ハラスメント
#ハラスメント
#パワハラ
監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
ハラスメントが発生した場合、企業にはハラスメントの有無を調査する義務があります。
調査には、ハラスメントの法的要件や定義の理解が必要です。その上で、職場で起きた事案がハラスメントに該当するのか客観的に判断しなければなりません。
相談者からの話だけを聞いて、直感的に、もしくは感情的に「これはハラスメントである」などと断定することは調査とはいえません。
本稿では、ハラスメントの調査方法やポイントについて解説していきます。
社内の調査方法が確立していない、うまく運用できていないなどの場合には、是非ご参考下さい。
企業はハラスメントの事実関係を調査する義務がある
企業には、パワハラやセクハラ、マタハラなどハラスメントに関する相談窓口の設置が義務づけされています。
相談窓口に相談があった、もしくは上司を経由して被害の訴えがあったにもかかわらず、調査せず放置することは許されません。
ハラスメント対策は相談窓口の設置だけでなく、相談に適切に対応する体制作りも含まれているからです。つまり、企業は相談内容を踏まえてハラスメントの事実関係を調査することが求められます。
もし、ハラスメントの相談があったにもかかわらず、企業がなにも対応しない場合には、調査義務違反にあたるでしょう。調査義務を怠った、もしくは適切に調査していなかったなどがあれば、損害賠償の対象となる可能性もあります。
詳しくは以下のページをご覧ください。
さらに詳しくハラスメントが発生した場合の企業に及ぼすリスクハラスメントの調査義務違反で損害賠償を求められた事例
ハラスメント調査は行ったものの、その調査が不適切であるとして損害賠償を請求された事案をご紹介します。
(平成24年(ワ)第16309号・平成26年7月31日・東京地方裁判所・第一審)
Xは上司Aからパワハラを受けたとして会社に内部通報を行い、コンプライアンス室のB社員がハラスメント調査を実施しました。その結果、A上司に行き過ぎた点はあったものの、反省しておりパワハラとまではいえないとして、Xへ伝えました。
Xはこの調査結果に納得できず、調査内容の書面開示を求めました。しかし、B社員がこれを拒否したため、不適切な調査であり、精神的被害を著しく拡大させる違法行為にあたるとして損害賠償を請求しました。
これに対し裁判所は、A上司のパワハラを認定した上で、B社員の調査に不適切な内容はみられないと判示しました。また、調査内容の開示を拒否した点についても、プライバシー保護の観点から合理性があるとしています。
この事案では調査は適切であったと判断されましたが、適切な調査を行っていなければ、調査義務違反にあたり賠償責任があると判断される可能性もあります。
また、調査結果を当事者に丁寧に説明することも必要でしょう。しかし、情報開示については情報の内容を精査した上で、慎重に取扱うことが大切です。
ハラスメントの調査方法と流れ
ハラスメントの事実調査は証拠収集だけでなく、ヒアリングが重要となります。調査の流れは以下の通りです。
- 被害者の意向確認
- 関係者のヒアリング(被害者・加害者・目撃者等第三者)
- ハラスメント有無の判定
- 調査結果の通知
- 調査報告書の作成
各項目について、以降で解説していきます。
被害者の意向確認
被害者からハラスメント相談があった場合、まずは被害者の意向確認を行いましょう。
相談=調査希望とは限りません。被害者が調査を希望しなければ、会社は調査を諦めるべきでしょう。
調査を行わない場合であっても、社内全体に向けてハラスメント禁止を再周知する、ハラスメント防止研修を行うなど、再発防止策は講じるべきです。
また、今回の調査は不要であっても、再発した場合、もしくは同じ加害者による別の被害相談があった場合に備えて、被害者からの相談内容については記録にして残しておきましょう。
なお、相談者にメンタルヘルス不調の兆候がある場合には、病院の受診や、加害者からの隔離など早急に対応する必要があります。そのほか事案が重く、社内で対応が難しいケースであれば専門家へサポートを依頼しましょう。
関係者からのヒアリング
被害者の意向を確認し、調査開始になれば、まずは関係者へのヒアリングを行います。ヒアリングを行う順番は以下の通りでよいでしょう。
- 被害者
- 加害者
- 目撃者や関係者
- 被害者と加害者へ再度ヒアリング
ヒアリングするときには、できるだけ複数人で対応し、議事録などを残しておきましょう。本人へ確認をとった上で、録音をとってもよいでしょう。それぞれのヒアリング場面で注意しておくべきポイントを以降で解説していきます。
①被害者
被害者へのヒアリングはまず、信頼関係を作ることを意識して行いましょう。
被害者へ、相談による不利益はないことや秘密は守られることを伝え、しっかりと話を聞く姿勢をみせます。
ヒアリング場所はプライバシー確保が可能な個室を用意するなど十分な配慮も大切です。
被害者は心理的に混乱しているケースもありますので、うまく話がまとめられていなくても、急かさず詰問することがないよう注意しましょう。
