労働組合
#団体交渉
監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
労働組合から団体交渉の申し入れがあった場合、正当な理由もなく拒否したり、無視をしてはいけません。団体交渉は憲法や労働組合法によって保護された労働組合の権利です。
団体交渉の対応を誤って、労働組合の団体交渉権を侵害してしまうと、「不当労働行為に該当するとされてしまう」、「損害賠償義務が生じる」、「企業イメージの悪化」など、会社として大きなダメージを受けるおそれがあります。
そこで、本記事では、会社側が不利な立場に置かれることのないよう、団体交渉で会社側がやってはいけない対応について詳しく解説していきますので、ぜひご一読ください。
目次
団体交渉の対応を誤った場合の企業への影響
労働組合側との団体交渉には、労働法の知識や適切な交渉ノウハウを持って臨む必要があります。
万が一、会社側が団体交渉の対応を誤ると、以下のリスクが生じる可能性があります。
●不当労働行為として法的措置をとられる
労働組合法で禁止されている不当労働行為として、以下が挙げられます。
- 団体交渉拒否(交渉の席に着かない窓口拒否、席に着いても誠実に交渉しない不誠実交渉)
- 使用者の支配介入、経費援助
- 組合結成・加入、組合活動を理由とする不利益取扱い
- 労働委員会への申立等を理由とする不利益取扱い
- 黄犬契約など
不当労働行為がなされると、労働者側から労働委員会への救済申立てや、労働審判・民事訴訟の提起等が行われるおそれがあります。
●団体交渉の主導権を握られる
会社側が対応を誤れば、労働組合側に団体交渉のペースを握られ、交渉上不利な状況となる可能性があります。
●組合活動が行われる
会社側が誠実な対応をしないと、労働組合側が会社付近でビラ配りや街宣活動、ストライキなど過激な手段で圧力をかけるおそれがあり、企業イメージの悪化や業務への支障は免れません。
●労働組合から損害賠償を請求される
会社側の対応が不当労働行為に該当し、それによって損害が生じたとして、労働組合側から損害賠償請求される可能性もあります。
使用者には「誠実交渉義務」がある
使用者には、団体交渉に誠意をもって対応するべき義務、つまり「誠実交渉義務」があります(労組法7条2号)。
誠実交渉義務に違反すると不当労働行為に該当するため、労働組合から団体交渉を求められた場合は、会社側は単に形式的に交渉に応じれば良いというわけではなく、誠実に交渉しなければなりません。
具体的には、労働組合の要求に対し適切な回答を行い、会社としての主張・反論も行い、これらの根拠となる証拠資料等を示すなどして、会社と組合で合意できるよう努力しなければなりません。
もっとも、誠実交渉義務は、あくまで誠実に応じる義務であり、会社の意思に反して、労働組合の要求を否応なく受け入れたり、譲歩したりする義務まではありません。
団体交渉でやってはいけない10の対応
団体交渉では、憲法や労働組合法により厚く保障された労働組合の権利を侵害しないよう、慎重に対応する必要があります。 団体交渉で会社側がやってはいけない10の対応として、以下が挙げられます。
- 正当な理由なく団体交渉を拒否する
- 上部団体役員の出席を拒否する
- 労働組合員を特定しようとする
- 組合員に組合を辞めるよう説得する
- 労働組合が指定する日時に応じる
- 労働組合が指定する場所に応じる
- 労働組合が用意した書類に安易にサインする
- 労働組合からの不当な要求に応じる
- 親会社が団体交渉に参加してしまう
- 訴訟中であることを理由に団体交渉を拒否する
①正当な理由なく団体交渉を拒否する
団体交渉は、労働組合から会社側に「団体交渉申入書」が届くことで開始されるのが通例です。会社からすると、労働組合との話し合いには気が進まないかもしれませんが、団体交渉を正当な理由なく拒否することは法律で禁止されています(労組法7条2号)。
正当な理由のない団体交渉拒否は、不当労働行為として違法となるため、原則として会社側は積極的に団体交渉を行わなければなりません。 また、団体交渉拒否は、団体交渉そのものを拒むだけでなく、誠実に交渉しない場合も含みます。団交交渉拒否にあたる可能性があるケースとして、以下が挙げられます。
- 団体交渉申入書の受取りを拒否する
- 組合員名簿の未提出を理由として団体交渉を拒否する
- 書面や電話での回答だけで、面談での交渉を行わない
- 主張や反論の理由を具体的に説明したり、裏付けとなる証拠資料を提示したりせず、組合の理解を得る努力を怠る
②上部団体役員の出席を拒否する
団体交渉では、会社とは関係のない労働組合の上部団体の役員が出席するケースもあります。団体交渉で協議するテーマは社員の労働条件などであるため、会社とは無関係な部外者となぜ話し合う必要があるのか疑問を抱くかもしれません。
しかし、労働組合法では労働組合が誰に対して交渉を委任するかは基本的に自由であるため、上部団体の役員の参加を拒否することはできません。出席者の中に上部団体の役員が含まれていることを理由に団体交渉を拒否すると、不当労働行為に当たる可能性があるため注意が必要です。
また、拒否すれば、労働組合は猛烈に抗議し、謝罪を求め、今後の交渉の主導権を握られるリスクがあります。会社側に不利な状況とならないよう、同席を拒否することなく、団体交渉を行いましょう。
③労働組合員を特定しようとする
会社によっては、どの社員が労働組合に加入しているのか判明するまでは団体交渉に応じないというケースがありますが、労働組合には組合員が誰かを明らかにする義務はありません。
組合員を特定しようとする行為が直ちに支配介入とはなりませんが、特定された組合員に嫌がらせをしたり、脱退を勧めたりするなどの意図が推認され、不当労働行為と訴えられるおそれがあります。
そのため、組合員名簿を提出させたり、組合員が誰かを明らかにするよう求めたりする行為は行わないよう注意しましょう。 はじめは組合員が誰であるか分からない場合でも、時間が経過すると判明する場合が多いため、あまりナイーブになる必要はないと思われます。
④組合員に組合を辞めるよう説得する
労働組合から脱退すれば要求に応じるなど、会社が組合員に対して、組合を辞めるよう説得するケースがあるかもしれません。 ただし、このような行為は労働組合の運営に干渉するものであり、支配介入による不当労働行為として禁止されています。
組合員は十分に検討した上で組合に加入しているわけですから、会社が組合を脱退するよう求めたからといって、素直に受け入れて脱退することはないでしょう。
むしろ、このような言動をとると、労働組合に会社を攻撃する材料を与えることになりかねません。また、万が一面談内容を録音されていたら、言い逃れができなくなるため注意が必要です。
⑤労働組合が指定する日時に応じる
労働組合側から団体交渉の日時を一方的に指定される場合がありますが、会社側は必ずしも指定された日時での団体交渉に応じる必要はありません。
指定された日時では難しい場合は、別の日程を提示して調整することが必要です。
ただし、何週間も先の日程にすると、団体交渉拒否だと訴えられるリスクがあるため、あまり先延ばしにならぬように注意してください。 また、労働組合が労働者の就業時間中の団体交渉開催を求めてくることがありますが、就業時間内に団体交渉を開催するべき義務はありませんので、拒絶すべきです。
これを認めると、仕事をストップして団体交渉を行うことになり、また、団体交渉中の給与を支払うか否かという問題も生じるため、団体交渉の日時は就業時間外に設けるべきでしょう。
⑥労働組合が指定する場所に応じる
労働組合は、会社の会議室や労働組合事務所での団体交渉を求めるケースがありますが、団体交渉を行う場所についても、労働組合側の要求に応じる必要はありません。
会社の会議室を使うと、団体交渉の開催中であることが社員にばれて、モチベーションが低下するおそれがありますし、時間制限なく使えるため交渉が無用に長引くリスクがあります。また、団体交渉に出席する組合員の素性が分からない状態で、労働組合事務所に行くことはリスクを伴います。
そのため、公共の貸し会議室などを利用し、会社側の費用負担において団体交渉の場所を用意することをおすすめします。会社側がすべての費用をカバーすれば、場所や日程、時間について主導権を取ることができるためです。
⑦労働組合が用意した書類に安易にサインする
労働組合から団体交渉で作成した議事録と称して、書類へのサインを求められることがあります。
しかし、労働組合が出してきた文書に安易に署名・押印してはなりません。組合が作成した書類は、組合側にとって有利な内容で作成されていることが多いです。
また、労働組合と会社間で締結した文書は、労働協約として就業規則より優先する効力を生じます。
書面の形式は問われないため、「議事録(覚書)」といったタイトルでも、労働協約となり得ます。
会社が労働協約に署名押印すると、そこに記載された事項を会社として守る必要があり、団体交渉のきっかけとなった労働者以外の社員にも影響を与えるため、内容を慎重に確認することが必要です。
団体交渉の席上で回答するのは困難ですので、どのような文書であっても、必ず一度社内に持ち帰り、合意できる内容があるかどうか、弁護士などの専門家と相談しながら検討するべきでしょう。
⑧労働組合からの不当な要求に応じる
会社は労働組合と誠実に交渉する義務を負っていますが、労働組合側の要望にすべて応じる義務まではなく、組合の言うことをすべて受け入れないと不当労働行為になるというわけでもありません。 労働組合側が不当な要求を突き付けてきた場合には、拒否することができます。
もっとも、会社側が組合側の要求を拒否する際には、拒否する理由を具体的に説明し、それを根拠付ける資料を示す必要はあります。
また、会社側で誠実交渉義務を尽くしたものの、これ以上交渉の余地がないという場合には、交渉決裂として団体交渉打ち切りの検討をすることも可能です。
