処分
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#懲戒委員会
監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
懲戒委員会は、会社や大学など、組織において所属する従業員等に対する懲戒処分を審議する目的で設置される委員会です。
法的に設置が義務づけられているわけではありませんが、委員会で審議を経ることによって、経営者の独断による処分決定を防ぐことができます。
組織によっては、賞罰委員会や懲罰委員会と呼ばれることもありますが、いずれも懲戒処分を決定するためにその妥当性を審議するための機関です。
懲戒委員会があることによって、客観性や公平性が担保できるといったメリットがありますが、懲戒委員会を設置するには注意点もあります。本稿では懲戒委員会の設置の進め方や議事録の注意点などを網羅的に解説していきます。
目次
懲戒委員会とは?
懲戒委員会では、従業員の懲戒処分を決定する前に、事実関係の調査や、当事者への意見聴取等を行い、適正な処分であるのかを審議します。
懲戒処分の種類(戒告、減給、出勤停止、懲戒解雇など)を決定する前段階として、処分の妥当性を多角的に検討することで、客観性や公平性を確保しています。
懲戒委員会を設置する目的は、不当な処分を防止することにあるといえるでしょう。社内の規律維持にも有効な懲戒委員会ですが、その設置は任意となっています。
法律で義務づけられた組織ではないため、懲戒委員会の有無は組織によって異なりますが、設置するメリットは決して少なくはないでしょう。
委員会を設置する際は、社内規則に基づいた手続きの上で、複数の委員で構成されることが一般的です。
懲戒委員会の必要性
懲戒処分は従業員の社会的な立場や生活に大きな影響を与えるため、慎重な判断・手続きが求められます。
この点、懲戒委員会の審議を経ることで、経営陣の一存による処分決定を防止するだけでなく、客観的にも公平な処分を行うことができます。
透明性の高いプロセスを経ることで、従業員の納得感も得られやすくなり、不当処分によるトラブルを防止することにも繋がるでしょう。
しかし、懲戒委員会の設置は法律で義務づけられていないため、委員会がなくても処分の妥当性が認められないわけではありません。
ただし、就業規則等で懲戒委員会の規定があるにも関わらず、委員会による審議を経ない懲戒処分を行った場合には重大な問題になり得ます。
本来、ルールとされている手続きを行わず処分した場合、訴訟などでは手続きの不備によって処分無効と判断される可能性もあります。
懲戒処分を行う前には必ず、就業規則の内容を確認するようにしましょう。
懲戒委員会を開催するメリット
懲戒委員会を開催するメリットには、処分の妥当性の向上、手続きの透明性確保、トラブル防止などが挙げられます。
複数の委員で審議することにより、事実誤認や偏った判断を防げるため、客観的にも適切な処分に繋がりやすくなります。
懲戒処分の判断は難しく、事業主にとってもリスクがあるため、慎重にならざるをえませんが、懲戒委員会を設置することで、これらの負担軽減になるでしょう。
委員会による調査や弁明の機会を付与することは、従業員の不信感を軽減し、処分に対して一定程度の納得感を与えることもできます。
懲戒解雇などの重大な処分に限らず、けん責などの比較的軽い処分であっても、厳密な手続きを経ることによって、従業員に十分な反省を促せることも期待できます。
懲戒委員会の開催は一定程度の手間は発生しますが、それによって得られるメリットは非常に大きいといえます。
懲戒委員会を設置する際の注意点
懲戒委員会を設置するには、就業規則への明記や委員の選任、独立性の確保などが重要となります。委員会を設置する際には、以下のポイントに注意して実施しましょう。
- 懲戒委員会規定の確認
- 懲戒委員会のメンバー
各ポイントについて以降で解説していきます。
懲戒委員会規定の確認
懲戒委員会を設置する前に、就業規則の懲戒に関する規定を十分に確認しておくことが必要です。
懲戒事由や処分の種類、手続きなどが明確に定められているかを確認し、必要があれば改定も検討しましょう。
懲戒委員会の設置根拠や構成、権限、運営方法なども明記しなければなりません。
規定が整備できたら、従業員へ周知しておくことも重要な手続きの1つですので必ず実施しましょう。
実際に懲戒処分事案が発生した際には、規定内容に沿って手続きを進めることが大切です。
規定に反した手続きによって処分した場合には、有効性が否定されるおそれもありますので注意しましょう。
懲戒委員会規定として定められることが多い項目は以下の通りです。
- 委員会の目的と権限(委員会の権限範囲や審議対象となる懲戒事由の範囲)