ヒアリングを行うなかで、担当者の私的な意見もあるとは思いますが、調査の途中段階で不確実な判断を口にするのは絶対に避けるべきです。被害者が担当者へ不信感をもてば、それは会社への不信感にも繋がり、問題の解決を困難にしてしまいます。
まずは「聞く」ことに徹しましょう。1回で終わらないようであれば、別日程を設定します。時間を空けることで被害者の気持ちが落ち着いたり、冷静に考えることができ、相談の効果が高まります。
ヒアリングを終える際には、被害者の話を記録した文書に間違いがないか被害者へ確認を求めるようにしましょう。
②加害者
加害者へのヒアリングは、被害者の了承を得てから行うようにしましょう。
被害者の中には後々の人間関係を考えて、あまり大事にしたくない等と思っている人も少なくありません。被害者の立場を考慮したうえで、加害者へのヒアリングを行います。
加害者へのヒアリングであっても、非難や決めつけるような言動を行うと、加害者が何も話してくれなくなるおそれがあります。あくまでも中立の立場で臨むことが重要です。まずは、被害者が主張している被害内容が事実であるのか確認しましょう。
加害者からの反論があっても、感情的な発言にふりまわされて、話を遮ったりせず、最後まで聞く姿勢をもちます。
加害者からのヒアリング内容に疑問が生じたとしても、まずは加害者の言い分をそのまま記録し、加害者へ記録内容に間違いがないか確認を求めましょう。
③目撃者や関係者
目撃者や関係者へのヒアリングは、事実関係の解明に重要なプロセスとなります。まずは、事件へ関与している可能性が高いと思われるヒアリング対象者を選定しましょう。
この場合にも、担当者の憶測から質問するのではなく、客観的な事実に基づき中立の立場から質問しましょう。
もし、目撃者らが証言をためらうなどがあれば、匿名性を保証することを伝えるなど十分に配慮しましょう。事実確認に重きをおくことはもちろんですが、加害者が他の社員に対しても同様の行為を繰り返していないかなど、隠れハラスメントについても質問しましょう。
ヒアリング内容は可能な限り詳細に記録し、記録内容に間違いがないか確認してもらうようにしましょう。
④被害者と加害者へ再度ヒアリング
加害者は無自覚でハラスメントを行っていることがあります。そのようなケースでは特に被害者と加害者で主張の食い違いが起こりやすいといえます。
もし、双方の主張がかみ合っていないのであれば、再度、両者へヒアリングを行うようにしましょう。
それぞれの主張を踏まえて、前回のヒアリング内容に間違いがないかを再度確認します。
時間をおくことで思い出すこともありますので、新たな事実がないかも確認しておくとよいでしょう。
被害者の心理状態の変化にも注目し、再度ヒアリングした内容を記録し、修正内容なども含めて本人に確認してもらいましょう。
被害者が退職していた場合のヒアリング方法
被害者が退職したとしても、ハラスメント調査を終了していいというわけではありません。
被害者が調査の打ち切りを望まない限りは、企業は調査を続行する義務があります。
退職した場合、被害者との接触が難しくなるケースもありますが、事前にヒアリングについて丁寧に説明した上で行うようにしましょう。
また、実施方法についても、対面に限定するのではなく、電話やメール、オンライン会議など複数の方法を検討します。
退職後、時間が空きすぎると被害状況の記憶が薄れてしまいますので、被害者の心理状態に配慮した上で、できるだけ早くヒアリングを実施しておくことが望ましいと考えられます。
ハラスメントの有無を判定
関係者へのヒアリングや、メール等の客観的な証拠収集が完了したら、それらに基づいてハラスメントの事実が確認できるのか判定します。
しかし、実務上は当事者同士の意見が食い違うことが多いでしょう。その場合には、メールやLINEの履歴等の証拠との整合性や、双方の主張内容に不自然さがないか精査しましょう。
最近では逆パワハラなどもありますので、被害者が恣意的に被害を訴えている可能性についても、場合によっては検討が必要です。客観的な事実から判断しても事実関係がはっきりしなかった場合、そのハラスメントとされる行為に対して懲戒処分等を行うことは事実上不可能となります。
しかし、現在の状況の打開や、将来への再発防止は可能です。被害者に心身の不調や不利益が生じているのであれば、その回復支援などの措置をとることが必要です。
ハラスメントの有無の判定は簡単に行えるものではありませんので、事案によって判定が困難であれば、専門家である弁護士へ相談することをおすすめします。
調査結果の通知
ハラスメント調査が完了したら、一般的には当事者へ調査結果を通知するべきとされています。
これは、調査の透明性の確保や、会社への信頼回復などはもちろんですが、当事者双方に納得感を得てもらうことが一番の目的です。
調査結果の内容としては表のように、ハラスメントへの該当性の有無、結論などを示し、当事者が理解しやすいよう工夫しましょう。
通知内容によって二次被害が起きることのないよう、通知内容は慎重に検討しなければなりません。
| 被害者への対応 | 加害者への対応 | |
|---|---|---|
| ハラスメントに該当した場合の対応 |
・被害者と加害者の引き離し ・定期的な面談や産業医等による検診 |
・懲戒処分 ・配置転換 |
