰るよう直接注意したりすることも求められます。

また、残業許可制を導入していても、実質上無許可での残業を黙認しているような場合は、残業代が生じると判断される可能性があります。残業禁止、許可制を設けるだけでなく、実際の運用状況を文書やメールなどの証拠とともに記録しておくことが重要です。

⑤残業代に関する時効が完成している

残業代は、給与支払日の翌日から起算して3年経過すると消滅時効にかかります(ただし、2020年4月1日より前に発生した残業代は2年で消滅時効にかかります)。

時効が成立した後に、時効の利益を受ける意思を労働者に伝えることで、残業代の支払い義務は消滅します。これを時効の援用といいます。

口頭の通知でも時効の援用は成立しますが、時効の援用を行った事実と日時を証明するため、内容証明郵便で時効援用の通知書を送付することが一般的です。

未払い残業代の一部または全部につき消滅時効が成立している可能性もあるため、まずは未払い残業代の支払日を確認することが必要です。

残業代請求における労働審判の流れ

残業代請求における労働審判の流れは、次のとおりです。

  1. 労働者が裁判所に申立書を提出
  2. 裁判所から期日の指定・呼出状の送付
  3. 会社は指定期日までに答弁書や証拠を提出
  4. 原則3回の期日で審理(裁判所が当事者に事情聴取し、調停を試みる)
  5. 調停不成立の場合は審判が下される
  6. 調停成立の場合は事件終了
  7. 審判に異議を申し立てると、裁判へと移行

申立書を受け取ったら、ただちに労働者の請求内容を確認し、会社として反論すべき事項をまとめなければなりません。労働審判は時間との勝負です。
速やかに答弁書作成に着手し、証拠収集や関係者へのヒアリングを実施しましょう。

答弁書の提出期限までは、申立書が会社に届いてから3週間ほどしかないことが通例です。
申立書が届いたらすぐに弁護士に答弁書作成を依頼することをお勧めします。

労働審判の流れについて詳しく知りたい場合は、以下の記事をご覧ください。

さらに詳しく労働審判を起こされたときの手続きの流れ

労働審判から訴訟への移行について

労働審判の結果に不服がある場合、当事者が2週間以内に異議申立てをすると、自動的に訴訟手続きへ移行します。労働審判から訴訟への移行手続には、異議申立てのほかに24条終了があります。24条終了は、複雑な事案など労働審判に適さないと審判委員会が判断した場合、職権によって訴訟へ移行させる制度です。

訴訟はある程度時間をかけて審理することが前提であり、解決まで数年を要するケースもあります。

労働審判は解決までの期間が3ヶ月程度の事案も多く、その労力には大きな差があるといえるでしょう。
また、労働審判は非公開ですが、訴訟は公開審理であるため、世間一般に知れ渡る可能性もあります。

労働審判から訴訟へ移行すると、時間的、金銭的コストが増大し、レピュテーションリスクにも繋がるため、労働審判による解決は会社にもメリットが大きいといえます。

残業代請求の労働審判で答弁書を作成する際のポイント

労働審判の答弁書とは、労働者が提出した労働審判申立書に対する会社側の反論を書いた書面のことです。
労働審判では答弁書の出来が結論を大きく左右するといっても過言ではありません。

反論する内容を整理する

労働審判は短期間で結論を出す手続きです。そのため、会社側の主張を記した答弁書は、審判員が争点を把握しやすいよう反論内容を端的にまとめておくことが大切です。

答弁書の構成は労働者の主張に対する結論から述べ、反論があれば客観的な事実に基づく主張を展開しましょう。反論を裏付ける証拠についても一覧を作成し、時系列で整理して提出します。

答弁書を作成する際は、以下のポイントを意識して反論内容を整理するとよいでしょう。

  • 争点を整理し、分かりやすい結論となっているか
  • 事実関係が明確に記載されているか
  • 法的主張は的確か
  • 労働者の主張に具体的に反論しているか

