ハラスメント
#セクハラ
#予防策
#対処法
監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
昨今、就活生へのセクハラ問題が採用トラブルにおける大きな課題の1つとなっています。
令和5年度の「職場のハラスメントに関する実態調査」(厚生労働省)では、就活中にセクハラを受けた人の割合は30%を超えています。
また、就活セクハラは女性に限られません。
むしろセクハラを経験したと回答した割合は男性の方が高いことも調査から明らかになりました。
いまや4人に1人以上が就活セクハラを受けている現状では、就活セクハラ対策は喫緊の課題といえます。
優秀な人材に応募してもらうには、どのような就活セクハラ防止対策が必要でしょうか。
本稿では、就活におけるセクハラの解説や企業がとるべき対策について解説していきます。
目次
就活セクハラとは?
就活セクハラに法的な定義づけはありません。
一般的には、就職活動中の学生やインターン生が、企業の担当者等から受けるセクハラを総称して就活セクハラといいます。
就活セクハラは女性に限られた問題ではなく、男性に対しても行われているため、性別にとらわれない対策が必要です。
就活生等をセクハラから直接保護する法制度は確立していませんが、厚生労働省では、就活セクハラ等への防止対策の強化が検討されています。
今後、法制化や行政指導の強化が見込まれるでしょう。
就活セクハラの類型について、以下で確認しておきましょう。
対価型の就活セクハラ
セクハラは大きく2つに分類されます。
対価型の就活セクハラとは、就活生等の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否した場合に不利益を与える行為を指します。
従業員に対して行われる対価型セクハラには、拒否したことによる減給や降格などがあります。
就活生は企業と直接的な契約関係にありませんが、拒否した場合に「内定の成否」を左右する言動が行われるケースが多いでしょう。
学生の弱い立場を利用した一方的な要求であり、許されない行為です。
環境型の就活セクハラ
環境型の就活セクハラとは、性的な言動によって就活における環境そのものを害する行為です。
採用面接や提出書類などで、採用には無関係であるプライベートな質問をするなどが環境型の就活セクハラにあたります。
面接が居心地の悪い雰囲気になるような質問であっても、就活生等はどんな質問にも回答せざるを得ないケースが多いと考えられます。
不快であっても、その場で拒否することは難しいでしょう。
就活セクハラとされる言動例は?
就活セクハラは採用段階だけでなく、就活生のOB訪問や内定前の親睦を目的とした飲み会、インターンシップなどでも起こります。
一般的に就活セクハラになりやすいとされるタイミングや言動について以下で解説していきます。
OB訪問での就活セクハラ
OB訪問は就活生にとって、入社後のミスマッチを防ぐなど有意義な手段です。
しかし、会社の正式な採用活動の一環としてではなく、担当者の不純な動機が介入することによって就活セクハラに繋がることがあります。
OBは就活生にとって相談相手という信頼関係にあることも多く、「相談に乗る」「アドバイスをする」など言葉巧みに誘い込む特徴があります。
社外で行われるOB訪問や夜遅い時間帯を指定されるなどの場合は、就活セクハラになる可能性が高いと考えられます。
OB訪問で起きる就活セクハラの具体例には以下のようなものがあります。
- 仕事の話を教えてあげるなどの口実で食事に誘う
- 飲酒を強要し、酔わせた上でわいせつな行為に及ぶ
- 内定をちらつかせて、性的関係をもちかける
採用面接での就活セクハラ
採用面接は、採用を決定するために必要な情報を就活生へ質問する場です。
しかし、採用に不必要な質問や、個人的な興味による質問や指摘などは就活セクハラに繋がり、就活生の信頼を損なう結果にもなり得ます。
採用面接で起こる就活セクハラには、以下のような例が挙げられます。
- 交際相手の有無、性的な経験の有無といった性的な質問
- 身長、体重、スリーサイズなど容姿に関する質問
- 採用面接の場で下ネタを言う
- 全身を見回したり、視線を集中させるなど、外見を品定めするような行為
- 採用条件として、不当な性的条件を提示される
飲みの席での就活セクハラ
企業によっては採用プロセスの中で、親睦を深めることを目的とした飲み会を設けることがあります。
就活生にとっては、リラックスした雰囲気で企業や社員を知ることができる良い機会といえます。
その一方で、酒が進むことによる就活セクハラが発生しやすい場でもあります。
飲みの席でよく起こる就活セクハラには、以下のような例が挙げられます。
- 執拗に飲酒を勧め、泥酔させようとする
- 肩や腕に触るなど、不必要な身体的接触
- 個人的な連絡先を交換し、執拗に連絡してくる
- カラオケの個室やホテルに連れ込もうとする
- 深夜など夜遅くまで帰宅させてもらえない
就活セクハラが発生した際の企業側のリスク
就活セクハラは採用担当者と就活生の個人的な問題では収まりません。
企業が就活セクハラの事実を把握しながら、早期に対応しない、さらには事実無根だ、などと主張すれば大きなトラブルになり得ます。
そうなれば、企業は様々なリスクを負うことになるでしょう。
主なリスクとしては、社会的信用の失墜や、民事上の損害賠償請求、刑事事件への発展などが考えられます。
それぞれのリスクについて詳しく解説していきます。
企業の社会的信用を失う
就活生が就活セクハラを企業にだけ申告するとは限りません。
近年では、SNSによる告発が増加しています。
