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業務上横領した従業員を懲戒解雇できる?進め方や注意点などを解説

    解雇

    #懲戒解雇

    #業務上横領

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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員

業務上横領とは、会社のお金や物などを不正に自分のものにしてしまう行為をいいます。
例えば、社員による小口現金の着服、商品の横流しなどが挙げられます。

横領は会社と社員の信頼関係を裏切る行為であり、氷山の一角である可能性も高いため、懲戒解雇も視野に入ります。

ただし、横領の証拠が不十分、手続きが不適切である場合は、裁判で懲戒解雇が無効と判断されているケースもあるため注意が必要です。

この記事では、横領した社員を懲戒解雇するときの進め方や注意点について解説します。

業務上横領した従業員を懲戒解雇できる?

業務上横領した社員に対しては、規律の維持と再犯防止の視点から、基本的には懲戒解雇を検討することになります。
懲戒解雇とは、会社の規律違反への制裁として解雇することです。最も厳しい懲戒処分であり、退職金の減額や不支給を伴うことがあります。

業務上横領は犯罪であり、会社への重大な裏切りにあたるため、懲戒解雇を有効としている裁判例は多いです。とくに経理担当者による横領、金融業での横領、常習的な横領などは、たとえ少額でも懲戒解雇が認められる可能性が高いでしょう。

もっとも、横領により懲戒解雇した事例で、証拠が不十分、手続きに不備があるなどの理由で会社が敗訴しているケースも見受けられます。懲戒解雇するには、適切な手順を踏むことが重要です。

懲戒解雇が認められる要件

懲戒解雇は、解雇する側の会社にとっても大きなリスクがあります。

正当な理由と正しい手続で解雇しなければ、裁判に発展して不当解雇と判断される可能性があります。懲戒解雇が認められるには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 就業規則上の根拠がある
    社員に周知された就業規則に懲戒処分として懲戒解雇が定められていて、社員の行為が就業規則上の懲戒事由に該当することが必要です。
  • 相当性が認められる
    懲戒解雇の相当性は、横領額や横領の回数・期間、動機、会社への影響、社員の地位や処分歴、返済の有無、過去の事案の処分とのバランスなどを考慮して判断されます。
  • 手続きが適正である
    就業規則に弁明の機会の付与や、懲戒委員会の開催などが定められている場合は従う必要があります。

業務上横領による懲戒解雇の進め方

社内で横領が発生した場合、社員に裏切られたとして感情的な態度をとりがちです。

しかし、手続きに不備があると懲戒解雇が無効となるリスクがあるため、冷静に対処する必要があります。横領した社員への懲戒解雇は、以下の手順で行うのが適切です。

  1. 事実関係を調査して証拠を収集する
  2. 就業規則の懲戒解雇の規定を確認する
  3. 本人への確認・弁明の機会を設ける
  4. 懲戒解雇通知書を交付する

①事実関係を調査して証拠を収集する

横領が疑われる場合は、本人への事情聴取の前に、事実関係を調査して証拠を収集することが必要です。求められる作業はケースにより異なりますが、例として以下が挙げられます。

  • 横領金額と日時の特定
  • 会計帳簿や銀行取引明細などの分析
  • 発注書や契約書、請求書、領収書などの確認
  • 社員のパソコンのデータやメールの確認
  • フォレンジック調査(会計システムの操作ログの分析、削除されたメールや文書の復元など)
  • 防犯カメラの確認
  • 書類の筆跡や押印の確認
  • 犯行当日の本人の行動調査
  • 同僚や関係者からの聴き取り

ある程度証拠がそろったら、本人の同僚や関係者からヒアリングを行います。
ただし、共犯者が紛れ込んでいる可能性もあるため、人選は慎重に行うべきです。

②就業規則の懲戒解雇の規定を確認する

次に必要なのが、就業規則の懲戒解雇の規定の確認です。

懲戒解雇を行うには、就業規則上の根拠が求められるからです。
確認するポイントは以下の点です。

  • 就業規則の懲戒解雇事由に該当するか
    就業規則に「横領」「着服」「職務上の非違行為」「刑法その他刑罰法規に違反する行為」「その他、前各号に準ずる事由」といった記載があれば懲戒解雇の対象となります。また、就業規則が本人のいる職場で周知されていたかの確認も必要です。
  • 懲戒解雇の手続きがどう規定されているか
    就業規則によっては、懲戒解雇の前に弁明の機会の付与や懲戒委員会の開催などが求められる場合もあります。これらを怠ると解雇が無効になるおそれがあるため、手続きの確認が必要です。

