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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
障害者雇用は企業の社会的責任であり、社員を40人以上雇用する企業は、障害者を1人以上雇用しなければなりません。
しかし、他方で、やむをえず障害者を解雇しなければならない状況となる場合もあります。
障害のある社員については、障害のない社員と同様の作業をすることが難しい場合には、仕事の際に一定の配慮が求められるため、一般社員の解雇よりもさらに慎重に検討する必要があります。
深く考えずに解雇すると、障害者差別による不当解雇と判断されるリスクがあるため注意が必要です。
この記事では、障害者の解雇が有効となる要件や解雇する際の注意点について解説します。
目次
障害者を理由に解雇できるのか?
労働能力や勤務態度などを適正に評価せず、単に「障害者であること」を理由に解雇することは禁止されています。
解雇とは、労働契約を会社から一方的に終了させることです。
障害の有無にかかわらず、解雇は自由に行えるわけでなく、客観的にみて合理的な理由がなく、世間一般の常識からしても相当でない場合には解雇はできません(労働契約法16条)。
さらに、障害者雇用については、解雇の理由や経緯が障害者差別に当たるものであってはならないというルールが、障害者雇用促進法によって定められています。
障害者を解雇することは可能ですが、ダブルの法律で制限されているため、通常の社員の解雇よりも難易度が高いです。安易に解雇すると、不当解雇として訴えられるリスクがあります。
障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止指針
障害者雇用促進法をもとに定められた「障害者差別禁止指針」において、障害者への以下の差別的取扱いが禁止されています。
①障害者であることを理由に解雇すること
労働能力等を踏まえず、単に障害者であることを理由に解雇することは禁止されています。
②一定の条件に当てはまる社員を解雇する際、障害者に対してのみ不利な条件を与えること
例えば、障害のない社員は勤務成績が最低評価の者だけ解雇の対象とするのに対し、障害者は平均点以下の者を解雇対象とするケースが挙げられます。
③障害者を優先して解雇の対象とすること
例えば、労働能力等を適正に評価せず、単に障害者であることを理由に、他の社員に優先して解雇の対象とするケースが挙げられます。
このような理由や経緯で障害者を解雇することは違法となります。
合理的な理由があれば障害者の解雇が可能
障害のある社員については、一般社員と同じように仕事ができないことや、勤務にあたって特別の配慮が求められることが多いため、一般社員よりも解雇についてより慎重に検討する必要があります。
もっとも、障害者雇用だからといって解雇してはいけないという法的ルールがあるわけではありません。
会社として障害の特性を理解し、合理的な配慮を十分にした上で、それでもなお客観的に合理的な理由があり、世間一般の考え方からして相当と認められるならば、解雇することは可能です。
例えば、能力不足の障害者の解雇が認められるには、障害者が能力を発揮できる環境を整備し、適切な教育・訓練、部署・業務内容の変更など改善策をとったにもかかわらず、なお能力不足が解消されないという状況が求められます。
障害者の解雇が有効となる要件とは?