| ハラスメントに該当しない場合の対応 |
・メンタルヘルス不調があれば回復支援 ・労働環境に不利益があれば改善措置 |
・加害者を含めた全社に向けてハラスメント防止の周知徹底 ・経過観察 ・研修参加 |
詳しくは以下のページをご覧ください。
さらに詳しく配置転換が違法と判断される基準とは さらに詳しく懲戒処分を行う際の注意点調査報告書の作成
ハラスメントにおける調査報告書は、会社が問題に対処したという客観的記録であり、懲戒処分などを行った場合にはその根拠資料になります。
また、当事者だけでなく関係者への説明や再発防止策の検討にも有効ですので、必要に応じて作成するようにしましょう。
報告書の記載内容に決まりはありませんが、以下のような内容が一般的と考えられます。
- 調査目的
- 調査期間
- 調査対象
- 調査方法
- 事案の経緯と主張内容
- 調査結果(判明した事実関係)
- 結論(ハラスメントの有無)
- 今後の対応策(再発防止策、当事者への対応、研修実施など)
- 調査担当者
適切なハラスメント調査を行うためのポイント
ハラスメントの相談はいつ発生するか分かりません。そのため、相談体制は早期に整えておく必要があります。
ヒアリングの方法や傾聴の姿勢、配慮、プライバシー保護など、調査を行うには事前に理解しておくべき事項が多々あります。また、客観性や中立性、正確性なども調査には求められます。
適切なハラスメント調査を行うためには、以下のようなポイントが重要になるでしょう
- 調査マニュアルを作成する
- 調査委員会は複数名で構成する
- 弁護士に相談する
各ポイントについて解説していきます。
調査マニュアルを作成する
ハラスメントの訴えはいつ何時発生するか分かりません。そして、迅速な対応が求められますので、相談があってから調査方法を調べていては相談者から苦情が発生するかもしれません。
調査マニュアルを作成し、担当者がいつでも確認しながら調査を進められる体制を整えておきましょう。
調査マニュアルの内容は会社の事情に即して作成すべきですが、一般的には以下の内容を盛り込んでおくとよいでしょう。
- 調査の目的と範囲
- 調査委員会の設置と役割
- 調査の手順(相談受付・事実関係の確認対象者・ヒアリング項目・報告書の作成)
- 当事者への対応(相談者:心理的ケアなど、加害者:厳重注意、懲戒処分、研修参加など)
- ハラスメントの有無についての判定方法
- 守秘義務について
- 再発防止策(研修の実施、相談体制の整備、組織風土改革など)
調査委員会は複数名で構成する
ハラスメント調査委員会は、客観的かつ公正な事実調査を行い、適切な対応策を講じるための組織です。
そのため、調査委員会は複数名で構成されることが一般的となっています。複数で調査することによって、より客観的な判断ができるだけでなく、多角的な視点から問題を検討することが可能となります。
また、異なる部署や立場の人間で構成することによって、意見の偏りを防ぎ、公平な調査となります。さらに、ハラスメントに関して法律や人事労務などの分野における専門家をメンバーに加えると、より専門性の高い調査が期待できます。
メンバーに加える専門家としては、外部の弁護士や社労士に依頼するとよいでしょう。
弁護士に相談する
ハラスメント調査で起こる問題の1つに、被害者と加害者の言い分が食い違っているケースがあります。このような難しい問題の場合、社内対応には限界があるでしょう。
ハラスメント調査や対応が難しい場合には、早い段階で弁護士へ相談することをおすすめします。
ハラスメント問題は、調査内容やハラスメントの有無の判断など、対応に不備があれば訴訟リスクを抱えることになってしまいます。
弁護士へ相談すれば、法的観点からのアドバイスが得られるので、証拠の収集や評価、報告書作成などに重要な指針を得られるようになります。
ハラスメント調査は企業にとって大きな課題ですが、弁護士に相談することで法的リスクを最小限にすることができるでしょう。
企業でハラスメントが起きた際の調査は弁護士にご相談ください!
ハラスメントが発生した場合、会社には調査する義務がありますが、決して簡単ではありません。
当事者の認識はすれ違っていることが多く、ハラスメントの有無を判断することは困難といえます。
また、担当者がハラスメントについてどの程度知識があるのか、最新の知識を備えているのかなどの要素も絡んできます。
ハラスメント調査には、客観性を担保するためにも弁護士へ相談するとよいでしょう。
弁護士法人ALGでは、様々なハラスメント問題に対応してきた豊富な実績があり、企業のお悩みに応じた幅広いサポートが可能です。
ハラスメント担当者の教育や、社内研修といった予防措置から、発生後の調査や懲戒処分、トラブル対応など、対応範囲は多岐にわたります。少しでもハラスメント調査や対応に不安があれば、まずはお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修
弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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