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マタニティハラスメントとは?事業主が行うべき6つの防止措置

    ハラスメント

    #マタハラ

    #防止措置

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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員

マタニティハラスメント(マタハラ)とは、女性労働者の妊娠や出産、育児などに関するハラスメントのことです。

2017年に男女雇用機会均等法が改正され、事業主にはマタハラを防止するために必要な措置を講ずることが義務付けられました。マタハラを放置すると法的責任を問われる場合があるほか、企業イメージの悪化や人材の流出など受ける影響は重大であるため、誠実に取り組む必要があります。

そうは言っても、「実際に何をどうすれば良いのか?」と悩む事業主の方は多いかと思います。
そこで、このページでは、会社が具体的にどのようなマタハラ防止対策に取り組めばいいのかについて解説していきます。ぜひお役立てください。

マタニティハラスメント(マタハラ)とは

マタニティハラスメント(マタハラ)とは、女性社員が妊娠・出産したことや、産前産後休業・育児休業などの制度を請求・利用したことを理由に、上司や同僚から不当な取り扱いや嫌がらせを受けて就業環境を害されることをいいます。

「マタニティ(maternity)」を和訳すると母性・妊娠中の、「ハラスメント(harassment)」は悩ます・嫌がらせという意味になります。
なお、法律や厚生労働省の指針では「マタニティハラスメント」という用語は使われていません。

マタニティハラスメント、パタニティハラスメント、ケアハラスメント(介護をしながら働く社員へのハラスメント)を3つ合わせて、「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」と表現しています。

マタハラとパタハラの違い

パタハラ(パタニティハラスメント)とは、男性社員に対する育児に関するハラスメントのことです。

女性社員の妊娠や出産、育児が仕事に支障を与えるとして嫌がらせを受けることを指すマタハラに対して、パタハラは男性社員が育児のために、育児休業や時短勤務、フレックスタイム等を請求・利用したことを理由に嫌がらせを受けることを指します。

例えば、「男のくせに育児休業をとるなんてあり得ない」などとして、上司が個人的に育児休業の請求を取り下げるよう求めた場合は、パタハラに当たるものと考えられます。

男女雇用機会均等法が「マタハラ」を規制し、育児介護休業法が「マタハラ」と「パタハラ」両方を規制しています。会社はパタハラについても必要な防止措置を講ずる必要があります。

マタハラの類型

マタハラは、以下の2つのパターンに分類されます。

  • 制度等の利用への嫌がらせ
  • 状態への嫌がらせ

パターンごとの具体例を下表に挙げましたので、ご確認ください。

言動例
制度等の利用への嫌がらせ
  • 産休の取得を請求したところ、上司から「他の誰かを雇うので退職してもらってもいいかな」と言われた。
  • 育休の取得について上司に相談したところ、「この人手不足の時に育休とかあり得ない」と言われて拒否された。
  • 妊婦健診のために休みを取りたいと上司に相談したら、「病院は土日に行ってほしい」と言われた。
  • 育休の取得について上司に相談したら、「休暇をとるなら昇進は難しい」と言われた。
  • 育児のため時短勤務している社員が、同僚から「仕事が楽でうらやましい」と言われた。
状態への嫌がらせ
  • 妊娠を理由にプロジェクトの重要なメンバーから外された
  • 契約社員が上司に妊娠を報告したところ、「次回の契約更新はしない」と言われた。
  • 上司から「妊婦はいつ休むかわからないから、重要な仕事は任せられない」として雑務ばかりさせられている。
  • 同僚から「病気じゃないのにつわりぐらいで休むなんて迷惑だ」と言われた。

妊娠・出産・育児に関する不利益な取扱いの禁止

妊娠や出産、育児休業などを理由として、会社が社員に不利益な取扱いを行うことは禁止されています。(均等法9条、育介法10条等)。
不利益な取扱いの例として、以下が挙げられます。

  • 解雇、雇止め
  • 降格、減給
  • 賞与等における不利益な算定
  • 正社員からパートへの変更
  • 昇進の人事考課における不利益な評価
  • 不利益な配置転換
  • 派遣先が該当する派遣社員の勤務を拒否するなど

ただし、以下のいずれかにあたる場合は、例外として違法にはなりません。

  • 業務上の必要性が不利益取扱いによる影響を上回るとき
  • 本人が同意していて、有利な影響が不利な影響を上回り、会社から適切に説明がなされるなど正当な理由があるとき

①の業務上の必要性として、業績悪化や能力不足、勤務態度不良などが挙げられます。

例えば、妊娠前から能力不足が問題となっていた場合に、①を満たすには妊娠前から指導を行うなど、改善の機会を与えても改善の見込みがないといえる状況が求められます。

事業主が講ずべきマタハラ防止措置

事業主が講ずべきマタハラ防止措置は、厚生労働省の指針によって以下のとおり定められています。

  • 事業主の方針の明確化と周知・啓発
  • 相談窓口の設置・必要な体制の整備
  • マタハラ発生後の迅速かつ適切な対応
  • マタハラの発生要因や背景を解消するための措置
  • 当事者等のプライバシー保護のための措置
  • 当事者等の不利益な取り扱いの禁止

