※会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません
※国際案件の相談に関しましては別途こちらをご覧ください。

TEL.0120-686-041 お問い合わせ

遅刻が多い社員を解雇できる?企業としての適切な対応方法や注意点

    解雇

    #社員

    #遅刻

担当弁護士の写真

監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員

遅刻を頻繁に繰り返す社員への対応に悩む企業は少なくないでしょう。時間を守ることは社会人として働く以上常識であり、遅刻が多いと会社の業務にも支障を与えるため、迅速な対応が必要です。

ただし、たとえ遅刻の常習者であっても容易に解雇が認められるわけでなく、解雇するには守るべき注意点があります。これを知らずに即座に解雇すると、後で社員から不当解雇であると訴えられるリスクがあるため注意が必要です。

このページでは、遅刻が多い社員を解雇するにあたっての注意点や、適切な対応方法について解説していきます。

遅刻が多い社員を解雇することはできる?

社員は雇用契約を結ぶと同時に、会社に対し誠実に働くべき義務を負います。遅刻が多いなど勤務態度が著しく悪い場合は債務不履行にあたるため、解雇理由になり得ます。

ただし、解雇には法律上高いハードルが設けられており、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である場合でないと解雇できないと定められています(労契法16条)。

例えば、社員が正当な理由なく頻繁に遅刻を繰り返し、会社が注意指導や懲戒処分など改善のチャンスを十分に与えたにもかかわらず、なお改善されないような場合でないと、正当に解雇できません。
社員に何ら指導しないまま解雇した場合は、不当解雇と判断される可能性が高いため注意が必要です。

遅刻が原因の解雇が不当解雇にあたるケース

遅刻を原因とする解雇が不当解雇にあたるケースとして、以下が挙げられます。

  • 遅刻の回数、頻度が少ないケース
  • 他の勤怠不良者との処分に差があるケース

それぞれ詳しく見ていきましょう。

遅刻の回数、頻度が少ないケース

1~2回程度の遅刻であれば誰しもあり得ることです。
遅刻の回数や頻度が少ないケースで解雇すると、不当解雇と判断される可能性が高いため注意が必要です。

裁判例でも、ラジオ局のアナウンサーが2週間のうち2回遅刻をして生放送に間に合わなかったため解雇された事案につき、以下を理由に不当解雇にあたると判示しています(最高裁判所第二小法廷 昭和52年1月31日判決)。

  • アナウンサーを起こす担当者も寝坊し、担当者には軽い懲戒がなされたこと
  • 遅刻歴がなく、勤務成績も悪くないこと
  • 謝罪し反省していること
  • 遅刻が5分~10分と短時間であること

このように、遅刻を理由とする解雇の正当性については、遅刻の回数や頻度だけでなく、遅刻をした理由、反省の態度、勤務態度、他の遅刻者への処分との公平性などを考慮し判断されます。

他の勤怠不良者との処分に差があるケース

社員の遅刻回数がかなり多く、常習性があったとしても、他の遅刻常習者には全く処分をしていないケースでは、不当解雇と判断される可能性が高いです。

裁判例でも、5年間に680回以上もの遅刻を繰り返し、タイムカードも偽造していた社員を解雇した事案につき、勤務態度が悪いことは認めながらも、他に同じぐらいの回数遅刻をしている社員は解雇されておらず、そのうち1名は事務局次長へと昇格している点などを挙げて、他の勤怠不良者との処分バランスがとれていないため、不当解雇と判断しています(東京地方裁判所 平成8年8月20日判決)。

このように、正当な解雇にあたるかどうかの判断にあたっては、他の勤怠不良者との処分のバランスも十分検討する必要があります。

遅刻が多い社員の解雇に関する判例

遅刻による解雇の正当性が認められた判例

ここで、遅刻による解雇の正当性が認められた裁判例をご紹介します。

【平成20(ワ)1739号 大阪地方裁判所堺支部 平成22年5月14日判決】

(事案の内容)

ゴミ運搬会社Yの社員であるXが、頻繁に遅刻および欠勤を続けたことを理由に普通解雇されたことから、それを不服としてYに解雇無効を求めて提訴した事案です。

(裁判所の判断)

裁判所は、以下を理由に、本件普通解雇を有効と判断しました。

  • Xは約3年の間に18回の遅刻と2日連続の無断欠勤をしたため、Y社は「心より反省し、二度と遅刻や無断欠勤をしないことを誓約いたします」と書かれた始末書を提出させて、1回目の懲戒処分(訓戒)を行った。
  • その後、Xが再び無断欠勤をしたため、再度始末書を提出させて、2回目の懲戒処分(出勤停止5日間)を実施した。
  • その後、また4日間の遅刻があったため、Y社は3回目の懲戒処分(出勤勤停止7日)を行った。
  • このように繰り返し懲戒処分を行ったのに、3回目の懲戒処分の6ヶ月後に1~2分とはいえ、また遅刻をしており、Xには改善の見込みがないと判断されるため、就業規則の解雇事由にあたる。

