ハラスメント
#パワハラ
#就業規則
監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
職場におけるハラスメント対策は、企業にとって避けて通れない重要課題です。
パワーハラスメント防止措置が大企業では2020年、中小企業では2022年から義務化され、すべての事業主に対して、就業規則の整備などの対応が求められています。
就業規則にハラスメント防止の方針や具体的な対応を明記することは、従業員に「ハラスメントを許さない」という企業姿勢を示すだけでなく、トラブル発生時の迅速かつ適正な対応を可能にします。
この記事では、就業規則におけるハラスメントの規定例や注意点について解説します。
目次
就業規則にはハラスメント規定を設ける義務がある
企業のハラスメント防止措置義務は、近年ますます重要視され、育児介護休業法や男女雇用機会均等法など複数の法律で定められています。
特に改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の施行により、企業には具体的な対策を講じることが求められるようになりました。
その中核となるのが、就業規則へのハラスメント規定の明記です。
就業規則には、「ハラスメントを許さない」という企業の姿勢を示すために、基本方針や対象となるハラスメントの種類、禁止行為の具体例、相談窓口の設置方法、懲戒処分の基準などを明記することが重要です。
これらを明文化し、従業員に周知することで、ハラスメントの未然防止につながるだけでなく、問題が発生した際に迅速かつ適切な対応が可能になります。
ハラスメントの防止策について詳しく知りたい方は、こちらのリンクをご覧ください。
さらに詳しくハラスメントに関する8つの防止策について解説職場のハラスメントの種類
ハラスメントとは、職場での上司や同僚などの言動により、本人の意図に関係なく相手に不快感や不利益を与える行為を指します。
ハラスメントにはさまざまな種類がありますが、代表的なものと特徴は以下のとおりです。
- セクシャルハラスメント(セクハラ)
性的な言動や行為によって、相手に不快感や不利益を与え、職場環境を悪化させる行為- パワーハラスメント(パワハラ)
職場での優位な立場を利用し、立場の弱い者に対して行う嫌がらせなどの行為- モラルハラスメント(モラハラ)
言葉や態度で相手を精神的に追い込み、支配しようとする行為- マタニティハラスメント(マタハラ)
妊娠・出産・育児に関連して、女性従業員に不利益な取り扱いや嫌がらせを行う行為- カスタマーハラスメント(カスハラ)
顧客が従業員に対して、理不尽な要求や暴言などを行い、精神的・身体的な負担を与える行為
ハラスメントは嫌がらせやいじめが多いものの、業務指導のつもりがハラスメントと受け取られるケースや、取引先・顧客など社外からのカスタマーハラスメントも発生します。
放置すれば、従業員のメンタル不調や離職、職場環境の悪化、さらには企業イメージの低下といった深刻なリスクを招きます。
こうしたリスクを防ぐためには、就業規則にハラスメントの種類や具体的な禁止行為を明記し、従業員に周知徹底することが不可欠です。
カスタマーハラスメントへの対処法について知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
さらに詳しくカスタマーハラスメントとは?パワハラ防止法に対応した就業規則の記載例
厚生労働省は、企業の法令遵守をサポートするために「モデル就業規則」を公表しています。
モデル就業規則は、就業規則の参考例として作成されており、うまく活用することで就業規則作成の負担を軽減することができます。
モデル就業規則のハラスメント規程では、まず就業規則の本体に委任規定を設けて、そのうえで別規程に以下の項目を定める構成となっています。
- 目的
- ハラスメントの定義
- 禁止行為
- 懲戒
- 相談及び苦情への対応
- 再発防止の義務
ただし、モデル就業規則は業種や事業内容、従業員数などを考慮していないため、そのまま自社の就業規則として採用するのは適切ではありません。
自社の実情に合わせて、必要な追加や削除を行う必要がありますのでご注意ください。
以降では、モデル就業規則のハラスメント規定を参考に、各項目の記載例や注意点について詳しく解説していきます。