なお、派遣社員については、派遣元だけでなく、派遣先も上記のマタハラ防止措置を講じる必要があります。
以下で各措置について詳しく見ていきましょう。

①事業主の方針の明確化と周知・啓発

事業主はマタハラに対する方針を明らかにした上で、社員に周知・啓発を行うべき義務を負います。
周知・啓発するべき事項として、以下が挙げられます。

  • マタハラを禁止する方針
  • どんな行為がマタハラに当たるのか
  • マタハラの発生原因や背景
  • 社員は妊娠・出産・育児に関する制度等の利用ができること
  • マタハラが起きた場合の対応方法
  • マタハラ行為者への厳正な対処方針、処分内容

マタハラを防止するには、マタハラを許さないことや、行為者を厳正に処分するといった方針を会社のトップが明確にメッセージとして発信することが大切です。

周知・啓発は、就業規則や服務規律等に定めるだけでなく、社内報やパンフレット、社内ホームページ、ポスターなどへの掲示、定期的な研修などにより行うのが望ましいでしょう。

②相談窓口の設置・必要な体制の整備

事業主はマタハラの相談窓口を設けて、適切にマタハラに対応しなければなりません。
事業主が取り組むべき事項として、以下が挙げられます。

  • マタハラ相談担当者や窓口となる部署を定めて、社員に周知すること
  • 相談担当者が適切に対応できるよう、マタハラ相談に関するルールを設けること
  • マタハラが実際に発生した場合だけでなく、発生のリスクがある場合やマタハラに当たるかどうか微妙なケースでも門戸を広げて相談に対応すること
  • 社内窓口だけでの対応に自信がない場合は、外部機関に委託すること

厚労省の指針では、マタハラはパワハラなど他のハラスメントと複合的に発生するケースが少なくないため、あらゆるハラスメントについて一元的に対応できる相談窓口を設置することが推奨されています。

③マタハラ発生後の迅速かつ適切な対応

マタハラは放置すればするほど事態が悪化するリスクが高まるため、迅速な初動対応を行うことが重要です。マタハラが発生した場合に事業主が対応すべき事項として、以下が挙げられます。

  • 事実関係を迅速かつ正確に把握すること
  • マタハラがあったと事実認定できた場合は、速やかに被害者への配慮の措置と、行為者への処分を適正に行うこと
  • 社内での調査に限界がある場合は、中立的な第三者機関に任せること
  • 再発防止に向けた措置を講ずること

まず当事者・第三者へのヒアリングや証拠の確認などを行い、マタハラがあったと判断された場合は、すぐに被害者のケアを行い、行為者には厳正に処分する必要があります。

また、マタハラの事実が確認できたか否かにかかわらず、社内報や研修などを通して注意喚起するなど、再発防止策を講じることも重要です。

④マタハラの発生要因や背景を解消するための措置

事業主は、マタハラの発生要因や背景を解消するために必要な措置を講じなければなりません。
マタハラが発生する原因として、妊娠等をした社員が妊娠・出産等に関する制度を利用することにより、フォローする周囲の社員の業務負担が増大することが一因としてあげられます。

そのため、周囲の社員へ業務の偏りを軽減するよう配慮することが厚生労働省の指針において求められています。望ましい取組み例として、周囲の社員への業務分担の見直しや人員の補充、業務の効率化などの実施が挙げられます。

また、妊娠等をした社員にも、周囲と円滑なコミュニケーションを図りながら仕事をしてもらう必要があります。なお、派遣社員については、派遣元のみが当該措置を講ずる義務があります。

⑤当事者等のプライバシー保護のための措置

マタハラに関する相談者・行為者等の情報は、個人のプライバシーに関わるものです。

そのため、事業主はマタハラの相談者、行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を社員に対して周知し、安心して話せる環境を整備することが大切です。

取組みの具体例として、以下が挙げられます。

  • プライバシー保護措置を講じていること(本人以外に事情聴取する際は本人の同意を得ることや、相談内容は限定された担当者以外には漏らさないこと、事情聴取は個室で行うなど)を、社内報やパンフレット、社内ウェブページなどで周知すること
  • 相談担当者が守るべきプライバシー保護に関するマニュアルを作成し、それをもとに対応させること
  • 相談担当者にプライバシー保護に関する研修を行うこと