(判例のポイント)

裁判所は社員が遅刻・無断欠勤を繰り返し、会社側が3回にわたり懲戒処分を行ったにもかかわらず、まだ遅刻をしていることを理由として、これ以上改善の見込みはないため、普通解雇を有効と判断しています。

本判決のとおり、遅刻による解雇が有効と認められるためには、スタートは訓戒など比較的軽い処分から下し、それでも遅刻が続く場合は、減給や出勤停止など懲戒処分を重くしていき、それでも改善が見込めない場合は最終的に解雇に踏み切るというように、ステップを踏むことが必要です。

何回遅刻すれば解雇できるという基準はなく、裁判所は解雇した回数よりも、会社がどれだけ頑張って遅刻に対し指導・処分をしてきたかを重視する傾向があるため、注意が必要です。

遅刻による解雇が不当解雇と判断された判例

これに対し、遅刻による解雇が不当解雇と判断された裁判例をご紹介します。

【平成13年(ヨ)10090号 大阪地方裁判所 平成14年5月9日判決】

(事案の内容)

建設会社Yの工場長であったXが、遅刻を理由に懲戒解雇されたことから、解雇無効を求めて提訴した事案です。

Xは入社時から社宅の用意の申し出を拒否して、大阪から千葉工場まで片道3時間もかかる通勤を続けて昼ごろに出勤したり、用事もないのに会議といって大阪本社に出社したり、工場には本社に出社するといいながら、本社にも出社せず所在不明になるなどして、遅刻を3年にわたり繰り返し、何度も上司より注意したものの、Xは全く応じず遅刻を続けていたため、これを重く受け止めたY社はXを懲戒解雇しました。

(裁判所の判断)

裁判所はXが3年にわたり常習的に遅刻を繰り返しており、Y社の就業規則では、「正当な理由なくたびたび遅刻したとき」は戒告・減給事由とされており、その程度によっては出勤停止、降格、懲戒解雇などの懲戒事由ともなり得るとされているにもかかわらず、Y社はXの遅刻について問題視することなく、懲戒解雇を行うまでの間に何ら懲戒処分を行っておらず、さらにこの間に取締役にも就任させるなどしている等の事情を踏まえると、今回Xをいきなり懲戒解雇としたことは、不当解雇して無効であると判断しました。

(判例のポイント)

裁判所は、会社が遅刻の常習者である社員を懲戒解雇した事案につき、勤務態度不良についてこれまで懲戒処分を科すなどの警告を怠ってきたことを理由に、不当解雇と判断しています。

本件のように、通常では考えられないほど多くの遅刻を繰り返す社員であっても、普段から懲戒処分など制裁措置を講じずにいきなり解雇すると、ずさんな対応として不当解雇となる可能性が高いため注意が必要です。

これに対する対応策としては、日ごろからこまめに注意指導し、懲戒処分とするべきときにはその都度正しく懲戒処分を実施することが必要となります。

遅刻が多い社員への適切な対応方法

遅刻が多い社員への適切な対応方法として、以下が挙げられます。

  • 遅刻の原因を確認する
  • まずは注意・指導を行う
  • 配置転換や降格処分を検討する
  • 解雇以外の懲戒処分を行う
  • 退職勧奨を行う
  • 最終的には解雇する

以下で順番に見ていきましょう。

遅刻の原因を確認する

遅刻が多い社員がいる場合は、まずなぜ遅刻したのかその原因を確認することが必要です。

寝坊など社員本人の責任による遅刻だけでなく、電車やバスの遅延、子育て・介護、本人の病気、うつ病などのメンタル不調など、やむを得ない事情による遅刻の可能性もあります。

また、職場内でハラスメントやいじめの被害に遭っているなどして、会社に行きづらく、遅刻せざるを得ない状況となっている場合もあります。

病気など遅刻の原因が私生活上の理由であれば、業務を軽減する、業務内容を変更する、残業を禁止にする、病院の受診をすすめる、休職をすすめるなどの必要な対策をとる必要があります。

また、パワハラやいじめなど職場環境が原因で遅刻が続いている場合は、事実関係を調査した上で、パワハラやいじめを阻止し、正常に働けるよう職場環境を整備しなければなりません。

まずは注意・指導を行う

単純な寝坊など、社員本人の責任で遅刻している場合には、出退勤記録を踏まえて、注意・指導を行いましょう。

最初の注意・指導は口頭でも問題ありませんが、それでも遅刻が続く場合は、会社の正式な注意として書面で改善を求めることが必要です。

また、注意指導ごとに、注意した内容や、改善が見られない場合はその具体的な内容についても書面に記録化しておきましょう。これは会社が最終的に解雇せざるを得ない状況となったときに、本人に繰り返し注意・指導したのに改善されなかった事実を証明する証拠として威力を発揮するためです。

また、書面で指導を行う際は、「今後も改善されず遅刻が繰り返される場合は懲戒処分となる場合がある」ことも明記しておくべきでしょう。

懲戒処分を行う際の注意点について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

さらに詳しく懲戒処分を行う際に注意すべき3つのポイントとは?