会社は労働者に対して強い立場にあるため、不当解雇のリスクが存在します。
これを防ぐため解雇は法律で厳しく制限されています。障害の有無にかかわらず、客観的に合理的な理由と一般常識に照らして相当性が認められなければ、解雇は認められません。
なお、解雇は、①普通解雇、②懲戒解雇、③整理解雇と3つのカテゴリーに分けられます。 以下に各解雇が有効となる要件をまとめましたので、ご確認ください。
| 解雇の種類 | 要件 |
|---|---|
| 普通解雇 |
|
| 懲戒解雇 |
|
| 整理解雇 |
|
普通解雇や整理解雇の要件についてさらに詳しく知りたい方は、以下の各ページをご覧ください。
さらに詳しく普通解雇とは?4要件や手続きの流れなどわかりやすく解説! さらに詳しく整理解雇の4要件とは?実施手順や注意点をわかりやすく解説障害者を解雇する際に注意すべき3つのポイント
障害のある社員を解雇する際に特に注意すべきポイントとして、以下の3つが挙げられます。
- 会社が労働者に合理的な配慮をしたか
- 障害の特性を理解したうえで適切な注意や指導を行ったか
- 配置可能な業務があるか検討したか
会社が労働者に合理的な配慮をしたか
会社には、障害者の能力を正しく評価し、雇用の安定を図るよう努めることが義務付けられています(障害者雇用促進法5条)。
そして、障害者と障害者でない社員との待遇差の解消や、障害者が能力を最大限発揮するための合理的な配慮を行う義務も負っています(同法36条の3)。
合理的配慮の例として、障害の特性に応じた施設の整備や業務時間の調整、通院のための休暇の付与、体調に配慮して休憩時間を延長すること等の対応が挙げられます。
また、車いすで仕事ができるようデスクの高さを調整する、口頭での理解が難しい知的障害の社員用に写真やイラスト入りのマニュアルを作成するなども代表例です。
このような合理的な配慮を尽くさずに障害者を解雇すると、不当解雇と判断されるおそれがあります。
障害の特性を理解したうえで適切な注意や指導を行ったか
能力不足などを理由に障害者を解雇する場合、最も重要になるのが、会社側が適切な指導を行い、改善のチャンスを与えてきたかという点です。
これは障害者雇用促進法で定められているため、会社として障害者をサポートする義務があり、これを怠った場合には障害者を解雇することはできません。
障害の特性に合わせた適切な注意・指導を日頃から行ってきたが、それでも改善が見られなかった場合に限り、解雇の正当性を主張することが可能です。
指導が不十分であると不当解雇と判断される可能性があります。
障害のある社員が円滑に働けるようサポートし、それでも問題が解消されない場合に初めて解雇を検討すべきです。
配置可能な業務があるか検討したか
障害のある社員は、障害によってできる仕事が制限されたり、一般の社員よりも作業に時間を要したりすることが多いです。
ただし、このようなことは採用時からすでに分かっていたことであるため、いきなり解雇するのではなく、他の仕事ができないか配置転換を検討する必要があります。
障害の内容や程度を踏まえて、負担が少ない業務への転換や障害による支障が生じにくい部署への異動ができないか検討しましょう。
また、入社後に社員が障害者となった場合は、入社時の雇用契約で約束した業務ができなくなるため、解雇事由になり得ます。
ただし、他の仕事ができる可能性があるため、今すぐ解雇するのではなく、配置転換ができないか十分に検討することが必要です。
配置転換の努力をせずに解雇すると、不当解雇と判断される可能性があるためご注意ください。
障害者を解雇する際の流れ
障害者を解雇する際の基本的な流れは、以下のとおりです。
- 解雇理由の整理
- 解雇通知書の作成
- 解雇予告・解雇予告手当の支払い
- 障害者解雇届の提出
- 各種保険の手続き
以下で具体的に解説していきます。
①解雇理由の整理
障害者を解雇するときは、不当解雇にあたらないかチェックするために、解雇する理由を改めて整理しましょう。
解雇理由を整理するときには、障害の特性に応じた合理的配慮を行ったか、適切な注意や指導を行ったか、配置転換の検討を行ったか、解雇以外にとれる方法がないかといった点を確認する必要があります。
これらの努力が不十分である場合は、不当解雇にあたるおそれがあります。