⑥当事者等の不利益な取り扱いの禁止

マタハラを相談したことや事実関係の調査への協力を理由に、会社や上司からひどい仕打ちをうけるのではないかとして、相談や協力を躊躇する社員は少なからずいるはずです。

そのため、相談や調査協力を理由として、解雇や報復など不利益な取り扱いを行ってはならない旨を就業規則等に定めて、社内報などにも記載して、社員に周知・啓発することが必要です。

例えば、マタハラの事実関係の調査では、当事者以外の第三者からの聴き取りが必要になるケースが多いです。第三者がこれに協力することで不利益な取扱いがなされてしまうと、事実を知っていたとしてもあえて隠すおそれがあります。

そのため、社員が安心して相談でき、または相談への協力ができるような体制を整備しておくことが大切です。

マタハラ防止措置を講じなかった事業主への罰則

マタハラ防止措置を講じなかった事業主への直接的な罰則は設けられていません。

ただし、防止措置を十分に講じていない会社に対しては、厚生労働省より助言や指導、勧告がなされる可能性があります。是正勧告を受けたにもかかわらず従わなかった場合には、会社名の公表の対象となり、レピュテーションリスクなどが生じるおそれがあります。

また、厚生労働省よりマタハラ防止措置と実施状況について報告を求められたのに、報告しなかったり、虚偽の報告をしたりした場合には20万円以下の過料が科されます。

さらに、会社側が負う安全配慮義務の視点から、例えば、マタハラに気が付いていたのに会社として放置していたなどの事情がある場合には、民法上の不法行為として損害賠償責任を追及されるリスクがあるため注意が必要です。

マタニティハラスメントに関する裁判例

ここで、マタニティハラスメントに関して争いになった判例をご紹介します。

【平24(受)2231号 最高裁判所第一小法廷 平成26年10月23日判決】

(事案の内容)

Y病院で働く女性職員Xは訪問リハビリ業務に従事していましたが、第二子を妊娠したため、より体の負担のかからない病院内でのリハビリ業務への転換を希望したところ、転換は認められましたが、これに伴い、Xの同意のもと副主任(管理職)のポストから外されました。

Xは育休後に復職しましたが、Y病院はX以外の職員がすでに副主任に就いていたことから、副主任に復帰させませんでした。

Xは妊娠を理由に管理職から降格されたのは、男女雇用機会均等法9条3項の「女性労働者の妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いを禁止する」定めに違反するとして、Y病院を提訴した事案です。

(裁判所の判断)

妊娠中の軽易な業務への転換をきっかけに女性社員を降格することは、原則として均等法9条3項に違反し違法である。ただし、降格による有利・不利な影響、会社側の説明の内容や経緯、社員の意向などに照らし、①社員が自由意思で降格に同意したといえる合理的な理由があること、②業務上の理由など特殊な事情があることのいずれかにあたる場合は、例外として同法が禁止する不利益な取扱いには当たらない。

本件では、Xは降格により管理職の地位と手当を失う重大な不利益を受けることや、育休明け後も副主任への復帰が予定されていないことに関して説明を受けていないこと等から、自由な意思で降格に同意したとは言えないため、前記例外①に当たらない。また、例外②に当たるか否かは審理が不十分であるため、高等裁判所に差し戻して審理することを求める。

(判例のポイント)

裁判所は、社員の明確な同意や、業務上の必要性など特殊な事情がない限り、妊娠を理由とした降格は原則として違法との判断基準を示した上で、本件では、育休明け後も副主任への復帰が予定されていないことを説明されていない等の事情から、女性社員が降格について承諾したとはいえないと判断しています。

また、降格する業務上の必要性があったかについては、高等裁判所で再度検討することを要求し、後日行われた高裁による差し戻し控訴審では、この業務上の必要性についても否定され、Y病院の行った降格は違法・無効であると結論付けられています。

妊娠後の降格が違法なマタハラと判断されないようにするには、降格する前に業務上の必要性や降格による有利・不利な影響、降格後の処遇、元のポストへの復帰の見込みなどについて十分に説明することが必要です。また、育休終了後にできる限り早く元のポストに復帰できるよう配慮することも求められます。

事業主が講ずべきマタハラ防止措置で不安なことがあれば弁護士にご相談下さい。

このページでは、事業主が講ずべきマタハラ防止措置についてご紹介してきました。
ただし、厚生労働省の指針に書かれた措置はあくまで一例であるにすぎません。実際の取り組みは最終的には事業主で決定し、実行することが必要です。

また、義務化された防止措置を講ずるだけでなく、マタハラの発生要因を検討し、解消していくこともマタハラを予防する大切なポイントとなります。

自社だけでマタハラ防止措置を講じることに不安がある場合は、ぜひ企業側の労働法務に精通する弁護士法人ALGにご相談下さい。会社ごとの状況に合わせた最適なマタハラ防止措置についてご提案することが可能です。

この記事の監修

担当弁護士の写真

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員

保有資格
弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

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