解雇
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#再雇用
#雇止め

監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
厚生労働省が発表した統計資料によると、定年後の再雇用制度を導入している会社は、7割超となっています。しかし、再雇用後にトラブルがないわけではありません。再雇用したものの、能力不足や勤務態度が不良など、辞めてもらいたいと思えるような事案もあることでしょう。
また、会社の経営難などの事情から再雇用者のリストラを検討するケースもあります。では、定年後に再雇用した従業員を辞めさせることはできるでしょうか。
本稿では、再雇用した従業員の解雇の有効性や注意点について解説していきます。
目次 [開く]
定年後再雇用制度とは?
高齢者雇用安定法の改正によって、定年を65歳未満と定めている会社では、65歳までの安定した雇用確保のため、以下のいずれかの措置を実施することが義務づけられています(高年齢者雇用安定法第9条)。
- 65歳までの定年引上げ
- 65歳までの継続雇用制度の導入
- 定年制の廃止
②に該当する定年後再雇用制度は、3つの措置の中で最も多くの会社に導入されている制度です。この制度は、雇用している従業員本人が希望すれば、定年後も引き続き65歳まで雇用することとなっており、1年毎の嘱託雇用契約を採用している会社が多いでしょう。
なお、令和3年の法改正によって、70歳までの就業機会の確保が努力義務となったことから、継続雇用制度を70歳まで延長している企業もあります。
定年後再雇用した従業員を辞めさせることはできる?
定年後の再雇用制度では、65歳まで、1年ごとに雇用契約を更新する方法を採用している会社が多くなっています。ただし、有期契約だからといって、会社が契約更新の拒否(雇止め)を自由に行えるわけではありません。通常、従業員は定年後の再雇用制度の導入によって、65歳まで雇ってもらえるであろうと期待しています。
法律上、このような合理的な期待は尊重されるべきと考えられていますので、会社は特段の事情もなく契約更新を拒否することはできません。定年後の再雇用による有期雇用契約においても、労働契約法19条の「雇止め法理」が適用されることに注意しましょう。
定年後再雇用にも雇止め法理が適用される
従業員が雇用契約の更新を期待することに合理性がある場合、会社が自由に更新を拒否することは許されません。特に、定年後再雇用制度では、65歳まで希望者全員を再雇用することが法律で義務づけられているため、更新に対する期待値は高いと想定されます。
雇止めすることに相応の理由や事情がなければ、違法であるとして雇止めが無効となる可能性は高いといえるでしょう。では、定年後に再雇用をした場合、会社がその従業員を解雇することはできないのでしょうか。
定年後再雇用者の解雇が認められるケースとは?
定年後再雇用者の雇止め(解雇)がすべて無効となるわけではありません。高年齢者雇用安定法は、正社員よりも定年後再雇用者を優遇するものではありませんので、正社員の解雇事由に該当するようなケースでは、雇止めも有効と判断されることになります。
つまり、雇止めする背景に、客観的な合理性や社会的判断としても相当と認められるような事情があれば、雇止めは可能です。雇止めが有効となる場合としては、以下のようなケースが挙げられます。
- 心身の故障等により業務に耐えられない場合
- 従業員の能力不足や勤務態度に問題があり、労務提供が不完全であると認められる場合
- 会社に損害を与えるような不正行為を行った場合
- 事業の縮小その他会社にやむを得ない事由がある場合など
経営不振を理由に定年後再雇用者をリストラできるか?
会社の経営状況の悪化などによって、人員整理を検討する場合、定年後再雇用者を対象者にしたいと考えることもあるでしょう。人員整理(整理解雇)は解雇の一種であり、会社都合による雇用契約の解除です。
そのため、解雇の要件は厳しく判断されており、原則として以下の4要件をすべて満たしていなければ無効と判断されます。
- 人員整理の必要性
- 解雇回避の努力
- 整理手続きの妥当性
- 対象者選定の合理性
定年後再雇用者のリストラが有効とされるには、選定の対象者とすることに合理性があるかどうかについて特に注意が必要です。
整理解雇の4要件については、以下のページで詳しく解説しています。
さらに詳しく整理解雇の4要件とは?実施手順や注意点をわかりやすく解説リストラが必要な状況でも再雇用は必要か?