②解雇通知書の作成
次に、社員に対して解雇することを伝える「解雇通知書」を作成します。
解雇通知書には、解雇の理由や解雇日、解雇理由の根拠となる就業規則、解雇予告手当の支払いなどについて記載します。
口頭による解雇通知も基本的に有効ですが、解雇を言い渡した証拠が残りません。トラブルを避けるためにも、書面で通知するのが望ましいでしょう。
③解雇予告・解雇予告手当の支払い
障害者を解雇する際の解雇予告・解雇予告手当の取り扱いは、次のとおりです。
- 解雇する社員に対して、少なくとも30日前に解雇を予告すべき義務があります(労基法20条1項)。解雇日の30日前までに「あなたを〇月〇日付けで解雇します」と通知しなければなりません。
- 解雇予告が30日前を過ぎてしまった場合は、30日に不足する日数分の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります。
- 例えば、解雇予告せず即日で解雇するときは、30日分の解雇予告手当を支払わなければなりません。
また、15日後に解雇しようとするときは、解雇予告を解雇日の15日前に行い、さらに15日分の解雇予告手当を支払う必要があります。
解雇予告について詳しく知りたい方は、以下の記事をご一読ください。
さらに詳しく解雇予告とは?手続きの流れや注意点をわかりやすく解説④障害者解雇届の提出
障害者に解雇を言い渡し、解雇が正式に決定したら、会社側は速やかに「障害者解雇届」をハローワークに提出しなければなりません。
これは障害のある社員の再就職のために、早期の求人情報の提供や職業指導などのサポートが必要になるからです。
⑤各種保険の手続き
最後に、雇用保険や社会保険など、各種保険の手続きを行います。
雇用保険の手続き
ハローワークに「資格喪失届」と「離職証明書」を提出し、「離職票」を社員に送付する。
社会保険の喪失手続き
年金事務所に「資格喪失届」を提出し、「資格喪失証明書」を社員に送付する。
住民税の変更手続き
社員の居住地の市町村に「給与所得者異動届出書」を提出する。
障害者を不当解雇した場合のペナルティ
解雇は一方的な雇用契約の解約であるため、社員としては不満に感じ、トラブルにつながりやすいです。
特に障害者の解雇は、障害者差別との非難を浴びる可能性が高いためご注意ください。
障害者を不当解雇すると、次のペナルティを受けるおそれがあります。
- 訴訟や労働審判を起こされる可能性がある
- 労働基準監督署や労働局から指導・勧告が入る
不当解雇に当たるケースやペナルティについて知りたい方は、以下の記事をご一読ください。
さらに詳しく不当解雇と判断されたらどうなる?正当解雇との違いや不当となる7つのケース訴訟や労働審判を起こされる可能性がある
障害者を不当解雇してしまうと、労働審判や民事訴訟を起こされるリスクがあります。
労働審判とは、会社と社員間で生じた労働関係のトラブルについて、労働審判委員会が簡易迅速に解決するための手続きです。一方、民事訴訟とは、裁判官が民事上のトラブル全般を解決する手続きをいいます。
労働審判や民事訴訟で不当解雇だと判断されると、解雇は無効となり、雇用契約は存続していたことになります。
そのため、社員を職場復職させることや、解雇したものとして扱っていた期間の給与(バックペイ)の支払いが命じられる可能性があります。
支払い額が1000万円以上を超えることも少なくなく、金銭的に大きな負担を強いられるリスクがあります。
労働審判について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
さらに詳しく労働審判とは?申し立てられるケースや企業側の対応について労働基準監督署や労働局から指導・勧告が入る
不当解雇を理由に社員が労働基準監督署の窓口に相談し、労働関連法違反の疑いがあると判断された場合は、労働基準監督署や労働局から立入り調査が入ることがあります。
調査は原則として予告なしで突然行われ、当事者への取り調べや、雇用条件・職場環境の確認、帳簿のチェックなどがなされます。
会社側はそれを拒むことができません。
調査を妨害したり、嘘の説明をしたりした場合は、30万円以下の罰金が科される可能性があります。