裏付けとなる証拠と反論を結び付ける

労働審判で提出する証拠は、客観性があり、会社側の主張内容を裏付けるものでなければなりません。
証拠で示される事実と主張内容に一貫性があるのか必ず確認しましょう。

残業代請求された場合は、タイムカードが最も重要な証拠となりますが、これ以外にも次のような証拠が求められます。

  • 就業規則、労働条件通知書、雇用契約書、給与明細、賃金台帳
  • 勤怠管理システムの記録、シフト表
  • タイムカード、ICカード、タコグラフ、入退館記録
  • 業務日報、会社側や労働者側の作成メモ
  • メールやチャットのやり取り(残業許可制の会社で、許可なく残業していることについて注意する内容のメールなど)
  • パソコンのログ解析

上記以外にもケースごとに様々な証拠が考えられるため、労働審判を申し立てられた場合は、弁護士などに相談することをお勧めします。

労働審判で残業代請求された場合の解決金の相場はいくら?

労働審判による残業代請求の解決金は、訴訟による和解とはやや異なります。

厚生労働省の統計資料によると、解決金の平均値は280万円前後であり、中央値は150万円程度です。
この統計には解雇事案も含まれており、残業代のみの請求額は、約220万円が平均値であり、中央値は100万円程度となっています。

解決金の相場はあくまで目安でしかなく、請求額の規模や事案によって解決額は大きく異なる場合もあります。解決金の額を左右する要素としては、客観的な証拠のある未払い残業代であるかといった点や遅延損害金、付加金の有無などが挙げられます。

また、訴訟に移行した場合の見通しも判断材料となるため、過去の類似判例も解決金の参考指標となるでしょう。

詳しくは以下の記事をご確認ください。

さらに詳しく未払い残業代請求の和解金の相場は?

未払い残業代請求に関する裁判例

残業代請求が却下された裁判例

【平成25(ネ)4033号 東京高等裁判所 平成25年11月21日判決】

(事案の概要)

モーター製造販売を営むY社に雇用されていた新入社員Xが、ICカードの記録を踏まえて、始業前のラジオ体操や朝礼、日報の作成、電話対応、PCへの入力作業、実習の成果発表会などが時間外労働にあたると主張し、未払い残業代を求めて提訴した事案です。

(裁判所の判断)

裁判所は以下を理由として、未払い残業代請求は認められないとの判決を下しました。

  • ラジオ体操や朝礼への参加は任意であった。
  • 日報は実習の進捗を示すもので会社の業務に直接関係せず提出期限もないこと、上司からも簡潔に書くよう指導を受けていたことから、Y社が残業を命じた根拠は認められない。
  • 電話対応やPC入力は、電話相談実習の一環としてXの所属ではない課の業務であり、残業が必要であったとは認められない。
  • 実習の成果発表会は、会社の業務ではなく、新人社員が自己啓発のために同僚や先輩社員に対し発表する場として設けられたものであり、不参加への制裁もないため、Y社が業務として参加を命令したとはいえない。

(判例のポイント)

タイムカードで打刻された時間については労働時間とみなして、タイムカードどおりの残業代の支払いを命じる裁判例が多い中、本判例はタイムカード通りの残業代の支払いを認めなかったという点で一見に値する判決となっています。

社員側はICカードの使用履歴をもとに残業時間を立証しようとしたものの、裁判所はICカードの使用履歴はあくまで会社構内の滞留時間を示すものに過ぎず、滞留時間中に時間外労働があったかどうかを具体的に検討すべきとした上で、日報の作成や電話対応などの作業を残業とする社員側の主張を証拠不十分であるとして認めないと判断した点がポイントとなっています。

残業代請求で支払いを命じられた裁判例

【令3(ワ)5716号 東京地方裁判所 令和5年3月3日判決】

(事案の概要)

レストランチェーンY社の戦略本部で働く社員Xが、未払い残業代を求めて提訴した事案です。
戦略本部は会長直轄の組織として新メニュー開発やビジネスモデルの構築を主に行う部署であり、Xは戦略本部の課長として13店舗の運営等の業務に従事していました。

