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マタニティハラスメントとは?事業主が行うべき5つの防止措置

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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員

マタニティハラスメント(マタハラ)とは、妊娠や出産、育児休業などを理由としたハラスメントのことです。

男女雇用機会均等法改正により、マタハラ防止措置が事業主に義務づけられました。対策を怠れば法的責任を問われる可能性もあり、重要な経営課題となっています。

本稿では、マタハラ防止における会社の義務や、5つのマタハラ防止措置などについて分かりやすく解説していきます。

マタニティハラスメント(マタハラ)の定義

マタニティハラスメント(マタハラ)とは、女性社員が妊娠・出産したことや、産前産後休業・育児休業などの制度を請求・利用したことを理由に、上司や同僚から不当な取り扱いや嫌がらせを受けて就業環境を害されることをいいます。

「マタニティ(maternity)」を和訳すると母性・妊娠中の、「ハラスメント(harassment)」は悩ます・嫌がらせという意味になります。
なお、法律や厚生労働省の指針では「マタニティハラスメント」という用語は使われていません。

マタニティハラスメント、パタニティハラスメント、ケアハラスメント(介護をしながら働く社員へのハラスメント)を3つ合わせて、「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」と表現しています。

マタハラとパタハラの違い

パタハラ(パタニティハラスメント)とは、男性社員に対する育児に関するハラスメントのことです。

マタハラやパタハラは、いずれも妊娠や出産、育児というライフイベントを理由とした職場での嫌がらせです。ただし、対象となる性別と根拠法が異なります。マタハラは女性社員の妊娠出産に対して行われるハラスメントであり、男女雇用機会均等法および育児介護休業法によって規制されています。

一方、パタハラは男性社員の育児休業や時短勤務などの育児に関する制度の請求・利用を理由として行われるハラスメントで、育児介護休業法によって規制されています。

マタハラとパタハラでは根拠となる法律は異なりますが、事業主が負う防止措置の義務は基本的に同内容となっています。会社には性別を問わず、制度利用についての不利益な取扱いや嫌がらせを防ぐ体制作りが求められます。

職場で起こりやすいマタハラ事例

マタハラは、以下の2つのパターンに分類されます。

  • 制度等の利用への嫌がらせ
  • 状態への嫌がらせ

パターンごとの具体例を下表に挙げましたので、ご確認ください。

  言動例
制度等の利用への嫌がらせ ・産休の取得を請求したところ、上司から「他の誰かを雇うので退職してもらってもいいかな」と言われた。
・育休の取得について上司に相談したところ、「この人手不足の時に育休とかあり得ない」と言われて拒否された。
・妊婦健診のために休みを取りたいと上司に相談したら、「病院は土日に行ってほしい」と言われた。
・育休の取得について上司に相談したら、「休暇をとるなら昇進は難しい」と言われた。
・育児のため時短勤務している社員が、同僚から「仕事が楽でうらやましい」と言われた。
状態への嫌がらせ ・妊娠を理由にプロジェクトの重要なメンバーから外された
・契約社員が上司に妊娠を報告したところ、「次回の契約更新はしない」と言われた。
・上司から「妊婦はいつ休むかわからないから、重要な仕事は任せられない」として雑務ばかりさせられている。
・同僚から「病気じゃないのにつわりぐらいで休むなんて迷惑だ」と言われた。

職場で起こりやすいパタハラの事例としては、以下のような例が挙げられます。

  • 「男のくせに育児休業をとるなんてあり得ない」などとして、上司が育児休業の請求を取り下げるよう求める
  • 育児休業など育児に関する制度を利用したこと理由に、本人の意に反した配置転換などの嫌がらせを行う
  • 制度の申請を理由として、降格や減給などの不利益な処分を行う

制度を実際に利用したか否かは関係なく、制度利用がなくても申請に対して嫌がらせがあれば、パタハラにあたります。

マタハラ防止のために事業主に求められる義務

マタハラを防止するために、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法では、事業主の義務として以下の内容を定めています。

  • 妊娠・出産・育児等に関する不利益な取扱いの禁止
  • 妊娠・出産・育児等に関するハラスメントの防止措置

妊娠・出産・育児等に関する不利益な取扱いの禁止

妊娠や出産、育児休業などの取得を理由として、会社は社員に対して、以下のような不利益な取扱いをしてはならないと定められています(男女雇用機会均等法9条、育児・介護休業法10条)。

  • 解雇、雇止め
  • 降格、減給
  • 賞与の不利益な算定
  • 昇進の人事考課における不利益な評価
  • 不利益な配置転換
  • 派遣先が、派遣社員の勤務を拒否する など

不利益取扱いを禁止するには、解雇などの不利益な取扱いを行ってはならない旨を就業規則等に定め、社内で周知・啓発することが大切です。あわせて、社員が安心して相談できる体制を整えておきましょう。

ただし、不利益取扱いの禁止には以下のような例外があります。

  • 業務上の必要性が不利益取扱いによる影響を上回るとき
  • 本人が同意していて、有利な影響が不利な影響を上回り、会社から適切に説明がなされるなど正当な理由があるとき