また、立入り調査の結果、法律違反などが認められた場合には労基署による是正勧告や指導がなされます。
指導に従わない場合や悪質な行為と判断された場合は、会社名公表や送検の対象となるおそれがあります。
障害者の解雇に関する裁判例
障害者の解雇に関する裁判例を2つご紹介します。
障害者の解雇を有効とした事例
【平成23(ワ)41952号 東京地方裁判所 平成26年3月14日判決】
(事案の内容)
直腸等に障害があり、障害者雇用枠でコンピューター会社の営業職として中途採用された社員が、能力不足や勤務態度不良などを理由に解雇された事案です。
社員は無断欠勤や遅刻、日報の提出遅れ、居眠りや私用のネット閲覧、仕事上のミスといった問題行為を繰り返し行い、会社として何度も指導を行ったが改善が見られなかったため、普通解雇されました。これを不服とする社員は解雇無効を主張し会社側を提訴しました。(裁判所の判断)
裁判所は、社員に著しい能力不足があったことを認めた上で、会社側が再三の注意・指導を行い、本人の希望に応じて他の支店に異動させるなど、改善の機会を十分に与えたにもかかわらず、異動後も遅刻しミスを繰り返すなど問題が改善していないことを指摘し、就業規則上の解雇事由「著しい能力不足や職務怠慢」に当たるとして、本件解雇を有効と判示しました。
能力不足や勤務態度不良などを理由とする解雇の場合には、本件のように適切に指導し、改善の機会を提供することが求められます。
解雇の有効性の立証責任は会社側にあるため、「解雇を回避するために最大限努力したが、それでも改善しなかったので、解雇に踏み切った」ことを証明する証拠を集めておくことが重要です。
障害者の解雇を無効とした事例
【令元(ワ)7561号 大阪地方裁判所 令和4年4月12日判決】
(事案の内容)
てんかんの持病や足に交通事故の後遺症を抱えるXは、Y社で鉄道車両の断熱材の貼付の仕事を行っていました。
XはY社の採用面接時に、てんかんで障害等級1級の認定を受けていること、骨盤にボルトが入っているため足を動かしづらいこと、重い荷物は持てないこと等を説明した上で入社しました。その後、Xは自分の障害を理由に周囲の社員を委縮させるような発言を行い、さらに作業スピードも遅く、成果物の仕上がりが悪いといった問題もあったため、協調性の欠如や能力不足、勤務意欲の低さを理由にY社はXを懲戒解雇しました。これを不服とするXが解雇無効を主張して訴えた事案です。
(裁判所の判断)
裁判所は、Xが同僚を不快にさせる発言をした事実は認められるが、Xはてんかんや足の障害を持つ中で仕事のスピードを要求されるなど、自分の心身の状況を同僚から理解してもらえない不満から生じた発言であり、嫌がらせをするなど不当な目的によってなされたものではないと判断されるため、協調性が欠如しているとまではいえないと判示しました。また、確かに指導してもXの作業スピードが上がらないといった問題点は認められるが、Xが試用期間中に無遅刻・無欠勤であったことや、断熱作業に関するメモを作成していたなど努力を重ねていた事情を踏まえると、Xの勤労意欲が低いとまではいえないとして、本件解雇を無効と結論付けました。
障害者の解雇でお悩みの際は、労働問題に強い弁護士にご相談ください
障害者の解雇は、一般社員の解雇よりも難易度が高いです。
障害者の解雇が認められるには、障害の特性に応じた配慮を尽くした上で、指導や訓練、配置転換を行うなど、適切な労務管理を行うことが求められます。これらの努力をせずに解雇すると、不当解雇と判断されるおそれがあります。
障害者への配慮の方法は、障害の症状や仕事内容等によって変わるため、専門知識なく判断することは困難です。
弁護士に相談し、裁判例や法的知識を踏まえて、正しい配慮の仕方や解雇の有効性についてアドバイスを受けることをお勧めします。
弁護人法人ALGには労働問題に強い弁護士が多く在籍しており、障害者の解雇についての相談や、解雇後のトラブル対応などを受けつけています。障害者の解雇でお悩みの際は、ぜひ私たちにご相談ください。この記事の監修
弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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