就業規則
#派遣社員
監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
派遣社員に対して、「派遣元と派遣先のどちらの就業規則を適用するか」は、自社の労務管理を考えるうえで押さえておきたいポイントです。
雇用契約は派遣元と締結している一方、実際の業務命令は派遣先で行われます。
この二重構造のなかで、労働時間や賃金などについて、どちらの規則を適用すべきかを明らかにしないと、運用段階で混乱を招くリスクがあります。
この記事では、派遣社員の就業規則は派遣先と派遣元のどちらが適用されるのか、就業規則の不足分をカバーする方法などについて解説します。
目次
派遣社員の就業規則は派遣先と派遣元のどちらが適用される?
派遣社員に適用される就業規則は、原則として派遣元の就業規則です。
派遣社員は派遣元と雇用契約を結んでおり、派遣先とは直接の雇用関係がないためです。
ただし、派遣社員は派遣先の社員と同じ職場で働くため、派遣社員だけが別の始業・終業時間や休憩時間などで勤務するのは効率性に欠けます。
そのため、業務遂行に関するルール(労働時間や休憩、安全衛生、服務規律など)については、派遣先の就業規則を準用するのが一般的です。
具体的には、派遣元の就業規則に「派遣先の就業規則に準じる」と明記したり、派遣契約書や就業条件明示書などに詳細を定めたりして、両者のルールを調整するケースが多いです。
派遣先の就業規則を準用する場合は、派遣社員への周知が求められるため注意が必要です。
一般的にどちらの就業規則を適用することが多いのか、項目別にまとめましたのでご確認ください。
【派遣社員の就業規則の基本項目】
| 項目 | 派遣元の 就業規則を 適用 |
派遣先の 就業規則を 適用 |
備考 |
|---|---|---|---|
| 労働時間、休憩、休日 | 〇 | 〇 | 変形労働時間の定めは派遣元 |
| 時間外労働、休日労働 | 〇 | 〇 | 派遣元が36協定を締結・届出し、派遣先はその範囲内で指示や時間管理を行う |
| 年次有給休暇 | 〇 | 付与日数や取得手続きは派遣元で定める | |
| 賃金の支払い | 〇 | 計算方法や支払日などは派遣元で定める | |
| 災害補償 | 〇 | 労災保険の請求手続きは派遣元が行う | |
| 安全衛生 | 〇 | 〇 | 職場環境の整備や安全衛生教育は派遣先が実施 |
| 服務規律 | 〇 | 〇 | |
| 定年、退職、解雇 | 〇 | ||
| 懲戒処分 | 〇 | 懲戒権があるのは派遣元 |
労働時間や休憩、休日
派遣社員の労働時間や休憩、休日については、原則として派遣先の就業規則が適用されます。
派遣社員が働く場所は派遣先であり、日々の業務の指揮命令は派遣先から受けるためです。
始業・終業の時刻、休憩時間、休日の取り方などは、派遣先の職場のルールに合わせて決められ、派遣社員もそれに従って勤務します。
一方で、労働時間の基本的な枠組み(所定労働時間や時間外労働の上限など)は派遣元の就業規則により定められます。派遣先が独自に派遣社員に長時間労働を命じることはできず、派遣元が締結している36協定の範囲内でなければなりません。
これらの責任分担を明確にするため、派遣契約書や就業条件明示書などで、「派遣先の労働時間や休憩、休日に準じる」ことを明記するのが通例です。
定年や退職、解雇など
派遣社員の雇用主は派遣元であるため、定年や退職、解雇といった雇用関係の終了に関わる規定はすべて派遣元の就業規則が適用されます。定年年齢や再雇用制度、懲戒解雇や普通解雇の事由・手続き、自己都合退職の手続き、退職金などについては、派遣元で定めることになります。
たとえ、派遣先で勤務中の態度や業務遂行に問題が生じたとしても、懲戒や契約解除の手続きは派遣元が行い、派遣先はあくまで事実報告や改善指導の協力を行うにとどまります。
派遣契約書や就業条件明示書などに「契約終了は派遣元規則に従う」旨を明記しておくと、双方の責任範囲がよりクリアになります。
賃金の支払い
派遣社員への賃金支払い(基本給や手当、割増賃金など)については、雇用主である派遣元の就業規則が適用されます。
派遣社員に対する賃金の支払い責任は派遣元が負うため、賃金の計算方法や割増率、締め日、支払日などはすべて派遣元のルールに基づいて運用されることになります。
なお、賃金ルールを作成する際は、「労使協定方式」「派遣先均等・均衡方式」のいずれか(または両方)を選択し、それに応じた規定を就業規則に記載しなければなりません。
労使協定方式とは、派遣元の労使協定をもとに賃金を決める方式、派遣先均等・均衡方式とは、同種業務に就く派遣先の社員との比較に基づき賃金を支払う方式をいいます。
安全衛生
派遣元は、安全衛生管理者の選任や健康診断の実施、メンタルヘルス対策など、派遣社員を含めた社内全体の安全衛生管理体制の整備義務を担います。
一方で、派遣先は実際の作業手順の指示、職場環境の整備、機械設備の点検、危険有害業務の教育訓練といった具体的な安全衛生活動を行います。派遣社員は派遣先の指揮命令下でこれらのルールに従って業務を行う必要があります。
そのため、就業規則上は派遣元が主体的に安全衛生のルールを定めつつ、「作業手順は派遣先の規則に従う」「派遣先の安全衛生教育を受講する義務がある」などと明記し、派遣先の就業規則を適用することが一般的です。
服務規律
派遣社員の服務規律は、雇用主である派遣元の就業規則の規定が基本となります。
派遣元は勤務態度や機密情報の取扱い、ハラスメント防止といった服務規律全般、これに違反した場合の懲戒について就業規則に明確に定める必要があります。
しかし、実際の職場では、派遣社員は派遣先の指揮命令のもとで仕事を行うため、派遣先の服務規律(入退室手続き、IDカード着用、服装や身だしなみ、オフィス備品の使用ルールなど)に従う必要があります。そのため、派遣元の就業規則には「派遣先の服務規律を遵守する義務」を明記しておくことが一般的です。
派遣先自身が服務規律違反を理由に懲戒を行うことはできませんが、注意や改善指導を行うことは可能です。
就業規則の不足分は労働条件通知書等で取り決めが可能
派遣元の就業規則は、賃金や所定労働時間、休暇など基本的な労働条件を網羅しますが、派遣先ごとに異なる勤務形態や特有のルールまですべてカバーするのは困難です。
たとえば、派遣元の就業規則に「1日の所定労働時間は8時間」と定めても、実際に何時に始業し何時に終業するか、どのタイミングで休憩をとるかは派遣先のルールに従う必要があります。
このような始業・終業時刻、休憩時間の取り方、残業の承認手続きなどは就業規則で画一的に規定できないため、「不足分」とされます。
ただし、この就業規則の不足分については、就業条件明示書や労働条件通知書を用いて取り決めることでカバーできます。
以下で、就業条件明示書と労働条件通知書の具体的な内容について確認しましょう。
就業条件明示書とは
就業条件明示書とは、派遣元が労働者派遣を行うときに、派遣スタッフに交付することが義務付けられている書面です(労働者派遣法34条)。派遣先での具体的な仕事内容や勤務時間などを記載します。
再契約の際には、その都度新たな就業条件明示書を作成し、派遣スタッフに交付しなければなりません。
就業条件明示書では、主に以下のような項目を明記することが義務付けられています。
- 派遣先の名称および所在地、組織単位
- 就業場所と業務内容、業務に伴う責任の程度
- 指揮命令者、派遣元・派遣先の責任者
- 派遣期間、就業日、就業時間、休憩時間
- 時間外・休日労働
- 労働者派遣料
- 安全衛生、福利厚生
- 苦情の申し出先や処理方法
- 紹介予定派遣
- 派遣社員の雇用の安定を図るために必要な措置に関する事項 など
派遣社員は派遣先からの指揮命令を受けて業務を行います。そのため、就業条件明示書に派遣先の勤務体系(始業・終業時刻や休憩時間など)を反映させることが一般的です。
労働条件通知書とは
労働条件通知書とは、会社が労働者を雇い入れる際に交付することが義務づけられている書面です(労働基準法15条1項)。契約期間や賃金など労働者が働き始める前に知っておきたい重要事項を記載します。派遣社員に対しては、派遣元が労働条件通知書を交付します。
労働条件通知書に記載すべき主な内容は、以下のとおりです。
- 契約期間
- 有期労働契約の更新の有無・基準
- 勤務場所、業務内容
- 始業・終業時刻、休憩時間、休日、所定労働時間を超える労働の有無など
- 賃金の決定、計算、支払方法など
- 退職に関する事項(解雇を含む)
- 昇給に関する事項
- その他(退職金や賞与、休職など)
以上のとおり、派遣元は派遣社員に就業条件明示書と労働条件通知書の交付が法律で義務付けられています。両者の記載内容に重複が多いため、「労働条件通知書兼就業条件明示書」として一体的に発行することも可能です。
従業員10人未満の会社でも就業規則を作成すべき?
常時使用する社員が10人未満の事業場では、就業規則の作成義務はありません。
しかし、この免除は『作成してはいけない』という意味ではなく、単に法的義務が課されないということです。
就業規則を整備することで、労働条件や勤務ルールが明確になり、トラブル防止につながるため、作成することをおすすめします。
なお、派遣社員については、派遣元の「常時10人以上」の人数に含まれることになります。
就業規則の作成手順は、以下のとおりです。
- 就業規則の原案作成
- 社員代表への意見聴取と意見書の取得
- 労働基準監督署への届出
- 社員への周知
10人未満の会社でも、就業規則を作成し社員に周知すれば法的効力を持つようになります。
労務管理体制を強化するため、労基署に自主的に届け出ることも可能です。
厚生労働省のモデル就業規則について
モデル就業規則とは、厚生労働省がウェブページに掲載している就業規則の参考テンプレートです。
最新の労働関係法令の規定を踏まえて作成されており、全70条から構成されます。就業規則の基本的な骨組みを示した簡易ひな形となっています。
必要に応じて内容の改定が行われており、令和5年7月版では自己都合退職時の退職金の支給制限に関する条項が削除される改正がありました。
ただし、モデル就業規則はあくまで参考例にすぎません。就業規則は、労働条件を定める上で重要な規定ですので、テンプレートをそのまま使用するのではなく、自社の状況に合わせてカスタマイズすることが必要です。
最新版のモデル就業規則は以下のリンクでダウンロードできますので、ご活用ください。
派遣元のための就業規則の作成ポイントについて知りたい方は、以下のリンクをご参照ください。
派遣社員の就業規則については労働問題に強い弁護士にご相談ください
派遣就業を開始させる場合は、派遣社員に派遣先の就業規則を一部準用しつつ、就業条件明示書や労働条件通知書で不足分を確実に補うことが、トラブルを未然に防ぐ有効な手段となります。
法的リスクを未然に防ぐためにも、事前に弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
弁護士であれば派遣元・派遣先双方の就業規則や関連書面を法令に照らして丁寧にチェックし、必要な条項の追加・修正や就業条件通知書等の記載例まで具体的なアドバイスが可能です。
弁護士法人ALGには企業側の労働法務に精通する弁護士が多く在籍しており、派遣社員の就業規則についてのご相談に随時対応しております。ぜひご相談ください。
この記事の監修
弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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