妊娠前から能力不足について繰り返し指導を行ったが改善の見込みがないため配置転換した、などについては、不利益取扱いの例外にあたると考えられます。

妊娠・出産・育児等に関するハラスメントの防止措置

会社には、職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの防止措置が義務づけられており、雇用管理上、必要な措置をとらなければなりません(男女雇用機会均等法11条の2、育児・介護休業法25条)。

妊娠・出産した女性社員や、育児休業等を申出・取得した男女社員が、「制度利用」や「状態」を理由に、上司や同僚からの言動によって就業環境を害されないよう、適切な配慮や注意が必要とされています。

会社はハラスメントを許さないという方針を明確にし、妊娠・出産・育児休業等に関する否定的な言動が行われない職場作りを実施しましょう。

なお、対象社員の意を汲まない一方的な通告はハラスメントになり得ますが、業務上の必要性に基づく言動については、ハラスメントにあたりません。

事業主が講ずべき5つのマタハラ防止措置【厚生労働省】

事業主が講ずべきマタハラ防止措置は、厚生労働省の指針によって以下のとおり定められています。

  • 事業主の方針の明確化と周知・啓発
  • 相談窓口の設置・必要な体制の整備
  • マタハラ発生後の迅速かつ適切な対応
  • マタハラの発生要因や背景を解消するための措置
  • 当事者等のプライバシー保護のための措置

なお、派遣社員については、派遣元だけでなく、派遣先も上記のマタハラ防止措置を講じる必要があります。

①事業主の方針の明確化と周知・啓発

事業主はマタハラに対する方針を明らかにした上で、社員に周知・啓発を行うべき義務を負います。
周知・啓発するべき事項として、以下が挙げられます。

  • マタハラを禁止する方針
  • どんな行為がマタハラに当たるのか
  • マタハラの発生原因や背景
  • 社員は妊娠・出産・育児に関する制度等の利用ができること
  • マタハラが起きた場合の対応方法
  • マタハラ行為者への厳正な対処方針、処分内容

マタハラを防止するには、マタハラを許さないことや、行為者を厳正に処分するといった方針を会社のトップが明確にメッセージとして発信することが大切です。

周知・啓発は、就業規則や服務規律等に定めるだけでなく、社内報やパンフレット、社内ホームページ、ポスターなどへの掲示、定期的な研修などにより行うのが望ましいでしょう。

さらに詳しくハラスメントを防ぐ就業規則の記載例

②相談窓口の設置・必要な体制の整備

事業主はマタハラの相談窓口を設けて、適切にマタハラに対応しなければなりません。
事業主が取り組むべき事項として、以下が挙げられます。

  • マタハラ相談担当者や窓口となる部署を定めて、社員に周知すること
  • 相談担当者が適切に対応できるよう、マタハラ相談に関するルールを設けること
  • マタハラが実際に発生した場合だけでなく、発生のリスクがある場合やマタハラに当たるかどうか微妙なケースでも門戸を広げて相談に対応すること
  • 社内窓口だけでの対応に自信がない場合は、外部機関に委託すること

厚労省の指針では、マタハラはパワハラなど他のハラスメントと複合的に発生するケースが少なくないため、あらゆるハラスメントについて一元的に対応できる相談窓口を設置することが推奨されています。

③マタハラ発生後の迅速かつ適切な対応

マタハラは放置すればするほど事態が悪化するリスクが高まるため、迅速な初動対応を行うことが重要です。マタハラが発生した場合に事業主が対応すべき事項として、以下が挙げられます。

  • 事実関係を迅速かつ正確に把握すること
  • マタハラがあったと事実認定できた場合は、速やかに被害者への配慮の措置と、行為者への処分を適正に行うこと
  • 社内での調査に限界がある場合は、中立的な第三者機関に任せること
  • 再発防止に向けた措置を講ずること

まず当事者・第三者へのヒアリングや証拠の確認などを行い、マタハラがあったと判断された場合は、すぐに被害者のケアを行い、行為者には厳正に処分する必要があります。

また、マタハラの事実が確認できたか否かにかかわらず、社内報や研修などを通して注意喚起するなど、再発防止策を講じることも重要です。

④マタハラの発生要因や背景を解消するための措置

事業主は、マタハラの発生要因や背景を解消するために必要な措置を講じなければなりません。

マタハラが発生する要因の1つとして、産前産後休業や育児休業の利用により、フォローする周囲の社員の業務負担が増大し、不満に繋がることが考えられます。

そのため、周囲の社員へ業務の偏りを軽減するよう配慮することが厚生労働省の指針において求められています。望ましい取組み例として、周囲の社員への業務分担の見直しや人員の補充、業務の効率化などの実施が挙げられます。

また、妊娠・出産をした社員には、制度利用に関する正しい知識を持ってもらい、業務にあたっては周囲の社員とのコミュニケーションを意識してもらいましょう。自身の体調等を踏まえて業務を遂行するには、周囲との円滑なコミュニケーションがなければ困難といえます。