高年齢者雇用安定法は、経営不振でリストラを必要とするような状況下にまで、再雇用を強いるものではありません。経営悪化により人員整理を行う上で、正社員よりも先に再雇用者を対象とすることは合理的な判断といえます。
ただし、会社が経営難に際し、経営改善の努力を怠ったり、再雇用者をリストラする一方で、新入社員の採用を継続的に行っているなどがあれば、再雇用の拒否は認められない可能性があります。リストラの必要=再雇用不要では無い点に注意しましょう。
就業規則に、継続雇用しない事由として、経営不振等を明記しておくことも事前対策として有効ですので、規程内容の整備も重要です。
定年後再雇用で違法な解雇を行った場合のリスク
定年後再雇用者を正当な理由もなく、違法に解雇(雇止め)した場合、会社にはどのようなリスクが生じるでしょうか。対象者が解雇に納得していなければ、不当解雇であるとして労働審判や訴訟に発展するおそれがあります。解雇が無効と判断されれば、会社は以下のようなリスクを背負うことになります。
- 復職
- バックペイの支払い
- 慰謝料
対象者が復職を望んでいた場合、解雇無効となれば会社は復職を認めざるを得ません。また、解雇時点に遡って在籍していることになりますので、解雇期間の未払い賃金の支払いが必要となります(バックペイ)。
また、違法な解雇による精神的苦痛が認められれば、未払い賃金だけでなく慰謝料の負担が発生します。訴訟等になれば、会社の社会的な信用に影響するリスクもありますので、定年後の再雇用者に対しても、解雇の検討は慎重に行いましょう。
不当解雇とならないために企業がすべき対応
定年後再雇用者の雇止めが不当と判断されないために、会社が行うべき対応にはどのようなものがあるでしょうか。 まずは、再雇用に関する規程に、継続雇用しない事由を具体的に定めておきましょう。定めがあれば有効となるわけではありませんが、継続雇用を拒否する根拠となります。
また、一方的に雇止めを通知するのではなく、退職勧奨を行うことも効果的です。退職勧奨は、雇用契約解消に向けての労使の話し合いです。トラブルに発展しにくいだけでなく、条件の希望を述べられるなど、従業員にもメリットがあります。
退職勧奨が進まない場合には、解雇を行うことになりますが、この際も通知書を作成するなど手続きは適切に行いましょう。不当解雇とならないためには法的判断が必要となりますので、弁護士へ相談しながら対応することをおすすめします。
定年後再雇用後の解雇(雇止め)が無効とされた裁判例
定年後再雇用した従業員をやむを得ず、解雇(雇止め)したいというケースもあるでしょう。しかし、再雇用による有期契約であっても雇止めは容易ではありません。雇止めが無効と判断された裁判例として津田電気計器事件をご紹介します。
事件の概要(平成23年(受)第1107号・平成24年11月29日・最高裁判所・上告審)
電子機器の製造と販売を行うY社で勤務するXは、定年後、1年間の嘱託契約を締結し、Y社の工場で勤務していました。Y社の就業規則では定年を60歳とし、その後は1年ごとの有期契約の更新によって継続雇用とする旨が、高年齢者継続雇用規程(以下、本件規程)に定められていました。
Xは嘱託雇用契約の更新を希望しましたが、Y社は本件規程に定める継続雇用基準を満たさないとして、Xの契約を更新しないと通知しました。これに対しXは、不当な査定による違法な対応であるとしてY社を訴えました。
裁判所の判断
裁判所は、継続雇用基準を含む本件規程について、従業員代表との協定および周知したことによって、Y社に適切に導入されていることを認めました。その上で、継続雇用の申込をした従業員が、本件規程の継続雇用基準を満たす場合には、Y社には継続雇用を承諾する義務があるとしました。
また、裁判所は、Xは在職中の業務実態等の査定内容から、本件規程の継続雇用基準を満たすとして、Y社の主張する査定内容を否定しました。
継続雇用基準を満たす以上、Xの契約更新に対する期待には合理性があり、Y社が更新を拒否した理由に、基準未達以外のやむを得ない特段の事情もみられないため、更新の拒否は不当であるとして、雇止めを無効と判示しました。
ポイント・解説