(裁判所の判断)

裁判所は以下を理由に、Xの管理監督者性を否定し、Y社に約860万円の残業代等の支払いを命じました。

  • 管理監督者の該当性は、業務内容や権限・責任に照らし経営に関与しているといえるか、労働時間について裁量が認められているか、役職にふさわしい待遇を受けているか等の点から判断すべきである。
  • Xの行う経営企画業務は、あくまで会長の考えを具体化する作業に過ぎなかった。
  • Xにはアルバイト採用や社員の一次評価については権限があったが、アルバイトの解雇や社員の採用・解雇等の権限は有していなかった。
  • 人員不足により、Xは店舗業務にも追われ、月100時間超えの残業を余儀なくされていた。
  • 月100時間超えの残業に見合う手当や賞与の支払いを受けていない。

(判例のポイント)

裁判所は、Xは経営者と一体となって経営に参画していたとはいえず、労働時間に関する裁量もなく、待遇面でも十分ではなかったとして、管理監督者性を否定しています。

「名ばかり管理職」の発生を予防するには、まず管理監督者の範囲を明確化した上で、就業規則に明記することが必要です。

さらに、管理監督者となっている社員の待遇は適正か、採用や解雇、人事評価、労務管理、予算管理、経営方針等の決定について権限が与えられているか、自分の裁量で労働時間をコントロールできているか等について定期的に確認することも求められます。

労働審判での残業代請求に関する質問

労働審判では答弁書に記載のない主張や反論を行うことができますか?

口頭での追加主張が認められないわけではありませんが、不利に働く可能性があります。
労働審判の審理は短期間であるため、答弁書の内容が審理の柱となります。
答弁書に記載のない主張は審判員から不信感を持たれる可能性があるでしょう。

タイムカードやパソコンログ情報など新たな証拠が判明したとしても、原則として追加書類の提出は認められていません。答弁書の作成は一発勝負と考えて対応しましょう。

残業代請求についての不利な事実は答弁書に書かないほうがいいですか?

不利な事実であっても、意図的に隠すことはリスクといえます。

審理の過程において、矛盾が生じて不利な事実が発覚すれば、事実を隠蔽したとして審判員の心証を悪くしてしまいます。会社側の主張の信憑性を低下させ、不利な条件による和解や高額な解決金に繋がるおそれもあります。

不利な事実があったとしても、隠すのではなく、その背景や改善策などを踏まえて論理的に説明するようにしましょう。

労働審判の答弁書の提出期限はいつですか?

答弁書の提出期限は、裁判所から送付される「第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告状」に記載されています。

通常、提出期限は、第1回期日の1週間~10日前で設定されています。
準備期間は1ヶ月程度であり、速やかに答弁書の作成を進めなければなりません。

労働審判は答弁書の内容を基に審理を進めるため、答弁書の内容が不十分であれば、反論の機会を逃すことになります。
提出期限に間に合わなければ、会社の主張が伝わらないまま審理が進むなど、極めて不利になるおそれがあります。

未払い残業代請求の労働審判については弁護士にご相談ください

残業代請求の労働審判においては、会社に申立書が届いてから答弁書提出まで3週間ほどの期間しかなく、時間的な余裕はありません。

答弁書の出来具合で勝敗が決まるといっても過言ではないため、限られた時間の中でいかにクオリティの高い答弁書を作り上げるかが重要となります。

ただし、未払い残業代といっても、支払義務があるか否かを判断するための論点は多岐にわたります。
弁護士であれば、法律や労働訴訟に関する知識、経験などを踏まえて、残業代の支払いが必要であるか否か、適切な支払額について見極めることが可能です。

答弁書を代行して作成したり、労働審判に同席したりすることも可能ですので、未払い残業代の労働審判でお困りなら、ぜひ労働審判対応を得意とする弁護士にご相談ください。

この記事の監修

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弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員

保有資格
弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

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