なお、派遣社員については、派遣元の会社のみがこれらの措置を講じる義務を負います。

⑤当事者等のプライバシー保護のための措置

マタハラに関する相談者・行為者等の情報は、個人のプライバシーに関わるものです。

そのため、事業主はマタハラの相談者、行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を社員に対して周知し、安心して話せる環境を整備することが大切です。

取組みの具体例として、以下が挙げられます。

  • プライバシー保護措置を講じていること(本人以外に事情聴取する際は本人の同意を得ることや、相談内容は限定された担当者以外には漏らさないこと、事情聴取は個室で行うなど)を、社内報やパンフレット、社内ウェブページなどで周知すること
  • 相談担当者が守るべきプライバシー保護に関するマニュアルを作成し、それをもとに対応させること
  • 相談担当者にプライバシー保護に関する研修を行うこと

マタハラ防止措置を講じなかった事業主への罰則はあるのか?

マタハラ防止措置を講じなかった事業主への直接的な罰則は設けられていません。

ただし、防止措置を十分に講じていない会社に対しては、厚生労働省より助言や指導、勧告がなされる可能性があります。是正勧告を受けたにもかかわらず従わなかった場合には、会社名の公表の対象となり、レピュテーションリスクなどが生じるおそれがあります。

また、厚生労働省よりマタハラ防止措置と実施状況について報告を求められたにもかかわらず、報告しなかったり、虚偽の報告をしたりした場合には20万円以下の過料が科されます。

さらに、マタハラの事実を知りながら放置していたなどがあれば、会社は法的責任を問われ、被害者から損害賠償請求される可能性も考えられます。防止措置義務違反によってマタハラが横行すれば、退職者の増加や定着率の低下に繋がり、経営の根幹にも大きな影響を及ぼしかねないでしょう。

詳しくは以下のページをご覧ください。

さらに詳しくハラスメントによる企業のリスク・影響とは?

マタニティハラスメントに関する裁判例

事案の内容

【平24(受)2231号 最高裁判所第一小法廷 平成26年10月23日判決】

Y病院で働く女性職員Xは、訪問リハビリ業務に従事していました。第二子の妊娠を契機として、より身体に負担のかからない病院内でのリハビリ業務を希望し、配置転換が行われました。
ただし、配置転換に伴い、Xの同意のもと副主任(管理職)のポストからは外れることとなりました。

Xは育休後に復職しましたが、Y病院はX以外の職員がすでに副主任に就いていたことから、副主任に復帰させませんでした。

妊娠を理由に管理職から降格されたのは、男女雇用機会均等法9条3項の「女性労働者の妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いを禁止する」定めに違反するとして、Y病院を提訴した事案です。

裁判所の判断

妊娠中の軽易な業務への転換をきっかけに女性社員を降格することは、原則として均等法9条3項に違反し違法である。

ただし、降格による有利・不利な影響、会社側の説明の内容や経緯、社員の意向などに照らし、①社員が自由意思で降格に同意したといえる合理的な理由があること、②業務上の理由など特殊な事情があることのいずれかにあたる場合は、例外として同法が禁止する不利益な取扱いには当たらない。

本件では、Xは降格により管理職の地位と手当を失う重大な不利益を受けることや、育休明け後も副主任への復帰が予定されていないことに関して説明を受けていないこと等から、自由な意思で降格に同意したとは言えないため、前記例外①に当たらない。

また、例外②に当たるか否かは審理が不十分であるため、高等裁判所に差し戻して審理することを求める。

判例のポイント

裁判所は、社員の明確な同意や、業務上の必要性などの特殊な事情がない限り、妊娠を理由とした降格は原則として違法との判断基準を示しました。本件においては、育休明け後も副主任への復帰予定がないことについて説明されておらず、女性社員が降格に承諾したとはいえないと判断されています。

また、降格する業務上の必要性があったかについては、高等裁判所で再度検討することを要求し、後日行われた高裁による差し戻し控訴審では、この業務上の必要性も否定され、Y病院の行った降格は違法・無効であると結論付けられています。

妊娠後の降格が違法なマタハラと判断されないようにするには、降格する前に業務上の必要性や降格による有利・不利な影響、降格後の処遇、元のポストへの復帰の見込みなどについて十分に説明することが必要です。また、育休終了後にできる限り早く元のポストに復帰できるよう配慮することも求められます。

事業主が行うべきマタハラ防止措置については弁護士にご相談ください

事業主が講ずべきマタハラ防止措置についてご紹介してきましたが、厚生労働省の指針に書かれた措置はあくまで一例にすぎません。実際の取組みにおいては、社内事情等を踏まえた措置を事業主が考案し、適切に実施していくことが大切です。

また、義務化された防止措置を講じるだけでなく、マタハラの発生要因を検討し、解消していくこともマタハラを予防する大切なポイントとなります。

自社だけでマタハラ防止措置を講じることに不安がある場合は、ぜひ企業側の労働法務に精通する弁護士法人ALGにご相談ください。会社ごとの状況に合わせた最適なマタハラ防止措置についてご提案することが可能です。

この記事の監修

担当弁護士の写真

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員

保有資格
弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

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