定年後の再雇用者にとって、条件を満たせば65歳までの雇用が確保されていると期待することは当然といえます。法律で会社に義務づけられた制度である以上、再雇用者の期待は合理的として、法的にも保護の対象となります。会社も引き続き働きたいという従業員の要望に誠実に対応していくべきでしょう。
それでも、継続雇用が難しいと悩むケースはあります。その場合には、客観的事実を整理し、更新を拒否することにやむを得ないといえるほどの事情があるのか検討してみるとよいでしょう。
客観的に合理的といえる判断でなければ雇止めは無効になるおそれがありますので、判断に迷う場合は弁護士へ相談しましょう。
定年後再雇用後の解雇(雇止め)が有効とされた裁判例
定年後再雇用後の解雇(雇止め)が有効とされた裁判例として、キャノン事件をご紹介します。
事件の概要(令和3年(ワ)33108号・令和5年6月28日・東京地方裁判所・第一審)
精密機器の開発、製造を行うA社で、定年となったBは、A社との間で契約期間1年の再雇用契約を締結しました。契約締結後、Bは様々な体調不良を理由として欠勤、早退、遅刻を繰り返し、A社はBに対し診断書の提出を何度も求めましたが、Bは一度も提出しませんでした。
また、産業医の意見書に対し、Bは誹謗中傷であるとして謝罪を要求し、懲戒処分後も繰り返すなど問題行動をおこしました。
A社はBのこれらの態様が、就業規則における「雇用の更新ができない事由」に該当すると判断し、契約更新は行わず雇止めを行う決定をBに通知しました。これに対しBは、違法な雇止めであるとしてA社を訴えました。
裁判所の判断
裁判所は、Bの勤務状況について、所定労働日の半数以上で労務提供できない状況であったことを認定し、診断書を提出しないことから、労務を提供できる状況に回復していたとはいえないと判断しました。
このことから、A社の就業規則に規定される「勤務状況が著しく不良と認められたとき」および「心身の状況が業務にたえられないと認められたとき」に該当するとしています。
また、Bの問題行動についても、A社の注意指導の経緯を認定したうえで、再雇用後も、直属の上司から注意があったにもかかわらずBが問題行動を繰り返していたとしました。
裁判所はこれらの事情を総合的に考慮し、本件雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないとはいえないとして、雇止めは有効と判断しました。
ポイント・解説
本事案では、欠勤等の勤怠不良の事実について、Bは改ざんが行われていると主張しています。しかし、A社では勤怠システムを導入しており、勤務実績以外にも、入退室記録など客観的な記録を提出し、A社が主張する勤務状況が認定されています。
また、注意指導の経緯についても、つど、注意書を発行し、具体的な上司からの指導についてはメールで記録を残すなどの運用を行っていました。雇止めが相当といえる事情が必要なことはもちろんですが、それを立証できるような運用を現場に導入し、実行することも非常に重要といえます。
不当解雇とならないためには、日々の業務の中で記録を残すことも心がけるとよいでしょう。
定年後再雇用制度や解雇に関するご相談は、弁護士法人ALGにお任せ下さい。
定年後の再雇用について、有期契約の更新制度を導入している企業は非常に多いと考えられます。1年毎の更新であれば、更新の拒否によって雇止めができると認識している会社もあるかもしれません。
しかし、定年後の再雇用であっても、雇止め法理は適用されます。雇止めの判断や要件はハードルが高く、紛争化しやすい事案でもあります。定年後再雇用制度の設計や、その後の解雇についてお悩みがあれば、弁護士へご相談下さい。
弁護士法人ALGでは労務に精通した弁護士が、日々様々な事案に対応しております。豊富な経験をもつ弁護士が、貴社のお悩みに応じて適切なアドバイスを致します。少しでも不安や不明点があれば、まずはお気軽にご連絡ください。
この記事の監修

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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