厚生労働省のモデル就業規則について確認したい方は、こちらのリンクをご覧ください。
さらに詳しくハラスメント防止に関する就業規則規定例【厚生労働省】目的
【記載例】
第1条 本規定は、就業規則第●条に基づき、職場におけるパワーハラスメント、セクシュアルハラスメント及び妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(以下「職場におけるハラスメント」という)を防止するために従業員が遵守するべき事項を定める。
なお、この規定にいう従業員とは、正社員だけではなく、パートタイム労働者、契約社員及び派遣労働者も含まれるものとする。
別規程であっても、最初の条文は規程の目的から定めることが一般的です。
モデル就業規則では、法律に定められた上記3種類に限定しています。
必要に応じて、あらゆるハラスメントを防止する等と定めてもよいでしょう。
また、この規程の適用範囲となる従業員も明記しましょう。
ハラスメントの定義
【記載例】
第2条 パワーハラスメントとは、(略)(2)セクシュアルハラスメントとは、(略)
(3)前項の他の従業員とは直接的に性的な言動の相手方となった被害者に限らず、(略)
(4)妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントとは、(略)(5)第1項、第2項及び第4項の職場とは、勤務部店のみならず、従業員が業務を遂行するすべての場所をいい、また、就業時間内に限らず、実質的に職場の延長とみなされる就業時間外の時間を含むものとする。
各ハラスメントを法律上の定義に沿って明確化し、就業規則に規定します。
モデル就業規則では、パワハラ・セクハラ・マタハラについて定義し、判断を誤りやすいポイントも明記されています。昨今の社会情勢を踏まえると、モラハラやカスハラ、SOGIハラ(性的指向・性自認に関するハラスメント)などに関する規定も検討すると良いでしょう。
職場におけるハラスメントは、職場の勤務先の事業所内に限定せず、出張先や業務に関連する懇親会など、実質的に職場とみなされる場所・時間も含むことを明記することが必要です。
これにより、勤務時間外やオンライン会議などで発生するハラスメントも防止できます。
禁止行為
【記載例】
第3条 すべての従業員は、他の従業員を業務遂行上の対等なパートナーとして認め、職場における健全な秩序並びに協力関係を保持する義務を負うとともに、その言動に注意を払い、職場内において次の第2項から第5項に掲げる行為をしてはならない。
また、自社の従業員以外の者に対しても、これに類する行為を行ってはならない。
(2)パワーハラスメント(第2条第1項の要件を満たした以下のような行為)
- 殴打、足蹴りするなどの身体的攻撃
- (以下省略)
ハラスメント行為を社内だけでなく、取引先など社外の人間関係に対しても禁止することを明確にしています。
どのような行為がハラスメントに該当するのかについて、具体例を列挙しましょう。
モデル就業規則では前項で定義づけたハラスメントの種類に分けて具体例を列挙しています。
今までに社内でハラスメント問題になったような事例があれば、その内容も盛り込むとより効果的です。
また、ハラスメントの事実を知りながら黙認する行為についても、禁止規定に含め、上司から相談担当部署への報告を促すとよいでしょう。
懲戒処分
【記載例】
第4条 次の各号に掲げる場合に応じ、当該各号に定める懲戒処分を行う。
- 第3条第2項(①を除く。) 、第3条第3項①から⑤及び⑧及び第4項の行為を行った場合
則第●条に定めるけん責、減給、出勤停止又は降格- 前号の行為が再度に及んだ場合、その情状が悪質と認められる場合、第3条第2項①又は第3条第3項⑥、⑦の行為を行った場合
則第●条に定める懲戒解雇
禁止行為にあたるハラスメントの事実が確認できた場合、会社は行為者に対して何らかの処分を行わなければなりません。
事案の程度によって異なりますが、注意・指導で事足りる場合もあれば、ある程度重い処分が必要な場合もあります。
ただし、処分するには根拠となる規定が必要です。ハラスメント行為による懲戒規定を設け、ハラスメント行為とバランスのとれた処分を検討しましょう。
相談及び苦情への対応