- 委員会の構成(人数、選任方法、資格要件、任期など)
- 委員会の運営(開催手続き、議決方法など)
- 懲戒の手続き(弁明の機会付与の手続き、不服申立の手続きなど)
- 委員会の議事録作成
懲戒委員会のメンバー
懲戒委員会のメンバーは、公正な判断力と倫理観を持ち、秘密保持を厳守できる人物を選任することが大切です。
通常、人事担当者や管理職、従業員代表などが選任されることが多いでしょう。
弁護士や社会保険労務士などの外部専門家を委員に加えることも判断の適切性を確保する上で非常に有効といえます。
経営陣から独立して審議できる体制を想定して選任しましょう。もし、利害関係者が含まれるようであれば、公平性を確保するためにも委員から除外することも必要です。
委員の人数は、会社の規模などによって異なりますが、規定に定められたメンバー構成で行うようにしましょう。
もし、規定と異なるメンバー構成で委員会を開催したとなれば、その場での処分決定に不信感が生じ得ます。
対象従業員から処分無効を主張される1つの理由に繋がるおそれもありますので、メンバー構成は規定で定めたとおりに行うことが大切です。
懲戒委員会の進め方
懲戒委員会では、以下の流れで調査、審議、決定を行うことが一般的です。
- 問題行為の事実関係を調査(情報収集・証拠保全など)
- 懲戒事由の確認(客観的事実と懲戒事由の整合性確認)
- 対象従業員への通知と弁明の機会の付与(弁明の聴取、弁明内容の記録)
- 懲戒委員会の開催(審議・評決)
- 懲戒処分の決定と通知
- 議事録の作成と保管
処分の判断は、客観的な証拠などを踏まえて行いますが、問題行為を行った従業員の言い分も聞いた上で決定しなければ、不平等ともいえます。
そのため、裁判においても処分決定にあたっては、従業員へ弁明の機会を付与することが求められるケースがあります。
懲戒委員会の弁明とは
弁明の機会とは、懲戒処分の決定に先立ち、本人が問題行為に関する意見を述べる場を確保するための手続きです。
これは、行為の動機や理由などを本人が説明し、現在の反省状況などの言い分を伝える最後の機会となります。
従業員にとっては、誤解を解消したり、情状酌量を求めるなど、重大な権利といえるでしょう。
弁明の機会を与えずに処分した場合、手続き上の瑕疵となり、処分の有効性に影響を及ぼす可能性もあります。
特別な事情がない限りは、弁明の機会を与えるべきといえるでしょう。
特に、手続きの一環として就業規則に定めているのであれば、実施しなければ無用なトラブルを生むことにもなりかねません。
もし、就業規則上に、弁明の機会を口頭で行うことを定めているのであれば、従業員から弁明書が提出されていたとしても、改めて口頭での弁明の機会を与えるようにしましょう。
懲戒委員会の議事録の書き方
議事録は、懲戒委員会での審議内容を記録する重要な文書です。記載事項に定めはありませんが、通常は以下のような内容を記載します。
- 開催日時、場所
- 出席者氏名
- 審議事項(事実関係、証拠内容など)
- 弁明の内容や出席者の発言内容
- 議決結果
- 結論に至った理由の要旨(認定した懲戒対象事実など)
- その他特記事項
正確性、客観性、詳細性を意識し、結論に至った理由が分かるようにして記録します。後日、検証できるような構成を意識して作成するとよいでしょう。作成した議事録は適切に保存し、必要に応じて確認できる状態にしておきます。
懲戒委員会の運営や手続きについては弁護士にご相談ください
組織が成長するにつれ、懲戒処分など重大な事案を経営者の判断だけで決定していくことには不具合が生じやすくなります。
特に、懲戒処分は従業員とのトラブルを招きやすい事案といえます。 経営者の独断ではなく、懲戒委員会による十分な審議の上で決定された処分であれば、従業員の納得感にも繋がりやすいでしょう。
また、客観的にも処分の妥当性が証明しやすいクリーンな組織体制といえます。しかし、懲戒委員会の設置には適切な手続きが必要です。規律のある委員会でなければ、公平性を保つことは難しいでしょう。
懲戒委員会の運営や手続きについて不明点があれば弁護士へ一度ご相談下さい。
弁護士法人ALGは、多数の企業の労務顧問を務め、様々な懲戒事案や懲戒委員会の設置に携わってきた実績があります。
経験豊富な弁護士が委員会の設立から運営、手続き対応などをワンストップでサポート致します。
些細な不安であっても、まずはお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修
弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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