③本人への確認・弁明の機会を設ける

証拠収集できたら、本人を呼び出して事情聴取を行います。
事情聴取で目指すのは、横領を認めさせることです。

ただし、本人に尋ねてもすぐに自白することは多くありません。

言い逃れされないようにするには、どのように質問するか、どの段階で証拠を示すか、想定される社員からの嘘への切り替えしなど、計画を立てた上で聴取することが大切です。

聴取時のポイントとして、犯人と決めつけずに話を聞く、弁明の機会を与える、自白を強要しない、やり取りを録音などで正確に記録することなどが挙げられます。

本人が横領を認めたら、横領の日時や金額、手口を確認し、返済を約束させる「支払誓約書」に署名・押印させます。認めない場合は、本人の言い分を記載した「弁明書」を提出させましょう。

④懲戒解雇通知書を交付する

懲戒解雇を行うことを決定した場合は、「懲戒解雇通知書」を本人に交付する必要があります。

懲戒解雇通知書には、懲戒解雇の理由とする横領の事実や、解雇日、就業規則の該当条項などを明記します。横領の事実については、「いつ」、「いくらを」、「どのような方法で」横領したかまで具体的に記載する必要があります。

また、懲戒理由の後付けはできないため、会社がその時点で把握している懲戒解雇事由に当たる行為については、すべて明記しておくことも重要です。

交付方法として、本人に手渡しする、内容証明+普通郵便で郵送するなどの方法が挙げられます。
手渡しの場合は本人から受領印をもらうなど、交付した事実が証拠として残るようにしておきましょう。

業務上横領により懲戒解雇を行う場合の注意点

ここでは、業務上横領により懲戒解雇を行うにあたっての注意点について解説していきます。

原則として解雇予告が必要

解雇するときは通常30日前に解雇予告するか、30日分の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。

ただし、解雇予告の除外認定を受ければ、解雇予告や予告手当の支払いをせずに解雇することが可能です。

解雇予告除外認定とは、災害などやむを得ない理由で事業の継続ができなくなった場合や、解雇理由が社員の悪質な行為などによるものである場合に、労働基準監督署の認定を得ることで、解雇予告や予告手当の支払いなく即時解雇が可能となる制度です。

横領は悪質な行為にあたることは間違いないため、除外認定も認められると考えられます。ただし、労基署からの事情聴取で本人がやってないと否認した場合は、除外認定が受けられない可能性があります。

社内公表は必要最低限の範囲で行う

再発の予防のため、横領による懲戒解雇の事実を社内に公表したいと思う企業もあるかと思います。

確かに、社内公表は社内の規律意識を高める効果がありますが、公表された社員から名誉棄損で訴えられて裁判に発展するリスクもあります。名誉毀損は、違法な行為をした社員の氏名を公表した場合でも適用されます。

名誉毀損を避けるためにも、懲戒処分を受けた社員の氏名や所属部署などの個人情報は公表しないのが安全です。他の社員や株主に伝える場合は、業務上横領の事実や懲戒解雇の内容など簡潔な公表にとどめるべきでしょう。

業務上横領で懲戒解雇した従業員の退職金や給料の扱い

業務上横領で懲戒解雇した社員の退職金や給料の扱い方について、確認しましょう。

退職金

退職金制度を設ける企業のほとんどが、就業規則や退職金規程に「懲戒解雇した社員に退職金を支給しないこと」を定めています。

ただし、就業規則に定めがあるからといって、常にすべての場合で不支給にできるわけではありません。

退職金の不支給が認められるには、解雇対象の社員に「これまでの勤続による功労をすべて消し去るほどの著しい背信行為があった場合」に限られると解されています。

これは、退職金は在籍中の給与の後払い的な性質と、これまでの功労の報償的な性質をあわせ持つと考えられているからです。そのため、業務上横領を理由とする懲戒解雇であっても、退職金の全額の不支給は簡単に認められず、6~7割程度の減額を認める裁判例が多いです。

給料

横領で懲戒解雇された社員についても、賃金全額払いのルールにより、懲戒解雇の日までの給与を支払う必要があります。特に希望がなければ、通常の支払日に支給するので差し支えありません。

ただし、本人から請求があった場合は、通常の支払日より前でも7日以内に給与を支払わなければなりません(労基法23条1項)。

なお、懲戒解雇された社員が解雇に不満を抱き、裁判を起こすことがあります。
裁判で不当解雇・無効と判断されると、解雇日から現在まで雇用が続いていたとして、解雇期間中の給与の支払いが求められるためご注意ください。

業務上横領した労働者に対する責任追及

業務上横領した社員に対しては、民事上の責任追及(損害賠償請求)と刑事上の責任追及(刑事告訴)を行うことが可能です。以下で詳しく見ていきましょう。

損害賠償請求

横領をした社員に対しては、損害賠償請求することができます。
横領されたお金の支払いや、物品の返還、物品がない場合はその価格の賠償を求めることになります。

いきなり裁判を起こすと、解決までに時間を要するリスクがあるため、まずは話し合いにより返還請求するのが適切です。本人に返済する余裕がない場合は、身元保証人にも交渉しましょう。

本人が横領を認めて返済に応じた場合は、支払誓約書などを作成し、署名・捺印させます。
支払誓約書には、横領の事実を認めることや、横領した金額、横領したお金を返すこと、分割払いが遅れた場合は残金を一括で支払うといった事項を記載します。

もっとも、支払誓約書を作成したとしても、後で支払いが滞るリスクがあります。その場合に備えて、強制執行が可能な公正証書にしておくと万全です。
なお、社員の給料から横領された金額を天引きすることは原則禁止されていますが、社員の自由な意思による同意があれば認められます。

刑事告訴

横領された金額が高額であったり、手口が悪質であったりする場合は、刑事告訴も検討すべきです。
告訴とは、犯罪の被害者が捜査機関に犯罪事実を申告し、加害者への処罰を求めることです。

告訴の方法としては、会社の所在地を管轄する警察署に告訴状を提出するのが一般的です。告訴状が受理されれば、警察や検察が捜査を開始します。ただし、受理してもらうためには、横領の事実を証明する客観的証拠を提出する必要があります。

告訴により刑事上の責任追及ができるとともに、厳しい対応を社内に印象付けられます。
また、返済の有無が刑事処分の結果に大きく影響するため、社員から返済を受けられる可能性が高まるのもメリットです。

ただし、告訴すると、マスコミ報道されて会社の社会的信用が低下するリスクもあるため、慎重に検討すべきです。
なお、刑事裁判には時効があります。横領から7年が経過すると処罰を求められなくなるため、早急な対応が求められます。

業務上横領による懲戒解雇の有効性について争われた判例

事件の概要

【令和2年(ネ)第75号 札幌高等裁判所 令和3年11月17日判決 日本郵便事件】

北海道内の郵便局社員に対し営業のインストラクターをしていた社員Xが、1年半のうち100回にわたり、車で出張しながら電車代を請求したり、クオカード付の宿泊価格で旅費を請求したりして、54万円の旅費を不正受給したとして懲戒解雇された事案です。

裁判所の判断

裁判所は以下を理由に、本件の懲戒解雇を無効と判断しました。

  • 懲戒解雇されたXと、同時期に不正受給を理由に停職3ヶ月の処分を受けた営業インストラクターZとでは、Xの方が不正受給額は大きい(Xは54万円、Zは28万円)が、期間や回数は少ない(Xは1年6ヶ月で100回、Zは3年6ヶ月で247回)。
  • Xは不正受給したお金を、宿泊費が支払われない出張時の宿泊費や、郵便局社員との懇親会の飲食代などにあてており、完全なる私用の宿泊費ではなく、懇親会も業務の延長上といえ、Zの不正受給(郵便局への差入代など)と同様の目的のものである。
  • Xの行為は停職3ヶ月のZの行為とほぼ同程度であり、Xは不正受給したお金を全額返済していることも考慮すれば、Xを懲戒解雇とするのは、Zとのバランスを欠き無効である。

ポイント・解説

裁判所は、懲戒解雇の有効性判断にあたって、横領の内容だけでなく、他の社員への処分との均衡も考慮しています。懲戒解雇された社員と、停職3ヶ月とされた社員の行為は同程度であり、処分のバランスに欠けるとして、懲戒解雇を無効と結論づけています。

懲戒解雇を行う場合は、横領額や横領の回数・期間、会社への影響、過去の事案の処分とのバランスなど総合的な判断が求められます。

横領金額が少額であり、懲戒解雇が重すぎると判断されるリスクがある場合は、諭旨解雇や普通解雇などを選択してトラブルを回避することも検討するべきでしょう。

業務上横領による懲戒解雇については弁護士にご相談ください

横領は金銭的な損失だけでなく、周囲の社員にもモチベーション低下や退職など悪影響が出る可能性があります。そのため、懲戒解雇など厳しい処分を検討せざるを得ません。

ただし、十分な準備をして手続きを進めないと、裁判に発展して懲戒解雇が無効になるリスクがあります。

弁護士法人ALGには企業側の労働法務を得意とする弁護士が多く在籍し、横領した社員の解雇についてのご相談を受けつけております。弁護士のサポートを受けながら対応を進めることで、不当解雇のリスクを回避することができます。また、社員との面談の同席や再発予防策の提案なども対応可能です。

業務上横領をした社員への対応にお悩みの場合は、ぜひご相談ください。

この記事の監修

担当弁護士の写真

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員

保有資格
弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

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