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雇止めに関する労働審判を起こされた場合の会社側が行うべき対応について

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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員

労働者の権利意識の高まりに伴い、雇止めの無効をめぐる労働審判が現在多発しており、会社にとって深刻な労働問題となっています。
基本的な雇止めの労働審判の流れは、以下のとおりです。

  • 労働審判の申立て
  • 第1回期日呼び出し
  • 答弁書等の提出
  • 第1回~第3回期日
  • 審判終了
  • 裁判への移行

労働審判は「第1回期日でほぼ勝敗が決まる」という非常に迅速な手続きであるため、申立てを受けたら、すぐに答弁書の作成に着手し、第1回期日の予行演習を行わなければなりません。
この記事では、雇止めによる労働審判の流れや、雇止めの労働審判で会社側が主張すべき3つの反論などについて解説していきます。

雇止めによる労働審判の流れ

雇止めとは、契約社員の契約更新をせず、期間満了をもって雇用を終了させることをいいます。
契約社員から労働審判を申し立てられたときに、最も多いのがこの「雇止め」を巡るトラブルです。

基本的な雇止めの労働審判の流れは、次のとおりです。

  • 社員が裁判所に申立書を提出
  • 第1回期日の指定・呼出し(原則申立から40日以内)
  • 会社が答弁書等を提出(第1回期日の7~10日前まで)
  • 労働審判委員会が原則3回以内の期日で和解を試みる
  • 和解に至らない場合は、審判を下す
  • 異議を申し立てると、裁判へと移行

有期雇用契約は期間が到来すれば終わる契約であるため、雇止めそのものは違法ではありません。

ただし、労働者保護の観点から、正社員と同視できるなど一定の場合には、雇止めが制限される「雇止め法理」が定められています(労契法19条)。社員側はこれを根拠に、雇止めは不当として労働審判を起こすものと考えられます。

労働審判の流れについて詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

さらに詳しく労働審判を起こされたときの手続きの流れ|会社側の対応を弁護士が解説

労働審判の答弁書を作成する際のポイント

労働審判を起こされた場合は、第1回期日までに会社側の反論を書いた答弁書を提出する必要があります。

裁判所は申立書や答弁書、証拠を精査し、第1回期日で証拠調べ等を行い、心証形成をほぼ終えるのが通例です。そのため、いかに充実した答弁書を作成するかが重要です。まずは申立書の請求内容を把握し、どのように反論すべきか検討しましょう。

雇止めの労働審判では、雇止めは不当として復職やバックペイを請求されるケースがほとんどです。
復職やバックペイ請求については、①正社員と同視できない、②契約更新の期待を持たせていない、③雇止めに正当な理由がある、といった反論を答弁書に記載する必要があります。

また、同一労働同一賃金(パートタイム・有期雇用労働法8条、9条)を根拠に、契約社員と正社員の待遇差を理由とする賠償請求がなされる場合もあります。この際はこの待遇差が職務内容や責任の程度、配置転換等の違いによるもので正当との反論を記述すべきでしょう。

雇止めの労働審判で会社側が主張すべき3つの反論

雇止めの労働審判で、会社側が反論する際に特に理解しておくべき知識は、「雇止め法理」です。
以下で確認しておきましょう。

雇止め法理(労契法19条1号・2号)

  • 有期労働契約が過去に反復して更新され、実質的に見て無期労働契約と変わらない
  • 契約社員が契約更新されると期待することについて合理的な理由がある

のいずれかに当たる場合で、契約社員の雇止めに客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が認められないときは、雇止めが無効となり、社員が更新を求めれば会社は契約の更新を強制される。

有期労働契約でも、更新が繰り返されて雇用も長期にわたるような場合は、実質的に無期労働契約と同じであり、社員も更新されるとの期待を抱くはずです。

そのため、契約社員でも一定の場合は、正社員に用いられる解雇権濫用法理が類推適用され、雇止めが制限されます。このルールを「雇止め法理」といい、労働契約法19条で法制化されました。労働審判でもこの法理をもとに、雇止めの有効性が判断されます。