配置転換や降格処分を検討する

遅刻により仕事に支障が出ている場合は、まずは適材適所という視点から、人事権の行使として配置転換を検討する必要があります。もしかすると今の業務や職場の人間関係に合わないため遅刻を繰り返している可能性もあります。他の部署などに異動することで、遅刻が改善する場合もあります。

また、例えば管理職であるにもかかわらず遅刻が多く、部下の管理にも支障が出るなど、管理職として相応しくない場合は、人事権を行使して、降格を行うという選択肢も挙げられます。

就業規則の定めに応じて、懲戒処分として降格を行う場合もありますが、よほど悪質でない限り、人事権をもとに降格処分で対処した方が、処分の違法性を追及されるリスクを避ける点でも望ましいといえます。

解雇以外の懲戒処分を行う

注意指導を続けても、本人の勤務態度に変化が見られず、遅刻を繰り返す場合は、懲戒処分を行うことになります。

懲戒処分を科すには、就業規則の懲戒事由に当たる必要があるため、まずは懲戒事由として「遅刻」が明記されているかを確認する必要があります。

遅刻のレベルにもよりますが、初めての懲戒処分であれば戒告など軽い懲戒処分から行い、遅刻が改善されなければ、さらに重い減給や降格、出勤停止などを科していくのが望ましいでしょう。

懲戒処分を行う際には処分が正当な理由に基づくものであって、処分の程度が社会通念上相当であることが求められます。1~2回遅刻しただけで懲戒解雇したり、同じ程度遅刻した他の社員より軽い処分を科したりした場合は、不当な処分として無効になる可能性が高いです。

退職勧奨を行う

指導や懲戒処分を行っても、それでも効果なく遅刻が繰り返される場合は、解雇を検討することになりますが、その前に退職勧奨を行うのが望ましいといえます。

退職勧奨とは、会社が社員に対して会社を辞めるよう働きかけることをいいます。辞めるよう頼まれた社員はそれに応じて辞めることもできますが、断ることも可能です。社員が退職を承諾したときには、退職合意書を取り交わして円満な退職となります。あくまで合意による退職を目指すものであるため、解雇と比べてトラブルになりにくいというメリットがあります。

もっとも、退職勧奨のやり方には注意する必要があります。本人が退職を拒否しているのに頻繁に長期間にわたり勧奨する、多人数で勧奨する、差別発言や威圧的な態度をとるなどの言動をとると、退職強要として違法と判断される場合があるため、やり過ぎは禁物です。

退職勧奨が違法となるケースについて知りたい方は、以下のページをご覧ください。

さらに詳しく退職強要とは?退職勧奨が違法となるケースや適法に進めるための注意点

最終的には解雇する

指導や懲戒処分を行っても遅刻が改善しない場合や、退職勧奨でも合意できない場合は、最終的に解雇を検討することになります。
なお、解雇には、普通解雇と懲戒解雇の2つの種類があります。

懲戒解雇は懲戒処分の中でも最も重い処分であり、社員への制裁罰として課されるものです。普通解雇より社員に厳しい処分であると考えられているため、認められるための要件も厳しく、社員とトラブルになる可能性も高いです。

そのため、遅刻であれば、よほど悪質なケースでない限りは、懲戒解雇ではなく普通解雇に留めることが無難です。また、就業規則が整備されておらず、遅刻が懲戒事由として記載されていない場合には、普通解雇とすることになります。

遅刻を理由とした解雇を行う前にまずは弁護士にご相談ください

解雇は社員にとって生活の糧を失う重大事であるため、法律により高いハードルが課せられています。例えば、1~2回遅刻しただけで直ちに解雇すると、不当解雇と判断される可能性が高いため注意が必要です。

十分な証拠がそろったとしても、いきなり解雇せずに、まずは注意指導や懲戒処分を行い、それでも効果が見られない場合は退職勧奨を行うというように、ステップを踏んで対応することが重要です。

遅刻の回数や程度、本人の反省の態度、会社の指導内容など具体的な事情によって、解雇が有効となるかどうかが変わってきます。不当解雇のリスクを回避したいならば、遅刻を理由とした解雇を行う前に、まずは労働法務を得意とする弁護士に相談されることをおすすめします。

この記事の監修

担当弁護士の写真

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員

保有資格
弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

プロフィールを見る

企業の様々な労務問題 弁護士へお任せください

企業側労務に関するご相談 初回1時間 来所・ zoom相談無料

会社・経営者側専門となりますので、労働者側のご相談は受付けておりません

※国際案件の相談に関しましては別途こちらをご覧ください。


受付時間平日 09:00~19:00 / 土日祝 09:00~18:00
  • ※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円)
  • ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。
  • ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。
  • ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。
初回1時間 来所・zoom相談無料
TEL.0120-686-041

※会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません
※国際案件の相談に関しましては別途こちらをご覧ください。

※会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません