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介護中の従業員に転勤を命じても問題ない?会社の配慮義務と拒否された場合

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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員

業務上の必要性から転勤を命じることは、会社の正当な人事権に基づく命令であれば原則として有効です。しかし、親などの介護をしている従業員に転勤命令を出した場合、事情によっては家庭に大きな影響を及ぼします。

このような場合であっても転勤命令は問題ないでしょうか。介護中の従業員に対する転勤命令は、場合によっては権利濫用として無効になるおそれがあります。本稿では、介護中の従業員に対する転勤命令の際に、会社に求められる配慮等について解説していきます。

介護中の従業員に転勤を命じることは可能?

介護中の従業員=転勤は命じられない、という一律的なルールはありません。転勤とは勤務地の変更を伴う部署異動を指し、配転の一種とされています。配転命令は、就業規則や契約書に根拠となる規定があれば、会社が権利を有するとされています。

従業員として働く以上、会社の業務命令である転勤に応じることは、労働者の義務ともいえるでしょう。原則としては、介護中の従業員であっても転勤を命じることはできます。しかし、いかなる状況であっても配転命令が有効になるとは限りません。

転勤命令が権利濫用にあたると無効になる

会社に配転命令の権利があったとしても、無制限に行使できるわけではありません。程度の差はあれ、転勤が従業員の私生活に影響を及ぼす以上、権利の濫用は許されないとされています。

もし、以下の①~③の事項にあてはまるような命令であれば権利濫用として無効になる可能性は高いと考えられます。

  • 配転命令に業務上の必要性がない場合
  • 配転命令が不当な動機・目的をもってなされた場合(嫌がらせなど)
  • 労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合

介護中の転勤命令は不利益が発生しやすく、③に該当するように思えますが、介護中であればすべて「著しい」不利益となるわけではありません。

単に病弱な親の面倒をみているという程度の介護状況であれば、「著しい」とまではいえないケースもあります。多少の不都合が発生する程度であれば、「通常甘受すべき程度」にあたります。

育児・介護休業法では従業員への配慮が義務付けられている

育児介護休業法では、配置転換の際に、育児・介護中の従業員に配慮するよう、会社に配慮義務が定められています。また、育児介護休業法に関する両立指針や法律施行に関する通達では、配慮すべき内容が示されています。以降でそれぞれ解説していきます。

育児・介護休業法(第26条)

育児介護休業法の第26条では従業員の配置に関する配慮として、以下の内容が規定されています。

「事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。」

介護中の従業員の状況に配慮せずに転勤命令を行った場合には、この条文に抵触することになります。介護中の従業員へ転勤命令を出す際には、その従業員の状況に応じて、会社としての配慮を検討するようにしましょう。

育児・介護休業法の通達

厚生労働省による育児介護休業法に関する通達では、同法26条に定めた労働者の配置に関する配慮について、以下の点を指摘しています。

  • 転勤によって育児や介護が困難となる労働者については、その状況について配慮することを事業主に義務づけるもの。
  • 育児介護が「困難となる」とは、転勤後の通勤の負担や、家族の状況、転勤地周辺の育児介護サービスの状況等の事情を総合的に勘案して、個別具体的に判断すべきもの
  • 「配慮」とは、転勤そのもの行わないことや、従業員の育児介護の負担軽減に積極的な措置を事業主に求めるものではない

育児・介護休業法の指針

「配慮することの内容としては、例えば、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況を把握すること、労働者本人の意向を斟酌すること、配置の変更で就業の場所の変更を伴う場合の子の養育又は家族の介護の代替手段の有無の確認を行うこと等」指針では、状況の把握や、対象従業員の意向確認、他の手段の有無についての確認などを配慮の例として示しています。

介護中の従業員に転勤命令を出す際の注意点

介護中の従業員に転勤命令を出す際には、どのような点に注意が必要でしょうか。以下の内容がポイントとして挙げられます。

  • 転勤命令について就業規則で定める
  • 従業員の介護の状況を把握する
  • 転勤の負担軽減が可能かを検討する
  • 転勤の目的や必要性について説明する
  • 転勤命令は書面で行う

各項目について、以下で詳しく解説していきます。

転勤命令について就業規則で定める

配転命令は、就業規則や雇用契約書などに根拠となる規定を設ける必要があります。規程内容は「業務の都合により、出張、配置転換、転勤を命ずることがある」といった内容でよいでしょう。転勤の可能性があることを明記し、周知することで転勤に関するトラブルを防止することができます。

このような規定がないと、会社の配転命令の根拠が示せない、というだけでなく、従業員が勤務地限定雇用であると勘違いする可能性もあります。まずは、規定の整備から始めましょう。

従業員の介護の状況を把握する

転勤の人選を行ったら、対象者の家庭の状況をヒアリングして確認しましょう。状況を把握できなければ会社が行う配慮を検討することができません。ヒアリングの際には、以下の点について確認しておくと良いでしょう。

  • 介護の状況(要介護度、介護時間など)
  • 配偶者や扶養家族の有無
  • 同居の家族の続柄、人数、年齢
  • 現在の居住地
  • 住居の費用を負担しているか
  • 賃貸か持ち家か
  • 経済状況

状況を把握したら、会社としてどのような対応が可能か社内で検討します。

転勤の負担軽減が可能かを検討する

介護中の従業員の場合、転勤によって発生する負担が重ければ家庭の破綻や生活困窮に繋がるおそれもあります。会社としてはできる限り、転勤によって生じる介護への負担軽減について、どのような配慮が可能か検討すべきでしょう。

負担軽減の内容は、家庭の事情や会社の対応範囲によって様々ですが、以下のような内容を検討すると良いでしょう。

  • 転勤そのものを回避する策がないか
  • 他の人員を充てられないか
  • より不利益の少ない場所への転勤はできないか
  • 転勤した場合に介護を他の代替手段で行えるか
  • 民間のケアサービスを利用することができないか

転勤の目的や必要性について説明する

転勤命令を行うには、業務上の必要性があることが前提です。対象従業員に対し、転勤の目的やその必要性について十分説明した上で、本人の納得が得られるように努めるべきです。

また、人選の理由を説明し、転勤先での主な業務内容など、できる限り具体的に整理して伝えることが望ましいと考えられます。

転勤命令は書面で行う

説明を尽くしても従業員が転勤命令を拒否する可能性はあります。会社の業務命令に背くことになりますので、なんらかの処分を検討せざるを得ない場合もあるでしょう。しかし、懲戒処分は、後に不当処分であるとして、従業員から労働審判や訴訟などを起こされるおそれもあります。

最悪の事態に備えて、転勤命令は書面で交付するようにしましょう。転勤命令の内容を客観的に明らかな状態にしておくことで、発令時の会社の対応を証拠化することができます。

介護を理由に転勤命令を拒否されたらどうする?

親の介護を理由に転勤を拒否された場合、会社はどのように対応するべきでしょうか。介護問題はセンシティブな内容でもありますので、丁寧に対応しなければトラブルとなる可能性もあります。以下のような対応を検討しましょう。

  • 転勤拒否の理由を確認する

    介護をしているといっても、その従業員がどの程度介護を行っているかは分かりません。介護状況を確認するために、要介護度の資料や通院資料の提出を求めてもよいでしょう。他の親族の対応状況も確認しましょう。

  • 従業員と話し合う

    転勤の必要性や人選理由などをしっかりと説明し、転勤命令の経緯を理解してもらいましょう。できれば転勤したくないといった程度で介護を理由に拒否しているのであれば、必要性を理解することで応じてもらえる可能性があります。

  • 双方が納得できる解決策を模索する

    介護と仕事を両立するために、可能な範囲で支援策を検討することも効果的です。介護休暇等の制度説明も改めて行うとよいでしょう。介護サービス等の活用で発生する費用面が問題となるケースもありますので、給与や手当等の待遇面の見直しも有効です。

配置転換の拒否に関する詳細は、下記ページで詳しく解説しています。

さらに詳しく配置転換(人事異動)を拒否されたらどうする?企業がとるべき対応とは

介護を理由とした転勤拒否で解雇できるか?