①正社員と同視できない

雇止め法理を定めた労契法19条1号によれば、契約社員が正社員と同視できる場合には、解雇権濫用法理が類推適用され、正当な理由がなければ、雇止めが制限されます。
そのため、労働審判では、「正社員と同視できないこと」を主張して反論する必要があります。

契約社員を正社員と区別するための基準として、以下が挙げられます。

  • 正社員と仕事内容が異なるか
  • 正社員とは異なる就業規則が適用されるか
  • 正社員と職責の重さが違うか
  • 配置転換の範囲が正社員と違うか

例えば、契約社員の業務内容が臨時的なものであって、仕事がなくなれば契約が終了することを認識した上で入社しているような場合は、この点を主張して反論します。
労働審判で正社員と同視できないと判断されたら、雇止めは有効となり、期間満了により契約は終了します。

②契約更新の期待がない

仮に「正社員と同視できない」と判断されたとしても、更新を期待させる事情があった場合は、労契法19条2号により、合理的な理由がないのであれば、雇止めは制限されます。
そのため、「契約更新の期待がない」点も主張する必要があります。

契約更新の期待が生じていたかどうかは、社員の感情ではなく、客観的な諸事情から判断されます。
具体的に、労働審判では以下を要素として判断されます。

  • 更新の回数、雇用の通算期間
  • 契約更新の手続きを適切に行ったか
  • 会社側において契約更新を期待させる言動を行ったか
  • 面談、雇用契約書に更新を期待させることがあったかどうか
  • 仕事内容や責任の程度、配置転換の範囲などが正社員と同視できるか

契約の更新時期に面談を行い、毎回更新の合意書や契約書を交わし、さらに契約内容も更新時の状況によりその都度協議して定めていたような場合は、この点を主張し反論します。更新ごとの契約書や面談記録が残っている場合は証拠として提出しましょう。

契約更新の期待がないと判断されたら、雇止めは有効となります。

③雇止めが正当である

仮に「正社員と同視できる」もしくは「契約更新の期待がある」と判断されたとしても、解雇権濫用法理に基づき、雇止めに正当な理由があれば、雇止めは有効というのが裁判所の考え方です。
そのため、労働審判では、「正社員とは同視できないこと」や「契約更新の期待がないこと」に加えて、「雇止めに正当な理由があること」も主張することが必要です。

具体的には、雇止めの理由(能力不足や勤務態度不良、健康不安、業務命令違反、業績不振など)に応じて、その正当性を主張します。
例えば、能力不足であれば、業務上のミスの内容や成績不振の事実、それに対し会社が再三教育や指導、業務の変更等の措置を講じたのに改善されなかった事実を主張することが必要です。

また、健康不安については、合理的な休職期間を経ても復職が難しいことや、業績不振については、決算書などを使って人員削減に至った経緯等を説明する必要があるでしょう。

労働審判で会社側にかかる費用

労働審判は法的知識が必要となるため、申立てを受けた会社側は弁護士に依頼することが通例です。その際にかかる弁護士費用として、以下が挙げられます。

  • 相談料

    弁護士に依頼する前の相談にかかる費用です。相場は30分5000円~1万円(税別)です。

  • 着手金

    着手金は、実際に弁護士に事件を依頼する際に支払う費用です。
    経済的利益(社員の請求額)に一定の率をかけて計算され、結果にかかわらず、返金されないことが通例です。

  • 報酬金

    報酬金は、事件の解決時に成功の程度に応じて支払う費用です。
    報酬金額は経済的利益(請求額と会社が実際に支払うことになった金額の差額)に一定の率をかけたり、退職に合意した場合は〇万円など定額制にしたりして、算出されることが多いです。

  • 実費、日当

    実費とは、労働審判で実際にかかる費用をいい、交通費や印紙代、切手代、コピー代などが挙げられます。また、弁護士の裁判所への出頭回数に応じて、日当がかかる場合もあります。

雇止めの正当性に関する判例

会社が勝訴した判例

ここで、雇止めの裁判で会社側が勝訴した裁判例をご紹介します。

【仙台地方裁判所 令和2年6月19日判決】

(事案の概要)

社員Xは、会社Yとの間で、契約期間1年の有期雇用契約を結び、更新を4回繰り返し、Yの運営する介護施設で働いていましたが、5回目の契約更新を拒絶されたことについて、雇止めの無効を主張して提訴した事案です。

(裁判所の判断)

裁判所は、以下の事実から、Xは採用時から更新回数上限を理解して契約を結び、その後もさらに契約が更新されるとXが期待するだけの正当な理由があるとは認められないとして本件雇止めを有効と判断しました。

  • 募集要項に「更新4回まで」と明記され、面接の際も「更新4回まで、最長5年」との説明を受けていた
  • 雇用契約書にも「更新4回まで」と記載され、社員Xのサインを得ていた
  • 契約更新ごとに雇用契約書が作成され「更新4回まで」と記載され、最終更新年の契約書には「契約を更新する可能性なし」「契約期間は_」と書かれ、社員Xのサインを得ていた

雇止めが不当とされた判例

一方、雇止めが不当とされた裁判例をご紹介します。

【福岡地方裁判所 令和2年3月17日判決 博報堂事件】

(事案の概要)

社員Xは、広告代理店Yの事務系契約社員として、1年ごとの有期雇用契約を29回にわたり更新、継続してきました。

その後、労働契約法改正による無期転換ルールの適用をきっかけに、Yは5年を超えて更新しないという社内規定を設けました。その5年後、Xが雇用契約の更新を求めたところ、Yはこの規定に基づき更新を拒否し、雇止めを行いました。そこで、Xが雇止めは無効として提訴した事案です。

(裁判所の判断)

裁判所は、以下を理由に、本件雇止めには合理的な理由がないとして、無効と判断しました。

  • Yは契約更新通知書をXに毎年交付し、面談も行ってきたため、本件契約を無期雇用契約と同視できないが、Xは約30年契約更新してきたため、5年の更新上限が規定される以前に、Xにはすでに更新に相当に高い期待が形成されていたと判断される。
  • Xを雇止めするには、これらの期待があってもなお雇止めが合理的であると認めるに足りる理由が必要であり、この点Yは人件費の削減や業務効率の改善等を主張するが、雇止めの理由としては不十分である。
  • Yは雇止めの理由としてXのコミュニケーション能力不足も主張するが、雇用継続が困難なほど重大な能力不足であるとはいえず、むしろXを長期雇用していたYがこの問題点に対し適切な指導教育を行っていないことからすれば、この点を重視するべきではない。

(判例のポイント)

裁判所は、社員には契約更新につき相当に高い期待が形成されていたとして、雇止め法理の適用を認めた上で、雇止めに正当な理由がないとして、雇止めを無効と判示しています。
そのため、会社としては、雇止め法理の適用をできる限り回避するため、契約社員が更新に対する過度な期待を持つことのないよう運用することが必要となります。

契約締結時に更新の有無や更新する場合の判断基準を明確に示した上で、次回の更新を最後に終了としたいならば、契約書に次回の更新はしないことを明記し社員からサインを得ておきましょう。
また、万が一雇止め法理が適用されても、雇止めが無効と判断されないよう、事前に雇止めの正当性を主張・立証できるようにしておくことも重要です。

雇止めの労働審判は労働問題に詳しい弁護士にご相談下さい。

労働審判は、3回以内の期日で終了し、ほとんどが3ヶ月以内で終結します。
また、第1回期日では裁判所が当事者に直接質問を投げかける「審尋」も行われるため、答弁書や証拠書類の準備だけでなく、期日におけるプレゼンテーションも大変重要となります。

会社側が勝訴するためには、第1回期日から万全な状態で労働審判に挑む必要があります。
弁護士に依頼すれば、答弁書の作成や審尋のリハーサル、期日の対応などすべて任せることが可能です。労働審判の申立てを受けた場合は、できる限り早く労働法務を得意とする弁護士に相談することをお勧めします。

この記事の監修

担当弁護士の写真

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員

保有資格
弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

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