【記載例】
第5条 職場におけるハラスメントに関する相談窓口は本社及び各事業場で設けることとし、その責任者は○○○○とする。(省略)
(2)(省略)すべての従業員は、ハラスメントに関する相談窓口の担当者に申し出ることができる。
(3)対応マニュアルに沿い、(省略)相談者のプライバシーに配慮した上で、必要に応じて行為者、被害者、上司その他の従業員等に事実関係を聴取する。(4)前項の聴取を求められた従業員は、正当な理由なくこれを拒むことはできない。
(5)対応マニュアルに沿い、(省略)被害者の労働条件及び就業環境を改善するために必要な措置を講じる。(6)相談及び苦情への対応に当たっては、関係者のプライバシーは保護されるとともに、職場におけるハラスメントの相談窓口に相談をしたこと又は事実関係の確認に協力したこと、都道府県労働局のハラスメント相談等の制度を利用したこと等を理由として解雇その他の不利益な取扱いは行わない。
ハラスメントに関する相談窓口の設置は、法律に定められた企業の措置義務の1つです。
相談窓口がどこにあるのかを明確にし、調査を行うことやその方法を定めましょう。
調査におけるヒアリングは原則として拒否できないと規定しておくと、当事者以外の第三者に対しても協力を求めやすくなります。
また、相談したこと等によって不利益な取扱いを行わないこと、プライバシーは保護されることなどは必ず明記しましょう。
相談することによる不安を払拭できれば、相談窓口の利用を活性化することに繋がります。
再発防止の義務
【記載例】
第6条 会社は、職場におけるハラスメント事案が生じた時は、周知の再徹底及び研修の実施、事案発生の原因の分析等、適切な再発防止策を講じなければならない。
ハラスメント問題への対処は、相談を受け、調査し、行為者を処分する、だけでは不十分です。
ハラスメントに対する意識の低下が招いた結果であることを踏まえ、再度、ハラスメントの禁止を周知徹底しましょう。
また、必要に応じて研修等の検討も必要です。
もし、原因が管理職にあったのであれば、階層別の社員教育を行うことで効果が期待できるでしょう。
また、再発防止策を講じるにあたっては、弁護士などの専門家の意見も交えて作成すると、社外に対して企業の信頼性を高めることに繋がります。
労働者への就業規則の周知・啓発の方法
就業規則は、ただ作成するだけでは効力を持ちません。ルールブックである以上、ルールが適用される従業員がその内容を知らなければ不適切といえるからです。まずは、従業員への周知と啓発を徹底することが重要です。
周知方法には、紙の交付、社内掲示、データ共有などがあり、従業員がいつでも確認できる状態にしておくことがポイントとなります。周知が不十分だと、法的効力が否定される可能性があります。
さらに、啓発として定期的な研修や説明会、eラーニングなどを実施し、従業員に内容を浸透させましょう。理解不足を防ぐためにも、従業員教育を継続的に行うことが必要です。
なお、従業員10人以上の事業所は労働基準監督署への就業規則の届出義務がありますが、就業規則の有効性を左右するのは届出ではなく、周知の有無である点に注意してください。
ハラスメントに関する就業規則の記載方法などは弁護士にご相談ください
ハラスメント防止は法的義務であると同時に、従業員のモチベーションや企業イメージの向上にもつながります。
多様化するハラスメントに対応するためには、就業規則に明確な防止規定を設けることが不可欠です。
しかし、単にモデル就業規則を流用するだけでは不十分です。
ハラスメントの定義や具体例、懲戒処分などの内容を自社の業種や組織の実情に合わせて検討しなければ、規定が形骸化するおそれがあります。
「どのようにハラスメント防止規定を整備すべきか分からない」という場合は、専門家への相談が確実です。
弁護士法人ALGでは、さまざまな業種の就業規則作成に対応しており、経験豊富な弁護士が多数在籍しています。まずはお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修
弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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