上記のような対応を行っても頑なに転勤を拒否する場合は、懲戒処分を検討することになります。懲戒処分を行うには、就業規則に根拠となる規定があることが必要です。就業規則を確認し、規則に従って手続きしましょう。ただし、懲戒解雇は最終手段とするべきです。

懲戒解雇は最も重い処分であり、従業員にとっても不利益が大きいため、解雇権濫用法理によって規制されています。懲戒解雇は、従業員から不当解雇であるとして労働審判や裁判を起こされるおそれもあります。

もし、裁判で解雇することが客観的に合理的でなく、社会通念上も相当な処分とはいえないと判断されれば、解雇は無効となり、会社に金銭的負担が発生することになります。懲戒処分について迷う場合は、弁護士へ事前に相談しましょう。

介護中の従業員の転勤に関する裁判例

介護中の従業員に転勤を命令することは、状況によって有効となる場合、無効となる場合があります。裁判では、介護に従事する必要性と転勤命令の必要性の比較衡量によって判定することになるでしょう。有効・無効それぞれの裁判例をご紹介します。

介護中の従業員への転勤命令が有効とされた裁判例

介護中の従業員への転勤命令が有効とされた裁判例として、一般財団法人あんしん財団事件をご紹介します。

事件の概要(平成27年(ワ)第32573号・平成30年2月26日・東京地方裁判所・第一審)

一般財団法人Yに勤務する職員A・B・Cは、Yより転勤を命じられました。Yの就業規則には、転勤の根拠となる規定があり、その内容に基づいて手続きされました。Aには同居していないものの、要支援と認定された高齢の義母がおり、Aの妻が週に1回程度面倒を見ていました。

また、Bには身体障害者4級の高齢の父、身体障害者3級の妹、高齢で病弱な母がおり、B夫婦でサポートしていました。Cには定期的に様子を見に行く必要のある高齢の両親と義母がおりましたが、3名はいずれも介護中であることを事前に申告していませんでした。

Yより転勤が命じられた際に、3名はそれぞれ介護中であることを理由として転勤を拒否し、転勤命令は不当であるとして裁判を起こしました。

裁判所の判断

裁判所は各職員の介護の程度を踏まえ、転勤による負担が、通常甘受すべき程度であるか否かについて、以下のように判断しています。

  • 職員A:Aの転勤によって、Aまたはその家族に一定程度の負担が生ずることは否定しがたいが、Aの家族構成等を勘案すれば、転勤命令において殊更に配慮すべき負担となるとまではいえない。
  • 職員B:単身赴任により経済的に一定の不利益が推認されるが、Bの家族構成や手当の支給などを考慮すれば、不利益についての一定程度の対応は為されていると考えられる。転勤命令において特段の配慮をすべき負担となるとまではいえない。
  • 職員C:転勤命令によって二重生活となることで支出が増えることや家族の事情はあるものの、赴任に対する手当の支給やCの家族構成をもって判断すれば、転勤命令において特段の配慮をすべき負担とまでは認められない。

職員A~Cの介護状況は認められたものの、家族構成や介護の程度、また会社の手当支給等配慮を踏まえ、いずれも人事権濫用ではなく、転勤命令は有効とされました。

ポイント・解説

本事案では、就業規則に転勤の根拠となる規定があり、契約時にも勤務地を限定する合意などはありませんでした。また、当時Yは不正事件などから内部管理体制の整備等を金融庁からも指示されており、適切な人事ローテーションの実施などの点からも転勤命令の業務上の必要性が認められています。