一度、ネット上で公開されれば、投稿を削除したとしてもデジタルタトゥーとしてネット上に残り続ける可能性も高いでしょう。
また、就活セクハラは新しい種類のセクハラであり、メディアの関心も高いため、大きく取り上げられる可能性もあります。
就活セクハラの事実が、国内だけでなく全世界へ発信されれば、国内外の取引先や消費者など、広く社会的信用を失うことになりかねません。
損害賠償を請求される
就活セクハラを行ったのは一従業員かもしれません。
しかし、組織的な言動でなかったとしても、従業員が第三者に損害を与える不適切な行為を業務の過程で行えば、会社は使用者責任を負うことになります。
採用活動は会社の業務に関連する行為です。
そのため、採用活動中に行われる就活セクハラも使用者責任の範囲といえるでしょう。
被害者が就活セクハラを受けたことを訴えた場合、加害者本人だけでなく、会社も責任を問われることが予想されます。
裁判になれば、精神的な苦痛としての慰謝料や、就職活動が妨げられたことによる逸失利益などの損害賠償を請求される可能性があります。
就活セクハラにより損害賠償請求された裁判例
刑事責任を追及される
就活セクハラは、内定という切り札を基に、優位な立場を悪用して行われます。
行為の内容や悪質性、被害者の抵抗の有無にもよりますが、刑事責任が追及される可能性は十分あり得ます。
就活セクハラによる被害では、以下のような刑事責任が問われることが多いでしょう。
行為内容等によってその他の罪名にも該当することがあります。
- 迷惑防止条例違反
- 不同意わいせつ罪
- 強制性交等(旧強姦)罪
- 脅迫罪
従業員が刑事責任を追求されれば、会社は無関係ではいられません。
会社の社会的信用が低下することはもちろん、就活セクハラを行ったのが役員等であれば、会社が検挙されるおそれもあります。
就活セクハラが発生した場合の対処法は?
就活セクハラの訴えがあれば、迅速かつ適切に対応することが会社のリスクを最小化することに繋がります。
就活セクハラを放置すれば、求人の応募が減少するだけでなく、既存の従業員にも働く意欲の低下やモラルの低下などの悪影響が起こり得ます。
就活セクハラが発覚したら、誠実に丁寧な対応をすることが大切です。
事案によっても異なりますが、一般的な対応の流れは以下の通りです。
- 事実関係の確認と被害者保護(当事者のヒアリング・被害者のプライバシー保護)
- 内部調査の実施(調査委員会の設置・関係者へのヒアリング・証拠収集)
- 社内における措置の実施(懲戒処分等)
- 再発防止策の検討
- 被害者へのサポート(状況に応じてカウンセリングの実施や損害賠償)
- 情報開示と説明責任
調査や再発防止策の客観性を担保し、専門的な見地を踏まえた内容とするためには、弁護士など専門家を交えて対応するとよいでしょう。
セクハラが発生した場合の会社の対応について詳しく知りたい方は、下記ページをご確認下さい。
さらに詳しく従業員からセクハラを相談されたらどうする?会社がとるべき対応と防止策就活セクハラを防止するために企業がとるべき対策
就活セクハラの防止対策は、企業それぞれの事情を踏まえて策定することが理想です。
一般的な対策案を以下にまとめていますので、参考の上、貴社に適した対策を行いましょう。
- 就活セクハラ防止の方針を明確化
採用担当者だけでなく、全従業員に対して就活セクハラを禁ずる方針を明確にしましょう。
就活セクハラの加害者は人事担当者に限りません。
OB訪問やインターンシップで他部署の従業員も接点をもつ可能性があるため、全従業員に対して行うことが必要です。- ハラスメント対策の意識を高める継続的な研修
具体例などを用いて継続的に研修を行うことで、従業員の意識の高まりが期待できます。
また、就活セクハラを行った場合に、どのような処分規定に該当するのかについても周知しましょう。- 採用担当は複数名で対応する
就活セクハラはアイスブレイクなど、ふとした瞬間に起こり得ます。
抑止力として、オンラインを含む面接やオリエンテーション等では、採用担当は2名以上で対応する体制が望ましいでしょう。- 就活生用の相談窓口を設置します
就活セクハラは被害者がどこに相談するべきか分からず、SNS等に投稿するケースもあります。
就活生用の相談窓口を設置し、周知しておきましょう。
ただし、採用担当者が加害者になるケースが多いので、相談窓口は別の部署の人材を配置する配慮が求められます。
就活セクハラを未然に防ぐためにも、労働問題に強い弁護士にご相談ください
就活セクハラは法制化されていないとはいえ、社会的にも問題視されている大きな課題の1つです。
就活生が安心して応募するためには、就活セクハラの防止対策がある企業なのかといった点も大きなポイントになってくるでしょう。
また、就活セクハラの防止対策が不十分な企業であれば、就活生にとっては、その魅力が半減してしまう可能性もあります。
就活セクハラの防止対策を強化しなければ、優秀な人材を獲得することは難しくなります。
就活セクハラを未然に防ぐためには、労働問題に強い弁護士へご相談ください。
弁護士法人ALGでは、労働問題に専門性をもつ弁護士が多数在籍しており、全国対応を行っております。
就活セクハラの防止体制の構築や、担当者教育といった予防法務から、就活セクハラ発生時のトラブルまで幅広く対応しています。
まずはお気軽にご相談ください。
この記事の監修
弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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