⑨親会社が団体交渉に参加してしまう
関係会社を多数有している比較的規模の大きい会社の場合、関係会社の社員が合同労組に駆け込むこともあります。このような場合、合同労組は社員が働いている関係会社だけではなく、親会社に対しても団体交渉を求めることがありますが、基本的には、親会社が団体交渉に応じる義務まではありません。
一度応じてしまうと、その後も受け入れざるを得なくなってしまいます。
また、法的には、親会社が子会社の社員の労働条件を定めているなど、親会社と子会社が密接な関係にある場合であれば、団体交渉に応じる義務が生じるケースもありますが、はじめから親会社が応じる必要はありません。
まずは子会社だけが団体交渉に応じれば問題ありません。
⑩訴訟中であることを理由に団体交渉を拒否する
裁判や労働審判等の手続きで労使が争っているときに、並行して団体交渉の申入れを受けることがあります。例えば、社員側から不当解雇として裁判を起こされている最中に、労働組合からその社員の解雇の撤回をテーマとする団体交渉の申込みを受けたようなケースが挙げられます。
すでに裁判等で争っているなら、団体交渉に応じる必要はないと思われるかもしれませんが、裁判が現在進行中の場合でも、団体交渉を拒否することはできません。 もっとも、団体交渉においても、裁判等における会社側の主張を変える必要はないため、会社としての主張や方針を一貫させるようにしましょう。
団体交渉での対応が不当労働行為にあたるとされた裁判例
ここで、団体交渉での対応が不当労働行為にあたると判断された裁判例をご紹介します。
事件の概要(平成19年(行ウ)第698号 東京地方裁判所 平成20年7月3日判決 神谷商事事件)
労働組合Xが、賃上げ要求に関する団体交渉において、資料等を提示しての説明や取締役の出席を求めたのに対して、会社Y(ボウリング場などを経営)がそれらを拒んだことが不誠実な団体交渉であるとして労働委員会に救済申立てをしたところ、労働委員会が、財務資料の提示や常勤取締役の出席等を命じる救済命令を下しました。これに対し、会社Yがその取消しを求めて提訴した事案です。
裁判所の判断
裁判所は、以下の理由から、会社Yは誠実に団体交渉に臨んだものとは認め難く、団体交渉を正当な理由なく拒否したと認められるから、不当労働行為に当たると判断しました。
- 会社Xは昇給や一時金などを交渉事項とする、労働組合Xからの団体交渉申し入れに対して、団体交渉の開催には応じているが、団体交渉の場ではあらかじめ用意した回答書を読み上げるだけで、形式的な回答に終始していた。
- 労働組合Xの要求に対する回答の根拠を具体的に説明したり、必要に応じて、決算書といった財務資料等を提示したりすることを行わなかった。
- 団体交渉を行った時間は、6回の団交開催の内、1回が約30分間、他は約10分間行ったに過ぎない。
- 組合Xが、会社Yに対して、常勤取締役の団体交渉への出席を何度も求めていたにもかかわらず、団体交渉には、実質的な交渉権限を持たない部長と課長だけが出席し、常勤取締役は出席しなかった。
ポイント・解説
裁判所は、賃上げ要求の団体交渉において、会社側が決算書などの資料の開示をせず回答の根拠を示さなかったことや、団交において決裁権限のある取締役を出席させなかった点などを踏まえて、不誠実団体交渉に当たると判断したものと考えられます。
団体交渉拒否について注意しなければならない点は、交渉自体を拒否することだけでなく、誠実に交渉しないことも団体拒否とみなされる点です。
誠実交渉義務を果たすためには、労働組合の要求や主張に応じない具体的な根拠を示す、説明に必要となる資料を開示する、具体的な解決策を提案するといった措置を講じ、組合との合意達成を模索する努力を行う必要があるでしょう。
団体交渉で不利な立場に置かれないよう、労働問題に精通した弁護士がサポートいたします。
労働組合は数多くの団体交渉をこなす交渉のプロであり、労働法の知識や交渉テクニックを熟知しています。そのため、会社側にもそれに対抗できるだけの一定の法的知識や交渉ノウハウが必要です。
団体交渉で会社側が不利にならないためにも、団体交渉に精通する弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士法人ALGは、会社側の視点に立った団体交渉対応を得意としております。
法的・経験的知識を踏まえて、団体交渉の進め方への助言や団体交渉対象事項の選別・準備、団体交渉への同席・会社側へのフォロー、労働協約作成など、全面的にサポートすることが可能です。
団体交渉の対応にお困りの場合は、ぜひ私たちまでご相談ください。
この記事の監修
弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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