その上で、職員A・B・Cの転勤の必要性と介護状況に対する不利益の程度が比較衡量されました。いずれの職員にも、介護について一定程度の関与が推認されていますが、介護の対応をしてくれる家族がいることから、通常甘受すべき程度を著しく超えるとは認められませんでした。

また、転勤によって生じる経済的負担を、会社が手当によって補填している点も評価され、人事権の濫用ではないとして有効な転勤命令と判示されています。

介護中の従業員への転勤命令が無効とされた裁判例

介護中の従業員への転勤命令が無効と判断された裁判例として、NTT東日本事件をご紹介します。

事件の概要(平成18年(ネ)第314号・平成21年3月26日・札幌高等裁判所・控訴審)

電気通信事業者Yで勤務するXは、同じ苫小牧に居住する高齢の両親のサポートをしていました。特に父親は身体障害者等級1級で、要介護3の認定を受けており、日常的な介護が必要な状態でした。

父親の介護にあたっていた母親も身体障害者等級4級であり、他の兄弟も遠距離であるため、Xのサポートは父親の介護に必要不可欠な状況となっていました。Y社より東京のセンターへの転勤命令が出されましたが、両親の介護はXの妻だけで担うことは現実的でなく、Xは介護中であることを理由にこれを拒否しました。

また、Yからの転勤命令を不服とする他4名の従業員とともに違法な配転命令であるとして訴訟を提起することとなりました。

裁判所の判断

裁判所は、当時、Y社の構造改革に伴う新しい部署の編成のために、Xの所属する部署から適性のある人材を配転させる必要があった点を認め、労働力の適正配置やXの能力の適性も考慮すれば、業務上の必要性は認められるというべきと判断しました。

その上で、本件の配転障害事由である介護の状況について次のように判断しています。家族の介護状況についてのXの申告を踏まえれば、Xの妻だけでは十分に対応できない状況であり、Xの転勤は解決困難な問題が生じることが懸念され、無理があったというべきとしました。

そして、このような状況下での配転命令は、Xとその親族に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであり、育児介護休業法26条に則り、配慮することなく発された本件配転命令は権利濫用として違法と判示されました。

ポイント・解説

本件転勤命令は、労働力の適正配置、業務の能率増進や業務運営の円滑化の観点から業務上の必要性が認められています。しかし、XがY社に対して事前に介護の状況や転勤は不可能であることを申告していた点を踏まえれば、本件転勤命令によってXに生じる不利益をY社は認識することができたと判断されています。

Xのような介護中の従業員に対しては、育児介護休業法26条を踏まえた配慮が必要であるにもかかわらず、Y社は転勤によって発生する介護の不利益について、補償などの配慮を行わなかったと判断されています。

配慮のない転勤命令は、Xだけではなく、Xの親族に対しても多大な犠牲を強いたものと判示され、慰謝料の支払が命じられました。介護中の従業員がいるかどうかについては、定期的に社内で申告を促すなどの運用を検討するべきでしょう。

従業員への転勤命令で不安があれば人事労務に強い弁護士にご相談下さい。

転勤命令の対象となる従業員が介護中である場合には、適切な配慮が必要とされます。もし、判断を誤れば権利濫用となり、配転命令が無効となる可能性があります。

人材の適正配置のため、配転命令は会社にとって重要な人事権ですので、後から無効となるような可能性はできるだけ排除したいところです。配転命令に疑問点等あれば弁護士へご相談ください。

弁護士法人ALGでは労務に詳しい弁護士が多数在籍していますので、配転命令の根拠となる規定の整備や、配転命令の適正性などのアドバイスが可能です。

また、全国対応しておりますので、複数の事業所がある企業様にも速やかなサポートを実現できます。配転命令に少しでも疑問があれば、まずはお気軽にご連絡ください。

この記事の監修

担当弁護士の写真

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員

保有資格
弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

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